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お別れはプロポーズと共に

 楽しかった時間の後、部屋に戻ると王妃のいじめが待っている。


「いつも勝手にどこに行っているのかしら?あぁ、目障りな妾の子。笑いもしない喋りもしない。見ているだけで腹が立つわ。さっさとよその国にでも嫁がせてしまいたいわ。それぐらいしか役に立てないのよあなたは」


 いつもの嫌味から始まった。服で隠れて見えないところを殴られることもある。体は強靭とは言えスキルも使わず無抵抗でいるためアザができることもあるが、ルドルフとベイリーにも見せたことはない。見せたらきっと二人は王妃に殴りかかって行ってしまうだろうから。


「エマお姉様はお美しいですからどんな方でも喜んで結婚してくれますわよ!おすすめは西の国の王弟とかいかがです?」


 王妃の長女である妹のガブリエラがクスクス笑いながら話に加わってきた。西の国の王弟は容姿も性格も誰からも嫌われていると言われている。


「ガブリエラお姉様が女王になるんですよね?私もどこかに嫁がなければいけないんですよね?私にはどこかの素敵な王子様と結婚させてくださいお母様!」

「キャサリンにはとびきり素敵な王子様を探して来てあげますからね。あなた達は可愛いからすぐに見つかりますわよ」


 目を潤ませながら母親を上目遣いで見つめる次女のキャサリンも加わり仲良しごっこを見せつけられる。母が亡くなったエマへの当てつけもあるのだろう。


 殴られたり嫌味をひと通り受けてから三人は部屋から出て行った。その後、質素な夕食が運ばれてきて食べ終えると自分で軽く水浴びをして眠りについた。


──やっと今日も終わったわ。明日もルドルフ達に会えるから私は大丈夫──





 翌朝、部屋の外が騒がしかった。何かあったのかと扉の向こうから聞こえる話し声にエマは耳を傾けた。


「城の近くの森だそうだ」

「侵略しに来たのかしら」

「子犬を連れていたそうだがどうやら魔獣らしい」

「魔族もまだ子供と聞いた」

「でも二人なんでしょう?」

「森は広いから探し出せるのか」

「殺される前に殺しておかなければ」


 エマは全身の血の気が引くのがわかった。ルドルフ達が見つかってしまったのだ。早く知らせに行かなければ。


 エマは人目を避けるようにマントをかぶり、秘密の場所に辿り着いた。しかしルドルフ達は来ていなかった。


「なんでこんな時にいないのよ」


 すぐそばの草むらからガサッと物音がした。


「ルドルフ?!」


「クゥーン」


 ペロだった。しかしルドルフとベイリーの姿はない。


「ペロ、ご主人様達はどうしたの?今とても大変な事になっているの。早く知らせないと」


 ペロはエマをぐいぐい引っ張りルドルフ達のところへ連れて行ってくれた。しかしもう人間に見つかって捕えられてしまっていた。


「やはり魔族とは言えまだ子供。油断していたな」

「しかしたった二人だというのにかなりの戦力を奪われました」

「早く殺してしまわないと危険だな」


 ルドルフとベイリーは意識はあるものの、傷だらけで縄で縛られだいぶ弱っていた。油断しているところにたくさんの兵にやられてしまったのだろう。


「早く助けないと。でもどうやって…」


 エマはルドルフ達の後ろに大きな木があるのに気がつき、見つからないよう近くの木の上に登り後ろの木に飛び移ることにした。


「ここからなら…今ならスキルのコントロールもだいぶ出来るようになったからきっといける!」


 エマはマントで顔を隠し、木の上から飛び降りつつ拳を力一杯地面に叩きつけた。すると地面は爆発したかのように辺りを吹っ飛ばした。周りにいた兵は皆、ものすごい衝撃に気を失った。コントロールが上手くいったためルドルフとベイリーは吹っ飛ばされずに済んだ。


「私よ、早く逃げて!」

「エマ?!やっぱりお前はすごいな…」

「兄上!そんなこと言っている場合じゃないです!」


 気絶した兵がまだ動けはしないが少しずつ意識を取り戻していた。


「もう一人魔族がいたんだ!捕まえろ!」


 魔族と思わせるようマントをかぶっていたエマは、ルドルフとベイリーにかけられた縄を解き逃げるように促した。


「私はあっちに逃げるからあなた達は向こうへ逃げて。これで会うのは最後です。今まで楽しかったわ。ありがとう」

「嫌だ!また明日からも来る!エマに会えないなんて嫌だ!」

「兄上!人間と争う気ですか!」


 ぐっと苦しい顔をしたルドルフにエマは笑顔で泣きながら言った。


「なら私が十六歳になったらあなたは魔王になって私を迎えに来てください。結婚出来る歳です。そのときに私をお嫁さんにしてください」

「エマ…」

「…エマ様、兄上を必ず魔王にして戻って来させます。それまでお元気で」

「ベイリー、ありがとう。楽しかったわ。またね。ペロもまた遊びましょう」

「クゥーン…」

「…エマ、必ず魔王になってエマを守れるようになって迎えに来るから待っててくれ」

「ではそのときはついでにこの国を乗っ取っちゃいましょうか」

「エマと一緒ならなら出来そうだな」

「じゃあやっぱり乗っ取ってから結婚しましょ」

「エマ?!」


 三人で笑い合いお別れとなった。




 エマとルドルフ達は二手に分かれ兵を撒いた。エマはマントを脱ぎ、騒ぎに乗じ見つからないように部屋に戻ると一人泣き崩れた。誰にも聞かれないよう、誰にも見られないよう。


 しばらく泣いた後、扉の向こう側の声を聞いた限りルドルフ達はどうやら逃げ出せれたようだ。


 エマは楽しかった記憶を思い出し、上を向いてつぶやいた。


「…大丈夫、待っていられるわ」

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