推測
それからどのくらい寝ていたのだろう。嫌と言うほど照らしつけていた太陽はすでに姿を消しており、月明かりが柔らかく水面を照らしていた。迎えの船は来ていても良さそうな塩梅であったが肉眼で確認出来る位置にそれは見えなかった。よいちょ丸も疲れたのだろう。小さい身体と普段の声からは想像もできない地鳴りのような中年特有の鼾をかいて寝ていた。
「リットン。起きたのか。」
珍しいな、こいつから話しかけてくるなんて。
「ああ、今起きた」
普段にも増して機嫌の悪そうな顔をしている。そんなに俺と話すのが嫌なのだろうか。
「もうじき船が来る筈だ。カズ達のところに合流しよう」
「………」
寝ているのか、はたまた無視をしているのか。気まずくなった俺は辺りを眺め時間が経つのを待つことにした。波や月明りを眺めている時にふと、いんちょとゆゆゆが見当たらないことに気が付いた。イオに話しかけると気まずくなることは確定しているが勇気を出して話しかけることにする。
「いんちょ達はトイレか?」
「……出ていった」
時間が止まったかのように感じた。実際に一分程度固まっていたと思う。会話が成立したことに驚く余裕はなく、思考が追いつかない。何故、意味が分からない。
「さっきの戦いでより強くならないといけないってのはいんちょもゆゆゆも分かってた筈だ。何故この状態で離脱を――」
「うるさい。お前はあの人のことを何も理解していない。そういうところがたまらなく嫌いだ」
戦いの後の表情、置かれた環境を今一度考える。いや考えるまでもなく答えは出ていた。だが信じたくなかったのだ。いんちょなら必ず力に変えて一緒に戦ってくれると、そう思っていた。信頼していたのだ。……耐えられなかったか。
しかしゆゆゆは何故だ。いんちょは極限の精神状態であったとして、ゆゆゆは違う。少なくともリットン調査団を見捨てて、保身を図るような人間ではないことは誰よりも近くにいた俺は知っている。
「ゆゆゆはどうして行ってしまったんだ」
「知らない」
「そうか。もう一つ、何故止めなかったんだ」
「……納得しちゃったから」
この状況で戦線を離脱することをどう話せば納得できるのだろうか。
「その内容を俺に言えるか?」
「お前には言えたとしても言わない」
空を仰ぐ。そうだろうな。お前はそういうやつだ。
支店総帥に故郷を潰され、門番の圧倒的な力の前にまるで歯が立たず死ぬ寸前まで追い込まれていた。いつも俺に噛みついてくる奴だが、根は優しいし責任感の強い男だということは理解している。賢く、俺と同じ武器ながら俺より遥かに強い。しかし先のいんちょのオーラには消えてしまいそうな儚さを孕んでいたのも事実。だがそれでもいんちょなら一緒に戦ってくれるだろうと根拠のない確信めいたものを抱いていた。あいつが抜けた穴を埋めるすべはない。人員は手一杯だ。
ゆゆゆだってゆうの覚醒は完了していない。
「門番撃破にいんちょは必要不可欠なピースだった。他の陣営にも余裕はない」
「そうだな」
「勝率は俺とイオだけの場合は半端ではなく低下する」
あの二人にも事情があるだろうことは理解していた。それでも、お門違いだと理解していても俺はイオに当たってしまった。
「どうしろってんだ! それになんでゆゆゆまで!」
「うるさい!」
戦い以外で初めてイオの怒声を聞いた気がする。先ほどまでのぶすっとした表情はそこにはなく、頬と耳を真っ赤にして今にも泣きそうな顔をしながら目つきは餓狼の如く鋭い。今にも俺を殺しに来るかのような気迫があった。これがこいつの怒りなのだろう。
「お前シンジ達が離脱したときになんて言った! 『大事なのは残っている戦力でどう戦うかだ』って言ってたよな!」
……確かに言った。皆を説得させる為ではあったが間違いなく俺が発した言葉だ。
「いんちょもゆゆゆも居ないんだからさ! 僕とお前が強くなるしかないじゃんか!」
「……そうだな。済まない」
「済まないじゃないよ! お前がそんなんだから――」
