長曽我部先輩の暴走
部長を公園に一人ぽつんと残して、俺たちはぞろぞろと古めかしいデパートへ入る。
「ここがデパート・・・、噂には聞いてたけど古ぼけてるわね」
カノンが一人呟く。やっぱりお嬢様はこんなところには来ないのか、爆殺したい。
3年前、この近くにできたショッピングモールに客を盗られ、このデパートは絶賛経営難中である。デパート内の3分の1ちかくの店は、まだ昼前だというのにシャッターを下ろしたままだ。この寂れた感が俺としては気に入っている。
「さぁて、デパートに来たはいいけどこれからどうする?」
「わしは真剣が見たい!」
「お前は真剣を持つな!」
俺は和音にチョップをかまそうと思ったが兜が邪魔だったので止める。いちいち兜を脱がしてまでチョップしたくない。
「私は服とか見たいなぁ。カノンちゃんと和音ちゃんに似合う服を選んであげたり!」
「確かにそれはありですね。カノンもドレスなんか着てるし」
「他の服なんてイヤよ!!ゴージャスなワタシにはドレスが一番似合うんだから!!」
ガキが・・・。自分をゴージャスだとか頭湧いてんじゃねぇのか?
「なぁカノン、お前は流行ってものを知ってるか?」
「もちろん知ってるわよ!」
カノンがペッタンコな胸を張る。
「なら流行のものを着ろ。一緒に歩いてて恥ずかしい」
「は、恥ずかしいぃ!?そ、そんなことがあるはずないでしょ!!だってこのワタシよ!恥ずかしい訳がないわ!!」
「二葉さんもそう思いますよね」
「その通りでございます。カノン様は今どきの女の子であるにも関わらず、クッソダッサイです」
「なっ・・・」
絶句するカノン。悲壮な顔が面白かったので、壊れた携帯代わりに使っているコンパクトカメラで写真に収める。
「それでは行くかのぉ」
「お前も着替えてもらうからな」
「なっ、なんじゃとぉ!」
和音が般若の顔で驚く。いきなりこっちを向かれるとビビるのでやめてほしい。
「ふんふっふんふふん、コーディネートかっんせーい!!」
飯塚さんが楽しそうな声をあげて服屋から出てきた。後ろには着替えたカノンと和音を従えている。飯塚さんは美術部員なだけあってなかなかセンスが良い。
「どう?こんなのも似合ってるのかしら?」
カノンが着ているのは、無地の白色のワンピースに青いジーパン生地のジャケット、夏らしい、つばの広い麦わら帽子。これまでの成金感溢れるイメージとは違い、元から金を持ってます的なイメージに変わった。どっちにしたって腹立たしいのに変わりはない。
「は、恥ずかしいのじゃ・・・。せめてお面だけでも・・・」
顔を両手で隠した和音が着ているのは、・・・・・・・・・メイド服だった。しかも猫耳付き。腰には模擬刀が当然のごとくささっている。何故猫耳メイドなのかは分からないが、まぁとてつもなく可愛かったのでカメラで撮っておく。ファインダーごしに店の看板を見てみると『オーダーメイド可能!何でも5000円から作ります!!』の文字が見えた。この日の為に飯塚さんがオーダーメイドしておいたんだろうな。
「偶然なんだけど、二葉さんとお揃いにならない?ほら!執事とメイドさん」
「はいはいそうですか、それじゃあ次に行きますか」
「あぁ!外道君、今私のこと無視したでしょ。私の方が先輩なんだよ、敬わなきゃならないんだよ!」
飯塚さんにチョップをお見舞いする。
「うっ・・・、酷いよ、外道君・・・」
「文芸部では俺の方が先輩です。次、先輩だってことを盾にしたら・・・、殺しますから」
俺は満面の笑みを浮かべて言ってやる。
「う、うん・・・」
さすがは俺の笑顔!効果はばつぐんだ!!
「はい、ボウリング場です」
「スゴイのぉ、早速デパートから出たぞ」
仕方ない。あのデパートは何もないから繁盛してないんだ。
「そこの和音!ワタシと勝負しなさい!!」
「ん?なんじゃぁ?」
展開がいきなり過ぎてよく分からないが、カノンが和音に勝負を仕掛けた。
「そもそもワタシと名前がちょっとかぶってるし、豚と似てるし、司郎と無駄に仲良いし・・・。だから勝負よ!!」
カノンは喧嘩っ早いな。そんなんじゃ長生きできないぞ。俺に殺されるぞ。
「別によいぞ。わしも退屈しておったところじゃ」
猫耳メイド、和音が喧嘩を買う。
「ふん、いまさら後悔しても遅いから。子供だからって油断しないからね」
「わしは子供ではない。15歳じゃ」
「えっ!!ワタシよりも年上じゃない・・・、ロリコンってやつ?」
ロリコンは和音が大好きな変態達のことだ。
「頑張れぇ、和音ちゃん!カノンちゃーん!!」
飯塚さんが五月蝿い。俺がガムテープを持っていたら、間違いなく飯塚さんの口に貼り付けてたな。
「そりゃ!」
先手はカノン。ボールはカノンの手を離れてから一度バウンドし、ゆっくーりとレーンを進みながら安定してガーターとなった。それが二球とも。偉そうに言っていた割にはへぼへぼだ。
「くっ、なんでこう『すわーっ』って行かないのかしら・・・。きっと、さっきのボール達が悪かったのよね。それしか考えられないわ」
カノンは逢坂に近い。ウザさは逢坂の方が飛びぬけているが・・・。
「次はわしの番じゃな」
和音の投げた球は普通だった。『ごろごろ』っとまっすぐにレールを転がり、真ん中から少しずれた位置でピン5本を倒した。二投目で端に残っていたピンを倒し、合計6本だ。
「二葉さん、交代してあげるわ」
「かしこまりました。きっと勝利して見せましょう」
カノンは二葉さんと交代した。下劣にも程があるな、さすがは俺の妹!
