お友達からなら
七年前、まだ子供だったルドルフは人間界にこっそりベイリーと遊びに来ていた。
「兄上、こっちに来てるのがバレたら父上に殺されますよ」
「大丈夫だ、ちょっとの時間だからさ」
人間界と魔界は基本的に干渉しないようにしていた。魔界側が強すぎるため、人間が簡単に絶滅するだろうと魔王が配慮する程度には悪さを特にしていなかった。しかし人間は強すぎる魔界の者たちに怯えていたため、『魔界=悪』と認識していた。なので魔界の者は何もしていないのに悪者扱いされないために極力人間と関わらないように、と魔王からルールが決められていた。
「あっちのほう行ってみようぜ。あれって城だろ?人間が見れるかもしれないぞ」
「兄上〜」
二人は城の敷地内の庭園の隅にこっそり入り込んだ。遠くのほうに侍女や騎士が仕事をしているのか、歩いているのが見えた。初めて見る人間に二人は「わぁっ」と感動した。
「本物の人間だ!本当に魔界で聞いていたとおりみんな弱っちく見えるな!羽も生えてないし角もないぞ!」
「だから魔界の者は人間界に行かないように言われてるんでしょう?もう見たんだからバレる前に早く魔界に帰りましょうよ兄上」
「ちょっとぐらい平気だって。本当に弱いのかつついてみようぜ!」
「ダメですって兄上!」
ギャーギャー騒いでいると庭園から小さな影がガサッと出てきた。まだ幼くはあるが見たことないぐらいの美少女が顔を出した。
「え…あ…お前誰だ…」
あまりの美しさにルドルフはたじろぎ、手を伸ばそうとした。
「兄上人間に触れてはダメです!」
と、ベイリーが言ったのも束の間、ルドルフの顔面に強烈なパンチが飛んできた。
「ブフォォォォォォ!!!」
「兄上ーーーー!!!」
ルドルフはほんの数秒だが意識を失ったが、すぐ取り戻した。
「はっ!今一体何が……って顔面が痛えぇぇぇぇ!」
「勝手に淑女に触れようとしたからですよ。それに見る限りあなた、魔界の方ですよね?攻撃を仕掛けられるかと思っての正当防衛ですよ」
「人間って弱いんじゃなかったのか…?実は人間って強いのか?」
兄を抱きしめて泣きながら「兄上の顔が変わってしまったー!」と叫んでいるベイリーを気にもせずルドルフは美少女を見つめていた。
「人間界にはたまに〈スキル持ち〉がいるんですよ。私も持っていまして《熊殺しのぶっ殺パンチ》という全く可愛くもないスキルを授かってしまったのです。最強の拳と簡単にはやられない強い肉体になるのです。普段秘密にしてなるべく使わないようにしてますので加減が難しいのです」
エマは手を頬に当て、ふぅっとため息をついた。
「でも魔族の方はやはり頑丈ですのね。私の拳を受けてもその程度で済むなんて。とても素晴らしいですね」
エマのとびっきりの笑顔にルドルフは心を射抜かれてしまった。
「お、お前!俺と結婚しないか!俺は魔王の息子だぞ!それだけ強いなら魔界でも生きていけるぞ!」
ルドルフの突然のプロポーズにベイリーは「兄上が殴られておかしくなった!」と叫んでいた。エマは目をぱちくりとさせ微笑みながら答えた。
「私より弱いのに何を言ってるのかしら?私は守ってくれる殿方と結婚したいです。まあ私は自分で相手を選べれませんから。あなたともきっと結婚できません」
「何故だ!」
「私、妾の子ですが王女です。王妃に憎まれ虐められているのでどこかの国のものすごく年の離れた王様か王子様の第二か第三ぐらいの側室に政治の道具として無理矢理でもされるんじゃないですかね。どうなるかは知りませんが」
冷めた目をした美少女はもうどうにもならないだろうと子供ながらに受け入れているようだった。
「なら俺が強くなったらお前をさらいに来るから!それまで待っててくれないか!」
「私の気持ちを無視して勝手に結婚できると思わないでください。でもまずはお友達から、なら別にいいですが」
「あぁ!じゃあ友達から!俺はルドルフ。こっちは弟のベイリー。お前は?」
「私はエマ、十歳です。初めてのお友達ですね。よろしくお願いします」
こうして三人は友達になった。一応。