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ph89 ヒョウガVSコユキの決着ーsideヒョウガー


 黒い触手のようなマナが襲いかかる。咄嗟に装備していた氷結魔導銃を向けるが、触手はバトルフィールドの結界によって弾き飛ばされ、直接的な脅威からは守られた。


 しかし、黒いマナは結界内に入れない事を理解しつつも諦めていないのか、周囲を囲むように漂っている。警戒は解けない。


「あのマナはいったい?」

「……サタンのマナのようだな」

「あれがサタンのマナだと!?」


 レベルアップしてニドヘッグルとなったニーズヘグは、マナ石を観察するように目を細める。


「見たところ、あのマナ石はサタンにマナを送る装置のようだな」

「確かに、そう聞いているが……」

「フン……ならば、マッチによって一時的にコキュートスのマナの供給が絶たれてしまったと考えるのが妥当だろう」

「……どういう事だ?」


 何だか嫌な予感がする。どうかこの予想が当たってくれるなと、すがるような気持ちでニドヘッグルを見た。


「……氷川ヒョウケツのデータベースにあった、サタン実体化の為の記述を覚えているか?」

「……当然だ」



 父さんのデータベースにあった記述。


 ──神の敵対者サタン、冥府川の最果てに封印されし魔の王。氷獄の加護を受けし五つの供物を捧げ解き放たれん──という内容。


 これを知り、冥界川シリーズの加護持ちを捧げなければ実体化できないとコキュートスを持ち出したのだ。


「それが関係しているのか?」

「……サタン実体化に必要な黒いマナとは別に、サタンを実体化させる為のカードを生成しなければならないのだが、それには例の記述通り、冥界川シリーズの加護持ちのマナが必要なのだ……それも、1人の人間では到底足りないほど膨大な量をだ……本来、その量を補う為、加護持ちの魂を捧げるのだが……」

「まさかっ!?」


 ダビデル島はサタンの完全なる実体化を容易にさせる為に作られた巨大な装置だ。その装置が正常に稼働しなければ、正規の手順で実体化させる事になる。


「サタンが実体化しているということは、不完全ではあるが、カードの生成が出来ているようだな。ならば、その実体化を保つために本来の贄を求めているのだろう」

「加護持ちを……姉さんの魂をか?」

「そうだ。そして、それだけではない」


「キサマもコキュートスの加護持ちだったではないか」

「!」

「あの黒いマナは待っているのだろう。コキュートスと適合した魂を奪う好機を……マッチが終わり、敗北してどちらかが弱る、その瞬間をな」


 コキュートスを倒さなければ、姉さんはサタンのマナの支配から逃れられない。けれど、コキュートスを倒してしまえば、姉さんがサタンの贄となってしまう。


 どちらも選べる訳がないと頭を抱えるが、ふと浮かぶ妙案。


「……いや、待てよ……」


 あのマナ石によって、サタン実体化の為の黒いマナが供給されているのであれば、同様に、サタンのマナもあのマナ石を通して送られているのではないか?


 五金コガネも、実体化を阻止する為に壊せと言っていた。ならば、あのマナ石を破壊し、黒いマナの供給を完全に絶てばこの状況を打破できるかもしれない。


「ニドヘッグル、あのマナ石を壊せるか?」

「なるほど、いい考えだ。今の我ならできるであろう……が、バトルフィールドの結界を何とかせねばならん」


 ニドヘッグルはバトルフィールドの結界を煩わしそうに見ている。


 結局、このマッチを終わらせなければならんのかと苛立った俺は、舌打ちをした。


「マッチが終わると同時に破壊出来ないか?」

「無理だな。あの黒いマナを見ろ。あんな物に集中砲火されれば振り切る事は不可能だ。すぐに捕まり、数秒も経たずにカードの贄として吸収されるだろうな」 


 くそっ! 何か策はないのか!


