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ph82 変化ーsideクロガネー


 サチコ……サチコは何処だ!? 何処にいる!?


 イヤーカフから感じる微弱なマナを頼りにサチコの元へと向かう。


 イヤーカフにつけたGPS機能は人工衛星からじゃなく、身に付けている人物のマナを感知して対になってるイヤーカフに位置情報を送る代物だ。


 サチコのマナを感じるって事はサチコは生きている。サチコは死んでねぇ、助けられるんだ……だから冷静になれ……冷静になって、集中してサチコのマナを辿れ……サチコを救うためにも理性を総動員して感情を抑えねぇと……心を落ち着かせて神経を研ぎ澄ませ……もっと冷静になるんだ俺……そう、もっともっと冷静にっ…………て、なれるわきゃねぇだろくそがああああああああ!!




 今! この瞬間にも! 精霊狩り(かすども)のせいでサチコが苦しんでんだ!!


 くそっ! くそっ!! やっぱ俺が側にいりゃ良かった! 他の奴等なんざ信用ならねぇ。俺が、俺だけがサチコを守れるんだ。


 早くサチコに会いてぇ、サチコの無事を確かめて、そんでもう大丈夫だって伝えて、それから、それから……。







 ……駄目だ……もう、我慢ならねぇ。



「お、おい! クロガネ!? お前何する気だ!?」



 俺が餓狼血牙にマナを込めると、ブラックが焦ったようにぐだぐだと何か言い始めたが全部無視した。


 まどろっこしいのはやめだ。ハナっからこうしときゃあ良かった。


「ブラック……そのまま前へ進め」

「クロガネ!? お前まさか!?」


 ブラックが考え直せと叫んでるが構ってられっか。俺は一刻も早くサチコを助けてぇんだ。


 精霊狩り(ワイルドハント)だろうが、サタンだろうが何だろうが……邪魔するモノは全部まとめて。


「ぶっ飛ばす」


 俺はブラックから飛び降り、サチコのマナが一番強く感じた場所に餓狼血牙を突き立てる。


 マナはずっと下の方を指していた。つぅことはサチコは地下にいるってぇ事だ。それなら、床を壊せば手っ取り早い。


 俺は亀裂の入った床に思い切りマナを解放した。


「爆ぜろ」


 轟音が反響する。足下には大きな穴。俺は重力に導かれるままに、瓦礫と共に落下した。


「待て待て待て待て待て待てぇ!!」


 ブラックが慌てながら落ちる瓦礫を足場に俺の元へと近付くと、そのまま背中に乗せて新たな瓦礫へと飛び移った。


「おまっ……トンでもない無茶をしてくれるなぁ」

「サチコはこの下だ。急げ」

「聞いちゃいねぇし」


 ブラックは呆れたようにため息をつきながら俺の指示に従ってどんどん下へと進んでいく。


 地下までの距離は思いの外長く、暫く暗闇が続いた。目を凝らしながら前を見据えていると、何も見えなかった奥の方から光が見えた。あれが出口か。


「ブラック、あの光の方に向かえ」

「もう向かってるぜ! ご主人様ぁ!」


 ブラックが瓦礫を利用し、落下速度よりも早く出口へと向かう。


 サチコのマナが強くなっていく。もう少しだ。もう少しでサチコに会える!!


 光の方に到達した。暗闇になれた目が刺激され、反射的に目を細める。狭くなる視野にも構わず、サチコは何処にいると薄目のまま彼女の姿を必死に探した。



 視線を動かし、視界に入ったのは凍りついた祭壇。一枚のカードを掲げている男。そして、その側で倒れている、会いたくて会いたくてしょうがなかった人の姿。


「サチコぉおぉおぉぉぉ!!」

「お、おい!」


 もう何も目に入らなかった。持っていた武器を男に投げつけ、ブラックから飛び降りる。


 サチコの近くに行けるよう体勢を変えながら落下する。そして、デッキからカードを取り出し、マナを込めて発動させた。


 爆風をクッションにして地面に突き刺さっている餓狼血牙の上に着地する。瞳を閉じたまま、祭壇の上で横になっている彼女を見て、自然と上がる口角。沸き上がる幸福感。


 サチコだ。サチコだ! やっとサチコに会えた!


 嬉しい! 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!!


