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ph86 ケイVSアレスの決着ーsideケイー

「私のフェイズですね。ドロー致します」


 アレスはデッキからカードをドローする。これで彼の手札は2枚となり、MPは4まで回復した。そして、女神の子レテの体力は19もある。対して僕の手札は2枚、MPは5。セイレーンの体力は5しかない。正直、戦況は圧倒的に不利だ。


 女神の子レテの攻撃力は2。ダブルアタック持ちとはいえ、2回攻撃するだけならばセイレーンの体力は1残り、このフェイズを乗り切る事はできる。けど、アレスがそんな単純な攻撃で終わらせる訳がない。


「私は手札から道具カード、黄泉送りの灯を使用致します。自身の倒されたモンスターをゲームからドロップアウトさせ、そのレベルの倍の数値のMPを回復する。私はウンディーネをゲームからドロップアウトさせ、MPを4回復致します。そして、私はMP4を消費して女神の子レテのスキル再生の黄泉水を発動! ゲームからドロップアウトさせた自身のモンスターをダストゾーンに戻し、このフェイズ中、そのモンスターの元々の体力の数値をこのモンスターの攻撃力に加える! また、このモンスターの攻撃は全体攻撃になる! 私はウンディーネをダストゾーンに戻し、女神の子レテの攻撃力を10あげる!!」


 やはり、仕掛けてきたか。


 アレスは道具カードとのコンボで、MPを4も残したまま、女神の子レテの攻撃力を12まで上げた。


「これで終わりですよ! さぁ。女神の子レテよ! セイレーンを攻撃しなさい!」


 女神の子レテが巨大な水の刃を生成し、セイレーンに目掛けて放つ。


 体力が残り5のセイレーンがこの攻撃を受けてしまえば、僕の敗北が確定する。そして、この攻撃を防いだとしても、2度目の攻撃もいなせなければ完全に詰みだ。


 僕の手札には相手モンスターの攻撃から身を守れるカードはない。更に、相手はもう一度モンスタースキルを使用できる余力を残している。考えろ。この状況で、僕が今できる事は……。



「僕はMP3を消費してセイレーンのスキル、魅惑の歌声を発動! 相手モンスターから攻撃された時、その攻撃対象を相手フィールド上にいるモンスター1体に変更する事ができる!!」

「ははははは! これは滑稽だ!! 魅惑の歌声ですと? よぉくご覧なさい! 私のフィールドにいるモンスターは女神の子レテのみ!!」


 アレスは笑い声を上げる。心底可笑しいと言わんばかりに、大口を開けて笑った。


「私の場に、攻撃対象を移せるモンスターはいませんよぉ! 敗北を恐れ、冷静な判断が出来なくなっているんじゃあないですかぁ? それとも、打つ手がないと自棄になっているのですかぁ!!」


 僕がプレイングミスをしたと馬鹿にする姿を見て、ホッと肩の力が抜ける。


 よかった。執拗にレーテーを攻撃した甲斐があった。


「本当に、そう思うかい?」


 僕はレベルアップさせまいと、頑なにレーテーを攻撃し続けていた。けれど、セイレーンのスキルを発動した時だけは、ウンディーネを攻撃したのだ。


 レベルアップを防ごうと必死にレーテーを狙っていたのに、セイレーンのスキルで反撃した時だけはウンディーネに攻撃を行ったのだ。僕のその行動は、相手から見たらどんな風に映るだろうか?


