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ph81 集う御三家ーsideケイー


 令状は発付された。ダビデル島付近の港にも昨日から警察とアイギスを配置して厳戒態勢をとるように指示しており、何が起きても対処できるよう万全の準備は整っている。


 そして今、まさに! 転移魔法を使ってダビデル島に上陸し、精霊狩り(ワイルドハント)の一斉検挙へと踏み切った!……のだけれども。


「あー! 嫌だわ! こんな朴念仁と共闘しなきゃならないなんて! 我が財閥始まって以来の恥よ! ちょっと、ワタクシの視界に入らないで下さる? 貴方の顔を見るとイライラするの」

「更年期か? 良い病院を紹介してやろう」

「誰が更年期よ!? ほんっとうデリカシーの欠片もない男ね! リンネ姉さまは何でこんな男と結婚したのかしら!? 未だに理解出来ないわ!!」

「……リンは貴公の実姉ではなかろう」

「姉さまは姉さまよ! あぁ! お優しくてお美しいワタクシのお姉さま! 何でこんな男と結婚したのかしら! 結婚相手がこんな分からず屋でなければもっと幸せになれたでしょうに!!」

「…………」




 助けて! 財閥トップ同士の喧嘩なんて僕には止められないよ!


 ダビデル島に上陸した途端に去っていったクロガネくんが恋しい…。何で直ぐに行ってしまったんだい!? 僕も連れていって欲しかったよ!


 五金総帥を相手に勢いよく噛みついておられるお方は天眼センリ様。天眼家の御当主であらせられるお方だ。


 五金総帥が余程お嫌いなのだろう。顔を合わせた途端に物凄く嫌そうな顔をし、口を開けば罵詈雑言の嵐。


 会話を聞く限り、五金総帥の奥方様であった五金リンネ様が関係しているようだけど、詳しくは分からない。


「それに貴方! いったい子供にどんな教育をなさっているのかしら!?」

「……」

「五金シロガネは……まぁ、お姉さま似だし? ワタクシに対する態度も及第点をあげなくもないけれども! 五金クロガネ!! あの子は昔っからほんっっっとうに気にくわないわ!!」


 クロガネくんか……。


 彼は五金家としても悩みの種だ。それは彼の内に秘められているあの異常なマナが関係している。天眼センリ様がクロガネくんを気に入らないというのも、きっと彼のマナが原因なのだろう。


 彼のマナは受け入れがたい。マナ使いやマナに敏感な者であればあの異常なマナを感じ、無意識に避けてしまうだろう。それは本能的なモノだ。慣れれば表面上は取り繕えるが、心の片隅にある嫌悪感は拭えない。


 彼は悪くないのに、どうする事も出来ないのだ。理由もなく避けられる。それが、どんなに辛い事であるか想像に難くないのに……。


「特に容姿! お姉さまの遺伝子が何処にいったのかと思うくらい昔の貴方にそっくり!!」


 ……あれ? 見た目?


「それだけならまだしもあの性格! 口の悪さ!! 令状の請求の仕方がなってないうえ、言うに事欠いてワタクシの事をババア呼ばわり!! 見た目だけなら未しも中身まで──」

「2人とも楽しそうだねぇ。俺も混ぜてよ」


 突然現れた第三者の声に、五金総帥と天眼センリ様は臨戦態勢を取られる。僕も後れを取らないように慌てながら武器を構えた。


「やぁ」

「あ、貴方は!?」


 休日に出会った友人と軽い挨拶をかわすように声をかけてきたのは、ここにいる筈のないクリス・ローズクロス。ローズクロス家の御当主だった。



「ローズクロス家の当主よ……何故ここにいる」

「勿論、君達と同じ。世界の危機に馳せ参じたのさ」


 クリス様はニコニコと屈託のない笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。しかし、僕にはその笑顔が恐ろしく感じ、自然と武器を持つ手に力が入った。


 何故クリス様がここに? 彼は重要参考人として事情聴取を受けている筈なのに。


 五金総帥も僕と同じ疑問を抱いていたのか、顎に手を当てながらジロリとクリス様を見た。


「ふむ……取調室の食事は口に合わなかったかね?」

「俺って舌が肥えてるからさぁ。せめてフレンチの三ツ星シェフぐらい用意してもらわないと割に合わないんだよねぇ」

「ではそのように手配しよう。アイギスに戻りたまえ」

「話せることは話したさ」



「これ以上拘束したいならもっとちゃんとした証拠を用意しないと。それこそ、令状がでるような物的証拠をね」


 まぁそんな物ないんだけどとヘラヘラ笑っているクリス様に対し、センリ様は不愉快そうに顔を歪め、武器を前に出して牽制した。



「どちらにしても、貴方には待機命令を出している筈よ。とっとと根城へ帰りなさい」

「酷いなぁ。俺だって君達と同じ三大財閥家の当主だよ? 仲間外れはよくないなぁ」

「信用ならないのよ、貴方。ダビデル島を管轄していたのもローズクロス家でしょう? 今回の件も裏で糸を引いているのは貴方ではなくて?」

「おや、司法の番人らしかぬ発言だ。憶測で判断するのはよくないんじゃない?」

「残念な事にワタクシ、公私は別けるタイプなの。憶測による発言が許されるなら、貴方は今ごろ鉄格子の中でしょうね」

「おっかないなぁ」


 往々とした態度を崩さないクリス様とは対照的に、五金総帥は表情一つ変えず、静かに口を開いた。



「件の容疑者である、氷川ヒョウケツ。……彼奴は貴公の行っていた技術開発部精霊課部門において、研究の第一人者を担っていた者であろう?」

「そうだね。だから俺は身内の不始末を──」

「サモンマッチ犯罪捜査規範第14条。被疑者、被害者、その他事件の関係者と親族、その他の特別な関係がある場合、その捜査において疑念をいだかれる恐れのある場合は、上司の許可を得て、その捜査を回避しなければならない」