そう言うイオは両目に蓄えた涙が零れ落ち、膝を抱えて泣き出してしまった。イオに怒られる、いや諭されるとは思ってもいなかった。いんちょにちゃんと躾けられていたんだな。全てお前の言う通りだ。
情けない俺はイオが落ち着くのを待ち、謝罪をした。
「済まなかった。ここまできたら俺とお前でやるしか無いんだよな」
「……そうだよ。それしかないんだよ」
「いんちょが居なくても互角の勝負が出来るように頑張ろう。あいつの仇は俺たちがとってやらないとな。ありがとう。これからも今みたいに会話してくれると嬉しい」
「……うるさい。黙れ」
お前との共闘、ワクワクしていたんだ。このまま行けば結構いいコンビ、いやトリオに成れると本気でそう思っていた。ゆっくり休んでくれ。必ずお前の村の仇は俺達が取ってやる。
ゆゆゆの離脱は未だに解せないが、戦線を離脱していないだろうことは確信していた。何か考えがあるに違いない。ゆうの覚醒よりも優先すべき事項が彼の中で見つかったのだと思う。俺にはその優先事項が何かは思いつかなかったが。
泣いているイオの背中を擦っては振り払われるのを繰り返していると、ボォーっと間の抜けた低音が島に響いた。航行中でも長声一発と呼ぶのだろうか。何にしても待ち続けた船が来た。やはりミニドラの超速船には見えない、通常の船舶に無形が乗っているのが確認できた。よいちょ丸以外誰も寄越すなとカズには伝えたがゴマとの遭遇があったが故に最悪を想定したのであろう。ミニドラが乗っていることと海兵服を着ていることは意味が分からなかったが。徐々に近づいてくる船は音が聞こえてから約五分後に接岸した。
「団長殿、無事であるか?」
「ああ。なんとかな」
「ぬ? いんちょとゆゆゆは何処へ?」
返答を少し戸惑っていると無形がハッと息をのみ俺の肩を掴むと尋常ではない勢いで前後に揺すりながら叫んだ。
「まさか、やられたのであるか!」
「違う。話すから揺すらないでくれ」
スッと手を離すと柵に寄りかかり話の続きを促してくる。
「俺達が寝ている間に姿を消していた。……いんちょは戦線離脱だろう。心が耐えられなかったのだと思う。ゆゆゆは分からんが少なくとも戦団からは離脱、可能性としては他に優先すべき事項が発生且つその理由が俺には言えないもの」
「……承知した。お疲れであったな団長殿」
そういうと俺よりも背の高い無形は子供を慰めるかのように頭を数度撫でてきた。その勢いは段々と激しさを増し最終的には床屋のシャンプー並みの勢いで頭をもみくちゃにしてくる。彼女なりの和ませ方なのだろう。いい加減首が痛いが。
無形はとても賢い。凡そ理解してくれたはずだ。ミニドラはよいちょ丸を頭の上に乗せながらぴょんぴょん跳ねている。気丈に振る舞ってくれてはいるが気を遣わせているのだろう。
「予定より遅かったな。船も予定と違うし。故障か?」
「かっ飛ばしてたら燃料なくなっちゃったの♪」
和ませる為の冗談なのか、事実なのかの判断がつかない。
「何にしても助かるよ。お前がいなければ計画は成り立っていないからな」
「ウンウン♪ カズくんにも言われたー♪」
「まあ事実だからな。それといんちょがいなくなってイオが相当落ち込んでいる。懐いてたからな。慰めてやってあげてくれないか」
「……ウン♪ お任せ~♪」
明るい人間は場にいるだけで重宝する。その場にミニドラがいるだけで沈んだ空気が少し軽くなるな。戦闘は出来なくともあらゆる意味でこいつの存在は大きい。
目的地はここから約六時間だそうだ。何とも気色の悪い名前だが【ミニドラ帝国植民地】という名前の島らしい。本当に植民地なのだとしたらどうかと思うし、植民地でないのなら国が許していい名前ではないと思う。
「団長殿は休むが良い。我が見張ろう」
「ありがとう。でもお前らだって会敵してるんだ。交代にしよう。先に眠らせてもらう。時間がきたら交代だ」
「団長殿がそれで良いのなら異論はないな」
「おやすみ」
「良い夢みるのだぞ〜」
