文化祭2
文化祭1の続きです。
「いらしゃいませ、ご主人様!」
部長のクラスの出し物はメイド喫茶だった。メイド服を着た女の子に案内されて奥の席に座る。
「このクラスの女子、可愛い娘多いな」
うちのクラスにも分けてくれないかな。
「ほう、外道の好みはこんなやつらなのか・・・」
強く部長に睨まれたので話題をそらす。
「えーっと、注文、何がいい?」
「・・・ホットケーキ」
部長が素っ気なく答える。
「えーっと、それじゃあ紅茶とホットケーキをお願いします」
そばに立っていた部長のクラスメイトであろう女の子に注文をする。
「かしこまりました、ご主人様っ!」
部長の俺に対する視線がさらに痛くなる。俺の顔が緩んだのはこの娘が可愛かったからではない!美しかったからだ!!
「三ケ原さん、この人彼氏?」
「ちっ、違う!!」
部長が顔を横にぶんぶん振って否定する。どうもこの娘は俺のことを知らないみたいだ。もし知っていれば、部長を俺から強引にでも引き離すはずだ。メイドさんが去った後、俺は部長に質問をしてみる。
「そういえば、なんで部長は参加していないんだ?」
部長は美人だ。このクラスにとってかなりの戦力になるはずだが。
「・・・最初は参加するように言われたが、接客が壊滅的だったからな・・・」
っあ、そうか。部長は極度の顔見知りみたいなところがある。それが恥ずかしがるのではなく、徹底的に冷たくあたるという最低な性質だ。部長が接客に回れば「なんで来たんだ?ここは貴様のようなやつが来るところではない」とか言いそうだ。
「でも、それはそれでいいと思うけどな」
来年あたり文芸部でメイド喫茶をやってみるか。飯塚さんと部長がいれば10万ぐらいの利益を叩きだせる。俺が将来のプランを考えているところに、ホットケーキと紅茶を持った、中性的なイケメンがこちらに近付いてきた。執事が着ていそうなシャキッとしたタキシードを着ている。
「なんだ、メイド服じゃないのか」
「おい外道、僕がそんなものを着るはずがないだろう」
いつもはクールなんだよな、逢坂。
「三ケ原さん、どうして一緒に仕事をしてくれないんだ?」
逢坂が部長に詰め寄る。
「私は、その、接客が出来ないから・・・」
「そんなものはどうだっていい!三ケ原さんは、ただそこに立っているだけで十分。それだけで店の評判が上がるんだ!」
ただ自分が部長のメイド服姿を見たいだけだろ。部長のこととなると無駄に熱いな。
「そういえば、お前は誰だ?」
もちろん逢坂だと分かっていたが、こんなやつと知り合いだと思われたくない。
「ふっ、この存在が地球そのもののような僕のことまで忘れてしまうのか。貴様の脳はミジンコ以下だな」
「地球は空気みたいなもんだから忘れるんじゃないか?現に部長もお前を忘れてるし」
「なっ!!」
俺はこの状況にもっていきたかった。この時のために部長が逢坂を忘れてることを内緒にしていたのだ。
「・・・はっはっは、面白いことを言うな、外道!三ケ原さんがこの僕を忘れるはずがない!!小中高と一緒だったんだぞ!」
「部長、こいつ知ってるか?」
部長がホットケーキを頬張りながら、小首をかしげる。
「・・・誰だっけ」
「えっ・・・」
逢坂が絶句する。いわゆる幼馴染の関係であるにも関わらず自分のことを覚えられていないのだ。ましてや、クラスメイトで毎日顔も合わせている。しかも逢坂は部長が大好きだ。このことによる心の傷はかなりのものになるだろう。いやぁ、たっのしいねぇ!!
「貴様のせいだな!三ケ原さんがこの僕を忘れるはずがない!!いったい三ケ原さんになにを吹き込んだ!?」
逢坂が怒りの矛先を俺に向ける。今にも殴りかかってきそうだ。
「まぁまぁ落ち着けって。まだ青春は始まったばかりだ。これからいくらでもチャンスはある」
「雑魚の分際で僕に口答えをするな!いったいどうやった、この下衆野郎が!!」
「部長が見てるぞ」
逢坂は引いている部長の方を見ると、コホンと咳をしてから最初の爽やかな感じに戻す。
「まぁ、あれだ。今度いろいろ話を聞かせてもらおうか・・・」
顔は爽やかでも言い方にはどすが効いている。だけど俺は逢坂に優しく話しかけてやる。
「お前、良かったな」
「んっ、どういうことだ?」
「これで部長に覚えてもらったな」
「なっ、そういうことか。だからお前はわざと・・・」
わざとじゃなくて偶然だ。だがこの間、部長の写真を2万円で買い取ってもらった恩もある。これ以上は掘り返さないでおこう。
「それじゃあな」
俺はもう冷めてしまった紅茶を一気にすすると、ホットケーキを食べ終えた部長とともにクラスを出る。
「いってらっしゃいませ、下衆野郎!」
友達からでも聞いたのだろう。メイドさんは俺のことを罵ってきた。
「どうもありがとう!」
部長と俺は文芸部の展示スペースに来ていた。美術部と兼用で一つの教室を使っており、一面の壁に飯塚さんの描いた絵が飾られている。ちゃんとたくさんの人が描いたように見せるために、それぞれの絵のテイストを変えてある。切羽詰って描いたというのに全ての完成度が非常に高い。本気で飯塚さんを尊敬する。
「・・・外道の作品って、これだよな・・・」
作品の設置は全部飯塚さんにやってもらったので、部長には俺の作品をまだ見せていなかった。
