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3話

朝倉さんと別れ、家に帰る。お母さんは今頃学校にいるだろうか。校舎内を案内するといっても、それほど大きくない。さほど時間を掛けずに校舎内を案内することが出来た。幸い校舎内は僕の知っているままだった。


「君ってさ、優しいね」


別れ際、彼女---朝倉さんが言った一言。僕が優しい、か。ただの気まぐれだったんだけど。


「ありがとう」


僕に、大切なことを思い出させてくれて。


「へ、何が? 感謝するの私だよ?」


「別に。ただ言いたかっただけ」


そう。言いたいから、伝えたいから人は感謝の言葉を口にする。そこに難しい感情は必要なくて。シンプルな気持ちでいればいいんだ。


「ふ~ん。ま、いいや。そういえば、君の名前はなんていうの? まだ聞いてなかったよね」


そうだったっけ? ああ、馴れ馴れしすぎてこっちも既に自己紹介を済ましたつもりでいたよ。


「僕、西園寺サイオンジ 一人カズト。よろしく、朝倉アサクラ 美咲ミサキさん」


「うんっ。同じクラスになれればいいね、明日のクラス編成」


「そうだね」


素直にそう思える。彼女の明るさに、僕はどこか救われた気がしていた。でも、いっしょにいればもっといろんなことがわかる気がする。

 

「じゃあね、西園寺くん!!」


駆けて行く彼女の後姿を眺めて、心配になったことがあった。


パンツ、見えそうだよ---




鍵が掛かっていたので鞄の中に入っている鍵を取り出して・・・・あれ、ないなあ。もう一回。鞄を地べたにおいて両手で鞄の中をかき回す。

 やっぱりない。家の中に入れないじゃないか。引きこもり体質の僕には死刑宣告にも等しい。基本誰とも係わり合いたくないのだから。悩んでいても、どうしようもなくて。家の前で突っ立っているのも、それはそれでありだと思うけど。どうしよう。駅前に行かないとほとんど何もないんだよなあ。ゲーセンとかは無駄にあるけど、ゲームとか普段やらないし。お母さんたちが帰ってくるのは大体昼過ぎ。腕時計を見る。現在時刻は10時過ぎ、といったところか。だいたい2時間ぐらい時間を潰さないといけない。


結局、家の近くの公園でボーっとして時間を潰すことにした。緩やかに流れる風とほとんど葉が散ってしまった桜の木を眺めながらブランコをゆっくりと漕いでいた。世界が静かに、まったりと流れてゆく。早く時間には経過して欲しいが、しかしこんなのも悪くない。目を閉じて、全てを体全体で感じる。車のエンジン音や、自転車のブレーキ音、どこかの家庭の洗濯物をたたいている音。犬が吠えて、猫が啼いて。そんな雰囲気が、心地よかった。目を開けると、前に自転車が停めてあった。横から、ブランコを漕ぐ音が聞こえる。


「あ~したてんきにな~~あれっ!」


中性的な声。隣のブランコに座った人から、靴が飛んで行った。しばらく漕ぎ続けていると、隣の人は靴を取りに、ブランコから降りた。

 女性だった。黒い美しい髪。落ち着いた雰囲気の服に、似合っていた。ゆっくりとした動作で靴を取りに行く。まるで、どこかのお姉さまのような。でも、目の前にある自転車は普通にママチャリだ・・・靴を拾うと、そのまま自転車に跨りどこかに去っていった。

 何しにきたんだろうか。お金持ち(おそらく)の考えることはよくわからない。ブランコを止めて腕時計を見ると結構な時間。今から家に帰ればちょうどいいかな。傍らに置いた鞄を手に取りブランコから立ち上がる。公園の外に目を向けると、肩を怒らせて歩いている女の人がいた。あれは、俺でも知っている。名前は忘れたけど。でも、教室じゃ僕の次におとなしいぐらいの女の子だったと思うんだけど。まあ、誰も見てないところでは人はわからないってことか。などと思っていたら、ズンズンと公園の方に歩いてきた。うわ~、すっごい目つき鋭い。なんか怒ってる・・・? 


「ふん!!」


僕の座っていたブランコの隣のブランコに彼女は座った。体中から怒りのオーラを立ち昇らせながらブツブツと呟いていた。巻き込まれるのはごめんだ。そ~っと公園のことへ歩いていく。


「なに!?」


思わず体が停止してしまった。気づかれないように振り返ると、じっと睨まれていた。


「なんか文句ある!??」


何もないよ。っていうかそれ僕の台詞だよ。


「まったく・・・私の身にもなれっての」


だからそれは僕の台詞だよ。


「ああ、むかつく・・・!」


相手していられない。こんな人間を相手するスキルは僕にはない。歩きながら腕時計を見ると、もう母さんたちが帰ってきているだろう時間帯になっていた。後ろでさっきの子が喚いていたが気にしないことにした。




二人は既に帰ってきていた。っていってもまた母さんは出かけたみたいだ。蒼空ソラが一人で弁当を食べていた。目線をこちらに一瞬だけ向けて、またすぐ食べてる弁当に戻した。机の上に置いてあった弁当を取って、電子レンジに入れてスイッチを入れる。温め終わった弁当をレンジから出してふたを開ける。からあげ弁当。家の近くの弁当屋さんはからあげの量が多い。ボリューム満点。食べ切れなくて残りが晩飯のおかずになる。一石二鳥。


「いただきます」


「ごちそうさま」


同じタイミングで蒼空が食べ終わる。空になった弁当箱を捨てると僕の目の前にきた。


「やっぱり、いたわ」


いきなり切り出された言葉。なんのことか、不思議とわかった。


「いるはずのなかった人。イレギュラーが。私のクラスに」


「そっか・・・あのさ。蒼空は、なんで世界を元の世界に帰そうと思ったの? やっぱり、僕が可哀想だ・・・とか思ったの?」


「よくわからない。なんとなく」


「そっか・・・なんとなくか」


それ以上は、聞こうとは、気になったけど思わなかった。なら、いいかなと。現実として僕はここにいて、蒼空がいなければ僕はどうなっていたかわからなかったから。


「ありがとう。うん、ありがと」


僕と、出会ってくれたことに。


「本当に、ありがとう」


この世界を、戻してくれたことに。


彼女は、「うん」と言って部屋を出て行った。口元がどこかにやけていたのは、僕の見間違いだったのかな・・・?













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