肋骨を折りたい
俺は二葉さんに案内されて自分の部屋に来ていた。俺の部屋もかなり豪華で、映画にそのまま出しても違和感がなさそうなぐらいだ。
「まだ司郎様の荷物は来ていません。なので私の部屋で一緒に寝ましょう」
「寝ません。そもそもここには泊まりません」
今日は顔出しに来ただけなので、荷物も何も持ってきていない。
「泊まっていってもいいではありませんか。一緒にSMプレイを楽しみましょう」
「やりません」
俺も声に抑揚が無い方だし、二葉さんもそうだ。だから呪文を唱えあってるみたいで気持ち悪い。
「車出してください。帰ります」
「ふぅ、仕方ありませんか」
二葉さんが真顔でため息を漏らしながら車庫へ向かう。俺も二葉さんと同じように車庫へ向かおうとすると、後ろから呼び止められた。
「あ、あの、さっきのことなんだけど・・・」
カノンだった。頬が真っ赤だ。
「あれは本音だ。俺はお前と付き合いたいし結婚したい」
もう、可愛ければ誰でもオッケーだ!
「ほ、本当?」
無駄に可愛いな、なぶり殺すぞ。
「本当だ」
「な、なら、また会える日を楽しみにしててあげる!」
とりあえず俺が盗撮したことは水に流されたみたいだ。プロポーズをしてみて正解だったな。
「それじゃあまた今度な」
「え、ええ。またワタシに会えることを光栄に思うがいいわ!!」
「はいはい」
高飛車だな。いつもはこういうやつの心を潰すのが最高に楽しいんだが・・・。俺も部長と知り合い変わってきたんだな。
「し、しんどい・・・」
俺は教室の机に突っ伏す。結局、昨日は二葉さんにラブホテルに連れ込まれそうになったり、人気のない場所で襲われたりしたのでだいぶ疲れた。これからあんなことが何度も起こると思うと寒気がする。
「やぁ、外道!僕はついに三ケ原さんと友達になったぞ!!」
ほう、部長も友達作りを頑張っているのか。
「で、どんなふうに友達になったんだ?」
「『友達になってくれ』と言ったら、『あぁ』と返してくれたんだ!!これで僕は勝ち組だ!!」
早とちりな気がしてならない。放課後、部長に聞いておこう。
「これで僕と貴様は同じ位置に立った。貴様ごときの出る幕は既に無い。諦めて僕にひれ伏せ」
その上から目線をやめろ。暴力事件を勃発させるぞ。
「まぁ、頑張れ」
俺は疲れてる。これ以上こいつと関わりたくない。
「ん、外道か」
「おう、部長」
俺は部室に着くやいなや、逢坂から聞いた話をする。
「そんなことあったか?」
部長が首をかしげる。やっぱり早とちりか。そんなことだろうと思ったよ。
「ああ、それと・・・」
俺は名前が変わったことなどを話した。
「ほう、新しい家は金持ちなのか・・・」
「まぁな、新しい部室を作ってくれてるし。義父が理事長と知り合いで良かったな」
カノンと二葉さんのことは話さなかった。部長に話すと面倒そうだ。
「明日完成するらしいから。あと、場所は屋上な」
「馬骨は今日、来ないんだよな」
「あぁ、そうだな。月、木は剣道だからな」
「あと、飯塚さんは用事があるから来ないって」
「そうなのか」
「きょ、今日は二人っきりだな・・・」
もじもじする部長。可愛すぎだな、襲うぞ。
「外道!今日はその・・・、誰も来ないから・・・」
「なんだ?はっきり言えよ」
「い、一緒に遊びに行かないか!!」
「・・・別にいいぞ!」
「えっ!?いいのか?」
人と何処かに遊びに行くというのは生まれて初めてだ。だからこれに乗らない手はない。
「それじゃあ何処に行く?部長が好きなところにしてくれ」
「意外にやる気だな・・・。えーっと、私は遊園地とか行きたい」
「それじゃあ行くか」
「スゴイ・・・、これが遊園地というものか・・・」
俺は遊園地の偉大さに圧倒されていた。観覧車ってこんなにデカいんだな・・・。
「外道、遊園地は初めてなのか?」
「初めてだ・・・」
人がたくさんいる場所には耐えきれない。電車もこまない時を狙って乗っているくらいだ。ましてやリア充ども温床の遊園地に行くなんて。昔からすれば考えられない。
「今日の外道、なんだか可愛いな」
俺はチョップを繰り出す。
「イタイ!!何をする!?」
「と、とにかく行くぞ!」
俺は魔の巣窟、遊園地へと歩を進めた。
「おぇ、カップルばっかりじゃねぇか・・・」
平日の遊園地には人が少なかった。しかし、どこぞのカップルらが手を繋ぎながら楽しそうに遊んでいる。リア充爆散しろ。
「外道、私たちも・・・、手を握らないか?」
「なんで?」
そんなことをするのは彼氏彼女の仲だけだ。あと家族とかいうのとか。
「そ、その・・・、はぐれないようにだ!そうだ、はぐれないようにだ!!」
遊園地内はガラガラですけど?この中では、はぐれる方が難しい。
「まぁ、いいか」
美少女と手を繋げるならなんだっていい。俺は部長の細く白い手を強く握る。
「外道は温かいな・・・」
部長は俺に父親を重ねているのかもしれない。
「その、部長の父親ってどんな人だったんだ?」
失礼な気もしたが、聴いておかなければ気が済まなかった。殺人を犯した父親。俺には全く想像もつかなかった。
「・・・私の父親はな、とても優しい人だったんだ」
部長が話し始める。それは、自分自身にも話しかけているようだった。
「いつも笑顔で、面白くて、みんなに好かれるような人だった」
昔に思いをはせて、にっこりとほほ笑む。
「私はそんな父親を尊敬していた。なんにでも本気で、少し鬱陶しい時もあったが、大好きだった」
俺は父親がどんな人だったかを思い出せない。だから部長が羨ましくもある。
「だけど父親は熱すぎたんだ。親友でもあった、同僚の裏切りが許せなかった・・・」
部長も頬を大粒の涙がつたう。
「それで父親は・・・、その同僚を殺した」
やけに冷たい言い方だった。父親を憎んでいるのかもしれない。
「本当は文句を言ってやりたかった!相手の家族に謝らせたかった!!・・・でも、逃げたんだ」
逃げた?そんな話は聞いてないぞ。
「逃げたってどういうことだ?」
「舌をかんで死んだんだ。死刑の判決が出なかったのに、真面目な父親は・・・、人を殺した自分を許せなかった」
部長の父親は死んでいた。俺に父親を重ねているのは実物がすでにないからか。
「父親が殺人を犯したから、周りにいた人たちはいなくなった。それどころか、逆に批難してきた」
部長が人を信じられなくなった原因はこれか。
「私は、私はぁ!」
「もういい、ありがとうな、部長」
俺は部長を優しく抱き寄せる。そうしなければ、部長が壊れてしまいそうな気がした。
「俺は何処にもいかないし何もしない」
「・・・グスッ、何かはしろよ・・・」
「じゃあ一緒に遊ぼう!せっかく遊園地に来たんだ」
「・・・あぁ、外道、大好きだ!!」
チョー可愛いな。俺は強く部長を抱き寄せる。
「今日は優しいな、肋骨が痛くない」
「俺はそこまで外道じゃない」
肋骨を折りたい衝動を必死で抑えてるからな。




