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目覚めた聖剣、世界を知る

私の名はシュバンテ・リッヒ・ドゥ・アスラ。聖剣である。

強力な魔術師や鍛冶師、それと賢者に勇者など、とにかく実力のある人間達が数千年前に生み出した伝説の武器。それが私だ。


私は、身体能力・魔力の上昇は勿論、様々な剣技や魔法を瞬時に習得し、防御力・状態異常の抵抗も跳ね上がる効果、さらにオート反撃・オート回復機能まで搭載している。

戦闘経験皆無の農民でも、持つだけで一国の騎士団長レベルにまでなれる超便利アイテムなのだ。


人類に仇なす憎き『魔王』を倒す直前にのみ、勇者がこの『聖なる山』の頂上に鎮座している私を抜き放ち、魔王との最終決戦に臨むという訳だ。


魔王にも後継者はいるため、私は数百年に一度の周期で使われる。次に抜き放たれる時は、もうすぐでやってくるだろう。


嗚呼、早く私をこの長い眠りから解き放ち給え──



「ん?なんだこの棒?看板か何かか?」


ボキッ


「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



「うおっ!?叫んだぞこれ!」

「いっったああああああああああああ!!?折れっ、今、ボキッて、いぎぃやあああああああ!」


折 ら れ た !


この私のっ!?刀身がっ!?丁度真ん中辺りでっ!?折られただとおおおっ!?

ていうか何が起きて誰がどう何故うわあああああああああ!?



「な、なんだなんだぁ・・・?」

「なんだなんだじゃないぃぃ!」

「えぇっ!?」

「ゼェッ、ハァッ、ゼェッ・・・ふううぅぅ・・・」

「こ、こいつ喋ってる・・・!」


私はどうにか平静を取り戻す。突然今までにない事態が起きたが、そこは数千年の時を生きる聖剣。すぐさま通常運転に戻れるのだ。

フッ、やはり私はクールで冷静沈着、何が起きても慌てず対応出来る大人な剣なのだ・・・!


「・・・まず、貴様は何者だ。何のためにここへ来タッ」

「声裏返ってるぞ?」

「う、うるさいっ!いいから私の質問に答えろ!貴様はなんだ!あれか!?今期の勇者か!?」

「勇者ぁ?そんな大層なモンじゃないぞ俺は。ただの土木工事員だ」

「土木工事員!?」


・・・こやつは冗談を言っているのか?

この聖なる山は、魔界のダンジョンと比べてもトップに入る程の超難関の山だ。ドラゴンやワイバーン、バジリスクにサイクロプス、ゴーレム、ヒドラなんかも生息している。

そんな勇者並の実力がなければ踏み入る事さえ難しい魔の山を、こんなツナギにバックパックだけという超軽装備の土木工事員に登れるはずがない!

そしてこの私を折れるはずがないっ!!


「フン、冗談はよせ。大方貴様は、素手の戦闘を得意とする『格闘家』系統の勇者だろう?」

「いやいや。俺はほんとにただの土木工事員だっての。王国直々の依頼で、この山を開拓して軍事基地にしたいんだそうだ。俺はその様子見に来た下っ端だよ」

「こっ、この山を開拓!?軍事基地!?」


待て待て待て!このシュバンテ・リッヒ・ドゥ・アスラが封印されている地だぞ!?何を開拓する必要が、というか何故ここを選んだのだっ!?


「しっかし、俺はお前の方がよっぽど不思議で驚くべき存在だと思うがな。喋る無機物がこんなとこにあるとは」

「なぬっ!?まさか私を、そしてこの山についても知らぬのか!?」

「おう、全然知らん。こんな看板見たことねぇわ」

「う、嘘だろう・・・!?」


私は役目を終えたらすぐ頂上(ここ)に封印されるため、人間の町や村で伝えられる伝説、伝承は知らぬ。だが、魔王を討伐する武器の事くらいは話されているのではと思っていた。

だが、こいつの反応を見るに・・・本当に私の噂は流れていないというのか!?


「ぐっ・・・せ、「聖剣」!「聖剣」だ!この響きに聞き覚えはないのか!?」

「せいけん?せいけん、セイケン・・・聖剣?・・・あぁ!そういや、魔王を倒すための強力な武器として昔使われてたって、冒険者学園の教科書の隅っこに書いてあったような気が・・・」


教科書の隅っこかい!・・・って、それよりも!

「昔」!?ということは、現在は使われていないと言うのか!?


「ちょっと待て!かなり前の時代から私は不必要となっているようだが、ならばどうやって魔王を倒しているのだ!?」


魔王を討つには私の力が不可欠だと言われている。それなのに何故、この数百年の間で聖剣はお役御免となってしまったのだ・・・!?


「え、知らんのか?魔族との戦争なんて300年前に終わってるぞ」

「えええええええええええええええええええええええええええ!!?」

「魔族と協定も結んでるぞ」

「はああああああああああああああああああああああああああ!!?」

「魔王さん達と強力して宇宙怪獣倒さなきゃいけないし」

「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」


え、ちょっ・・・待っ、なん、ええぇ!?