「どうだ!?素晴らしいだろう!!」
「どこが素晴らしいだ!!」
かなり完成度高いと思うんだけどな。俺が作ったのは紙粘土でできた、全長165センチの裸体の女の像だ。
「ものすごくうまいのは認めるけど・・・。なんだ!?この体中を這い回る大量の虫は!あちこちに傷の縫い跡があるし、あと、右腕の折れた骨が肉を突き破ってるし!!」
その女の像が恍惚な笑みを浮かべているのもポイントだ。
「・・・あとこれ、私に似てないか?・・・」
そのとおりだ。後で逢坂に売りつけるため顔は部長に似せてある。
「外道・・・殺してもいいか!?・・・」
本気で殺されそうだったのでひとまず撤退する。
「待て!たっぷり時間をかけて殺してやる!!」
俺がたどりついたのは体育館下の剣道場だった。
「まぁ、ここまでくれば大丈夫だろう」
ふぅ、危ないところだった。次に部長に会うときは像を売った報酬の8割を持っていくことにしよう。
「ん、何だ?」
剣道場の奥で誰かが壁にもたれかかり眠っていた。身長140センチ程度の女の子?だ。なぜハテナがつくかというと、体のほとんどが鎧に包まれていたからである。武士が着ているような本格的な鎧に兜、籠手まで着けており、顔は般若のお面のせいで見えない。腰には1メートルほどの日本刀が差してある。唯一、チェックのミニスカートから出された白くて綺麗な足で、その人物が女の子だということが分かる。大きさ的には中学1年生ぐらいか。
「よし、撮るか」
俺は携帯を構える。スカートの中を写真におさめていると、その少女が突然ムクッと起き上がり、腰に差している日本刀をおもむろに抜く。
「あれ、これはちょっとやばいかな!?」
「切り捨て御免!!」
少女が日本刀を振り下ろす。もちろん本物ではないだろうが、本能的に避ける。
「ほう、かわすか、変態!」
その少女はかなり強い。重心がしっかりしているし、振り下ろす速度もかなりのものだ。
「俺は変態じゃない!この写真は変態に売りつけるために撮ったものだ!!」
「そっちの方が最悪じゃろうが!!」
少女がさらに刀を振るう。
「おっと!」
俺は立て続けに襲ってくる斬撃をかわしながら、平和的解決を試みる。
「おい、いきなり切りかかってくること、は、ないだろ、っと」
「五月蝿い!わしのパンツを撮ってきよって!!」
「まずは、っ、名乗り合おう!」
「黙れ!変態に名乗る名など無いわ!!」
少女が日本刀を振り下ろす。まったく聞く耳を持ってくれない。仕方がないので暴力的解決に切り替える。
「!?」
俺の両手がパチンと日本刀を受け止める。
「秘奥技、真剣白羽どりぃ!!」
意外と成功するもんなんだな。
「やるな、変態!」
俺は両手で挟んだ日本刀をこちらの方へ引き寄せる。それに伴って少女もこちらに引き寄せられる。
「なっ!」
俺は、こちらに倒れこんできた少女のかぶっている般若のお面の額めがけて拳を振るう。
「ごふ!」
俺のパンチを食らった少女は、後頭部から剣道場の床に叩きつけられる。兜をかぶっているので命に別状は無いだろう。
「あぁ、美少女か。本気で死ねよ。マジでリア充爆散しろ」
お面を割ったことで顔が見えるようになったのだが、その少女の顔は非常に可愛らしかった。
「く、貴様!」
「おっ、まだ意識があるのか」
俺は逃げられないよう、少女の腹を鎧の上から踏みつける。踏みつけてみて初めてわかったが、この鎧は強化プラスチックだ。しかし良くできているな、鎧剥がして売りさばこうか。
「離せ!わしは貴様になど屈せぬ!!」
額が真っ赤なままで喚く少女。とりあえず写メっとくか。ロリコンにでも売り出せばそこそこ金になるんじゃないか?
「日本刀、日本刀っと」
俺は少女を踏みつけたままで落ちていた日本刀を拾う。
「結構重いな」
切れ味は無いが十分当たれば痛いだろう。どちらかといえば鈍器だな。俺はそのオモチャの日本刀の先を少女に向ける。
「もう一度言うけど、名乗り合おう」
「くっ、仕方がない・・・。わしの名前は本多 和音じゃ・・・」
「俺は外道だ」
「ふざけているのか!わしは本名を名乗ったのだ、貴様も名乗れ!!」
「俺の名前はちょくちょく変わるからな、ニックネームで許せ」
突きつけていた日本刀をその場に落としてやる。
「何のつもりじゃ?」
「俺はお前が気に入った。ちょうど友達も欲しいと思っていたところだ。だから俺と友達にならないか?」
「・・・なんじゃと!?」
俺は誠意を見せるために少女の腹から足を離す。少女は日本刀を拾ってもう一度斬りかかってくるわけでもなく、俺の話を聴いてくれる。
「友達になりたい?」
「先ほどのことは謝る。だから俺と友達になってくれ」
「あ、あぁ、別に構わぬが・・・」
「それじゃあ携帯番号、交換してくれ」
「よいが・・・」
俺は携帯を取り出す。本多と名乗った少女も携帯を取り出す。
「送信完了っと」
「おお、スゴいのじゃ。両親以外の番号がわしの携帯に!」
「やっぱりお前も友達いないのか」
少女は頬を膨らませる。少し部長に似ているな。
「そういえばこれから何て呼べばいい」
「わ、和音で良い・・・」
「それじゃあこれからヨロシクな、和音」
「えっ、あぁ。外道?」
多少ぎこちないが、初めて俺に友達ができた。