「……」

「サモンマッチによる犯罪の捜査を統括しているのは私だ。その権限を持って命ずる。貴公はこの件の捜査に関して関与する事を一切認めない」

「……そういうのって、職権乱用って言うんじゃないの?」

「そうかね?規則を遵守した厳正な措置だと思うが?」


 五金総帥とクリス様の間に訪れる一瞬の沈黙。ピリッとした一触即発の空気が肌を刺激し、僕は一歩も動けなかった。



「あー、ヤダヤダ。これだから頭の固い男は……そんなんじゃあモテないよ。君もそう思わないかい? センリちゃん」

「そうね。けど、ワタクシ、軽薄な男はもっと嫌いなの」

「……うーん。ここに俺の味方はいないようだ」


 センリ様にバッサリと切り捨てられたクリス様は、やれやれとオーバーリアクションをしながらため息をついた。


「でもいいのかい? 精霊狩り(ワイルドハント)を捕まえるならローズクロス(おれ)技術(ちから)があった方がいいんじゃない?」

「安心したまえ。必要とあらば呼んでやる。……貴公の期待している事由とは限らんがな」

「そんなに警戒しないでよ。俺は善意で言ってるんだよ? こんな大事件を起こした精霊狩り(ワイルドハント)。それを取り逃がした……なんて事になったら重大な責任問題になるでしょ? だから友人として心配してるのに……本当に君らだけで大丈夫?」



「力しか取り柄のない五金家(のうきん)なのに」

ローズクロス家(がりべん)は黙っていたまえ。任務の邪魔だ」


 こ、怖い! さっきの五金総帥とセンリ様の口喧嘩なんてレベルじゃない! とんでもない重苦しい雰囲気が漂っている。これは財閥間による本格的な争いが始まってしまうのでは!?


 そう、不安を抱きながら震えていたけれど、そんな恐ろしい事態に発展する事はなかった。


 クリス様が五金総帥から視線を反らし、険悪な空気を物理的に絶ったからだ。その様子にホッと息をついていると、クリス様は矛先を変えただけだったのか、センリ様の方へと顔を向けた。



「センリちゃんはどうなの?」

「貴方の力なんて必要ないわ」

「本当に? 大切な探しモノがあるんじゃないの?」

「……何の事かしら?」

「惚けたって無駄だよ。君の息のかかったチームがSSSCに参加してるのは分かってるよ」


 そう言うと、クリス様は目を細めた。


「……2年前に失くした君の大事な大事な宝物を探して──」


 センリ様はクリス様の言葉を渡るように実体化させた武器を顔面スレスレに突きつける。しかし、クリス様は武器を当てる気がないと分かっていたのか、不気味な笑みを浮かべたまま一歩も動かなかった。


「それを……貴方が言うの?」

「なんの事だい?」

「しらばっくれないで! 元はと言えばアンタが!!」

「おっと、財閥間における私闘は禁じられてる筈だよ。天眼家(きみ)が決めた規約でしょ?」

「っ!」

「そうだ。やめておけ天眼家当主よ」

「アンタまでコイツの味方をするわけ!?」

「そうではない。そのようなガラクタ、壊しても意味がないと言っているのだ」

「はぁ!? アンタ何言って──」

「言いたい事があるならば、次は直接来たまえ……私は人形遊びは好きではない」

「なんだ……バレてたの」


 五金総帥のお言葉の意味が分からず、僕も首を傾げていると、クリス様は「君って昔から直感だけはいいよね」と言いながらクルリと首を回転させた。


 えっ!? 首が回った!? どういうことなんだ!?


 僕がそう戸惑っていると、クリス様は得意気な顔で右手を前に出した。そして、右手に切れ目のような線が入ったかと思うと、その切れ目から一枚のカードが出てきた。


 普通の人間ならあり得ないような機械的な断面に、五金総帥のガラクタと言った意味を理解する。


「これ、けっこう自信作だったのに」

「マナの流れが不自然だ。出直して来たまえ」

「マナバッテリーに改良の余地ありと……」


 クリス様らしき機械は、暫くブツブツと呟いたかと思うと、ニッコリと笑いながら顔を上げた。


「分かったよ。今回は手を引くよ」


 どんな心境の変化があったのか分からないけど、クリス様はあっさりと身を引くように背中を向けた。自身の右手から取り出したカードにマナを込めているのか、カードが光輝く。


「何かあったら何時でも連絡してね! 君の頼みなら特別に聞いてあげるよ」

「余計な世話だ。さっさと帰りたまえ」

「本当につれないなぁ。じゃっ! またね! コガネくん、センリちゃん」


 その言葉を最後に、クリス様はカードに描かれていた転移魔法陣の力を使用して姿を消した。同時に揺れる地面と現れる黒い不穏なマナ。


 これは……まさかサタンのマナなのか!? もしかしてもうサタンが実体化してしまったのか!?


「ふむ……時間がないようだ。行くぞ、刺刀」

「は、はい!」


 五金総帥はカードのモンスターを実体化させ、氷山エリアに向かう。僕も置いていかれないように精霊を実体化させて追い掛けた。



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