連合
この瞬間から殺戮が合法だとドット卍会の頭領はそう言った。だが無闇矢鱈にその場にいる者を殺して回るようなことはしなかったことは不幸中の幸いといえるだろう。弱者に興味はないのだろうか。そのまま奴らは北に向かったとミニドラに聞いた。詳細な場所は現時点では分からない。だが俺の指示を受ける前にゆうとよいちょ丸(我が団の妖精。見た目はおっさん。)が行方を追っていた。そこまで広い国ではない上にミニドラにも探りを入れてもらっている。直に判明するだろう。適材適所だ、弱いがこういう時は頼りになると素直に思う。
何にしてもこれからの動きを考えなければならない。少なくとも各ギルドの団長は同様の考えをしているようだった。これからの未来を決めるための団長による会合が始まる。
「団長諸君、よろしいかね。」
リットン調査団の相談役、ゆゆゆが取り仕切る。どのギルドも彼の発言に異論は無かった。
「まずいですね…。このままでは民が殺されてしまうかもしれない」
動物愛護団体団長のカズが切り出す。コイツは頭が切れる上に戦闘もそこそこだ。しかし優しすぎる故にすぐくよくよする。下唇を血が出るほど噛み締めながらそう言った。
「これさー、アタシがあいつら倒すしかなくなーい?」
今しがたボッコボコにされていたことはお忘れなのだろうか。
「倒せるならそれに越したことはないだろうよ。でも実際俺らじゃ歯が立たない」
「だったらリットン調査団の資材とか資金全部こっちに回してよー。動物愛護団体も。全部のギルドの資材まとめて強くなって倒すからさー」
「いくら阿弥阿でもあいつらは次元が違った。そんなことで勝てるようになるとはとてもではないが思えない。それに全ての資材を渡せなどと言っているような状況じゃないだろう」
この女強くてかわいいけど本当にアホなんだな。今はそんなことを言っている場合ではない。
「うちの無形ですらあの有様ですから、ぶっちゃけ勝ち目はないかなと思っています。奴らの神経を逆撫でることなく殺されないように生きるとかは……。」
「マスター。殺戮が合法なのはあ奴らだけではないぞ。その他の民も我々も同様に合法なのだ。ましてや奴らに勝てなかった我らがあの法を作ってしまった原因と捉える者も少なからずおる。家族がいる者や仲間が常に危険に晒されるのだ。それで本当に良いのか?」
無形の発言に感心しながら同意を示す。
「お前は頭も良かったんだな。確かにその通りだ。実際あいつらはギルドを潰してまわろうと言っていた。ギルドの拠点がある街は最優先で狙われると考えたほうが良い。だから――」
「だから、俺たちは俺たちの大事な人たちや街を守る為に街に帰るべきではない、と」
いんちょが口を挟む。その通りだ。途中式だけ話させて答を攫わないでくれ。しかし軽口を叩くことをしないところを見ると事の重大さを理解していると見える。こいつはこれでいて相当に賢い。
動物愛護団体、お願い社長、リットン調査団含むその他のギルド。皆一様に絶望していた。奴らの圧倒的な力を目の当たりにしたことがやはり原因の大半だろう。しかし俺は勝機があるとそう考えていた。
「俺は勝てないとは思わない」
「お前さっき社長ですら勝てると思わないって言ってただろ。鼓舞の仕方が下手すぎる」
確かにギルド単位で戦闘となればこの国最強のお願い社長の惨状を見るに太刀打ちできないことは明白だろう。しかし、この国には多種多様なスキルを持つ人間がいる。その精鋭とも言える人間が今ここに集結しているのだ。
「阿弥阿はアホだけどめちゃくちゃ強いよな。おねしゃメンバーも。無形も阿弥阿に匹敵する戦闘力をもっている。他のギルドにもシンジや林檎、アワワや青髪、少し扱いは難しいがイオも居る」
先ほどはいんちょに良いところを取られたからな。声を大にして妙案を皆に示して見せよう。
「俺たちで――」
「手を組めばいいんじゃないか?」
……絶対に狙っているよな。何故格好つけさせてくれないんだこいつは。
「みんなで手を組めば何とか勝てるんじゃないか? いや、勝つ可能性は少しでも上がるんじゃないか?」