見れるか。
少し寝過ごしてしまったが見張りを交代する。遅れたことを無形に詫びるとふっ、と鼻で笑い船内に潜って行った。
さて、今日の出来事を整理しよう。到着までは残り一時間と少しといったところか。ゆゆゆの動向は一旦保留として、考えなければならないのは二つだ。一つはゴマが現れたこと、二つ目がなぜ亜脱臼村が狙われたのかということ。
恐らく無形とカズ辺りは気がついているだろうが内通者が我が陣営にいる。俺たちが捻挫島に居ることは街の人々を危険から遠ざけるために情報を特に隠さないようにしていた。それ故に耳に入ることもあっただろうから置いておいて、避難経路にゴマが出現したことは説明がつかない。どれだけ頭の回る奴が居たとしてもドンピシャで待ち伏せることは不可能に近い。何故なら脱出を決めた時点ではどこに行くのか定まっていなかったからだ。事実俺はミニドラ帝国植民地に移動したことは先ほどミニドラから聞くまで知らなかった。現れた座標を確認するに偶然という距離でもあるまいし、なんなら潜水艦を使っている。明らかに何かを意図して動いているのは間違いない。そうした場合内通者である可能性のあるものは絞られる。諜報員三名とミニドラの内の誰かだろう。
前者は敵地視察の為に複数回赴いていることから接触の頻度は必然的に高くなる。ミニドラは……無いと信じたい。だがミニドラだった場合連絡手段等も相当融通が効く。
早く解決しなければならないが誰にも言えないな、士気に関わる。カズにだけ相談をしよう。内通者がいる可能性がある以上、手を打たないとこちらの計画が完全に潰れてしまう。そしてそれは敗北に直結する。
次に、なぜ亜脱臼村が狙われたのか。この国の東には村が点在している。それぞれの村の位置はそれほど近くなく数刻駆けなければ辿り着かない。また、砦に最寄りの街は無事でなぜ特筆すべき事が何も無い最寄りでもない、なんなら比較的遠方にある亜脱臼村を選んだのか。あの村について言えることはいんちょの故郷であることと比較的人口の多い村であったということ。
・奴らにとっての脅威がそこにあった。
・沢山の人間を殺す必要があった。
・いんちょの心を折るために選んだ。
考えられるのはこのくらいだが、ミニドラに確認したところ亜脱臼村は重要な資材や資源がある街ではないようだ。また俺の知る限り強者があの街に居るという情報もない。いんちょの故郷であることは俺もミニドラといんちょの会話でようやく思い出したくらいだ。おねしゃは皆知っているだろうが他のギルドの面々は聞いたこともなかったであろう。いや、ミニドラは知っていたな。いんちょと故郷について話したことがあったのだろうか。それとも調べたのか。内通者の疑いを持つとどうも思考の邪魔をしてくる。
最初から考え直そう。現在置かれている状況の原因はドット卍会が殺戮を合法とする法を制定したからだ。ギルドを潰すと公言しているため街や仲間、家族を守る為に俺たちは俺たちの拠点を離れている。そして連合を組み打倒ドット卍会を掲げ活動を始めた。そして今朝亜脱臼村で殺戮が繰り広げられ、門番と俺達、ゴマはカズ達が接触。
漠然とした違和感というのだろうか。何か見落としているのか、妙に引っかかる。何度か現在に至るまでの情報を反復する。
いくら考えても思い出せない著名人の名前をふと思い出すようにそれは降りてきた。
夜が深まり日付が変わる。波の影響なのか敢えての鈍行なのか船の進みが予定より遅いがミニドラ帝国植民地が見えてきた。この名前本当に気色悪いな。着いたらひとまずは休もう。少なくともドット卍会の動きの理由は分かった。残すは内通者だけ。
船の上で考え事をしていたところまでは覚えているが気がつくとベッドの上で朝を迎えていた。思っていたよりも心身ともに疲弊したようだ。夜中考えていたことを今一度思考し、破綻が無いことを確認する。
さて、まずは打てる手立てを打とう。全員集めて会議だ。よいちょ丸、ぬこに頼み広場に皆集まってもらうことにする。