 普通なら、何故その時だけウンディーネを攻撃したのだろうと違和感を抱く。そして、レーテーをレベルアップさせた事でどんどん状態が悪くなり、極めつけはレベルアップ出来ないときた。


 きっと、アレスはこう思う筈だ。あの時、セイレーンはレーテーを攻撃しなかったのではない、出来なかったのだと。セイレーンのスキルによる攻撃対象は、相手フィールド上にいる攻撃していない別のモンスターしか対象に出来ないモノであると、勘違いしただろう。


 僕の狙い通りに、ね。



「魅惑の歌声の効果対象は相手フィールド上にいるモンスター1体だよ」

「……何を言って──! まさかっ!?」

「そう、君のフィールドにはちゃんとモンスターがいるじゃないか」


 僕はゆっくりと女神の子レテを指差し、宣言する。


「僕は女神の子レテを対象とする!!」

「くっ! しかし、忘れたのですかぁ!? 私のレテにはモンスタースキルが効かない事を! 私は女神の子レテのスキル、忘却の刻印紋を発動! 相手フィールドにいる全てのモンスタースキルを無効にし、更に使用を不可状態にする!!」

「僕はMP1を消費して手札から魔法カード、水呪縛を発動! 相手モンスター1体のスキルを一つだけ無効にする!! 僕は忘却の刻印紋を選択する!!」


 これで相手のMPは0、厄介なスキルも封じた。残り1枚の手札が気になるが、この攻撃が通らなければ僕に勝ち筋はない!お願いだから通ってくれ!!



「私は道具カード冥界の砂時計を使用! 自身のモンスターが使用したスキルを無効にして、消費したMPを戻す! ただし、このフェイズ中そのスキルを使用する事は出来ない!」


 よかった。防御系のカードではなかった。MPを回復させてしまったけど、アレスの手札はもうない! 僕の攻撃は決まる!!


「ぐああああああ!!」


 女神の子レテはセイレーンのスキルにより、自分自身を攻撃した。女神の子レテの残り体力は7となり、フィードバックの痛みがアレスを襲う。


「ぐっ! ……だが、私にはダブルアタックが残っています!! 残りMPが1しかない貴方はセイレーンのスキルは使えない!! 今度こそ終わりです!! 女神の子レテよ! 今度こそセイレーンを攻撃ぃ!!」

「僕は手札を1枚捨て、ダストゾーンにある水のヴェールをゲームからドロップアウトさせて効果を発動! このフェイズ中に消費されたMPの数値分、相手モンスターの攻撃力を下げる!!」


 魅惑の歌声の効果で3、水呪縛で1。冥界の砂時計の効果で忘却の刻印紋の分はカウントされないが、再生の水で消費された4は有効だ。これで合計は8!


 女神の子レテの攻撃力は4になり、セイレーンの体力は1残った。


「うわあああああ!!」


 フィードバックの痛みで膝をついた。セイレーンが心配そうな目で僕を見るが、大丈夫だと笑い掛けてゆっくりと立ち上がった。


 アレスの手札は0。女神の子レテのスキルに再攻撃や、今の状況で僕に効果ダメージを与えるような物はない。攻撃手段がなくなった彼は、フェイズ終了させるしかない筈だ。


「…………私のフェイズは終了です」


 アレスのフェイズ終了宣言を聞き、ぐっと拳を握る。


 よし! 耐えきった!! これで僕にもチャンスが回ってきたぞ!!


 僕はデッキに触れながら、心を落ち着かせるように大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「しかし! 貴方の手札は0!! セイレーンの体力もたったの1!」


 アレスの不愉快な声か僕の鼓膜を刺激する。


「レベルアップモンスターは体力が0になっても、1度だけ体力を1残して耐える事が出来るんですよぉ? 攻撃力に乏しいそのモンスターでレテを倒す事が出来ますかぁ!? 出来ませんよねぇ!!」


 彼の言葉一つ一つが、僕に嫌なプレッシャーを与え、デッキに触れる手がピクリと動いた。


「たった1フェイズを凌ぎきったとて、貴方の死が少し先延ばしになっただけじゃあないですかぁ! 貴方が絶望的状況である事に変わりはない!! さぁ、最後の悪あがきを見せて下さいよぉ!!」