一度に幾つも驚愕の事実知らされて混乱というか混沌としているのだがっ!?


「お前は全然知らんようだから詳しく説明するぞ?空から突如正体不明の生物が飛来してきて、異世界人に「宇宙怪獣」と名付けられたそいつらがこの星を荒らし始めたんだよ」

「ふ、ふむ」

「かなりの戦力らしくて、このままじゃいずれ占領されちまうと思った国王様と魔王さんは、戦争をやめてお互いにこの星を守るために頑張ろう!ってことで仲直り。条約を締結した」


なん、だと・・・!?数千年にも及んだ人間と魔族との歴史ある戦争が、私の眠っている間に終わっていた、だと・・・!?


「その条約、会談が始まってから7分で決まったから「7分条約」って呼ばれてるぞ」


いや想像よりもっと短かった!!10分もかかっていない!!

というか条約名そんなのでいいのか両国王!!


「まぁそんな訳で、魔王さんどころか普通の魔物にも手ぇ出そうとしたら即罰されるからな」

「ええぇ~・・・私の存在意義・・・」


しかし成程な・・・。それ故に、私は歴史の教科書の隅にしか載らぬような影の薄い存在に成り果ててしまったのか。それならば、こいつが私に気付けなかったというのも頷ける。


・・・いや流石に国はこの山と聖剣を覚えているべきであろう!

何ちゃっかりと軍事基地を建てようとしていたのだ!宇宙怪獣に意識向き過ぎ!


「この国のどっかにあるとは聞いてたけど、まさかこんな山の頂上に突き刺さっていたとはなぁ。気付かずに折っちゃったよ」

「それ!それだ!まだ疑問が残っていたのだ!何故お前は、この私をいとも容易く圧し折れた!?」


他に衝撃的な事実があり過ぎたせいで失念していたが、今私の体は真っ二つになっているのだ。


見間違うたはずもない。聖剣である私、シュバンテ・リッヒ・ドゥ・アスラが、無手のこの男に片手で()られたのだ。

土木工事員を自称しているが、それは有り得ないと疑いを掛けていたところだったが・・・。


「え、なんでって言われても・・・普通に」

「普通になんだ!?」

「いや、抜こうとしたんだよ。そしたら変な方向に力かかっちゃって・・・」

「それで剣が折れる事を普通とは言わんぞ!?」


そもそも山の頂上にある物を勝手に抜こうとするのもいかんのだがな!?


「そうは言ってもなぁ・・・お前が脆かったんだから仕方ねぇだろ」

「もっ、脆いだと!?私は聖剣だぞ!聖なる剣!邪を滅する為に強化された勇者の剣だぞ!」


そう。聖剣の力は、この世の全ての武具より優れると言われてきた。

百の剣に打ち勝ち、千の矢を叩き斬り、万の敵を葬る。魔王すら幾度となく討ってきたのだ。

当然耐久度も高く、向こう3千年間は打ち直しは必要ないと思っていたのだが・・・


「なのに、何故ぇ・・・!ひっく、ぐすぅっ・・・!」

「おっ、おい泣くなよ。タイダルウェーブ出て土砂崩れ起きてんぞ」

「うるさい!涙(水魔法)も出るわ!最強最強と褒め讃えられ、自信に満ち溢れていたというのに・・・いつから私は、こんな脆弱な乙女になってしまったのだ・・・!?」

「え、女!?」

「ん?私は女だが。声で気付かなかったか?」

「いやぁ、なんか声こもってるし・・・」

「魔法金属だからな」

「そういう問題!?」


・・・しかし、やはり有り得ない。どう見てもこいつは一般人だし、感じられる魔力も並。

たとえ本当に私が弱っていたとしても、聖剣を素手で破壊など勇者レベルでなければ不可能だ。

一体、何が起きたというのだ・・・。


「む、そうだ。お前のレベルは?お前に聖剣を折れる程のレベルがあるとは思えんが、一応な」

「なるほど、レベルか。まぁ確かに俺のはかなり低いぞ。1387くらいだし」


・・・ん?

今、なんと?


「え、と・・・もう一度言ってくれ」

「あん?だから、1387レベルだって」

「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」

「ええぇっ!?ちょ、さっきから驚いてばっかだぞ!?」


レベル1387だと!?有り得ん、有り得んぞそんなレベルはぁ!!


私に設定された規定レベルは、低俗な輩共に聖剣の力を悪用されぬよう、とても高く設定されている。それこそ世界を救える程の力を持てるくらいでなければ、触れる事すら叶わないのだ。


・・・それが500だというのに、なんだ1387レベルとは!?優に魔王超えているわ!!


当然嘘だと思って『虚偽看破』を発動してみたのだが、反応はなし。こいつの発言は真実のようだ。

それによくよく思い返してみれば、最初に私を抜こうと触れられていた時点で、500レベルを突破していた事は発覚していたのか。


でもこんな風貌の男に500どころか1000レベルも越えられるとは誰が予想出来ようか!?


