合宿 終
「りぃいちゃん、今日もまたよく食べるねぇ・・・」
飯塚さんが呆れ顔で言う。5皿目のトマトリゾットをがっつきながら鳥居が答える。
「きにょうは良い事がいりまひはあら、もぐもぐぱくぱく」
よくもまぁこれだけ食って太らないものだ。ていうかそれだけ食うと疲れないか?俺は面倒だから飯を抜いたりするので、そこまでして食う理由が分からない。飯なんて栄養さえとれれば充分だろ。
「鳥居、口周りに沢山ついてるぞ」
「先輩が取ってください・・・!」
上目づかいで頼んできやがった。まぁ恋人同士になったわけだしな、これぐらいは普通なのかもしれない。俺はブルブルと震える手を押さえつけながら、ゆっくりとティッシュで鳥居の口元を拭ってやる。唇がめちゃくちゃ柔らかいんだよ、刺殺するぞ!!
「ありがとうございます!」
「あぁあ・・・」
俺は真っ直ぐ見つめられることに慣れていないので目を逸らす。しかし、すぐに小さな両手で顔を挟まれ元の位置に戻される。鳥居が眼鏡越しにじっと見つめてくる。
「先輩、恥ずかしがらないでください。これからはちゃんと目を見てくださいね」
そんなの出来るか!!『どうせ俺の事は好きじゃない』と思っていたから今までは大丈夫だったが、それが覆れば、俺の侘しい免疫力で美少女を直視することなど出来るはずがない。
「じーーーーーーーーーーー」
俺が必死に眼球を動かして目を逸らしていると、部長がこちらを『じとっ』とした目で睨んできていた。
「外道と鳥居は仲がいいんだな・・・、ふんっ!」
何故かソッポを向いて、部室から荒々しく出て行ってしまう。なんだあいつ?
「先輩、僕とチューしましょう、チュー」
「はぁ!!?何言ってんだ!!自分はもっと大切にするべきだぞ!!!今どきの女の子はもっと恥じらいをもってだな・・・」
「関係ありませんよ!!そんなの」
俺の顔を抑えたまま、鳥居が自分の可愛い顔を近づけてくる。口がチューの形だ、マジでするつもりか!?咄嗟に鳥居の顔面をアイアンクローして押さえる。
「先輩!何するんですか!?」
「五月蝿い、早すぎんだろが!!」
「「?」」
飯塚さんと和音がハテナを浮かべていたので、昨日起きたことを話してやる。
「かくかくしかじかで、付き合うことになりました」
「よろしくおねがいします」
「はぁ・・・」
「ふむ・・・」
納得はしてくれたようだ。ということで、俺はノートパソコンを起ち上げる。
「ちょっと待つのじゃ・・・」
「あぁん?なんだ」
「部長のことはどうするんじゃ?」
「そんなの続けるぞ。ちゃんと友達作れるまで面倒見てやるつもりだ」
鳥居と付き合うことと部長の調教に何の関わりがある。俺はネットで『彼女との付き合い方』を調べながら答えてやる。
「みかちゃんは、きっと悲しむよね・・・」
「何でですか?俺と部長は友達で何ら変わりないじゃないですか」
「まだ気づいておらんのじゃな・・・」
和音に呆れられる。ムカつくからチョップをぶちかます。
「飯塚先輩、僕は先輩が大好きです」
「うん、それは分かってるんだけどね・・・」
ほう、遊園地が良いのか。もしくは映画館で二人の距離を縮めるとな。
「なんだかゴメンね、二人を邪魔するようなこと言って。でも、みかちゃんにはこの事を伝えないで。私の方で何とかしておくから」
「はぁい」
やっぱりプレゼントは必要なんだな。高すぎると重いし安すぎてもダメ、と。
「それじゃあこの辺で解散しよっか」
「そうじゃの。後は二人で仲良くしておくが良いぞ」
和音がいつもの茶化すようではなく、冷たい感じで言ってくる。他人が誰と付き合おうと勝手だろう?何でそこまで口を突っ込んでくる。
「先輩!チューを!!」
「だからダメだって・・・」
折角の彼女が出来たというのに、全くもって実感が湧かない。もっと強引に行った方が良いのだろうか?人との関わり方が分からない・・・。
俺は、二葉さんの迎えがやってくるまで、鳥居と二人っきりでいた。何か強要してくるでもなく、一緒にゲームをして、鳥居が記事を書いたりしてるのを俺が手伝ったり、そんなんだった。普通過ぎてつまらなくもあったが、充実した時間ではあった。俺にも普通な一面があるんだな、と客観的に判断する。
「ご主人様、ただいまお迎えにあがりました」
二葉さんが恭しく部室のドアを開ける。
「それじゃあ帰るな」
「それじゃあ、また」
鳥居に手を振りながら、小走りで二葉さんの下へと向かう。体がいつもより軽く感じた。
「ご主人様、何故あのようなポニーテールの眼鏡野郎と一緒にいらっしゃったのですか?」
黒のリムジンを運転する二葉さんが『野郎』の部分を強調して言う。
「何故って、付き合ってるからだけど?」
部長には言うなと言われたが、二葉さんには言っておいた方が良いだろう。これで少しは変態発言も治まるんじゃあ・・・、
「ご主人様、私は寝とることにも興味があります。さっそく浮気をしますか?それと私に乗り移りますか?」
あまり効果は期待できない。変体は変態でも下衆さがプラスされている。
「私はご主人様の犬ですので、三番目までなら許せます」
「俺はそんなに股架けません・・・。結構俺は一途なんですよ、たぶん」
人を好きになったことが無いので経験論が言えない。鳥居は好きと言っちゃ好きだが、告白されるまではアイドルなんかと一緒だ。俺には遠すぎて好きとかいう感情は無かった。
「ご主人様はどうして自分に自信が無いのですか?十分、他人に自慢できるだけの力を持っていらっしゃいますのに」
「俺のドコにそんなものがあるっていうんですか?ずっと負け組、誰にも愛されたことも無いのに自信を持てって言う方が可笑しいですよ」
俺は自嘲気味に言ってみる。確かに自分に自信は無い。親が生きていた時ですら愛情を受けず、その後、親戚たちからも疎まれ、学校に行っても転校続きだったせいで友達はできないし、作ろうと思えば別れが辛い。だからずっと殻に籠り、自分自身を隠してきた。中身が殻に染まりきった今でも、多少は無理をしているのかもしれない。
「ご主人様、あなたは愛されていますよ。少なくとも私はご主人様が大好きです」
二葉さんが笑顔をこちらに見せてくれる。いつものような無表情とは全く違う、子供が見せるような笑顔だった。
「・・・二葉さん、前見てください」
これからはギャグの量が必然的に減りますが、あらかじめご了承ください。




