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ph67 鉱山エリア


 SSSCが始まってから数時間が経過した。


 今の時間は昼を少し過ぎたぐらいだろうか? 私達以外の選手もポイント争奪戦を一段落させ、次の争奪戦に向けて合流できたメンバーで作戦を練っている頃だろう。


 さっきのヒョウガくんとのタッグマッチでは、私の代わりにヒョウガくんがポイントを賭ける事ができていた。そして、タッグマッチで最後まで残っていたヒョウガくんがポイントを総取りしていた。


 つまり、ポイントが0になった仲間も、仲間同士でのポイントの移動はできなくとも、タッグマッチで勝てればポイントを得られるということだ。


 チームメンバーのポイントが残っている限り、復活できるシステムは厄介だな。私が最初に倒した犬神を使うサモナーも復活してるかもしれない。覚えてろよって言われたし、報復にでも来られたら面倒だ。


 でもまぁ、今はヒョウガくんがいるし、なんとかなるか。


 それよりも、今懸念すべき事は既に100ポイント集めているチームがいる可能性だ。出場の枠がなくなればなくなるほど、ポイントを稼ぐための時間がなくなる。もうそろそろ私たちも残りのポイントを集める為に動き出した方がいいだろう。


 ヒョウガくんもそう考えていたのか、閉じていた目を開き、私の方を見た。


「影薄」

「了解」


 私はMD(マッチデバイス)を起動させ、地図アプリを開いて周囲でマッチが行われている場所がないかを探す。すると、地図アプリに映し出されたタイヨウくんのアイコンが猛スピードで線路の上を移動していた。


 走っているには早すぎるな、ドライグに乗っているのだろうか? 私達のアイコンに気づいてこっちに向かっているのか? いや、機能に気づいているなら一度くらい連絡してくるはず。


 しかし、通信履歴はない。ならば何故? このまま向かってきても行き止まりだし、線路だって途中で切れて……私はそこまで考え、冷や汗が流れた。


「あの、ヒョウガくん。これを見て欲しいんだけど」

「どうした?」

「タイヨウくんの動きがちょっと変でさ……」

「変だと?」


 ヒョウガくんが怪訝そうな顔をしながら地図アプリのアイコンを見る。すると、私と同じ考えに至ったのか、口角を引き攣らせた。


「私の考えすぎだったらいいんだけど……」

「杞憂に終わる事を祈れ」

『ああああああああ!!』


 絶妙なタイミングで響き渡るタイヨウくんの叫び声。私とヒョウガくんは一瞬だけお互いの顔を見合うと、トロッコ用に作られた木造の線路の方へと走った。


「影薄! どっちだ!」

「右上!」


 ヒョウガくんは私が伝えた方向を向き、何が起きてもいいようにデッキに腕輪を構えた。私も同じようにデッキに手を添え、ヒョウガくんの後ろに控える。


『あああああああああ!!』


 どんどん近づいてくるタイヨウくんの叫び声。その音と一緒に激しく鳴り響く線路の音。そして、坑道の奥に見えた暴走トロッコに必死にしがみついているタイヨウくんが見え、自分の予想が確信となった。


 ほんと、期待を裏切らない男だよね。タイヨウくんは。期待通りすぎて泣きそう。帰っていいかな?


「ヒョウガ!? サチコ!! 頼む! 助けてくれええ!! 止まらないんだあああああ!!」

「あっっっっっの馬鹿が!!」

「ここまでくると逆に尊敬するわ。タイヨウくんまじリスペクト」

「軽口を叩いてないで手伝え!!」


 ヒョウガくんはデッキからカードをドローし、マナを込めて氷結魔導銃を装備した。そして、銃で的確にトロッコの車輪を狙い、凍らせて止めようとするが、車輪の勢いが強すぎるのか氷は破壊され、止まらない。


「氷塵の鎖!!」


 ヒョウガくんは氷の結晶でできた鎖をトロッコの前にバリケードのように張るが、それも上手くいかず、トロッコは鎖を破壊して前に進む。


「くっ、効かないか」

「いや、ちょっと遅くなったかも」

「本当か!?」

「あ、やっぱ気のせいだった」

「流石に怒るぞ!!」


 ごめんて。そんな気がしたんだよ。


 トロッコはもう目前まで迫っている。とりあえずダメもとでやってみるかと影法師を呼び出す。


「影法師、影縫い」

「はいはーい!」


 影法師はトロッコの影に潜り込み、トロッコの動きを止めようと試みる。


「ああああああああああ!!」

「ああああああ! まずだあああああ! でれないいいいいいいい!!!」

「……被害者が増えたか」

「遊んどる場合か!!」


 影縫いでは無機物を止めることは出来ないのか。うん。勉強になった。

 

「もうこれ純粋な力比べしかないんじゃないかな?」

「……そのようだな。コキュートス! 氷龍の宝玉を装備だ!」

「影鬼。血の代償を使用してからの凝結暗鬼」


 私とヒョウガくんは、影鬼とコキュートスを実体化させ、それぞれのカードで強化させてトロッコを待ち構える。そして、こちらに向かっているトロッコを捉えた瞬間、私とヒョウガくんに鈍い衝撃が走った。


「うっ」

「くっ」


 精霊の負荷が私達を襲う。影鬼は精霊ではないが、私のマナで実体化させているので精霊と同じように負荷がリンクし、衝撃が伝わる。


「ドライグ! 湖からの目覚め!!」


 タイヨウくんも手伝うようにコキュートス達より少しだけ後ろにドライグを実体化させ、同様にトロッコを捕ませた。


「と ま れええええええええええ!!」


 3人同時に叫び、トロッコを止めようと奮闘する。無理に車輪を止めようとしているせいで、嫌な金属音が坑道内で響いた。










 私達が頑張った結果、レールはひしゃげ、トロッコは線路から脱線して転がっている。


 トロッコを止める事に成功した私達は線路の上に大の字で寝転び、ゼーゼーと荒ぶる呼吸を整えていた。


 つ、疲れた。マジで疲れた。せっかく休んで体力を回復させた筈なのにすっからかんになった。暫くは動きたくない。もっかい休めないかな。


「……それで、タイヨウ。なぜあんな事になっていた」


 仕切り直しと言わんばかりに、ヒョウガくんは上体を起こすとタイヨウくんに問いかけた。タイヨウくんも同じように起き上がり、私達に向き合うように座った。


「それがよぉ、あのトロッコさ、マナで動くみたいでさ」


 マナで動くトロッコ? それどんな原理で動いてんの?


