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2話

目を開くと、そこは天井だった。どうやら、僕の部屋に戻ってきているらしい。使い慣れた枕の感触にホッとしたのか、体の力が抜けていく。でも、繋いだ手のひらは力を緩めることはなかった。あの懐かしい感覚は何だったのだろう。まあ、誰かと手を繋いだことなんて記憶にある中では最新のものでも保育園の頃なのだけれど。どれだけブランクだ。


手のひらを、繋いでいる。脇に、人の温かさを感じる。掛け布団の中を見てみる。


・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!


声を上げなかった自分を褒めてあげたい。

 あれは、夢だったのだろうか。まあ今はそんなことは関係なくて。問題は、そのままの格好で少女が僕の隣に居たことだ。っていうか同じベッドで寝ている。接近どころじゃない。密着だ。

 動転して、少女の顔を見ることしか出来ない。じっと見つめていると、少女の瞼が開かれた。


「・・・・・・・・・」


少女は何も放さない。ただ、目を開けている。何を見ているのだろう。何かを見ているようで、何も見ていない。


「・・・・・・・・・すぅ~」


また瞼を閉じる。いや、寝ないでくれ。

 ベッドから抜け出て体を伸ばす。カーテンから零れる陽射しに、顔を顰める。ベッドの上、二度寝に勤しむ彼女を見る。よく考えたら、これは傍から見たらすごい光景じゃないだろうか。見た目小学生(年齢不詳)を自分のベッドに連れ込む中学生。完全にアウトだ。反論の余地もない。


「かずちゃ~ん」


扉をノックする音。時計を見る。いつも起きる時間よりもむしろ早いぐらいだ。そもそも最近誰かがこの部屋を訪ねてきたことなんてない。ベッドの上には、幼い、という印象しか抱けない少女。これは、やばい状況だ。どうする?解決策が思いつかない。とりあえず彼女を布団で隠して・・・


「入るわよ~」


扉開けたーーーー!!それならノックなんてしないでーーーー!

 扉の先にいたのは、誰あろう、僕の母さんだった。ああ、ただでさえ最近は仲がいいとは思えないのに。さぞかし軽蔑の視線を僕に向けることだろう。そして何も言わずに去っていくんだ。リビングに行ったらそんな母さんしかいなくて二人きりでものすごい空気の中で食事をするんだ。(食べるのは僕だけだけど) etcetc・・・・・・

 などとマイナス思考に脳をフル稼働させていると、母さんはクスッと小さく笑って僕に微笑んだ。あんな顔を見るのは久しぶりで、思わず涙が出そうになった。でも、それより前に、母さんは衝撃的な一言を残して行ってくれたから。


「仲良きことは美しいとは言うけど、もう二人とも年頃なんですからね。いくら兄妹とはいえ。はしたないわよ」


お母さんの態度と、この言葉と。なんとなくだけど、僕は理解した。


ここは、僕の知ってる世界だけど、全く知らない世界なんだって。僕の部屋は変わっていないけど、いろいろと変わっていることがある。

 あと、突っ込むのが遅れたけど。


---兄妹って、なに---




「で、なんでこうなっているんだ?」


今僕は、彼女と共に学校への道を歩いていた。誰かが僕の横を歩いている。久しぶりのことで、実に落ち着かない。周りの景色ばっかり見てしまう。先ほどのは、そんな僕が小さく呟いた言葉。わかっているけど、つい口に出てしまう。

 彼女は、懊悩している僕の隣でどう考えても大きすぎる制服の裾の部分をじっと見つめていた。いかにも着慣れていない。まあ、この世界の『設定』からすればそれでいいのかもしれない。


今日は、僕の通っている中学の入学式。といっても僕の、ではなく彼女「狭間ハザマ 蒼空ソラ」のだ。だけど入学式は基本1年生とその親、あとは教職員で行われる。上級生との顔合わせは翌日、つまり明日の1年生歓迎会が初顔合わせになる。なので、本来僕が一緒に登校する必要はないのだが。母さんにも言われたし、僕自身も彼女が道をわからないだろうと思って付いてきている。彼女はそんな僕らの横で朝食に出てきたお味噌汁を我関せず、といった風で啜っていたが。(そのとき僕は溢れる涙を必死で堪えながら鼻を啜っていた)

 誰かと歩く道。なんだか新鮮だ。誰かがそばにいるだけで、こんなにも暖かい。それとも、それは隣にいるのが彼女だから?そんなことを考えることが出来るくらい、頭に余裕が生まれてきた。当たり前の疑問を、口にすることが出来るくらいには。