「ま、俺のレベルはこんだけ低いんだから、そりゃあ伝説の聖剣サマは驚いちまうよなぁ」

「・・・くだ」

「へ?」

「・・・500だ!私の規定レベルは500なのだよ!!」

「ハァッ!!?嘘だろ!?」

「本当だ!私が最後に活躍した時代までは、一般人なんかでは到底越す事が出来ない程の高レベルだったのだからな!」

「うえぇ!?そんな時代あったのかよ・・・?」

「ほんの数百年前の話だぞ!?」


数百年という時間は、歴史で言えば短い。

こいつにとってはまだ生まれてもいない遠い昔だと捉えられてしまうが、私が暫し眠っていれば経つ程度の時間である。国単位で見れば三桁の年数でもあっという間だ。


その短い間に、何故国民のレベルが急激に上昇したのだ・・・。


「この世界で、レベルに関して一体何があった?」

「何が・・・って言われてもなぁ。俺が生まれた時のレベルは既に614だったし」

「赤ん坊にも負けていただとっ!?絶対遺伝子レベルでの操作があっただろうこれは!」


ひょっとしたら私、この世の誰もが持てる剣なのではないか!?聖剣の面目丸潰れじゃないか!


「な、何かある!聖剣の力が赤子に霞む程の重大な何かがあったはずなのだ!思い出せよおおぉ!」

「うわっ、またタイダルウェーブ!俺魔法防御力低いんだからやめろよ!」

「うるせーバーカ!どうせ圧倒的レベルの差で大したダメージ入ってないくせにぃー!!」

「泣くな泣くな!高貴なる聖剣サマが泣くな!」


うわああぁ~~ん・・・むぅ?そういえば、魔国と協定を結んだ時期とはいつだ?


「ぐすっ・・・な、なぁ、7分条約が締結されたのはいつだ?」

「ん?あー、今から850年程前だったかな」

「む、私が封印された直後だ。ならば魔国が関わっているのではないか?」

「ああ、そうっぽいな。魔国か・・・ふーむ・・・ああっ!!思い出した!」

「おお。何だ何だ?」

「確か、宇宙怪獣を倒すために国力増強!とか言って、国を挙げてレベル向上を目指したんだよ。そんで魔王さんが、自分の魔力を世界中の種族に分け与えたらしいんだ」


成程。魔王の魔力ならば、ごく僅かでも他の種族の成長率を大幅に上げる事が出来る。

さらに国の存亡が懸かっている時であるから、それは必死になって取り組んだことだろう。


きっとその後も、もしかすると今でも魔力を配分しているのかもしれないな。うむ。

そうやって人間と魔族の差別なしに助け合えるというのは素晴らしい事だ。はっはっは・・・


「それで、私の分は?」

「・・・・・・」

「・・・っ・・・!」

「・・・・・・うん。まぁ、頑張れ」

「ぬわああああああぁぁぁ~~~~ん!!」


何故私にだけ魔力が来ない!全世界に配るなどと言っておいて!私が何かしたというのか!?


そりゃあね!?私のは「規定レベル」さ!魔力を貰ったとしてもそのレベルは上がらない!

だが、剣でも強化はされるのだ!武器や防具、道具でも強化出来るのが魔力なのだ!故に聖剣である私はもっと強力になっていたはず!

なのに・・・なのに・・・!


「何故来ない!!」

「いやぁ・・・。それは、その・・・封印されてたから、とかじゃね?」

「封印されていたらレベルはいらんとでも言うのか!使命を失った聖剣なぞどうでもいいと言うのか!人外は論外だと言うのか!面白くないわバカ者め!」

「お、落ち着けよ・・・待ってりゃ貰えるかもしれねぇじゃん・・・」

「慰めているつもりだろうが、その憐れみの目が何よりも鋭い刃なのだぞ!?私より鋭い事は間違いないだろうなぁ!」

「ダ、ダメだこりゃ・・・いろんな意味で壊れちまってるわ・・・」


くぅ・・・どうしてこうなった・・・!


こいつは1387レベルで低いと言っておったから、上はもっと、5000とか軽く突破している者がたくさんいるのだろう・・・。

今さら頑張ってもそこに届くはずがない。というか、頑張りようがないのだがな・・・。


「マジで諦めるんなら、プレスされて材料になって再利用されるのを待つしか道はないな。お前・・・弱いし」

「はっきり言うなぁ!」


それだけは絶対に許せん!過去の歴戦を勝ち抜いてきた聖剣としてのプライドがある!


・・・で、でも他にはどうしたらいいんだ・・・。

ここに残ろうにも軍事基地を建てるから邪魔になるし、独り立ちしようにもする事・出来る事がない。何よりレベルインフレしたこの世を生き抜く自信がない。


本当に、材料になった方がまだ役立てるのでは・・・いやいやそれは!あ、でも・・・!

うぐ、ぬううぅうぅう~~・・・っ!



「──私はっ、どうすればいいのだあああああああああああああああああああああああああっ!!」



折れた聖剣、シュバンテ・リッヒ・ドゥ・アスラの叫び声が、この聖なる山に木霊した。


・・・ぐすん。

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