始まりは姫君の拳
初めての作品ですがよろしくお願いします
「我が名はルドルフ、魔王である。この国の第一王女を我が妻とするので差し出せ。でなければこの国を滅ぼそう!」
某国で近年魔物が頻繁に現れるようになった。そしてついに魔族と魔物を統べる魔王がこの国の姫君を要求してきたのだ。
「…姫を差し出せばこの国は滅ぼさないでくれるのか」
国王は国のために自分の娘を魔王に差し出すことを決めた。近くの兵に第一王女を呼ぶように命令した。
「第一王女のエマと申します。この国のためにあなた様との婚姻を了承いたします」
「ふむ、美しいな。では早速我が魔王城に来てもらおう。今日からたっぷり可愛がってやろう」
「あの、この国を滅ぼさないという誓約書か何かは…」
「フン、そんなめんどくさいことを。口頭で充分ではないか。では姫はいただいてゆこう。では」
魔王はエマを抱えて漆黒の翼で羽ばたき消えて行った。そして残された国の王妃が小声で呟いた。
「あの妾の娘がこうも簡単に居なくなってくれるなんて…わたくしはなんて幸運なのかしら!笑いも喋りもほとんどしない気味の悪い子だったからせいせいするわ」
エマは国王の妾の子だった。王妃がなかなか子供を授からず、王妃より先に子を産んだ妾とその子供のエマをとても憎んでいた。一年後王妃が産んだ子もその二年後に産んだ子も娘だったため、王子が産めない王妃は先に産まれたエマが女王になる可能性があるためエマもエマの母も虐め抜いた。
エマはとても美しい子で小さいながらも皆が見惚れるほどだったため、王妃はエマに見惚れたり優しくする者は皆解雇すると言い、それから城で働く者は誰しもがエマを腫れ物扱いしていた。
エマの母は体が弱かったので、エマが四歳のときに亡くなった。それからエマが十七歳になった今日まで成長した自分の娘達と共にエマのことをずっと虐めていたのだ。
ただ妾の子とは言え第一王女なのでエマが女王になるか、第二王女が女王になるかで、エマを担ぎ上げ得しようとする貴族と揉めていたのだ。
そんな中エマが魔王に連れて行かれてしまったため、王妃は自分の望み通りになるのだ。
国王は国王で自分が一番大事でエマにあまり関心もなく、気の強い王妃にも関わらないようにしていたため、自分が居なくなった後に誰が女王になったとしても関心がなかった。なのでエマを魔王に差し出したのも罪悪感などなかった。
この国にはエマが居なくなって損をするため落胆する者はいたが、悲しむ者はいなかったのだ。
*********
ルドルフとエマは魔王城に到着した。そしてルドルフは寝室に入りベッドにエマを横たえた。
「さあエマ、早速可愛がってや…」
ホゴオォォォォ!
「ヴブオォォォォォォォ!」
ルドルフの左頬に異常なまでに強烈なパンチが飛んできて壁まで飛んでいってしまった。
エマの仕業である。
「ア…ア…ウワァ…」
「ルドルフ、調子に乗らないでくださいね?予定より一年遅かったじゃないですか」
「ご、ごめんなさい…」
黒い微笑みの美少女にルドルフは涙目で顔を真っ赤にして謝罪した。
「ハァ、ベイリーも呼んでください。やっとこの日を迎えたんですから会議を開きましょう」
「う、うん。ちょっと待って」
ルドルフが部屋から出るところ、エマは一声掛けた。
「遅かったとは言え久々に会えて嬉しいわ。迎えに来てくれてありがとう。格好良くなったわね」
「…うん!」
ものすごい笑顔で部屋を出て行ったルドルフを見てエマはクスッと笑った。
「ほーんと、ずっと変わらず可愛いわね」
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「お久しぶりですね、エマ様。さらにお美しくなられて」
「ベイリー、久しぶりね。あら、ペロも大きくなったわね!」
「ガウッ」
ベイリーはルドルフの弟で魔王のルドルフの補佐をしている。メガネの美青年だ。ペロはルドルフとベイリーのペットの狼型の魔獣だ。
「十六歳になったら迎えに来るって約束したのに何故遅れたの?一年も余分に王妃に虐められたのよ?」
エマはペロとじゃれあいながらルドルフを睨んで頬を膨らませた。
「済まない、父上を倒すのに手間取って」
「エマ様、父は五百歳をこえておりますがまだまだ最強でして。兄上はずっと父に挑み続けておりましたがやっと最近、父に勝つことが出来ました。父もついに兄上を認めて魔王の座を譲ることにしたのです。遅くなって申し訳ありません」
「魔王を簡単には倒せないものね。でも弱かったルドルフがやっと魔王になれたのね」
「へへ…これでエマも認めてくれるよな?!」
ルドルフはエマにずいっと顔を近づけた。すかさずエマはまた強烈な一撃を喰らわした。
「オブウゥゥゥゥ!エマもっと優しくしてくれよ!」
「調子に乗らないでって言ったでしょ?結婚はあの国を乗っ取ってからだって約束したでしょ?私のスキル《熊殺しのぶっ殺パンチ》で全員殴りたいんだからね」
「はぁ〜い」
結婚はしてくれると言ってくれたエマに顔を赤くしてニヤニヤしているルドルフを見てベイリーは呟いた。
「ウワ…相変わらずキモ…」