 今すぐ抱き締めたい。抱き締めてサチコの温もりを感じたい。もう大丈夫だって、俺が来たから安心しろって囁いて、サチコがこんな奴等に傷付けられる事がないよう、今度こそ絶対に離れねぇ!


 そう心に固く誓いながらサチコに触れようと手を伸ばすが、後ろから感じる煩わしいマナの存在を思い出し、スッと抜け落ちる感情。


 ……あぁ、その前にやる事があったな。 


「おい」


 俺はカードを掲げていた男を睨み付ける。


 見覚えのある青い髪に、くそムカつく野郎を思い出すような憎たらしい顔。


 こいつが氷川ヒョウケツ。サチコを狙って苦しめてる元凶。


 こいつのせいでサチコに刻印が刻まれた。

こいつのせいでサチコは傷付いた。

こいつのせいでサチコは苦しんだ。

こいつのせいでサチコがマナ使いになっちまった!!


 …………殺すか。


「覚悟はできてんだろぉな」

「貴様は例の──」


 俺は跳躍し、奴に向かって足を振り下ろす。後ろに後退して避けられたが、俺は着地すると同時に餓狼血牙を掴み、地面から引き抜いて大きく横に振った。しかし、それも避けられ舌打ちをする。


 ちょこまことうざってぇな。


 燃やし殺すかとカードの魔法で炎を放つが、空間にヒビのようなものが入り、そこから出てきた気色悪い手によって妨害された。更に現れた腕で攻撃されるが、横に避けながら餓狼血牙で受け流す。


「ふ、ふはは……は、ははははははははは! やった! やったぞ! ついにサタンの実体化に成功したぞ!」


 は? こいつ、今なんて……。


「これで、我が悲願がついに叶う!!」


 サタンの実体化?


「憎き精霊共をついにこの手で!!」


 じゃあサチコは? サチコは今どうなってんだ?


 氷川ヒョウケツが転移魔法で消えてくがそんなの気にしてられなかった。俺は後ろを振り返り、サチコの元へと全力で走る。


 サタンの実体化には、加護持ちと五つの刻印を刻まれた贄が必要となる。


 五つの刻印が刻まれた状態でのマナ操作つぅのは、レベルアップの力を知った今ならその原理が分かる。ありゃ、冥界川シリーズの精霊のマナとサタンのマナを循環させて封印をぶち破るっつぅう力業をやるつもりだって事がな。


 つまり、贄はサタンと冥界川シリーズの精霊を繋ぐ触媒の役目を果たす存在。そんなもん、生身の人間がやったら良くて精神崩壊か植物状態。最悪、サチコは死……。


 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!


 だって、サチコのマナはちゃんと感じてるんだ! 呼吸だってしてる! サタンの封印は精霊界にあるんだろ!?


 まだここにいるって事はサタンとマナの循環はしてねぇ筈だろうが! だから、だからサチコが起きないなんてそんな事ある筈がねぇんだ!!


 なぁ、そうだろ? そうだと言ってくれ!!


「サチコ!!」


 名前を呼んでもサチコは目を覚まさない。サチコの頬に触れ、親指で固く閉じられた瞼をなぞる。


「……っ、サチコ」


 なぁ、起きてくれよ。今は寝てるだけなんだろ? 起きて俺の名前を呼んでくれ。そんで、ちょっと呆れながらもしょうがないなって顔して心配しすぎだと、そう笑ってくれよ。


「サチコ」


 もう、お前がいなかった日常なんざ思い出せねぇ……サチコがいない日々なんて……そんなもん恐ろしすぎて考えたくもねぇんだ!!


「サチコ!」


 だから、なぁ……頼むから目を覚ましてくれよ……俺を1人にするなよ……頼むから俺を置いていかないでくれ……お前がいなくなったら俺は……俺はっ!!


「サチコぉおぉおぉぉぉぉおぉぉ!」

「ちょっ、先輩。普通にうるさいです」

「サチコぉおぉおぉぉぉ!?」

「はいはい、サチコです。そんなに呼ばなくても聞こえてま──ふぐぅ!?」


 俺は激情のままにサチコを思い切り抱き締めた。


「サチコぉおぉおぉぉぉ!!」

「いや、だからうるさいですって! 叫ぶならせめて離れて下さい!!」




 あぁ、サチコだ。サチコのぬくもりだ。サチコの声だ。サチコの匂いだ。


 ずっと求めていたモノがこの腕の中にある。


 良かった。本当に良かった。サチコのいない世界なんて考えらんねぇ。想像したくもねぇ。二度とこんな事が起こらねぇように、もう一生離さねぇ。離してたまるか!!


