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第3話

 数百年前、各地で猛威を振るっていた魔物の討伐に活躍した勇者パーティがあった。


 その強大な光魔法で多くの人を癒やした聖女。


 戦場を駆け抜け、数多くの魔物を打ち倒した戦士。


 魔法と知略に優れ、幾つもの難局を勝利に導いた賢者。


 そしていつもその中心で仲間を導いた、聖剣を握る勇者。


 彼らは当時世界を滅ぼしかけた魔王の暴走を止め、今でも英雄と讃えられている。しかしエリスにとっては因縁の相手でもある。何と言っても、殺されかけたのだから。


 

 

 驚く事に、エドワード達はその末裔だった。

(あのオレンジ髪の逞しい子は戦士だな…)

 ガラスケースに保管された武器を眺めていたダグラスを思い出す。他にも様々な商品が有ると言うのに武器だけに釘付けだったのは、流石戦士の末裔と言った所か。

(あの緑髪の眼鏡君は賢者…)

 次にセドリック。彼は目視で魔法薬の成分を解析しようとしていた。研究者気質ですぐに何でも解析しようとするのは、かつての賢者と同じだ。

(それで、あの二人…)

 魔道具を眺めていたエドワードとマリア。興味を惹かれる物があったのか、楽しそうに話していた。

(勇者と聖女の子孫だな…。あの二人、いつの間にデキていたのやら)

 エドワードとマリアは遠縁に当たる。幼馴染みで仲の良い四人の中でも、二人は特別仲が良かった。


(全く…皆、憎たらしい程似てますこと)

 誰が誰の末裔かなど、見るだけで分かる。魔力もそうだが、容姿も当時の勇者パーティに酷似していた。四人が店に入って来た時は驚いた。あいつ等が蘇ったのかと思ったからだ。

 まぁ、だからと言って子孫の彼らまで憎む訳じゃない。過去は過去、今更蒸し返しても意味が無い。もう怒ってないし。勇者パーティを嫌っているのは、シンプルにムカつくからだ。


 脳内お花畑のぶりっ子聖女。


 脳筋馬鹿力のアホ戦士。


 エリート気取りの高飛車賢者。


 そして勇者は…


(勇者は…)

 来客を告げる鐘の音に、意識を引き戻した。










「こちらがご注文の斧です」 

「すげぇ!この間より綺麗になってる!」

 数日後。受け渡しの日になり、ダグラス達はノックスに来店していた。

 ダグラスは斧を持ち上げ、まじまじと眺める。斧は綺麗に磨かれ、研ぎ澄まされている。

「これなら壊れないぜ」

「それを壊したらもう後が無いしな」

「うるせーぞセドリック!」

 何度も破壊しているせいで、そろそろ教会の経費で落ちるか怪しくなって来ている。これ以上の犠牲は避けたかった。


「それにしても、学生さんなのによく鍛えられてありますね。流石は王立学園です」

「あれ、何で知ってるんですか?」

「制服です」

 王立学園は優秀な魔法士を育成する場だ。才能があれば誰でも入学可能で、国外からも留学生を募っている。有力な資産家の支援もあり、数百年の歴史を持つ国内有数の名門校として名を馳せている。その制服は機能性に優れ、上品で特徴的なデザインになっていた。

(それに、勇者パーティの末裔なら通うのは学園でしょうね)

 数百年前、まだエリスが人間だった頃は学園の門は平民には開かれていなかった。唯一、特待生制度という物があり、魔法が使える平民がそれを利用して入学して来る事もあったが、それも僅かだった。

 その僅かだったのが、聖女だ。平民の視点は、お貴族様にはさぞ新鮮だっただろう。彼女は学園にいる間に同学年の勇者に戦士、賢者とすぐに打ち解け、冒険を始めるまでに至った。彼らの功績は今尚、学園に深く刻まれている事だろう。






「もう少し見て行っても構わないか?」

 そう提案したセドリックの視線は、魔導書の棚に向いている。どうやら彼は、魔導書に興味があるようだ。

「あぁ、勿論だ。俺ももう少し見て行こうかな」

「じゃあ私も〜」

「じゃあ俺も見てく!あ、店員さん、斧は帰りでいいか?」

「えぇ、ごゆっくりどうぞ」

 エリスは奥に戻り、紅茶を淹れる。お気に入りのティーカップに紅茶を注ぎ、香りを楽しみながらクッキーに手を伸ばした。

(ん…これ、何かイマイチだな。あの店はハズレか…)