「ま、まぁいんちょの言うとおりだ。そういうことなんだがここまで危機的な状況であるにも関わらずギルドという枠に拘る必要ってあるだろうか?」
各ギルドの面々が同意の言葉を発する中で一人とてつもなく失礼なことを躊躇いもなく放り投げてきた。
「一緒に戦うのー? リットン超足でまといじゃーん」
こいつ……俺のことを完全に使えないやつだと認識しているよな。
「俺の戦闘力は確かに大した事ないだろう。だが固有スキルを知ってる奴はいるか?」
「知らなくてもボコボコにできたけどー」
アホ女は無視しよう。反応していると話が進まない。
「俺の固有スキルは勝率を計算し具体的に数値化できる」
「……」
歓声が湧くとは思っていなかったがここまで静まり返るのは想定外であった。
「さっきのウチとの勝率は幾つだったんだ?」
「1%」
「リットン調査団は何をすれば勝率を上げられたのかの?」
「勝率を40%まで持っていくにはいんちょとムゲを仲間にする必要があった」
「ふむ、つまり状況により勝率を計算し直してより高い数値の策を取ることが可能……という認識で良いのかの?」
「計算に時間はかかるがその通りだ」
再びの沈黙。俺のスキルの有用さに誰もが慄いているのだろう。無形が団長殿と切り出し褒め称えられる用意をしていたところに予想外の人物から爆弾を投げ込まれた。
「だとしたら弱すぎないかの……リットン調査団……」
……放っておいてくれよ。
「何にしてもだ。お前ら全員を含めて計算し、戦う相手を間違えなければざっくりだが40%には持っていけると思う」
「なら早く計算しろよ。みんな待ってるだろ」
いんちょは俺を電卓だとでも思っているのだろうか。計算といっても単純な数字ではなくあらゆる角度から計算をしなければ答えは出ないというのに。数学でもそうだが計算を行うには初期条件が必要になる。それが無ければ俺も同様に計算はできない。
「ドット卍会の固有スキルとか武器、名前や容姿覚えてる奴はいるか」
「そんな能力を持っているんだったら情報収集は自分でするべきだと思うぜ、リットン」
ムゲの発言にいんちょと無形が必死に笑いを堪えているのが見える。実に不愉快だ。
二人を睨み付けていると丁度いんちょの寄りかかっていた扉が開け放たれ支えを無くしたいんちょは廊下へと転がっていく。
「よいちょー!」
「団長、待たせたな!」
想定よりもずいぶん早くよいちょ丸とゆうが帰ってきた。身に危険が迫った場合を除いて情報を得るまでは帰ってこないように普段から言いつけている。傷もないところを見ると無事情報を入手し帰ってきたのだろう。そして憎きいんちょを転がしたことを讃えてやらねばならない。
「おかえり、無事か? 何かわかったか? そしてよくやった」
「無事でござる! 分かったでござるよ! ドット卍会は北の『寝違い砦』に陣取っ
てるでござる!」
拠点は割れた。よいちょ丸に労いの言葉をかけつつ、視線でゆうの持つ情報の伝達を促す。
「メンバーは六人。頭領が丸蟲。ミニドラしゃんから預かっている情報に補足しておいたからこの紙読んでくれ」
【報告書 ドット卍会について】
丸蟲 圧倒的な強さを誇るギルドの当主。武器は長剣、固有スキル不明。全身を包帯で包んでいる。背丈は180センチ。
照玉 お淑やかな女性。武器はグローブ。固有スキルは空間操作の類。160センチ 追記:98―59―89(ゆう調べ)
本店総帥 兄弟で飲食チェーン店のユニホームのような服装をしており常にふざけた態度を取っている。二本のダガーを用いて戦う。支店総帥の双子の兄。固有スキルは得物への属性付与。全五属性付与可能。175センチ細身。
支店総帥 兄同様常にふざけている。兄と瓜二つであり見分けるにはネームプレートの支店か本店かでしか判別できない。武器は不明、属性魔法を得意とする。固有スキルは天候操作。175センチ細身。
ゴマ ゴスロリ衣装に身を包む少女。尋常ならざる大きさのハンマーを使用。固有スキルは目の合った者を服従させる瞳術。147センチ。
門番 剣を二本帯刀。スキル不明。身長168センチ。
「よいちょ、丸蟲と門番のスキルは分かんなかったか」