「なあ、なんでこんなことになってるんだ?」


自分と彼女を指差す。


「世界は元通り・・・いや、それ以上だけど。なんで君がいるの? しかも妹で、入学式だ、とかなんとかさ。意味わからないんだけど」


「言わなかった? それだけじゃない、って。でも、さすがに・・・」


自分の服を掴んで、手を離した。表情を伺うと、なにやら腑に落ちないといった感じ。


「これは異常かもしれない。私というイレギュラーがいるからある程度の変化は覚悟してたけど。もしかしたら・・・」


それっきり、彼女は黙ってしまった。表情が険しい。何があったのだろうか。異常がどうとか。僕が考えても、何もわからない。わからないことだらけで、頭が痛い。彼女は「とにかく、あなたは今までと同じでいればいいわ」と言った。「いやでもあっちから近づいてくるだろうから」と。

 何が近づいてくるのかは、聞けなかった。とりあえず毎日を過ごそうと、僕は思った。


刻一刻と、近づいていたのだ。その「何か」は。そのことを、僕はまだ知らなかった。




学校に近づくにつれて、人の数が増えていく。誰もみんな真新しい制服を着ている。新たに始まる学校生活に、胸を躍らせて。いるんだろうなあ。僕と違って。

 玄関先にあるガラス戸に張ってある張り紙。クラス編成が書かれている。蒼空と一緒に覗いて見る。1組、ない。2組・・・違う。3組・・・お、あった。「1年3組 西園寺サイオンジ 蒼空」

 西園寺? ああ。兄妹っていう設定だったか。


「3組だってさ。まあ、どうでもいいかもしれないけどさ」


「・・・・・・」


蒼空はクラス表をじっと見つめていた。まるで、何かを見通そうとするように。


「どうする? っていうか、どうした?」


「このあと、どうすればいい。学校など行ったことがないからわからないのだが」


蒼空はどこか困ったように佇んでいる。こんな表情もするのか。何事にも動じないと思っていたけど。


「他の人たちについていけばいいと思う。教室が並んでるから、自分の教室に行けばいいよ。あとは黒板に書いてあると思うから」


「うん、わかった」


校舎の中に入っていく蒼空を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、そこにいたのはうちの制服を着た女子生徒。動作と雰囲気から、活発な子なんだろうなあと想像がつく。


「なんですか?」


「君、あの子のお兄さん? 私、朝倉アサクラ 美咲ミサキ。転校生なんだ~」


馴れ馴れしい。よく言えば気兼ねしないと言うのか。それにしても、何で僕なんかに話しかけているのか。他に人はいっぱいいるだろうに。


「そうですか。それじゃ」


「ちょっと待ちっ!!」


歩き出した僕の腕をガッと掴まれた。なかなか強い。僕の力では振りほどけないぐらいに。


「こんなに可愛い転校生が話しかけてきているんだよっ!? フラグ立てるチャンスだ~とか思わないのっ!?」


自分で可愛いって言うな。あとフラグってなんだ。


「とにかく、校舎内の案内を所望するっ」


「ごめんなさい。それじゃ」


歯牙にもかけず、すたすたと歩きだ・・・


「待ちぃ!!」


・・・せなかった。後ろから抱きつかれる。ああ、なんか当たってる感触にドキッとする自分が悔しい!!


「なんなんですか、いきなり! っていうか当たってる、からあああっ」


「はああああああっ!??!!」


バッと彼女は俺から身を離した。顔が真っ赤になって体を両手でかき抱きながら震えている。


「ご、ごめんなさいっ!! いや、やってるときは必死だったけどいざ突っ込まれると恥ずかしいね・・・アハハ・・・」


いきなり殊勝な態度になった。そんな姿が可哀想に思えて、でもそれ以上に、なんて言ったらいいかわからないけど、心を奪われて。

 思わず、優しくしてしまった。


「え~と・・・朝倉さん、だっけ。行くんなら早く行こ? 僕、早く帰りたいし」


人に優しくされた記憶なんて、ほとんどない。でも、誰かに優しくしたことはきっとなかった。これはきっと、気まぐれにも似た行為。


「え・・・うんっ」


それなのに、


「ありがとっ」


歩き出す僕についてきた朝倉さんが、感謝の言葉なんて向けてくれるから、理解してしまった。

 僕は、優しくされなかったんじゃなくて。それに釣り合うだけの感謝を、してこなかったから。


優しさに、麻痺していたんだ。当たり前の中にある優しさに、気づかなかったんだ・・・


「どうしたの?」


いつの間にか追いついた朝倉さんが、僕の隣にきて、僕の顔を覗き込んでいた。


「な、なんでもないよ」


驚いて、ちょっと離れる。彼女はそんな僕に優しい笑顔を向けてきて。


「ありがとう。ありがとう。ありがとうっ!」


背中をバンバンと叩かれた。

 そんな何回も言われなくてもわかってるんだけど。


「な、なに?」


「別に。ただ言いたいだけっ!!」


元気に歩いていく彼女。そんな彼女の後姿。ゆっくりと追いかける僕。


この世界でならやっていける。そんな気がした。


 

 









もうネタ切れ。ぶっちゃけ1話であたふた。

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