 クッキーは口に合わなかったらしく、紅茶だけを楽しむ事にする。エリスは薔薇が描かれたティーカップを眺めながら、中身をゆらゆらと揺らす。この穏やかな時間が、エリスは好きだった。


「この魔導書…!何故これが此処に…」


穏やかな時間が……。






「店主!どういう事か説明して貰おう!」

 セドリックが机に一冊の魔導書を置き、訝しげな目つきでエリスを睨み付けた。

「お、おいセドリック、急にどうしたんだ?」

困惑するエドワード達を他所に、エリスが聞き返す。

「どういう事、とは?」

「これは教会が厳重に保管している危険な魔導書だ。此処にあって良い物ではない」

 机の上に置かれた魔導書には、黒の表紙に紫の魔法陣が描かれている。確かに禍々しい見た目をしていた。

「それは複製品、コピーですよ」

「この魔導書には複製防止の魔法がかかっているはずだが?」

「あら、よく知ってますね」

セドリックの追及もどこ吹く風なエリスに青筋を立てる。

「場合によっては教会に連絡するが」

「怖い怖い」

エリスはティーカップを置き、セドリックに向き直る。

「確かに教会が管理しているこの魔導書には複製防止の魔法がかけられています。しかし、始めからかけられていた訳ではないんですよ」

 魔導書の製作時期から教会が管理下に置くまでの間に複製すれば良い。セドリックもその可能性に思い当たったようだが、まだ納得していない。

「!しかし…廃書令があったはず」

 百年以上前、教会が指定する魔導書の複製品を規制する廃書令が出された。当時の政府によって厳しく取り締まられ、複製品は全て処分された…筈だ。

「何の因果か、その生き残りが私の手元にやって来たんですよねぇ」

(まぁ複製したの私だけど)

 

 いつだったか、面白そうな魔導書を見つけたから複製して、原本を図書館に戻した事があった。それが教会が管理する程危険な物だったとは。しかし廃書令が出された時は人間界にいなかったので、私には適用されない。幸い今では廃書令は解除されている。複製品を持っていたとして処罰される事はないし、黙っていればまずバレない。

「内容は同じですけど、原本の危険性は有りませんよ。そこまで詳しい貴方なら分かるでしょう?」

「くっ…」

「なぁ、さっきから何の話してるんだ?俺にはさっぱり分からん」

 ダグラスがようやく口を挟んだ。エドワードとマリアも話に付いて行けていないようだ。

「はぁ…全く、教会所属なら覚えておけ。これは教会が管理している魔導書だ。その内容を実践すると、災害級の甚大な被害が出ると言われている」

「だったら此処にあるのはやべえんじゃねぇのか?内容なんて見放題だろ」

「あぁ、それが本物だったらな」

「本物だったら?どういう事だ?」

「ただ内容を実践しても危険は無い。この魔導書を使用して魔法を発動するのが危険なんだ」

「へぇ~、セド君、よく知ってるね!」

「この位当然だ」

(よく知ってるなぁ、学生なのに)

 エリスは内心セドリックに感心する。その知識量や記憶力はずば抜けている。彼の地位にもよるが、教会の管理物についての情報があれ程スラスラ出て来るとは。教会の大人は肩身が狭いに違いない。

「店主さん、疑ってすみませんでした」

「い〜え」

(しっかり謝れる所は彼奴と違うな)

 かつて相対した賢者とは違い、セドリックは自分が悪いと思えばちゃんと謝れる人間だ。それだけで、エリスの中でのセドリックの好感度は高くなった。




「ところで…」

エリスは改めて四人を見る。

「皆さん、教会の方々なんですね」

「!何で分かったんですか?」

「先程、セドリックさん…でしたっけ?ご自分でそう仰っていましたので…」

「あ。」

 セドリックがしまった、と顔色を変える。一般人は教会の存在を知らない。教会所属というのは普通、一般人には隠しておく事なのだ。

「私は特に何もしませんが…気を付けた方が良いですよ」

「皆、すまない」

ガックリと肩を落とすセドリックをダグラスが慰める。

「気にすんなって。誰にでもあるからさ」

「あれ、じゃあ店主さんはどうして教会の事を?」

「昔、色々ありまして…」

 マリアがふと気になった事をエリスに訪ねるが、はっきりとは答えられないまま、濁される。

(旦那とバチバチしてた勢力だなんて言えないよねぇ)


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