さらに友達
屋上の一角にある、家みたいな部室のドアを恐る恐る開けてみる。いつものように部長は読書をし、飯塚さんは絵を描いていた。しかし、なんとなく怖い。重苦しい。一度開いたドアを閉じてから大きく深呼吸する。
「大丈夫だ大丈夫」
何が大丈夫なのかは分からないがそう呟いてみる。俺は勇気を振り絞ってもう一度ドアを開ける。
「コンニチハ!で御座いますぅ~」
場を和ませようと元気に挨拶したつもりだ。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。
「・・・」
「・・・」
いつもは元気に挨拶してくれる飯塚さんでさえ返事をくれない。これは本格的に嫌われたかもな・・・。
「えーっと、あの・・・」
「・・・」
「・・・」
ハイそうですか。俺は鞄からノートパソコンを取りだし電源をいれる。
「先輩!ジュース持ってきました!!」
鳥居が三本の缶ジュースを抱えてやってきた。可愛らしくポニーテールが揺れる。
「おぉサンキューな。連絡して三分しか経ってないのに早いな」
この校舎は5階立てで、部室は屋上にあるので実質6階だ。それに対して鳥居が普段いる放送室は1階。ジュースを買ってここまで来るのに3分しかかかっていないのは凄いことだ、陸上部に入ればいいんじゃないか?
「先輩、他にもヤることありますか?」
「あーっ、今のところは無いな。戻っていいぞ」
「それでは僕はこれで」
鳥居がポニーテールを揺らしながら去っていった。やっぱりパシりがいると楽だな、今後とも活用していくことにしよう。
「外道君、誰?あの娘」
「今日できた友達です」
「あれって友達っていうより、舎弟?だよね・・・」
「違います、パシりです」
「そっちの方が酷いよね・・・」
ようやく飯塚さんと会話をすることが出来た。感謝するぞ・・・、そういえばあいつ誰だっけ?確か・・・、鳥きんとんだったような・・・、違ったような・・・。諦めるか。
「・・・」
「・・・」
軽かったのは一瞬だけで、重い空気が再び部室に充満し始める。今日は和音が来る日だったはずだ、早く来い!この空気を何とかしてくれ!!
「外~道君!あっそびましょ!!」
部室のドアを勢いよく開け放したのは和音ではなく、全身包帯だらけの逢坂だった。
「昨日、あれだけ無様な姿を晒しといてよく顔を出せるな」
俺は逢坂を尊敬してやる。しかし逢坂の方はそうは思わなかったようで、俺の襟首を、肩から包帯で吊り下げられた右手で掴んでこようとする。
「チョップ」
俺は包帯でぐるぐる巻きの逢坂の頭にチョップする。
「痛い、痛いぞ!!」
そりゃそうでしょうよ。
「で、何でお前がここに来た?部長狙いなら自分のクラスで十分だろうに」
「僕の狙いは貴様だ!!!」
「えっ・・・、お前ってそっち系だったのか?」
「違うに決まっているだろう!!!そうでは無くて、今回は礼を言いに来たんだ・・・。お前が居なければ三ヶ原さんを助けられなかった。・・・・・・・・・有り難う・・・」
「あぁん?聞き取れなかったなぁ、もう一度」
「だ・か・らぁ!!有り難う!!!」
「よろしい」
俺は逢坂の頭を撫でてやる。しかし、すぐにその手ははじかれた。
「貴様に蹴られた時が一番痛かったがな!!!」
逢坂に足の甲を思いっきり踏まれる。悶絶する俺を置いて部室から出ていってしまう。今度会った時には様々な箇所を蹴り倒してやる・・・。
「今日はじゃ!」
今度はしっかり和音だった。鎧を脱いでいる途中の和音に腹いせでケツバットをかます。飯塚さんが何か言いかけたが俺が睨んだら黙った。張り合いが無いな・・・、つまんねぇ。
「んじゃあ遊ぶか、和音」
「そうじゃの!」
俺たちはそのままテレビゲームをする。リズムゲームで対決をするが和音にアッサリ負けてしまう。やっぱり歌が上手いと音感もいいんだろうか?
「フッフッフッ、わしの勝ちじゃの!それでは腰を揉んでもらおうか、胸を揉んだら殺すからの」
負けたら1分間、相手の肩を揉むという男の俺にとっては負けても勝ってもウハウハな賭けをしていた。俺は和音のきしゃな肩をゆっくりと揉んでやりながら、こちらをチラチラ伺っている飯塚さんに話しかけてみる。
「昨日のことをどう思いました?」
飯塚さんの肩がビクッとなる。訊かれたくないことを訊かれたような顔をしている。
「昨日って、昨日?」
「そうです。ボウリング場の玄関でのことです」
「・・・外道君はいつもあんな感じなの?」
俺は和音の肩を叩きながら片手間に答える。
「そうですね・・・、いつもはもっと人混みのない場所でやりますかね。あいつらは人と会話できそうになかったんでそのままやりましたが」
「それだけ?」
飯塚さんが短いボブの髪を揺らしながら首を傾げる。
「外道君はどうしてあんなことをしたの?あそこまでやる必要無かったよね」
いつものユルユルとした話し方ではなく、叱っているような喋り方だ。
「私も助けてくれたことは嬉しい。でもね、私の前で誰かが痛がっていることは悲しい。さっき部室に来た子が殴られたりしてるのを見ているだけでも悲しかったのに・・・」
あのシンナー中毒者共にも感情移入してしまってるのか、本当に優しいんだな、飯塚さんは。
「俺はいつもあんなんです。それが嫌ならこの部を辞めても構いませんよ」
「どうしてそんなことを言うの!!?私は辞めたくない!せっかく皆と仲良くなったんだから・・・。それに、私は外道君、好きだよ?」
「俺の残虐非道なところもですか?」
「そ、それは・・・」
やっぱりそうだな、もともと俺は好かれるつもりもない。
「でも・・・」
俺の中で変わってきたこともある。俺は和音の肩から手を離し、まっすぐに飯塚さんを見つめる。
「俺もそういうの治していきますよ。もう一人でもないですしね」
「わしが付いておるぞ!」
「ありがとうな、和音」
「わ、私もいるからな!!」
部長が初めて口を開く。その時に気付いたのだが、ずっと部長は本を逆さまにして読んでいたようだ。きっと話しかける機会でも伺い続けていたのだろう。可愛いところもあるな、部長の分際で。
「飯塚さん、俺も変わりますから、その、友達になってくれませんか?」
「外道君・・・、別にいいよ!私と友達になろっ」
飯塚さんの笑顔はまさしく太陽だ。誰にでも等しく光を与えてくれる。俺のもっとも嫌っていたような人種であったのに、そんな人と友達になった。きっと、俺も少しづつだが確実にまともになっているのだろう。これからは破壊衝動を抑えて行かなくちゃな。その前に・・・、
「和音、何となく殴ってもいいか?」
「全然変わる気ないじゃろ!!」
やっぱりこっちの方がしっくりくるな。極悪非道だけを変えればいいよな、それ以上は面倒だ。
次は部長を本格的に出していこうと思います。メインヒロインなのに地味すぎるので・・・(汗)。




