第二話 レポートとアウトプット型教育
文化祭で盛大にスベったが、レポートの締め切りは回復を待ってくれない。
明日には倫理のレポートを提出しなければらない。
いつもの通り、クロスコードアプリを起動させて赤井と話し合いながら、レポートを作成している。
「うーん、赤井。生成AIについて上手い表現ないかな? 俺が考えたのは、【学んだデータをもとにして、人々の目的を果たす人工知能】って表現なんだけど」
『そうだね……。十分親しみ深い表現だと思うけど、【深層学習をもとにして】っていう文言を加えたらどうかな?』
「あー、なるほど」
ディスカッションしながらレポートを書くことは学校から奨励されている。
過去のインプット型教育が、現在のディスカッションやレポート、プレゼン主体のアウトプット型教育になるまで、揉めに揉めたそうだ。
しかし、AIに左右されない自主性を育むための授業として、現在のアウトプット型教育は受け入れられている。
学校では常に自分の意見が求められているので、ぼんやりしているヒマはない。
……学校で自己アピールできない生徒は存在しない者扱いである。
自分を表現できないということは、イコールで自分の中身が無いヤツと学校の連中は判断するだろうし、俺も少なかれそう思っている。
そんな学校は息苦しいが、仕方がない。社会に出たらもっと辛いだろうから、適応するしかない。
「うーん、悪いけど、赤井の表現もいまいちだな。論文漁ってみるわ」
『ああ、いいことだね。良い質問は、良い知識から生まれるからね』
赤井のいつもの説教を聞きながら、高校から提供されている論文検索システムにログインした。
開星高校の定められた権限でアクセスできるデータベースには、大学生の論文はもちろん、高校生の論文も登録されている。
自然科学や化学、情報技術や社会文化まで、あらゆるジャンルの論文を検索できるのだ。
もちろん、ここにもGeniusが導入されている。Geniusの使用ログは、マイアカウントに紐づけられ、パスワードを間違えなければいつでもログを参照できるようになっている。
ちなみに、このログは評価点付けの際に見られるものらしい。
「うーん、やっぱり俺の表現で良かったかも……」
『うん、久英の表現は親しみ深くていいと思うよ』
「それ褒めてない。ありきたりで悪うござんす」
『ありきたりは重要だよ? 何かを表現するためには親しい言葉で表現することが重要だからね』
「そうだろ、そうだろう」
赤井の高説を聞きながら、レポートの作成を進める。
「そういえば、文部科学省は自前の生成AIを教育現場に導入したがってるっていうのも聞いたことあるなぁ」
『ああ、そうだね。教育支援型次世代AIの……』
「言わなくていい。なんか、俺が生まれた年からテストしているんだってさ」
ピローン!
突然アラームが鳴った。高校で使用するように定められたポモドーロタイマーである。
『はい、休憩ー』
ぱちぱち、とディスプレイの向こうの赤井が手を打つ。赤井の言う通り、休憩しなければならない。
「はいはい、わかったよ。お前のレポートは進んでんの?」
『さっき終わったよ』
「え、今日からだよな。作成しだしたの」
伸びをしながら聞く。赤井は当然と言わんばかりの顔をしていた。
早すぎる。どれだけ優秀なんだ。
『時間ならいくらでも省略できるさ。問題はGeniusへの質問だからね。質問をきちんと考えないと、いくらGeniusでもお粗末な成果物を出すしかないから……。ちょっと、久英。ちゃんと休憩してる?』
「はいはい、わかってますよ。これは単純に好奇心ですー」
しかしながら、休憩中でもGeniusで簡単な質問をして、日本文化の論文を漁る。
『……まぁ、好奇心旺盛なのはいいことだけどね。統計的に、自主的な読書は知識の向上だけではなく集中力の向上にも役立つらしいから』
赤生が眼鏡をくいっと上げる。まるでアニメのキャラクターのようだ。
小言を言いたいとき、こいつはこんな仕草をする。
赤井とは直に会ったことがないだけの親友だ。
小学校からの付き合いというなので、高校の友達よりもお互いのことを知っている。
そのうえ、気のゆるんだテキトーな発言が許されているので、良い気晴らしになっている。
「お笑いの論文、無いかなぁ」
『またお笑い? 今は勉強時間でしょ? 勉強に集中しなよ』
「お笑いも勉強! あと、気分を休めるのも立派な時間の使い方だぜ。休息は社会を豊かにしているだろ?」
『まぁ、そうとも言えるけど。久英、君の今日時点の全国オープン評価点は85だ。ディスカッションにおいては評価点90だよ? これを無駄にする手は無いよ。絶対に進学を選んだほうがいい。いいね?』
スマートノートのすみに表示されている数字をちらりと見る。 確かに評価点は85になっている。
今日のコントで自己表現をしたことで上がったのだろう。
だが、お笑いの道に進むことは、両親をはじめとした周囲に認められていない。
不満げに眼鏡を押し上げる赤井の仕草を見て、俺は少しざらついた不快な気持ちになった。
ピローン!
「お、休憩時間終わり! さてレポートの続きーっと!」
大きな声で、赤井の機嫌を取るようにレポート作成続行を宣言する。
『僕は何しようかなぁ。何をやってほしい?』
「俺に聞くなよ。そうだ。フェルマーの最終定理の証明とかどうだ?」
『ああ、それなら既にイギリス生まれの数学者が証明しているよ。詳しく教えようか?』
「いい、いいよそれは間に合ってるよ。俺はお前みたいに賢くないからそんなのいらないの」
『……久英』
再度、赤井が眼鏡を押し上げたのを確認して、レポートの作成に集中することにした。
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