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ph68 湖沼エリア


 ドライグの背から降りて数十分。私達は湖沼エリアを歩いていた。


 湖沼エリアには大きな湖があり、その湖の中には、大小様々な島がいくつも点在していた。島と島の間には小さな筏木やロープ、つり橋などが設置されており、まるで水上アスレチックのようだなと思いながら、筏木へと飛び乗った。


「サチコ! ヒョウガ! こっち来てみろよ! すっげぇぞ! めっちゃ高ぇ!!」

「お前は何を遊んでいるんだ! さっさと下りてこい!!」


 タイヨウくんはロープで作られたタワーの一番上ではしゃいでいる。ヒョウガくんはそんなタイヨウくんの行動に怒鳴り声を上げ、苛立ちをあらわにしていた。


 私は2人とも元気だなぁ、と遠い目をしながら現在地を確認する為にMD(マッチデバイス)を操作し、マップアプリを開いた。すると、タイミングよく目的の場所でマッチが始まっている事に気づく。


 私はヒョウガくんの肩を叩き、何だと振り向いた彼にMD(マッチデバイス)の画面を見せた。


 今現在、マッチが行われているならば、敵の姿や使用モンスターが分かるかもしれない。丁度良くタイヨウくんが高い場所に登ってくれてるんだし、敵情視察をさせよう。そんな私の考えを察したのか、ヒョウガくんは口を閉じ、私がタイヨウくんに呼び掛ける様を無言で見ていた。



「タイヨウくん! 今、湖沼エリアでマッチをしてるみたいなんだけど、そこからマッチしてる場所見える?」

「任せろ! どっちだ?」

「タイヨウくんの正面を12時として3時の方向。奥から2番目の木々に覆われた島だよ」

「え? 3時の方向?」

「……氷山エリアへの橋は分かる? その橋がある島の右らへん」

「分かった! あそこだな! ……うーん……ぜんぜん見えねぇ!!」


 残念だな。扱ってるモンスターが分かれば、デッキ内容を把握できてマッチを有利に進める事が出来ると思ったのに……。


「分かった。じゃあタイヨウくん下りてきて」

「えー、もうちょっとだけ……」

「相手が100ポイントになったらここまで来た意味がないでしょ。マッチした後ならいくらでも登っていいからさ、今は進もう」

「それもそうだな!」


 タイヨウくんがロープタワーからスルスルと下りてくるのを横目で確認しながら、私は次の筏木へと飛び移った。










 道中、タイヨウくんが水上アスレチックの罠を作動させたり、小島の沼に落ちそうになったり、ロープから足を滑らせそうになったりと、主にタイヨウくんが問題を起こしたせいで時間がかかったが、なんとか目的の場所までたどり着いた。


 体力を限界近くまで使った私は、その原因であるタイヨウくんが元気そうにキョロキョロと周囲を見渡すのを、恨みのこもった目で睨みながら息を整える。


「なぁなぁ、本当にここなのか?」

「その筈だよ」

「でも、誰もいないぞ」

「……妙だな」



 ヒョウガくんはVSアイコンが表示されていた位置に、片膝をつきながらしゃがみ込んだ。


「バトルフィールドが消えていない」


 ヒョウガくんの言う通り、地面にあるバトルフィールドの魔方陣は展開されたままであった。


 MD(マッチデバイス)で行うマッチは、通常のバトルフィールドで行うマッチとは違い、マッチが終わると同時に魔方陣が消える仕組みとなっている。魔方陣が消えていないと言うことは、まだマッチが終了していないと示している事になるのだが。


「まだマッチが終わってないにしては、選手もモンスターもいないのはおかしくない?」

「……ならば、俺達は嵌められたという事になるな」

「え?」

「見ろ。VSアイコンが出ている」



 ヒョウガくんはマップアプリを開き、私達に見えるように湖沼エリアを映した。そして、VSアイコンが私達のいる場所に表示されている事を視認する。


「そもそも、何度もマッチが行われていたならば、湖沼エリアに誰もいないのはおかしくないか?」


 ヒョウガくんの言葉にハッと目を見開く。


 そうだよ。普通に考えてマッチが頻繁に行われているということは、それだけの選手がそのエリアに集まっている事になる。しかし、この場所に来るまで私達は誰にも会っていない。それは、あまりにも不自然すぎやしないだろうか?


「これは選手を誘き寄せる為の罠だ」

「……それならそれでいいんじゃないの? 元々、ここに拠点を築いているチームからポイントを奪いに来たんだし、罠かもしれない事も考慮してたでしょ?」

「ふん。それはSSSC参加者が仕掛けた罠であった場合の話だ」


 ヒョウガくんはマッチアプリを閉じ、周囲を警戒し始めた。


「影薄、マッチをしない状態で、バトルフィールドを展開できるか?」

「え? そんなの普通に起動すれば出きるんじゃ……」


 私はMD(マッチデバイス)を操作し、バトルフィールドを展開しようと試みる。


「……あれ? 出来ない?」

「そうだ。MD(マッチデバイス)はサモナー同士がマッチをする際、サモナーが所持している2つの腕輪にリンクする事でバトルフィールドを展開する仕様となっている。1人で展開する事は不可能なんだ」