 アレスの言う通り、セイレーンでは女神の子レテを倒す事は出来ない。


「……僕のフェイズだ」


 方法がない訳ではないが、それはあくまでも勝てる可能性があるというだけで、確実に勝てるという保証はない。


 でも、今は少しでも可能性があるならば、それに掛けるしかないのだ。僕はごくりと喉を鳴らし、藁にも縋る思いでカードをドローした。


「ドロー!!」


 僕は引いたカードを見る。ここでこのカードが来るのかと思わず失笑してしまった。


 僕は瞳を閉じ、カードを持つ手を脱力させて体側にダラリとたらす。そして、覚悟を決めるように、キッとアレスを睨みつけた。


「セイレーン! 女神の子レテを攻撃!!」

「効かないんですよぉ! そんな攻撃ぃ!! 私はMP4を消費して女神の子レテのスキル、隠匿の紋を発動!! 相手モンスターの攻撃を回避し、回避に成功した時、その攻撃したモンスターのレベル分のダメージを相手フィールドのモンスター全てに与え、相手の攻撃フェイズを終了させる! これで終わりですよぉ!!」


 女神の子レテがスキルを発動させるのを見ながら、迫り来る死の気配に僕は走馬灯のようにタイヨウくん達の事を思い出した。



 初めてあの子達と出会った時、なんて無茶する子達なのだろうと思った。


 SSCの医務室で隠れながら彼等の話を聞いて、後先考えずに危険に突っ込んで行く危なっかしい子供達だなと、正義感が強いのは良いことだが、褒められた行動ではないなと思った。


 アイギスである事を明かせない状況をもどかしく感じながら、痣を見た時点で総帥に報告しておいて良かったと、この事も報告して精霊狩り(ワイルドハント)に僕の存在がバレないように注意しながら色々と手を回さなければと苦心したものだ。


 SSCが終わって総帥の執務室で再会した時は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 民間人を守る為に潜入していたのに、証拠が掴めず、こんな幼い子供達を巻き込んでしまって情けないと、そんな自分が恥ずかしいと思った。


 総帥にマナ使いの説明を頼まれた時は、総帥の意図を誤認し、この子達を精霊狩り(ワイルドハント)との戦いに巻き込む事になるのかと罪悪感を抱いたが、総帥の考えは違ったようだった。


 僕はその事実に安堵し、そのままの流れで彼等の訓練を見る事になったのだが、誰でもマナ使いになれる訳ではない。


 しかも、1ヶ月という短い期間でレベルアップの習得もしなければならないという条件付きだ。きっと、総帥はこの子供達を巻き込まない為にこのような処置を施したのだろうと、この訓練もSSSCに参加出来ない事に対して、彼等を納得させる為のモノなのだろうと思ったんだ。


 だから僕は、あの子達の性格を考え、少しでも力になれるように、これから先も危ない事に突っ込んでいくだろうあの子達に身を守る術を教えようと思っていたのに……。



 あの子達は僕の想像を遥かに越える力を持っていた。僕のような凡才が決して踏み入れる事はできない、それこそ、財閥の血縁に匹敵する才能を秘めていたんだ。


 サチコちゃんは異常な程のマナコントロール力を、タイヨウくんは尋常ではないマナの保有量を有し、ヒョウガくんは本来の精霊ではない精霊の力すら引き出す才能を持っていた。


 彼等の才能を目の当たりにし、末恐ろしく感じた。同時に、その才能をどこまで伸ばせるのか試したくなった。


 僕の教えをスポンジの様に吸収し、どんどん成長していくあの子達の姿に、自然と浮かぶ笑み。レベルアップすらも短期間で習得し、もっともっとあの子達の才能を磨きたいという欲求が込み上がった。



 大人の事情に巻き込んでしまった罪悪感も、あの子達を危険なモノから守りたいという気持ちにも嘘偽りはない。


 けれど、それ以上に、まだまだあの子達に教えてない事が沢山ある。もっとあの子達の才能を伸ばしたい! あの子達の成長を見届けたい!! その為にも僕はここで死ぬ訳にはいかないんだ!!