「サチコ……」

「あ、落ち着きました? 話したい事があるんで、一旦離れて貰ってもいいですか?」

「あぁ、俺も……お前と話してぇ事が沢山あるんだ」

「いや、そういうのじゃないです。状況を考えろ。サタンについてに決まってんだろ。私は何ともありませんから離れて下さい。今すぐに」

「あ、そ、そうだな……悪ぃ」


 サチコに叱咤され、我に返る。


 そうだ。今はサタンを追わなきゃならねぇんだった。でも、離れたくねぇ。


 このままずっと抱き締めていたい。精霊狩り(ワイルドハント)とかサタンとか全部投げ出してずっと2人でいたい。直接見るサチコは、写真や動画で見るよりもずっとずっと可愛くて、もっと触れていたいという気持ちが抑えられない。


 あぁ、好きだ。大好きだ。1日も会えなかったからか、好きという感情が溢れて止まらない。


 本当に大好きだ。お前がいるだけでこんなに心が満たされる。すっげぇ幸せだって感じる……あぁ、なんて……なんて……





 愛おしいんだ。






 …………あ? 愛おしい?


 愛おしいって何だ? サチコは友達だろ。


 友達に愛しいなんて感情は可笑しいだろ。でも、どうしてかサチコに対しては好きという言葉よりも、愛しいという言葉のがしっくりくる。


 は? 何だこれ……顔が熱ぃ……心臓が破裂しそうなぐらいバクバクいってる。


「やっと離れ──何でだぁあぁああ!?」


 何故か分からないが、サチコの顔が見れなくて、俺の胸にサチコの頭を押し付けるように抱き締めた。


 だ、だ、駄目だ! なんかこの感情を認めちゃいけねぇ気がする!! 認めちまったら最後、サチコから避けられるような、なんかそんな感じがする!!


 多分、この顔を見られてもアウトだ。何とか元に戻さねぇと! サチコにバレる訳にはいかねぇ!!


「ちょっ! 先輩! いい加減にしてください!!」


 やべぇ! サチコが怒ってる! 可愛い!! 違う! 早くこの顔をどうにかしねぇと!! サチコに避けられちまう!!


 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!どどどどどうすれば……あ、すぐ側にちょうどいい氷塊があんじゃねぇか。


 俺は近くの氷に向かって勢いよく頭をぶつけた。


「だから早く離れ──急なご乱心んんんんんん!? え? ちょっ!? 何っ!? どうしたんですか先輩!?」

「いや、あの……ちょっと頭を冷やそうかと」

「そんな過激な冷やし方あります?」


 サチコが引いてるのが分かるが、赤い顔は血で隠せたし、視界も悪くなってサチコを直視しないで済むから心臓もならねぇ。結果オーライだ。


「影薄!」

「サチコ!」

「あ、ヒョウガくん、タイヨウくん」


 平静を取り戻し、これでサチコの方を見れると意気込んだ所で聞こえた不愉快な声。


 俺とサチコの時間を邪魔するように現れた奴等をギロリと睨んだ。


「五金先輩!? どうしたんだ!? 誰にやられたんだ!? まさか精霊狩り(ワイルドハント)に!?」

「あ゛? 俺がんなヘマやらかすか。自分でやったんだよ!!」

「何で!?」


 うるせぇ。こっちにも事情があんだ。黙ってろ。


「影薄、無事だったんだな?」

「はい、何とか」

「良かった。安心し──」

「それ以上近付くんじゃねぇ」


 サチコに近付こうとして来る青髪を牽制するように、俺はサチコを引き寄せながら餓狼血牙を青髪の前にぶっ刺す。


「てめぇはサチコの半径38万KM以内に入んな。失せろ」

「いや、その前に先輩が離れて下さい。さっきから血がかかってるんですけど」

「あら? 遅かったかしら?」


 俺がサチコをぎゅっと抱き締めていると、天眼家の厚化粧女の声が聞こえた。


「どうやら入れ違いになったみたいね」


 厚化粧女はどうすると後ろにいた親父に問いかけながら振り返る。


「愚問だな。答えるまでもない」


 親父は眼鏡を従えて俺達の前に歩み出ると、ジロリと一瞥して口を開いた。


「さて、現状報告をしてもらおうか」



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