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4話

翌日。蒼空ソラとはあの後夕飯まで顔をあわせなかった。こっちもどこか恥ずかしくなってしまって、夕飯の時も蒼空の顔を見ることも出来なかった。それでそのまま今日に至る。現在、朝食時。母さんと蒼空と3人で食卓を囲む。トーストとハムエッグ。前から嫌って言うほど食べてきたメニューだけど、母さんが作ってくれたからおいしく感じる。今日は僕のクラス編成が発表される日だ。昨日出会った女子生徒、朝倉さんとは同じクラスになれるだろうか?少しだけそれを望んでいる僕がいた。

 蒼空と一緒に家を出て、学校へ向かう。他愛ない話、とかができるといいのだろうが、口下手な僕と、不必要なことはあまり言わない蒼空とはそう会話が出来ない。まあ、僕としては黙っているのは嫌いじゃないからいいのだが。


「なあ」


なんてことを思っていたら、蒼空が話しかけてきた。体の前で両手で持った鞄が大きく見える。それだけ蒼空が小さいってことか。


「昨日のは、どういう意味だ?」


昨日の? なんのことか、わからない。


「別に、礼を言われるようなことはしていない。なのに・・・」


「意味なんてないよ」


今のところは思いつかない。でも、言っておきたかったから。伝えないと、感謝の気持ちはきっと伝わらないと思ったから。


「そう思ったから、なんとな~くさ。ここにいないと、大切なこと、きっとわからなかったから。だから、ありがとう。この言葉ってさ、言われるほうもだけど、言うほうも気もちいよな、ってさ。気づかせてくれたから。そう考えると、意味がないってわけじゃないのかな。ははっ」


こんなに多く喋ることなんて滅多にないので、恥ずかしくなってしまって。思わず照れ笑い。自分でも何を言いたいかわからない。


「・・・ありがとう、か」


ボソッと呟いた蒼空の表情には、どこか憂いが漂っていて。そういう状況をなんとかするスキルは僕にはないので、黙っていることしか出来なかった。

 校門前までやってきた。すごい人だ。特に、昇降口付近に人が多い。昨日の1年生みたいにクラス分け表が貼ってあるんだろう。


「じゃ、僕上だから」


階段の前まで来て別れようとすると、急に腕を掴まれた。っていうか抱きつかれた。


「ちょ、何?」


蒼空は目の前を指差している。その方向に目を向けると、昨日校舎内を案内した女生徒、朝倉アサクラ 美咲ミサキさんがいた。横に、うちの制服を着た女の子。蒼空と同じぐらいの身長だろうか。朝倉さんは、こっちに気づいたみたいで、手を上げながら近寄ってきた。


「やっほー、にっしー。そちらは妹さんかな?」


にっしーって・・・


「西園寺とかめんどくさいじゃん? 謎の怪獣っぽくてかっこいいよ」


ネッシー的な感じなんだろうか。というか心の声読まれた?


「たしか・・・そらちゃんだったよね。この子が迷惑掛けると思うけど、よろしくね」


朝倉さんに押し出されるようにして前に出てきた女の子。恥ずかしそうに、俯いていた。


「朝倉さん、その子は?」


「あたしの妹。ほらハナ。自己紹介」


花と呼ばれた子は、何度か口を開こうとするも、すべて失敗に終わってしまう。そしてまた朝倉さんの後ろに隠れようとする。それを抑える朝倉さん。に対抗している花と呼ばれた子。それを眺める僕ら。

 不毛な時間だ・・・と思っていたところ、朝倉さんは諦めたみたいで、はあ、とため息を一つついた後、


「あ~、人見知りなんだこの子。いろいろとお願いします」


妹さんと一緒に頭を下げた。もちろん、こちらとしてもそれは願ってもないことで。


「こちらこそ。よろしくお願いします。って、蒼空?」


頭を下げた僕の腕に抱きついたまま、朝倉さんと妹さんを睨みつけていた。


「あんまり、歓迎されてない・・・かな?」


朝倉さんは気まずそうに苦笑していた。


「・・・うう・・・」


妹さんは今にも泣き出しそうだったけど。


「私たち、行くから・・・じゃね~」


二人は先に校舎の方へ消えていった。


「どうしたの? っていうか腕痛い・・・」


なんかデジャヴ。

 蒼空は二人が消えていったほうをずっと見つめていた。


「あの二人・・・どっちも同じ」


「同じって何が?」


「私と同じ。いるはずのない、イレギュラー」


「え・・・?」


言われてみれば、わからなくもない、のかな。というか元の世界で見たこともあったこともないし。


「だから、気をつけたほうがいい。いつ寝首を掻かれるかわからない」


「そんなこと・・・」


ないんじゃないか。でも蒼空の顔は真剣そのもので。


「普通の人間は、私たちと同じことは出来ない。なのにここにいる。何か目的があるはず。なんでこの『軸』を選んだのか? それは私たちしか有り得ないと思う。油断は禁物。かならずどこかに歪がある」


