おもしろ動画
「これなんて、面白そうだよ拓? 『極限状態の人間は奇声を上げる』だって」
インターネットカフェでPCのモニターを眺めるカップル。二人とも、無職で毎日暇だった。そのため、二人はいつも自宅のアパート付近のインターネットカフェで暇を潰すのだった。
狭い空間の中、二人がすることと言えば、オンラインゲーム、チャット、HP作成、違法にUPされた映画観覧など様々だった。今日は、一日中『おもしろ動画』を見ようということになり、二人して口元を歪めながらマウスをクリックし、キーボードを叩く。それの繰り返しだった。
時間が経過し、そろそろネタ切れかと思い始めてきたころ、美佐子が某有名サイトである動画を発見した。タイトルは『極限状態の人間は奇声を上げる』というものだった。動画の説明文を読み出す美佐子。
「えーと……、人間は飲み食いせずにどれだけ生活できるかを検証したらしい。その際、三日目で実験人物達がこんな奇声を上げていたとのこと。いやはや、人間というものは面白いですなwだってさ」
拓が身を乗りだす。
「いいね、それ! 面白そうじゃん。見てみようよ」
美佐子が再生ボタンをクリックした。約、三十秒弱の動画が再生を開始する。部屋は暗く、暗視カメラのようなもので撮影された雰囲気を出している。画面の中心に三人の男がうずくまっている。一人は完全に泣いているようだ。
そのうち、泣いていた男が何か奇声を発した。
「わーい! わーい! わーい、でぃぃぃぃざぁーとーーーー!」
うずくまった体制のまま、下を俯いたまま、男は大声で叫んでいる。撮影者が大声で笑っている声が音声に含まれいた。
「あーはっはっははー! 何コレ!? このおじさん爆笑もんだよ、ねー?」
「ほんと! へへっ、んはははっへー!」
二人はインターネットカフェだということを忘れて、大声で笑った。二人が笑っている間も、泣いていた男は繰り返す。
「でぃざーとぉぉ……わーい! わーい! ドンドンドンドンットぱー! みっとぉん」
そして動画の再生が終了した。二人はまだ、薄ら笑いを浮かべていた。
「いやー、面白かった! 人間って怖いね。あんな風になっちゃうんだね」
「俺もびっくりしたよ。これ、今日で一番笑えたかな」
二人はまだ笑っていた。この動画が、監禁された男達の最後のメッセージだとも知らず。
「Why desert don't permit」と言った、男の気持ちも知らず。
ちなみに『Why desert don't permit』の意味は、『なんで、見捨てたんだ。許さない』らしいです。