「昨日はお疲れさま。大変だったな」
「……おつかれー」
「カズもありがとう。不測の事態にも拘らず人員の損失無く良くたどり着けた」
「……いえ」
阿弥阿は仲間の離脱に相当落ち込んでいるようだ。それはそうだろう、創設当初から共に歩んできた仲間だ。クロムや琥珀、セリカとムゲも表情が暗い。当然なのだがいんちょの抜けた穴は全方位へダメージを与えている。
「皆も聞いたかと思うがいんちょは戦線を離脱した。残念な事ではあるが奴の心境を鑑みると誰にも責めることは出来ないと思う。モチベーションの無い者が同じ戦場に居ても連携を乱すだけだ。賢明な判断だ、致し方ないと思おう」
「一番悲しそうに見えるけどね」
「リットン、済まなかったな〜。つらかったろ〜」
普段は無口だが琥珀は鋭いところを突いてくる。だがイオと昨夜誓った。相棒のリベンジは俺達で果たす。クロムはグビグビ以外の言葉を初めて聞いた気がするな。
「俺はいんちょを信頼していた。今でもしている。その男が選んだ道だ。その意思を尊重する。そして故郷の仇をとるためにもあいつの分まで俺は強くならなければならない」
イオは目を伏せている。俺にはこの少年が強くなることを決意した立派な戦士に見えた。
「……リットンちゃん、対戦カードはどうするの?」
「このままでいく。門番は俺とイオで相手する」
「勝率はどのくらい?」
「今のままでは話にならない。何よりも俺個人の能力が低すぎる。最低でもいんちょを上回るレベルまで成長しなければ計算に組み込むこともできない」
沈黙。妙案があるわけもない。一番の近道は修行だ。
「阿弥阿、俺を鍛えてくれ。」
一拍遅れて顔を持ち上げた阿弥阿と目が合う。
「え、アタシ?」
「ああ。いんちょの剣を近くで見続けてきたのはお前だ。何がだめなのかお前なら分かるだろう?」
「んー。けっこうだいたい全部なってないけどねー。分かったー」
手厳しいな。だが事実だ。
「済まない。お前達の修行の邪魔にならないよう努力する。それと諜報員部隊にミニドラを加える。今後はよいちょ丸と雪兎、ぬことミニドラのツーマンセルで行動してくれ」
「承知仕ったでござる!」
「アタシ諜報員になれるの〜?」
「ああ。昨日の二号からの連絡の早さ等を鑑みて適任と理解した。よろしく」
内通者の存在は確定的だが正体は掴めていない。これ以上の情報漏洩は牽制する為にペアを組ませて自由を制限することにした。
「ゆうとセリカはゆゆゆが居なくなっちまったが修行の流れは覚えているな? 引き続き以前と同様の修行をしてくれ」
「了解だ、団長」
寝不足なのか右目が酷く充血しているが畏まった顔でゆうが返事を寄越す。
「それと、昨日の亜脱臼村の件だが。奴らが能動的に殺戮を行った」
起こらないでほしいと誰もが願っていたことだ。それが昨日現実に起きてしまっている。目を背けるわけにはいかない。いんちょの為にも今後の為にも。
「だが今後同様の事件が発生する可能性は低いと俺は踏んでいる。正確にはドット卍会の絡む殺戮は起きないだろうと考える」
意味が分からないといった具合に顔に疑問符を浮かべる面々。そんな中ムゲが一歩前に出て皆を代表して異議を唱える。
「リットン、それは希望的観測な気がする」
「もちろん理由はこれから説明する」
これから話すことは仮に内通者がこの場にいたとしても大きな問題は無い。むしろ内通者を利用して錯乱させることが可能だと思える。
昨晩考えていて抱いた違和感。そこから至った仮説。勝率の計算とは異なる為スキルではなく頭で考えただけのものだ。しかし俺は確信を持っていた。
「なぜいんちょの村が支店総帥に今、このタイミングで潰されたのだと思う?」
「殺戮をする気になったからじゃないのー?」
これは阿弥阿だからではなく皆答えは出せないだろう。一見しっくりくる解答を持ち合わせていない出題に見える。だが俺の中では答があった。
「最初から考えよう。では皆は殺戮を合法にするという法をどう思う?」