「はいでござる! 二人は無口であった故にようせいと声をあげてくれませぬでしたでござる!」
他の奴らはまさかスキルがばれるとも知らずに耀星杯とでも口走ったのであろう。実に有能なスキルだ。今日に至るまで、ようせいと口に出したのにスキルが分からなかったのは無形だけだ。恐らくピンポイントの例外を除いて全てのスキルを知ることができるはず。残りのスキルも知りたいところだが仕方がないだろう。無口の人にようせいと声を出させる事などそうやすやすと叶うまい。
それにしても短時間のわりにスキルや体格まで割り出せている。よいちょとミニドラは仕事が早くて助かるな。ゆうが追記したのは照玉のスリーサイズだけのようだが今は置いておこう。というよりどうやって調べたんだ。
さて、自軍の情報を纏めるとしようか。覚えている範囲の情報をドット卍会の情報の横に書き記していく。
[自軍戦力]
阿弥阿 最強戦力で最高にアホ。固有スキルは『瞬神』。日本刀を用いて抜刀術を扱う。
ムゲ アホの懐刀。忠誠を誓い這い寄る脅威を捻じ伏せる。武器は太刀、固有スキルは肌に触れた相手に対して陣営の全技を必中クリティカルにする『必愛』。
セリカ おねしゃ最長老。四十路を越えた女。若いだけの女にとてつもない敵意を向ける棍術の達人。固有スキルは年齢の差分のダメージが増加する『若者潰し(ヤングブレイカー)』
琥珀 クロムの妻。クロムといつも何時でも如何なる時もいちゃついている。武器はダガー。固有スキルは受けたダメージを蓄積させ倍にして跳ね返す『我慢』
クロム 琥珀の夫。イチャつきながらずーっと酒を飲んでいる。酔拳の使い手。固有スキルは液体をアルコールに変える『よいちくれ』
いんちょ 俺への言葉にのみ棘を感じる。武器は双剣。固有スキルは『感情操作』。
雪兎 今年加入したおねしゃの諜報員らしい。戦闘能力は皆無だが脱兎の如き逃げ足で煙に巻くことが出来る。固有スキルは無し。華奢な少年。
カズ とっても優しい。くよくよするが強い。武器は片手剣。固有スキルは味方陣営の基礎能力値に応じてボーナスを自身の能力値に上乗せする『底上げ』
無形 不明。めちゃ強い。
シンジ ギルドシンジ連合の頭。武器は忍具。固有スキルは対象者の固有スキルの複製、使用可能時間は五秒『コピー』
アワワ 馴れ合いをしない。武器は日本刀。固有スキルは泡に閉じ込める『泡泡』
リットン 俺。武器は双剣。固有スキルは勝率の計算『電卓』
ぬこ とても素直なぬこ。猫ではなく、ぬこ。戦闘能力皆無。耳が非常によく音のみで戦場を把握できる。スキル名は『聞き耳』
青髪 ギルド、レベルの主戦力。戦闘能力は俺と同じくらい。なぜか琥珀とめちゃくちゃ仲が悪い。昔惚れていたのに振られ続けたのが原因だとかなんだとか。武器はガトリング、固有スキルは表面積の操作『ちょっとだけよ』
よいちょ丸 リットン調査団の空撮部隊。情報伝達能力に長け、情報戦の鍵を握る。固有スキル『妖精さんに隠し事はできないでござるの巻』は「ようせい」と声を発した対象者のスキルを把握出来る。見た目はただのおっさんに羽が生えただけ。身長7センチ。
ミニドラ 本国次期国王。皇族なだけあってすんげえ金持ち。幾つか島持ってる。戦闘能力は殆どない。
イオ ろくでなしだが所属ギルドの主戦力。武器は脚。固有スキルは脚で触れたものの粘度を操作する『粘着』
ゆゆゆ リットン調査団の相談役。かつては無類の強さを誇ったが加齢により今は戦えない。かつて長剣を使用していたが現在武器は使えない。固有スキルは対象の固有スキルと自身の保有スキルを入れ替える『横取』現在保有しているスキルは対象者を操作、能力を底上げする『使役』
林檎 片手剣を使用する。スキルは不明
林檎と無形の情報が不足している。こんな状況だ、出し惜しみは無しにしよう。
「林檎のスキルが分かる人いるか? あれ?」
先ほどまで壁にもたれて真剣に話を聞いてくれていたのに姿が見当たらない。
「林檎さん行っちゃいました。勝てるとは思えないから他国へ亡命するそうです」
シンジが神妙な面持ちでそう伝える。この状況で亡命だと?