「僕はMP4を消費して、手札から魔法カードレベルダウンを発動!!」

「なっ!? レベルダウン、ですと!?」


 だから、ずっと考えていたんだ。


 あの子達を教えながら、レベルアップが出来ない僕が奴等に対抗する術を。


 僕には三代財閥やあの子達のような才能はない。真っ向勝負で勝てる見込みはなかった。


「このカードはレベルアップモンスターのレベルと同じMPを消費して発動する事ができる! このフェイズ中、相手のレベルアップモンスターのレベルを元に戻し、レベルアップ時に回復した数値分の体力を減らす事ができる! ただし、体力を0にする事はできない! そしてこのフェイズ終了まで相手のモンスターはレベルアップできず、終了後は相手のモンスターは元のレベルに戻り、このカードによって減った体力も元に戻す!!」


 そして、思い付いたんだ。正々堂々と戦って勝てないならば、正面から挑まなければいいのだと、相手の土俵に合わせる必要はない、その土俵から引きずり落とせばいいのだと気づいたんだ。


「わ、わ、私のレテが……レテがぁ!!」


 このカードは僕の技術の結晶だ。レベルアップがあるならその逆も、レベルを下げる事も可能ではないのかと思い付いたんだ。


 そして生まれたのがレベルダウンという魔法カード。凡才の僕が、天才に抗うために生み出したカードだ。


 女神の子レテがレーテーの姿に戻り、女神の子レテで使用したスキルも無効になった。体力も2になり、手札もMPも0。そして、頼みの綱の体力を1残して場に残る効果もない。


「本当は、あの子達の先生らしく格好良く勝ちたかったんだけどね……」


 それで負けたら本末転倒だ。ならば僕に出来る精一杯を、格好悪くても、情けない姿は見せたくないから。


「なりふり構ってられないんだよ」




「セイレーン! レーテーを攻撃!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 セイレーンの攻撃が決まり、レーテーの体力が0になって消滅する。アレスはフィードバックの痛みに悶え苦しみ、地面に蹲るように倒れた。


 バトルフィールドが完全に消え、自分の勝利が確定した事を確認してからマナ石の方へと向かう。


「ふ、ふふふふふ」


 しかし、アレス奇妙な笑い声が聞こえ、僕は警戒しながら足を止めた。


「何が可笑しいんだい?」

「ふ、ふははははははははひひはは!!」


 アレスは僕の問いに答えず、地面に横たわったまま笑い続ける。


「無駄ですよぉ! 貴方が勝ってもサタンの実体化は止められない!! 既に賽は投げられたんですよぉ!!」

「何を言って……!?」


 マナ石から黒いマナが溢れだした。ソレは触手のような形になり、アレスの体を拘束した。


 近づこうにも、その禍々しいマナが僕を牽制するように圧力をかけ、近づく事が出来ない。


「サタンさえ……サタンさえ実体化すればあの方の悲願へと近づく! あぁ! 私の主!! 貴方の為ならば私は……私は!!」


 黒いマナで出来た触手はアレスの体を覆い隠すように体に巻き付いていく。


 黒いマナが膨張している? もしかして循環しているのだろうか? あのマナ石と? 何故? ……! ……まさか、循環させる事で黒いマナを増幅させ、サタンの完全な実体化を早めているのか!? それはダメだ!! 止めないと!!


 僕はそのマナに抗うように少しずつ近づきながら、循環を止める為にマナ石を破壊しようとカードに触れた。


「……ハ、ン……さま……ばんざ、……ぃぃ……」


 しかし、僕が魔法カードを発動させるよりも早く、黒いマナで全身を覆われたアレスがマナ石に取り込まれていった。そして、膨れ上がった黒いマナがマナ石のキャパを越えたのか、ヒビが入る。


 マナ石の崩壊が始まった。瞬間、防護壁(シールド)にも亀裂が走り、周囲の水が侵入する。


 間に合わなかったか!!


 僕は自責の念に駆られながらも、自身の精霊を実体化させる。


「セイレーン!!」


 目的のマナ石は破壊された。ここに止まる理由がなくなった僕は、このまま居ても仕方がないと脱出準備に取りかかった。


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