「最低最悪であるな。あってはならない法だと我は思うぞ」
「そうだな。だがそういうことじゃない。昨日の晩に考えたんだ。今に至る迄の出来事の全てを思い出して、なぜ亜脱臼村が狙われなければならなかったのか。そして一つの結論に至った」
勿体ぶらずに早く言えというイオをジェスチャーで宥めながら話を続ける。
「俺は殺戮を合法とするという言葉に違和感を覚えた」
「そりゃあ人の道を外れているわけだからな。おかしいだろうよ」
「いや、ムゲ。そうじゃない。あいつらが人を殺したいだけなのだとしたらドット卍会のメンバーに殺人罪は適用除外と言えばいいんだ」
流石、無形はピンときたな。顎に手を当て考えていたが何かに弾かれるように勢い良く
顔を上げる。
「……ふむ。つまり団長殿は奴ら以外の人間が殺し殺されすることを許容する法にする意味がないと言いたいのだな」
「その通りだ。奴らはわざわざ自分たち以外の人間が殺人を犯しても罪に問われない状況を作った。言い換えれば殺し合える環境を作って煽ったんだ。殺すことに快楽を覚え自分達で殺すことを目的としているのならメリットが薄い。自分たちが殺される可能性もあるしな。故に殺戮合法は奴らにとって何かしらのメリットがあったと考える」
「なるほど。して、そのメリットとやらは?」
「丸蟲、あるいは門番のスキルだ」
予想外の話の出現に無形も困惑している。
「俺が考えるに奴らのうちどちらかのスキルは、自分が手を汚さずに殺された人間の数だけ何かしらの恩恵を受けるものと推測する」
今まで見聞きした固有スキルの中でも異色のスキルにして最高に気色の悪いスキルだ。
「ミニドラは昨日亜脱臼村の状況を伝える時に最後何か言いかけてたな。何を伝えようとしてたんだ?」
「うん。村には焼けた跡や雷の落ちた跡があった。だけど村人の死因の殆どが絞殺だった。って言おうとした」
やはり支店総帥は数人しか自身で殺していない。村人同士でそうなるように仕向けたのだ。
「スキルの効果を『他人が殺した人間』と定義するのなら支店総帥が村人を殺しても良かったと思える。仮にそうであるのならばもっと早くに殺戮は繰り広げられていただろう。しかし実際はそうではない。恐らく支店総帥が村人同士で殺し合うように仕向けた。つまり、ドット卍会陣営が殺してしまうと発動条件に差し支えがあると考えるのが妥当」
「恩恵を受けるためにも、ドット卍会が村を潰してまわることは無いと言いたいんだな!」
「その通りだ。スキルの発動条件は分かったものの詳しい内容までは分からない。だが少なくとも自分達で殺し回ることはしないだろう」
「ということはドット卍会の人達は周りの人間が殺戮を繰り広げるのを待ち続けているということになりますか?」
「俺の見立てではそうなる。そして最初の問いの亜脱臼村が狙われたのは何故か。これはあの辺りの集落で人数が比較的多く、その中で砦から最短距離にあったから、そう考える」
しかし、殺人が許される法を良いことに箍の外れる人間が出ないとも限らない。そのためにもミニドラには働いてもらいたいが内通者の線が払拭しきれない。
「奴らが能動的に動く可能性は低いとしても、村人同士で諍いや争いが勃発することは考えられる。ミニドラは不穏な人の動きを本土の二号と連携して情報を仕入れるようにしてほしい。また、それを必ず俺に報告してくれ。それとぬこも必ず同席させてくれないか?」
「……わかった♪」
微妙な間があったなあ。全員が怪しく見えてしまう。だがひとまずはこれで奴らの動きの理由の共有と内通者への牽制はできただろう。
「そして攻め込むのは三十日後に決定した」
「団長、理由は?」
「俺が最低限の能力を手に入れる日数、且つ被害が広がる前に攻め込む最短の日にちがそれというだけだ。これが最短。だが俺が実は天才でもっと早く強くなれる可能性もある。皆は三十日後に照準を合わさず可能な限り最速で実力をあげてくれ」
「リットンが一番がんばれー」
その通りだ。やってやるさ。