美しき黒い笑顔
エマが魔王にさらわれて一週間経ったころ。エマが魔王に連れさらわれたときに王妃の次女のキャサリンもその場にいた。
「魔王ってかなり格好良かったわ。魔王と結婚するってことはこの国と魔界が友好国になるってことじゃないかしら?それなら私が魔王と結婚してあげてもよかったのに!」
「キャサリンったら。魔族なんて危険なやつらのところに嫁ぐなんてお母様は許しませんよ」
「私の美貌で魔王の言うことを聞かせれば大丈夫ですわ、お母様。あんなに顔のいい男だって知っていれば先に言っておいて欲しかったわ。魔王だってエマお姉様より絶対私の方を好きになるわ」
「まあ顔は良かったですわね。それにキャサリンの魅力で魔界も私達のものにできるかも…?」
「ガブリエラお姉様は女王になるからお婿さんに来てくれる人じゃないとダメですから魔王はあげませんよ。ガブリエラお姉様は結婚相手決まりましたの?」
「うるさいわね。引く手数多でなかなか決まらないだけよ。王配になる者を決めるのですからあなたみたいに顔だけで決められないのよ。顔も頭もいい男性を選ぶだけよ。なんなら何人か夫を選んで国ために働いてもらおうかしら」
そんな会話を聞いていた近くの騎士達は聞こえないようにヒソヒソと会話していた。
「王妃も王女達もブサイクではないけれど自己評価高すぎだよな。可もなく不可もなくってところだろう」
「顔だけで選ぶならエマ様だよな〜喋らないし無表情だったとは言え美人だったしな」
「でもエマ様をちょっとでも褒めたり庇ったりしたらすぐにクビだからな。この国の王族はまともな人がいないよな」
「この国大丈夫なんかね」
王妃達がギャアギャア喚いていたその時、城の東側の窓ガラスが全てバリンと勢いよく割れた。
「何事です?!」
窓の外を見ると空にたくさんの魔族や魔獣、そして中央には魔王ルドルフと魔獣に乗ったエマがいた。
「エマ?!あなたなぜ魔王とここに?!」
「あら王妃様ごきげんよう。私、ちょーっと忘れ物をしまして。さあ皆、好きなように暴れてちょうだい」
「「はいエマ様!」」
魔族と魔物はエマに従い、人間達を襲い始めた。
「殺さない程度にお願いしますよ。ただ乗っ取りに来ただけなんですから」
「エマ!これはどう言うことです!あなたが嫁に行けば侵略しないと約束したでしょう!それに何故あなたに魔族が従っているの!」
王妃は顔を真っ赤にして抗議した。王様も異変に気付きノコノコやってきて現状を把握して泡を吹いてぶっ倒れた。軟弱な王様だ。
「魔族が従っているのは私のことを認めてくれたからですよ。あと侵略しないなんて誓約書、魔王は書いてませんからね」
エマは黒い笑顔で王妃をにっこりと見つめた。そしてあっという間に城は制圧された。
「さて、この国は魔界が治めることになります。今まで重い税を課したり横領したりと散々なことをしていましたよね。ここ数年こっそり調べていましたから言い逃れできませんよ。悪いことをしていた者は裁いて国民の住み良い国へと作り変えましょう。真面目な働きをしていた者はそのまま城で働いてくださって構いません。こちら側も歓迎します」
今まで笑わず喋らないエマしか知らない者たちは皆、ポカーンとしていた。
「まさかエマが父上を認めさせるとは思わなかったよな」
「お義父様になる方にご挨拶の際、認めてもらうためにお手合わせしないなんて失礼でしょう?」
「エマ様、普通のご令嬢はそんなことしないと思いますよ…」
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エマは魔界に着いて会議が終わって早々、先代魔王のルドルフの父に挨拶をしに行った。
「そなたがルドルフの言っていた人間か。こんなヒョロヒョロした娘に負けていたとか本当か?ルドルフが加減していただけじゃないのか?」
先代魔王は最近息子に負けたため魔王の座を譲ったばかりで、美しく細身の人間の女にそんな力があるとは思わなかった。
「先代様、お会いできて光栄です。私がお義父様と呼ぶのに相応しいかどうか、私とお手合わせしていただけませんか」
「エマ?!この前やっと勝てたとは言え父上は本当に強いぞ?!」
「ハッハッハ!良かろう。ルドルフの嫁になる女性だ。手加減してやろう」
「まあ心遣いありがとうございます」
手加減という言葉を聞いたエマのピリピリした瞳をルドルフとベイリーが見てこりゃやべーぞ、と冷や汗をかいた。
エマと先代魔王の戦いは闘技場で二時間に及んだ。ルドルフもこの七年相当鍛えたが、エマも並大抵ではないであろう努力をしたのがうかがい知れる。
途中から先代魔王とルドルフの婚約者が戦っていると話を聞きつけた魔族達が闘技場に集まり始め、大いに盛り上がった。相手は人間の細身の女性だと分かったら観戦していた魔族達はエマを応援し出した。中にはエマが勝つか先代魔王が勝つかと賭け事をし始める者も出てきたほどだ。先代魔王と人間の女性が互角に戦っているため、魔族達はお祭り騒ぎになった。
三時間に突入するかと言うところで先代魔王妃が割って入り、
「もう夕食の時間ですわよ〜。その前に湯浴みとお着替えね〜」
と、エマを勝手に連れて行ってしまった。さすが先代魔王妃、先代魔王を尻に敷いていただけある。多分先代魔王妃は着せ替え人形としてエマで遊ぼうとしている目だった。先代魔王はすっかりエマを気に入り毎日手合わせを願いたいと言っていたのでルドルフは独占欲丸出しで拒否していた。
湯浴みと長い着替えの時間を終えてさらに美しくなったがぐったりしていたエマとは逆に、先代魔王妃はとてもイキイキツヤツヤしていた。夕食時、エマの母国を乗っ取る話をしたら先代魔王も先代魔王妃もノリノリで話に乗ってくれた。魔族達もエマの戦いを見てエマを気に入ってくれたようで一緒に参戦してくれることになった。