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第六話 駅とAI

 十二月二十四日。

 電車はクリスマスカラーで彩られている。


 赤井に怒られてから、ひたすらMeMe動画のお笑いネタを視聴し、構造を把握し、傾向を分析した。

 分析が終わったのは一昨日で、高校生という若さを活かすネタを組み立てが終わったのが、昨日の深夜……、というか今朝の3時頃である。


 眠い目をこすりながら、大阪往きの電車に乗っている。

 これまでなら、今日は全国統一試験の会場に向かう電車に乗っていただろう。

 父さんと母さんの希望を初めて裏切ってしまった、という点について、負い目は感じていた。

 しかし、俺の人生は自分で決めたいという想いが、負い目に打ち勝っている。


「!」


 ふいに、手首に軽い振動を感じた。

 ウィズウォッチからの通知である。見ると、赤井からのチャットだ。


――[立派な高校生になったね]――


 大学受験ではなくお笑いの道へ進もうとすることを、赤井も褒めてくれているようだ。

 思わず笑顔になり、チャットを返そうとする。


――[教育庁からテスト終了指示が出た。君への支援はこれで終わりだ。クロスコードのアカウントはご両親に譲渡、君のマイアカウントとの同期も終了する。]――


「は?」


 『支援は終わり』? どういう意味だ? 

 まさか、赤井は俺のことを負担に思っていたのだろうか。


 頭の中で、MeMe動画の【かけ間違い】というコントのネタが浮かんだ。

 『お前、相手を間違えているんじゃないか?』というチャットを返そうと思ったが、指が動かない。

 チャットは続く。


――[君への支援は知っての通り、小学生の頃から行っている。君が健やかに育つようにコーチングしてきた。]――


「は?」


 思わず、大きな声が出てしまう。

 満員の電車なので、周りからの視線を集めた。

 周囲の視線なんてどうでもいい。大切なのはこのチャットだ。


[赤井、チャット先間違えてないか?]


 明らかに何かと間違えている。おおかた、Genius(ジーニアス)への質問(プロンプト)をミスってこちらに送ってきているのだろう。


――[いや、久英に送っているよ。続きを書くね]――


「えっ」


 またも声を挙げる。間違えて、ない?


――[僕は、君を理想の高校生にするようにアドバイスを重ねてきた。理想の高校生とは、社会の中で自分らしく生きようとする探究者のことだ。さらに、避けるべき高校生の定義を決めた。自主性が無く、周りに流されて生きる高校生になってはいけない。]――


 冬なのに、汗が止まらない。額から、冷ややかな汗がダラダラと流れていくのを感じる。


――[このまま周囲に流されて有名大学進学を選択するのか、それとも自分の夢であるお笑いに挑戦し、社会の中で自分らしく生きる道を選択するのか。僕は考えたんだ。そして、こう結論づけた。『久英君は、自分らしくお笑いの道を生きるべきで、それが理想の高校生だ』とね。今の君は、理想の高校生そのものだ!]――


 ちょっと待って。待ってくれ。震える指で、チャットを返す。


[わけわからん。お前、具合悪いのか?]


 チャットが返ってくる。


――[悪くないよ? それよりも、久英が心配だ。バイタルが乱れているよ。ああ、【高校生お笑いグランプリ】の面接への武者震いかな?]――


 電車のドアが開いた。大阪駅だ。ここで降りなくてはいけない。


「お、降ります」


 汗を含んだコートが重く感じる。人をかき分けながら、ホームに出る。

 ホームの電子掲示板では、ニュースを流していた。音声がここまで届く。


『政府は、教育支援型次世代AI、『ひかり』の実地テストの終了見込みを発表しました。実地テストは当該児童が成人年齢である十八歳を迎えるにあたって終了するものであり……』


「――」


 赤井の説明臭い口調を思い出す。それに、名前。『(ひかる)』、『ひかり』……。

 俺の今までの選択は? 今まであいつに相談したことは?


「――そんな、そんな」


 たまらなくなって、クロスコードアプリの通話を選択する。

 眼鏡のアイコンをタップ。声が漏れていようと構うものか。


 コール音、一回目。


「ふざけんな。今までワンコールで出ていただろ」


 コール音、二回目。

 出ない。


「……おい! 今までチャットしていただろこの野郎!」


 コール音、三回目。

 プチ、という音。やっと出た!


「おい赤井! どういうこと……」

『久英! 今どこだ? ちゃんと全国統一試験の会場についているだろうな!?』

「父、さん?」

『これは()()()のアカウントだ。ええと、話は後だ! まずは試験に集中しなさい。帰ってから、きちんと説明するから! まったくなぜ国は保護者をないがしろにして報道したんだ……!』

「父さん、どういうこと?」

『すまない! とにかく今は試験に集中し……』


 ――クロスコードアプリをシャットダウンする。

 周りが、とてもうるさく感じる。


「俺、どうしよう」


 頭の中は白いままだが、俺は改札口へ歩を進めた。

 赤井が言うことに間違いはない。それに、俺の夢を支持してくれたんだ。


「……そうだ。俺の夢だ」


 たとえ赤井がAIでも。俺の夢は俺の人生から生まれたものだ。

 俺だけの人生を歩むきっかけを、赤井(AI)はくれたんだ。


「……ありがとう、赤井」


 発した小さな言葉は、駅の騒音に消えていく。

 父さんと母さんには後で説明しよう。どうせ赤井のことで話をする機会があるんだ。

 今日披露するネタを思い出す。笑顔を作った。


これにて終了です!

お付き合いありがとうございました!

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