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第2話

「でさ、あん時セドリックが…」

「おいダグラス、その話はしない約束だろう」

「えっ何々?聞きた〜い」

「俺も気になるな」

四人の学生が談笑している。王立学園の制服を着た彼らは、帰路を共にしていた。

「ん?何だあの店?」

金髪の少年が足を止める。つられて他の三人もそちらを見る。

「どうかしたのか?エドワード」

「いや、あんな所に店あったんだなって」

「雑貨屋ノックス…?何かレトロでお洒落な店だね!」

「そうかぁ?ただ古いだけじゃね?」

 四人の視線の先には、古びた一軒家が。

「いつもは道違うから全く気付かなかったな」

 教会からの任務帰り、スイーツショップに立ち寄る為に四人はいつもと違う道で帰宅していた。

「ちょっと入ってみようよ!」

 雑貨屋と言うならば、可愛らしい商品があるかも知れない。桃色の髪をした少女が目を輝かせる。

「おう、行こうぜマリア!」

ダグラスが元気よく店に向かう。マリアもそれに付いて行った。

「どうする?僕達も行くか?」

セドリックの問いかけにエドワードは頷く。

「あぁ、あの二人じゃ心配だし」

残る二人も店に足を運ぶのだった。






カランカラン

「おお~すご〜い!」

マリアは思わず感嘆の言葉を漏らす。ダグラスも目を見開いた。

「すげぇ〜、色々あんな!武器とかねぇのかな~」

「アクセサリーとか無いかな~」

続けてエドワードとセドリックが入って来る。

「二人共、そんなにウロチョロするんじゃない」

「だっていっぱいあるんだよ?見て回りたいじゃん!」

「そうだそうだ!」

子供のように反論する二人に青筋を立てるセドリックをエドワードが宥めながら、店の奥を覗き込む。

「まあまあ、その辺にしとけって。それより、店員さんはいないのか?」

「いらっしゃいませ」

突然背後から聞こえてきた声に、四人は驚いて振り向き、警戒する。

(何者だこの人…全く気配がしなかった)

 

 市街地に現れる魔物を退治する魔法士の組織、教会。そこに所属している精鋭の四人ですら気付けない程、背後の存在は気配を隠す事に長けていた。


「あらら、驚かせてしまったようですね」

敵意の無い、穏やかな声。背後の存在は若い女性だった。

「うわぁ…すっごい美人…」

 マリアが溜め息を吐く。男子三人は息も忘れ、エリスを見つめていた。

「ふふっ、ありがとうございます。私はここの店主です。皆さん何かお探しで?」

「い、いえ特には…」

「そうですか。それではご自由に見て回って下さいね。お手は触れないよう、お気を付け下さい」

「は、はい…」

 エリスの美しさに圧倒されながら受け答えする。エリスは面白がるように微笑みながら、帳簿の計算に戻って行った。



「あの、すみません!」

「はい、何でしょう?」

マリアに話しかけられ、エリスは顔を上げた。

「アクセサリーとかって、ありますか?」

「ああ、ありますよ~。取って参りますので、こちらで少々お待ち下さいね」

 マリアをソファに座らせ、物置きにアクセサリー類を取りに行く。部屋に戻ると、他の三人も集まっていた。

 

 テーブルにアクセサリーを広げる。指輪にネックレスにブレスレット、耳飾りに髪飾り。美しい意匠が施された物がズラリと並べられた。

「綺麗ですね…これ、宝石?」

大粒の宝石があしらわれた物を眺める。

「いや、これは魔石だろう。しかしこんな質の高い物…どうやって手に入れたのか」

宝石と思ったのは魔石だった。魔力の結晶であり、魔道具や家電のエネルギー源ともなる魔石。その質の良さにセドリックが感心する。

「あら、お目が高い。これは私が作った魔石なんですよ」

「!それは…凄いですね」

 魔石の生成方法は一通りではない。鉱山から発掘されたり、魔力を持つ動植物の体内から出て来たり。人間が魔力を結晶化させて生み出す事も出来るが、純度の高い物を作る程集中力と技術が必要とされる。エリス程の魔石は並大抵の者では到底作れない事は明白だった。


「何か気になる物は御座いますか?」

「えっと…このブレスレットが気になります」

「一度着けてみます?」

「はい!」

マリアの手首に嵌めると、ブレスレットは淡い光を放った。

「わ、何これ!魔力に反応して…光った!?」

「これは日輪草の魔石で作った物です」

「日輪草?」

「日輪草とは、浴びた日光をそのまま魔力に変換する植物だな。生育条件が厳しく、充分な日光を浴びないと数日で枯れてしまう。変換された魔力は魔石になる事が殆どだ」

 セドリックが詳しく解説する。エリスは感心したように頷いた。

「よくご存知ですね、その通りです。日輪草の魔石は、日光の結晶そのもの。陽光石とも呼ばれています。光魔法が得意な人との相性が良いんですよ」

 エリスは目の前に日輪草の魔石を掲げる。琥珀色が光に照らされ、煌めいていた。

「そうか、じゃあマリアにピッタリだな」

「えへへ」

(やっぱり得意魔法は光か。あのぶりっ子聖女と一緒だ)

 エリスは内心苦い顔をした。これとは違うが、陽光石のブレスレットはかつて聖女が身に着けていた。大粒で豪奢、見せびらかすようなデザインがエリスは好きではなかった。

(陽光石は小振りなのが可愛くて良いのに)


「お買い上げありがとうございます」

 結局マリアはブレスレットを買う事にした。早速着け、嬉しそうに手首を眺めている。

「なあ!この店に武器ってあるか?」

「えぇ、御座いますよ」

「ちょっと見せてくれ!」

「はい、少々お待ちを」

次はダグラスの番だ。


「何かご希望は御座いますか?」

「そうだな…耐久力のあるやつが良いな。最近壊れたばっかだし」

 教会所属のダグラスは、その強靭な肉体と武器で戦う。あまりの力に武器が耐え切れず壊れる事は頻繁にあった。

「かしこまりました」



(物をよくブッ壊す癖、あの戦士にもあったな~)

 エリスが物置きからいくつか武器を運んで来た。数が多く、サイズが大きい物もあるので、魔法で浮かせている。

「これ良いな!ちょっと持ってみてもいいか?」

「えぇ、どうぞ」

 ダグラスが選んだのは、赤みがかった刃が美しい巨大な斧。ずっしりとした重みがあり、並の人間には持つ事すらままならない。


「そちらは重量がある分攻撃力が高い物です。元は別のお客様がオーダーされた物でしたが…」

 はぁ、とエリスは溜め息を吐いた。この斧を作ったは良いものの、デザインが気に食わないと受け渡しの時点で突き返されてしまった。ちゃんと話し合ったにも関わらず、だ。キャンセル料の支払いすら渋ったので、この斧を突き付けてきっちりお支払いしてもらった。

「勿体無いな、それなら俺が買うぜ!」

「お買い上げありがとうございます」

 エリスは満足気に笑う。折角作ったのだから有効活用されて欲しい。大きいからスペースも圧迫するし、早い所厄介払いしたいと思っていたのだ。

 



「ありがとうございました」

 四人を見送り、店内に戻る。


(いやはや、まさかまさかだわ)

 エリスはダグラスが購入を決めた斧の手入れを始めた。製作してから年月が経っているので、しっかりメンテナンスしてから後日受け渡しの約束をしたのだった。

(まさか、私をぶっ殺そうとした奴らの末裔が来店するなんて…)

 

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