「じゃあこのバトルフィールドはどうやって……! まさか……」


 バトルフィールド装置もない。MD(マッチデバイス)が作動してるわけでもない。そんな状況で、バトルフィールドを展開する方法なんて1つしかない。


「……そうだ。マナを使うしかない」

「じゃあ、このバトルフィールドは……」

「マナ使いによるものと考えて間違いないだろうな」


 マナ使いは三大財閥にとっての極秘事項だ。それを扱えると言うことは、三大財閥の関係者、あるいは精霊狩り(ワイルドハント)以外にありえないだろう。



「……せっかく来たけど、また移動した方が良さそうだね」

「そのようだな」

「あ゛ー! 分っっかんねぇ!!」


 私とヒョウガくんの間に張り詰めた空気が流れる中、その緊張を壊すようにタイヨウくんが叫んだ。



「ちゃんと説明してくれよ! 何でまた移動する話になってんだ?」

「……あのね。マナ使いは三大財閥によって秘匿されてるって五金総帥が言ってたでしょ? 三大財閥にとっての極秘事項なら、一般人が……この場合だとSSSC参加者だね。普通の参加者がマナを使える筈がないんだよ。だから、マナ使いによる罠なら危険だし、避けた方がいいねって話だよ」

「何で危険なんだ?」

「SSSC参加者の仕業でないなら、三大財閥関係者か精霊狩り(ワイルドハント)しかありえない。でも、三大財閥関係者が何らかのアクションを起こしてるなら、五金総帥から私達に一報があるだろうし、総帥から何の連絡もないと言うことは、精霊狩り(ワイルドハント)の可能性が高いからだよ」

「何でそれで精霊狩り(ワイルドハント)の可能性が高くなるんだ?」

「いや、だから……」


 め、面倒臭ぇ! 熱血主人公面倒臭ぇ!!


 なんで伝わらないんだよ! 人間性のステータスはカンストしてる癖に理解力は低すぎやしないか!?


 ホビアニ主人公は鈍感で勉強が苦手というテンプレを作った奴は是非とも出てきて欲しい。絶対に怒らないから、小一時間ほど話し合おうではないか。


 

「…………つまり、君の隠したテストの答案用紙、お母さんにバレるから危ないよって話だよ」

「な、なんだってーー!?」

「影薄、諦めるな」


 うるせぇ。だったら君がやってくれよ。


 生憎、タイヨウくんレベルに合わせて説明できる程の語彙力は持ち合わせていないんだ。というか、考えるのも面倒だ。


 私がやる気のないオーラを垂れ流していると、完全に説明する気がないと悟ったヒョウガくんは、溜め息をつきながらタイヨウくんに理解させようと口を開いた。


「はぁ……いいか? タイヨウ、精霊狩り(ワイルドハント)の可能性が高いと判断したのは──」

『おーっほっほっほっほっ!!』


 ヒョウガくんが呆れながらもタイヨウくんに現状を説明しようとした時、その話を渡るように、何処からともなく典型的な高笑いが聞こえた。


『おーっほっほっほっほっ! 見つけましたわよ! おマヌケさん達!!』


 高笑いと共に大きな影が太陽を覆い隠した。いったい何だと見上げると、頭上にはクジラみたいな、大きな飛行船が飛んでいた。


 えっ? 本当に何事!?


 女性の声は少しだけノイズが入り、機械越しに聞こえているようだった。どうやら飛行船のスピーカーから流しているらしい。


『おーっほっほっほっほっ! おーっほっほっほっほっほっ!! おーっほっほっほっほっほっ!!』


 いや長ぇよ! いつまで笑ってんだこの人。


『おーっほっほっほっげほっごほっごほっ!!』


 あぁ、言わんこっちゃない。


 女性は高笑いしずきたのか、途中で咳き込んだ。そして、誤魔化すような咳払いを一つすると、ゼバス! と多分、執事らしき人物の名前を呼んだ。


『着陸よ』

『仰せのままに』


 セバスと呼ばれた人物は礼儀正しく返事をすると、私達にのいる島に飛行船を着陸させる為に、船をゆっくりと降下させた。


 この場にいると、飛行船に押し潰される危険性があると判断した私とヒョウガくんは、キラキラした目で飛行船を見ているタイヨウくんを引っ張り、安全圏まで離れた。


 飛行船はどんどん島へと近づき、着陸したかと思うと光を放ちながら消えた。


 いや、あの飛行船精霊だったのかよ!? 機械属性のカードかなんかか!? 精霊って何でもありなのね!!


 私が心の中で一しきり突っ込みを終えると、飛行船から現れた人物の方へと視線を向けた。


 飛行船から現れたのは、高笑いをしてたであろう典型的な金髪ドリルのお嬢様のような見た目をした女の子と、小学校低学年ぐらいの双子っぽい女の子と男の子。そして、燕尾服を着た、多分、セバスと呼ばれた男性……にしては、いささか小柄な人物がいた。


 金髪ドリルの女の子は、つり目がちな目を更に吊り上げ、忌々しいと言わんばかりに私達を睨む。


「やっと見つけましたわよ! にっくきチームタイヨウの晴後タイヨウ!! 影薄サチコ!!」

「えぇ!? 俺!?」


 えっ!? 私も!?


 ヒョウガくんが、お前らいったい何をしたんだと言う風に半目で見てくるが、今回は本当に身に覚えがない。いくら私でもこんなにインパクトの強い子は忘れんぞ。


 タイヨウくんは知らんがな。


「わたくしは宝船(ほうせん)アスカ!」


 宝船アスカと名乗った女の子は、派手なセンスを閉じ、堂々とした動作で私達にその先端を向けた。


「晴後タイヨウ! 影薄サチコ!! 貴方方に決闘を申し込みますわ!!」



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