 俺はデッキに触れながら脳をフル回転させる。しかし、何も思い浮かばない。


 もう、どちらかを選ばねばならんのか……。


 そう諦めそうになるが、馬鹿な事を考えるなと自身を叱咤し、そのマイナス的な思考を頭の隅に追いやった。


 まだだ。まだ諦めるには早い。マッチは終わっていないのだ。最後まで抗えと、もしかしたらここで引くカードが解決の糸口になるかもしれんだろうと藁にも縋る思いでカードを引いた。


「! ……これは」


 一瞬、何を引いたのか分からなかった。


 何故このカードがここにと疑問を抱いたが、脳裏を過る記憶と影薄の顔に、あぁそうだったなと穏やかになる心。


「ニドヘッグル……もしもの話なのだが」

「なんだ?」

「アレを分散する事が出来れば、黒いマナの隙間を掻い潜ってマナ石を破壊する事は可能か?」

「……分散か……フム……五分五分、といった所か」

「そうか……十分だ」


 確率が半分もあるなら賭ける価値はある。


「だが、そんな方法があるのか?」

「あぁ。1つだけな」


 このカードを見て思い付いたのだ。コキュートスを倒し、かつ、姉さんが負けない方法を……このカードを使えばそれが可能であった。


「黒いマナは俺が分散させる。後は頼めるか?」

「フン、愚問だな。お手並み拝見といこうか」


 ニドヘッグルは臨戦態勢を取りながら指示を待っている。俺も覚悟を決め、睨むように前を見据えた。


「俺は手札から道具カード、魔を射抜く剣氷を使用する! 相手のMPを俺のMP分減らす!」


 道具カードならば、六花の杖にチャージされる事はない。俺の今のMPは3。姉さんのMPは8から5になった。これでコキュートスのスキルは1度しか使えないと、ニドヘッグルに攻撃を指示する。


「ニドヘッグル! コキュートスを攻撃!」


 ニドヘッグルの攻撃が決まり、コキュートスの体力が1になる。


「私はMP4を消費して氷獄の番人コキュートスのスキル、断罪の刻印を発動。このフェイズ中、攻撃を受ける度、反撃を行う。この反撃は全体攻撃になる」


 反撃を喰らったニドヘッグルの体力が4から1へと下がる。そして、氷龍の宝玉の効果が発動するより先に、氷結魔導銃の効果の処理が行われ、飛び出す弾丸。


「私は六花の杖のチャージを1消費して氷獄の番人コキュートスの体力を1回復させる」


 コキュートスの体力が2になり、攻撃力1の氷結魔導銃では止めをさせなかった。


 だが、これでいい。氷結魔導銃は反撃の効果を受けない為、断罪の刻印は発動しない。そして、攻撃を受けた事によって発動していた氷龍の宝玉の効果が処理される。


「私はMP1を消費して、雪娘の加護を発動。相手からの攻撃によるダメージを1残して耐える」 


 姉さんが発動した魔法カードの効果によって、コキュートスの体力が1残った。


「更に、杖のチャージを2消費してコキュートスの体力を2回復」


 杖のチャージも消費し、コキュートスの体力が1から3に上がる。


 これで姉さんのMPも杖のチャージも0になった。モンスタースキルを発動する事は出来なくなり、魔法カードを使用不可状態にされる心配もなくなった。


「俺はMP1を消費して手札から魔法カード、氷魔の写し身を発動! 自身の装備カードの攻撃力を、自身のフィールドにいるモンスターの攻撃力と同じにする! 俺が選択するのはニドヘッグル!」


 魔法カードを使用した為、六花の杖にチャージされるが、氷結魔導銃の攻撃力が4になった。


 コキュートスの残り体力を上回り、杖のチャージを消費されても問題ない。弾丸がコキュートスの身体を貫く。コキュートスの体力が0になった。


 姉さんはすかさずレベルアップの効果を発動させ、コキュートスの体力を0から1に戻した。断罪の刻印の効果が発動し、反撃を受けたニドヘッグルの体力も0になるが、俺も同様にレベルアップの効果を発動させ、体力を0から1に戻す。


 お互いのモンスターの残り体力は1になった。MPも手札も0の姉さんは、どうやってもこのカードの効果を防ぐ手立てはない。


「俺はMP2を消費して手札から魔法カードを発動する!!」


 ありがとう、影薄。……本当にお前には助けられてばかりだ。


 コキュートスを倒し、かつ、姉さんが負けないたった1つの方法。どちらも負ける事も勝つことも許されないならば、勝者も敗者もいなければいい。


「魔法カード、痛み分けを発動!!」


 そう、引き分けにすればいいのだ。


 黒いマナは贄を求めてどちらかが弱るのを待っている。ならば、両者とも倒れたらどうなる?


