友情は拳から
「ではお友達になりましたのでまずは軽く戦ってみましょうか」
「エマ様、なぜ早速戦う前提です?!」
次の日から三人はこっそり会う仲になった。エマは初めてのお友達にウキウキした様子だったためツッコミ担当のベイリーもそれ以上言えなくなった。
城の敷地からすぐ近くの森にエマの秘密の場所があった。周りの木にはたくさんの傷が付いていたり倒れていたりしたのできっとここでスキルの練習を一人で隠れてやっていたのだろうと二人は察した。
「戦ってエマに勝つことが出来れば結婚してくれるのか?!」
「まあ考えてあげなくもないですが。私は強いですよ。ところで話は変わりますがさっきからずっと気になっていたのですがその可愛いワンちゃんは…?」
「クゥーン」
ルドルフとベイリーの間に子犬がちょこんと座っているのが気になって仕方がなかった。
「俺達が秘密で飼っている狼の魔獣のペロだ!珍しいんだぞ。まだ小さいが大きくなったらすごくかっこいいんだ。魔界の者たちには大きくなったときに見せて驚かせるんだ!」
「へー、ペロ…」
エマは名付けにもっと他に無かったのかと思いつつチラリとベイリーを見た。
「名付けは兄上ですよ」
「なるほど」
ベイリーは名付けが自分ではないことを否定したかったのであろう、首を横に強くブンブン振っていた。
ネーミングセンスはいまいちだがペロはエマにもすぐ懐いた。ベイリーいわく魔獣は自分より強い相手にしか懐かないそうなので認められたということだろう。
それからエマとルドルフは戦うことになった。案の定エマは強かった。全然勝てなかった。人間でもスキル持ちは強いのだろうか。
「特別強いのは私ぐらいだと思いますよ。そもそもスキル持ちはほとんど居ませんし。他の人のスキルは走るのが速くなるとか高く跳べるとか。歌が上手くなるとか遠くまで良く見えるようになるとかも聞いたことがあります。強くなるスキルはあまり聞いたことがありません。珍しいので亡くなった母に秘密にしておくように言われています」
「なんでそれを俺たちに教えてくれたんだ?」
「あなたたちは魔族ですので他の人間に関わらないでしょう?それにお友達にならいいかな、と」
またとびっきりの笑顔でエマが答えたため、ルドルフはボコボコの顔を真っ赤にさせた。
「兄上はマゾなのか…?」
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毎日のようにこっそり会う日が一ヶ月ほど過ぎようとしたころにはルドルフもエマと同等の戦いができるようになってきた。
「だいぶ強くなってきましたね。やはり魔族は強いのですね。追い抜かされないよう頑張らなければならないです」
「並大抵の人間ならエマには勝てないだろうからこれ以上頑張らないでもいいだろう…それに頑張られると結婚が遠のく!」
「結婚はできませんってば」
二人のじゃれあいを見ながらベイリーはふと疑問に思ったことをエマに尋ねた。
「エマ様はそれほどお強いのですから人間を殴り倒して逃げ出せばいいのではないですか?」
エマは少し考え込み答えた。
「私は所詮まだ子供です。スキルがあっても多勢に無勢。たくさんの兵に一人で立ち向かうのは難しいでしょうね。歯向かったら最悪王妃に殺されてしまうかもしれません。逃げ出せたとしても子供一人で生きていくのは難しいでしょう。出来ることなら王も王妃もその娘達も皆殴り倒してこの国を私のものにしてやりたいですよ」
真っ黒な笑顔のエマを見てさらに顔を赤くしている兄にベイリーはドン引きしていた。
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半年もした頃についにルドルフがエマに一本取ることができた。
「やっ…たー!やっと勝てた!エマ!これで結婚してくれるよな!」
「たった一度勝っただけで結婚はダメですよ」
しかしエマはこのまま続けていたらきっと勝てなくなるだろうと気付いていた。ルドルフは強い。でも自分に勝てたとしても結局のところ結婚は出来ないのだ。エマは何故だか胸がギュッとした。しょんぼりしていたルドルフにペロが擦り寄って慰めていた。
「そろそろじかんですね。また明日会いましょう」
「明日からもまた勝って絶対OKもらうんだ!」
「はいはい、頑張ってくださいね。それでは」
「またな!」
「エマ様、また明日」
「キャウン!」