「卑怯じゃ!!これはわしとお主の対決ではなかったのか!!?」
「二葉さんは私の執事。だからワタシの力よ。悔しかったら執事でも何でも雇いなさいよ」
「最低じゃの・・・」
「黙りなさい!負け惜しみは恥よ!?」
ウザッ!やっぱり逢坂と同レベルか・・・。
「最低じゃ、最低じゃあ!」
二葉さんは大人げなく和音をボコボコにした。
「あぁ、落ち込んでる和音ちゃんも可愛い!」
飯塚さんがただの変態と化していたので証拠写真を撮っておく。
「ご主人様、私はくたびれたので今日は一緒に寝れません」
「いつも一緒に寝てないから問題ありません」
「ねぇ、これからショッピングモールに行こうよ。あそこにはメイド喫茶があるらしいんだけど、メイドさんがメイド喫茶にいくっていうのは面白そうじゃない?」
「そのメイドさん、というのはわしのことか?」
当たり前だ。
「そのメイド喫茶のオーナーが俺の知り合いだからな、とりあえず行ってみるか」
「「「いらっしゃいませ、ご主人様!お嬢様!」」」
相変わらずこの店の女の子は可愛いな。
「何にやけてんのよ!!」
カノンにビンタされる。カノンを見てにやけてみると、またビンタされた。一体何が正解なんだ!
「やぁ、こんにちは、外道君。しょっちゅう来てくれるなんてこの店が気に入ってくれたんかな?」
「はい!って痛い!!」
カノンがビンタしてくる。既に俺の頬は真っ赤になっているんじゃないだろうか。
「で、その美女達は何なん?外道君ってそんな人やったん?僕と同類やなかったん?部長さんはどないしてん!!!」
長曽我部先輩が銀縁眼鏡の奥で涙を流し始める。
「これは部長に対しての罰ゲームなんですよ。部長が友達をなかなか作らないから知り合いの中から部長だけをはみらせて遊んでるんです」
「それで自分はハーレム状態を楽しんでると?舐め腐んなや!!僕も混ぜろや!!!ホンマなんでそうなん?なんで僕は二次元しか恋人出来へんねん!!!」
「あの~、オーナー?客が引いてるのでやめてもらえせんか?」
眼鏡をかけたメイドさんが注意してくる。いかにも生徒会長って感じだがこんな子も働いてるんだな・・・、うちの生徒会長にもやらせてやるか、脅して。
「長曽我部先輩、この子、どうですか?」
恥ずかしがる和音を長曽我部先輩へ突き出す。
「めっちゃかわええやん!!やっぱり写真より実物の方がええなぁ・・・。うちで働いてもらいたいぐらいやわ」
「無理じゃぞ?わしは忙しいから・・・」
「!?」
長曽我部先輩が雷に打たれたように固まる。
「なん、やの?ホンマ何なん!?この喋り方ぁ!!武士っぽいとかは聞いとったけどめちゃめちゃかわええやん!!!妹にしたい、妹にぃぃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ダメですよ!!和音ちゃんは私の妹になるんですから!!」
「だからならぬと言っておろうに!!」
「あぁんもう!和音ちゃん可愛い!!」
「なんやの、このコンビプレーはぁ!!ヤバイ、どっちもかわええ・・・。はぁ、はぁ、なんか興奮してきた」
「キモいのでやめてください。ちなみにこいつは俺の義妹です」
俺はカノンを長曽我部先輩に献上する。
「ちょ、何すんのよ!?・・・はぁ・・・。こほん、初めまして、ワタシは大王カノンよ。仲良くするつもりはないけど名前ぐらいなら覚えさせてあげなくもないわ」
再び長曽我部先輩が雷に打たれる。
「なんなん、かわええ!!かわええぞぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!僕のドМが溢れだしてくる・・・。あの、靴舐めさせてくれませんか?」
「嫌に決まってるでしょ!!汚らわしい・・・」
「あぁん、蔑まれるのも、快・感・・・」
長曽我部先輩の変態が着実に露見していく。ついでに二葉さんもいっとこうか。
「はい、こちらは俺にゾッコンな執事です」
「その通りでございます。私はご主人様にゾッコンです。今もご主人様の裸を想像してムラムラしております」
「・・・最低や。最強やないかぁぁぁーーーーーーーーー!!!ごほっごほっ・・・。はぁ・・・」
長曽我部先輩のテンションが200から0まで下がった。
「ホンマ、外道君の周りはどうなってんの?美女ばっかりやし、個性的で楽しいし、これに部長さんも加わるんやろ?・・・・・・僕に一人ぐらい分けてくれへん?」
「無理です。俺の所有物ですから」
「なんか・・・、もうええや・・・」
テンションがマイナスまで下がった長曽我部先輩を置いて、俺たちは何も飲食せずにメイド喫茶から出て行った。
「「「いってらっしゃいませ、ご主人様!お嬢様っ!」」」
冷やかしにきただけなのに・・・・!首を捥ぎたくなるほどいい娘たちだ!!
「何をにやけてんのよ!!」
「おぶっ!!」
僕をぶったな!親にもぶたれたことないのに!!
「はぁ、僕の存在意義って・・・、何なんやろなぁ・・・」
「あの~、オーナー?大丈夫ですかぁ?生きてますかぁ?」
テンションネタはドラクエです。