 元々、一人では補えない程の膨大なマナを捧げなければならないのだ。きっと、足りないマナを補う為、二人まとめて取り込もうとするだろう。襲いくるサタンのマナも二手に別れる筈だ。後はニドヘッグルを信じて任せればいい。

 

「カードの効果を無視して、自身のモンスターの攻撃力分のダメージをフィールドにいる全てのモンスターに与える!!」


 五寸釘がフィールドの中心に出現する。


「後は頼むぞ……ニドヘッグル」


 五寸釘がニドヘッグルとコキュートスを襲う。同じタイミングで体力が0になり、消滅していく2体のモンスター。


 ……感情がないと言われても、気分の良いモノではないな……。


「……今までありがとう。コキュートス」


 さよならだ。


 消えゆく元相棒を目に焼き付ける。そして、感じるフィードバックの痛みにマッチが終わった事を悟った。


 バトルフィールドが消え、張られていた結界も消失する。


 俺は最後の力を振り絞ってニーズヘグを実体化させ、レベルアップをした。


 ニドヘッグルが飛び立つと同時に、俺と姉さんに襲いかかる黒いマナ。予想通り、分裂した事に安堵しながら地面に倒れる。


 黒いマナが迫りくる中、走馬灯のように甦る姉さんとの思い出。精霊狩り(ワイルドハント)として精霊を狩っていた頃の事、ダビデル島脱出時にニーズヘグと言い争った場面、追われながらもコキュートスと過ごした日々。


 次々と思い出が頭の中を駆け巡り、消えていく。そして、最後に思い出したのは────。


 なぁ、姉さん。俺、姉さんに紹介したい人がいるんだ。




 瞳を閉じれば思い浮かぶ2人の友の姿。



 初めはなんて煩わしい奴だと思った。


 どんなに突き放しても纏わり付き、頼んでもいないのに勝手に首を突っ込んでくる。とんだお節介野郎だなと怒りを通り越して呆れたモノだった。


 関わったら関わったで奴の無鉄砲さに振り回され、尻拭いをする日々。奴のトラブルメーカーさには散々な目に合わされた。


 二度と関わるものかと何度も思っては巻き込まれるの繰り返し……でも、いつの間にか、そんな馬鹿みたいな日常を受け入れている自分がいた。


 奴の世話焼きに絆されたのか、アイツと共闘し、共に困難を乗り越えていく中で、背中を預ける好敵手(とも)という存在も悪くはないなと思うようになっていたんだ。



 ……もう一人の第一印象も最悪だったな。


 なんだあのネクラ女はと、こんな失礼な奴と組むなんて二度と御免だと思っていた。


 面倒事が嫌いなのかいい加減な言動も目立つし、なによりやる気というモノを感じなかった。


 こんな向上心の欠片もない奴、絶対に合わないと思っていたのに……何度も窮地を救われ、素直じゃない、底抜けにお人好しなアイツの本当の性格を知った時、気がついたら目で追っていた。


 アイツの隣は居心地が良い。出来ることならずっといたいと……五金クロガネよりも、自分を頼って欲しいなんて……そんな幼稚な対抗意識を抱いてしまうぐらい、俺にとって大きな存在になっていた。



 姉さんは俺に友人がいない事を悲しんでいたから、2人も出来たと知ったら、すごく驚くだろうな。


 ニドヘッグルがスキルを放つマナの波動を感じる。大きな衝撃音が響いた。きっと、もう大丈夫だろう。そう確信した俺は、流されるままに意識を手放した。



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