「重要な戦力だぞ! この中でトップ5の実力があるのに!」
「まあ、仕方ないだろ。もともとギルドに居るのが不思議なくらい群れを嫌うやつだった。どいつもこいつもお前みたいにムレムレしたいやつばっかじゃねえってことよ」
なんということだ。確実に主戦力となれる人間が欠けてしまった。勝率に多大な影響を与えるに違いない。
「あの、それと僕とアワワさんも行ってよろしいでしょうか」
シンジは賢い。そしてこいつは非常に仲間思いの優しい奴だ。この状況で亡命をするような人間ではない。何か理由があるに違いない。
「理由、聞いてもいいか」
了承したのだろう、無言で歩み寄り耳打ちを受ける。
「……そこまで言うなら仕方ない。各々の役割が有るからな。強制は出来ない」
「ありがとうございます。…すみません」
主力の脱退に意気消沈する面々。このままでは士気に関わるため補足説明を行う。
「あいつらにはドット卍会の一味が各地に散らばってないか探索、必要に応じて撃破を依頼しておいた。俺達がドット卍会本丸を叩く時に戦力が更に集結する可能性も大いにある。芽を摘む為に遊撃隊として送り出した。故に決戦時には戦力としては数えない。大事なのは残っている戦力でどう戦うかだ。違うか? わかったら無形、スキルとか教えて」
「ぬ?分かっているとばかり思っていたが団長殿はもしや気付いていないのかの?」
お前のギルドメンバーですら知らないことを俺が知るはずないだろう。わかってない。だから聞いている。というか多分誰も知らない。
「我の武器は空間、固有スキルは『次元操作』」
「んー。よくわかんなーい」
阿弥阿は何を言っても頓珍漢なのでスルーがセオリーだが今回は同意だ。意味が分からない。
「うむ。詰まるところ、空間を物質と捉え任意の質量やエネルギーを付与できる。高次元からエネルギーを抽出しておるからの。その空間を投げつけたり引き千切って攻撃をしておる」
「……それ、人の域でてないか? 四次元以上の高次元認知出来るってことだろ?」
「うむ。人外などと団長殿には言われておったがあながち間違いではないのかもしれないの。くっくっく」
どおりで強いわけだ。常人では理解すらできない。だがこれで情報はある程度揃った。全ての情報を用いて計算しよう。相応の時間を要するため、その間に拠点をどこにするか決めておいてもらうのが効率的だ。
「ミニドラ! 拠点貸してくれ。いんちょは話進めとけ」
「命令すんな。だからお前はリットン止まりなんだよ」
人の名前を悪口のように使いやがって。毎度なんかムカつくが流すことにする。勝率が僅かでも上がる組み合わせ、場所を考え計算しなければならない。なんだかんだ言いながらも話は進み、拠点が決まったようだ。国土最南端の捻挫島南部海岸をひとまずの拠点とするため移動を開始する。この計算は中々骨が折れるが途中式の段階では希望が無いこともなさそうだ。