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異世界らくえん  作者: curuss


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10/11

ちゅうそうたんさく

 三階でのアイテム掘りは、効率が良くなった。

 確かにモンスターは強くはなっている。しかし、それ以上に俺達パーティは機能していたし、+1(初級)グレードの武器防具やヒーリングポーションでの安全マージンも大きかった。

 ……こうも順調ならば、四階の探索すら選択肢に?

 そんな油断まみれの夢想を抑えつつ、いつものように斥候役を務めていたら――


 湿った土がむき出しなダンジョンの床に、巨大な昆虫の死骸が!

 これは蝉……か? 巨大でグロい腹を見せているけれど、蝉の類?

 しかし、なぜ死骸が? 死んだモンスターは、床へと溶けて無くなってしまうのに。

 呆然としてたのを不審に思ったのか、陽平が先頭へと合流してきた。

「トラブル発生か、直人?」

「蝉が……蝉が死んでんだ」

「昆虫型モンスターと遭遇か? いや死んでおるなら、予習も役に立たぬな」

 例によって音を立てぬよう注意しながら、ガシャガシャと健太郎も追いついてきた。

 確かに予想していた昆虫型モンスターであり、それでいて想定外だ。まあ特に害がある訳でも――

 突然、巨大な蝉の死骸はバネ仕掛けのように跳ね上がり、そのまま俺へ突進してきた!

「危ない、直人! 避けて!」

 翼に言われるまでもない! 何とか仰け反って躱すも――

 危なかった! 『レンジャー』でなければ、そして何度も『強さ』を得ていなければ、避けきれなかっただろう!

 ……とか自画自賛してたら、なんか体液を掛けられてるし! まさか毒とかじゃねぇだろうな!?

 そして巨大な蝉の奴は、石造りの壁へ張り付いくと背中の羽根を擦らせ――

 耳を劈くような大騒音を!

 なんなんだよ、一体、こいつは!? 嫌がらせに特化でもしてるのか!?

「直人、向こうの角を! 敵が呼び寄せられてしまいました!」

 悟の指し示す方を見やれば、そこには何()かの人影が。

 ……べつに顔見知りではないけれど、なにかは知っている。あれは動く死体(ゾンビ)だ。

「健太郎、陽平! あっちの団体さんを頼む! こっちは俺が!

 ――翼! 二人のフォローを!」

 視界の端では、激しく前後が入れ替わるパーティの最後尾へと、悟が移動していた。

 ……よし。パニックは起きてない。なら――


 ただ巨大な蝉へ意識を集中させる。

 おそらく手足はもちろん、頭部ですら急所とはならない。昆虫の弱点は、羽が生えている胴体の部分だ。

 そここそが共通な中枢であり、一撃での戦闘不能や即死すら狙える。……少なくとも日本の――地球の虫は、そうらしい。

 身体を捻りながら巨大な蝉は再び、突撃してきた。


 色褪せてグレーになっていく視界の中、身を投げ出すように深く踏み込む。

 俺に陽平や健太郎のようなパワーはない。だから体重を乗せ、素早く、正確に急所を――


 刺し貫く!

 遅れて顔を目掛けて伸ばされた口吻に――蝉の攻撃に首をひねる。


 頬が裂けた。

 が、痛みに呻くよりも先に、剣を捩じる。……馴染み始めてしまった空気が入っていく手応え。

 遅れて力無く口吻が、まるでゼンマイ細工のように巻き戻っていく。


「こっちは終わった! いま行くぞ! どうなってる!?」

「何体かの足を縛ったよ! 手前のやつから相手して!」

 前進の遅れているゾンビ達には、地面から生えた黒い手が足元へと絡みついていた。『足絡み(バインド)』の魔法だろう。

「健太郎、他に新手は?」

「そいつらだけです!」

 応じながらも悟は、広げた両手から『何か』を放つ。何体かのゾンビが崩れ落ちていったから、『死の呪いを解いた』のだろう。

 ……なんとか立て直せたか? なら、あとは、残りのゾンビを対処するだけ!

 自ら雄叫びで鼓舞しながら、俺も前線へと斬り込んでいく!



「なんというか……蝉でしたね」

「……ああ、蝉だったな」

「ボクは一年の頃を思い出しちゃった。ほら、去年の秋頃、赤い洗面器を頭に乗せた教頭先生が――」

「後にしろ、後に! それより直人? どうすんだ?」

 そう陽平が促す先には、地図の通りに四階へと降りる階段があった。

「もちろん、降りない。ここまでで時間を使い過ぎたし……けっこうリソースも使わされちまった。もう切り上げて帰るぞ」

「うむ。それで良かろう。べつに我らは、深層が目的でもないしな」

 そう健太郎も賛同してくれたし、この判断は間違っていない……はずだ。なのに俺は、この四階への階段を見て軽い高揚感と――

 強い誘惑を覚えずにはいられなかった。

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