「よくわからないけど、疑え・・・ってことなのか? でもそれは悪い気がするなあ」


「相手は悪気なんてない。機会が来ればあっという間にこっちに手を出してくる。そのときに何も備えをしていなければ、終わり」


「やだよ、ここにきて、人を信じるってことが少しだけど、分かるようになったんだ。なのに」


気づかせてくれたあの人を、疑えなんて。

 そんなことは、出来そうにない。


「朝倉さんは疑えない。妹さんだって、どこどう見たって悪い人には見えないだろ? 何より、今は人を疑いたくない。信じたい」


「甘い。そんなんだと、また前みたいになる。裏切られてからじゃ遅いのに」


「裏切られない。裏切らないよ、あの二人は! そんなことにはならない」


「わからないわね。あなたのことを心配してるのよ、私は」


「それはありがとう。でも今はいいよ。もうすぐホームルーム始まるから、先行くね」


強引に話を終わらせて、階段を昇り始める。中ほどで後ろを振り返ると、まだ蒼空が僕を見つめていた。

 なんだかムシャクシャする。なんで僕は怒っているんだろう。別に僕が何かいわれたわけじゃないのに。そういえば。最近、まともに感情を出したことはなかった。前の、誰もいなかった世界で蒼空に痛いところを疲れたときぐらいか。怒ることにすらブランクがある。前の僕はどれだけ人間として空っぽだったんだろう。今の僕は、どうなんだろう。少しは人間らしさを取り戻せたんだろうか?




少女は、世界の意思に感謝した。記憶の奥隅に、ずっと大切にしまっていた幼少の頃の記憶。周りの人間がみんな何か得体の知れないものにばかり思えて、とても触れ合おうとは思わなかった。親ですらまともに話も出来ずに、いつも「臆病だなあ」と笑われていた。そんな少女の味方は世界で一人の妹だけだった。妹は誰ともうまく付き合った。普通は自分が妹を引っ張らなければいけないのだろうが、この姉妹においては逆だった。いつも妹は笑っていた。そんな妹と一緒にいる人も笑っていた。それが少女が行くと、苦笑いに変わるのだ。それが少女は耐えられなかった。自分はいらないと、なんでここにいるかと。そんな時に、一人の少年と出会った。少年も、少女と同じぐらい根暗でいいところのない少年だった。でも、その少年との出会いは、少女を確実に変えた。ほんの1時間も一緒にはいなかったかもしれないが、そのわずかな時間に彼女がもらったものは非常に多くのものだった。それから間もなく少女は遠くの土地へと引っ越した。もう会えないと思っていた。

 会えたのは、幸運以外の何物でもなかった。それも、規格外の方法で。だから、彼女はこの機会を逃したくない。昔からテレビで聞いてきたフレーズだが、彼女は絶対に信じない。


初恋は実らない、なんて絶対に---




少女は、世界の意思に感謝した。少女は姉が大好きだった。大好きな姉が辛そうな顔をしているのを、どうにも出来ずに眺めていた。ある日、姉が珍しく外から帰ってくると、姉が無邪気な笑顔を向けてくれた。それ以来、姉は人が代わったように明るくなった。何かあったのだろう。でもそれが何かわからなかった。

 

「私、好きな人いるんだ~」


そんなことを姉が言ったのはいつごろだったか。名前は知らない、どこに住んでいるかも知らない。それは、好きと言えるんだろうか? 少女は恋などしたことなかったので分からなかったが。姉の、話をするときの恥ずかしそうだけど嬉しそうな顔を見て、嘘はついていないんだな、と思った。

 昨日、久しぶりに姉の見せた表情を見て、「ああ、よかった」と思った。ビンゴだった、と。

 きっと姉はこれから楽しい毎日を送っていくのだろう。いろいろ苦労はするかもしれないが。自分自身は不安がたくさんあった。射すくめられるような視線を感じた。クラスの誰とも話はしなかったけど、その視線を向けてきた少女の名前だけは覚えた。苦労するのは私だけだったらいい。だけど、姉に何かあったら絶対に許さない。


私の望みはただ一つ。姉の望みが叶うことだけ。趣味で読む小説にはよくこんなことが書かれていたが、彼女は嘘だと信じて疑わない。


初恋は実らない、など---









蒼空のキャラが安定しない。わかってるよ、わかってるんだけど・・・

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