部室での一時
飯塚さんが文芸部に入り五十嵐先生が部室を出ていった後、飯塚さんが口を開く。
「文化祭は6月20日あるの。後10日しかない。だから一緒にやろう!」
部に入ることはしっかりと認めてくれたみたいだ。もしくは逃げることを諦めたか。
「いやだ」
俺は素直に意見を述べる。
「ああ、私もいやだ」
部長もそれに続く。
「ちょっと二人とも~」
飯塚さんが文芸部に入ってからすぐ、俺たちは仕事を飯塚さんに丸投げした。もともとそのための飯塚さんだ。
「そういえば飯塚さんって何年なんですか?」
ずっと聴くのを忘れていたが、これからは同じ部の部員になるのだから上下関係をはっきりさせるためにも聴いておいて損はない。
「2年だけど」
俺と部長は1年生なので飯塚さんは年上だ。飯塚さんは童顔なので、それよりだいぶ若く見えた。
「部長より若く見えるのに・・・」
口が滑った。
「なんだ?、私が老けてると言いたいのか?」
胸倉をつかまれる。顔が一気に近づいたので、それに合わせたジョークを言ってみる。
「部長、鼻毛見えてますよ」
「ほ、ほぇっ!!」
もちろん嘘だが部長は信じたようだ。それのおかげで俺の胸倉は解放される。俺はポケットからおもむろにボイスレコーダーを取り出すと再生ボタンを押す。
『ほ、ほぇっ!!』
「なっ!!」
俺は嫌がらせのためにもう一度再生ボタンを押す。
『ほ、ほぇっ!!』
さらにもう一度さらにもう一度、
『ほ、ほぇっ!!』『ほ、ほぇっ!!』『ほ、ほぇっ!!』『ほ、ほぇっ!!』
「わ~っ!やめろーーーーーっ!!」
髪を振り乱しながらピョンピョン跳ねてボイスレコーダーを奪おうとしてくる部長に、
「おら部長!俺の靴を舐めてくれたら渡してやるよ」
と、優しい俺は解決案を提示してやる。さすがに飯塚さんが引いているが、これが俺だ、仕方がない。
「くっ!外道、本当にお前は外道だな!!」
部長が、犬歯をむき出しにして罵倒してくる。
「最っ高の褒め言葉だな!!・・・っごふ!」
弁慶の泣き所を蹴られた、しかも本気で。それでもボイスレコーダーを落とさなかった俺は褒め称えられてもおかしくないはずだ。
「早く渡せ!渡さないとまだまだ蹴り続けるぞ!!」
部長がかなり怖い顔をしていた。写メりたいが、それをすると携帯を壊されかねないのでやめておく。
「分かった分かった。データ消してやるから」
俺は消去ボタンを押してやる、フリをする。
「フーッ、良かった!あんなのがこの世にあると思っただけで寝むれないところだった・・・」
部長はあっさり騙されてくれた。この音声はネットにでもあげて売り出そう。
「そんなことより!!」
飯塚さんが大声をあげる。
「どうかしたんですか?」
「私は君たちより年上なんだよ?それなのになんで文芸部の発表の準備は私だけしかしないの?」
そんなことは決まりきっているだろう。
「俺は部長と仲良くなるために文芸部に入ったんであって、それ以外はどうでもいいからです」
「私は面倒くさいからです」
「なら三ヶ原さんだけでも手伝ってよ!」
飯塚さんも必死だな。そんなに嫌なら文芸部をやめればいいのに。
「私も外道と仲良くならなければならないので」
「に、逃げられた・・・」
飯塚さんが悲しそうな顔をしている。写メっておこう。さすがの俺も、肩をがっくりと落とした飯塚さんの捨てられた子犬のような姿を見ても良心が動かないほど鬼畜ではない。
「おい、部長。手伝ってやれよ」
「なんで私だけ!?」
適当に考えた屁理屈を並べる。
「部長は飯塚さんと仲良くなるのに意味があるけど俺にはない」
「酷いな、外道!」
しょうがないことだ。部長を矯正することは頼まれているが俺を矯正することは頼まれていない。わざわざ用事を増やす必要もない。
「まぁいいかな!飯塚さんとも仲良くなれるかもしれないし」
部長がやる気になった。
「まぁ頑張れ」
俺は完全に他人事だ。だけど飯塚さんは俺も作業に巻き込みたいようで、
「三ヶ原さんもやるんだったら、外道君も一緒にやれば仲良くなれるんじゃないのぉ?」
確かに正論だ。やる気は出ないがこれ以上説得されているほうが面倒だ。
「分かりましたよ、やります。やればいいんでしょ・・・」
「よろしくね、外道君!」
はぁ面倒くさい。
「で、なにをするんですか?」
「絵を描こうと思って。でも先に二人の画力を知っておきたいんだけど」
「お安いことですよ」
ここから30分間、俺たちは好きな絵を描いた。
「描けたぁ?」
「描けましたよ」
「描けたぞ」
「それじゃあ三ヶ原さんからお願い」
「結構自信作だ!」
自信満々で出された絵は、小学生がなるべく上手く描こうとして失敗した絵、って感じの絵だった。人の腕がおかしな方向に曲がっている。
「う、うん・・・頑張ったね・・・」
飯塚さんも戸惑っている。とりあえずこの絵は写メっておこう。
「外道君の方は?」
俺は描いた絵を飯塚さんに渡す。
「えっ、なにこれ!上手いじゃない!・・・っ!?」
俺の絵も自信作だ。特に腸をほじくりだす様を書くのには手こずった。濃い赤色を塗りつけようと思ったが時間が足りなかった、ソコだけが心残りだ。
「・・・二人とも、なにもしなくていいから!!」
結局やってくれるのか。よし!これで部長と仲良くなることができる。というより部長をいじめることが楽しくなってきた。俺も進化してきたな。今ではいたぶるのよりもいじめる方が好きになった。