 ……あー。でも、精霊とカードの力を合わせてなんとか止める事ができた代物だったしねー。それぐらい特殊でも変じゃないかー。深くは考えないぞ。ドツボにハマるから。


「ちょーっとマナの量を間違えてあんな事になっちまったんだよな」


 2人がいてくれて助かったぜ! ありがとな! と、呑気に宣うタイヨウくんに、ヒョウガくんは青筋を立てながらタイヨウくんの頭を拳で殴った。


「いっっってぇぇぇ!!!」

「お前はっ! ここが敵地だという自覚があるのか!? もっと慎重に行動しろ!!」

「そ、そんなに怒るなよ。合流できたんだし、結果オーライだろ」

「そういう問題ではない! 少しは考えろと言っているんだ! 何かあってからでは遅いんだぞ!!」

「悪かったって。今度からは気をつけるからさ」

「お ま え は! いつもいつもそう言って成長せんではないか!!」

「あー、ヒョウガくん。ストップ。落ち着いて」


 エキサイトするヒョウガくんを、宥めるように会話に入る。


 休みたいのは山々だが、このまま騒ぐのは不味い。周囲に私達の居場所を知らせるようなものだ。ただでさえトロッコ騒動で騒音を撒き散らしていたのに、口論までしていたら襲われても文句は言えない。


「もう過ぎた事をしつこく言っても仕方がないでしょ。タイヨウくんの言う通り、合流できた。それでいいでじゃん」

「だが!」

「これからは私達と行動するんだし、ちゃんと見張ってればいい話でしょ」


 ヒョウガくんはまだ何かを言いたそうだったが、渋々と口を噤んだ。タイヨウくんは助かったと言うようにキラキラした目で見てくるが、君の行動を容認したわけではないぞ。


「タイヨウくんも! ヒョウガくんは間違った事は言ってないからね。これからはチームで動くんだから、度をこすような行動は慎むように。ハナビちゃんに言いつけるよ」

「お、おう」


 ハナビちゃん効果か、タイヨウくんは気まずそうであったが素直に返事した。よし、これで大丈夫だろう。


「タイヨウくん。今のポイントは?」

「俺? 25だぜ!」

「じゃあ、チーム合計は68か……あと32ポイントはどこで稼ごうか」


 ちょっと騒ぎ過ぎたし、鉱山エリアで稼ぐにしてもここからは離れたい。さて、どうしようか。3人で頭を悩ませ、次の行動について模索していると、自然と転がっているトロッコに目が行った。









「ひゃっほおおおおおう!」

「影薄、次の分かれ道を左だ」

「はいはい」


 キィンと金属音を出しながらトロッコが左に曲がる。マナの貯蔵お化けのタイヨウくんは楽しそうに叫びながらマナをトロッコに送り、そのマナを私が調整してトロッコを操作する。ヒョウガくんはMD(マッチデバイス)の地図を見ながら指示を出した。


「で、これ今どこに向かってるの?」

「湖沼エリアだ」

「その心は?」

「ここを見ろ」


 ヒョウガくんは私の近くに来ると、湖沼エリアの地図を見せながら指を差した。


「一定の間隔でマッチが行われているが、アイコンの位置が同じ、というのは意図しないかぎりありえない。十中八九、どこかのチームが拠点を築いているのだろう」


 ヒョウガくんが示した場所は湖沼エリアから氷山エリアを繋ぐ橋の近くだった。ヒョウガくんのいう通り、アイコンの場所が全く動かないのはおかしい。敵が潜んでいるとみて間違いないだろう。


 氷山エリアに隣接している橋の近くに拠点を築いているということは、すぐにゴールできる位置にいたいチーム。ある程度ポイントを稼いでいて、100ポイントまでもう少しってところまできている可能性が高い。


 つまり、ポイントを相当溜め込んでいるというわけだ。


「じゃあ、そのチームから根こそぎポイントを奪うってわけね」

「あぁ」


 テンションが上がってマナの出力が上がり過ぎているタイヨウくんに注意しつつ、トロッコ操作に意識を向けながら前方を見る。すると、何やら人影のようなものが見えた。その人影らしきものはトロッコが迫っているというのに線路から微動だにせずこちらを見ている。


「はっはー! ネクラ女! ここであったが100年目ぇ!!」


 人影の正体は少年だった。ネクラ女という事は、多分、私の事だと思うのだが、いかんせん記憶にない。


「知り合いか?」

「いや全く」

「そうか……俺達には目的がある。こんな事で時間を浪費するわけにはいかん。轢け」

「りょーかい。タイヨウくん、アクセル全開」

「いやいやいや! それは流石にまずいんじゃねぇのか!?」


 我がチームの良心、タイヨウくんが本当にいいのか? って目で見てくる。謎の少年はもう一度俺とマッチしろ! と叫んでおり、タイヨウくんもマッチぐらいいいんじゃねぇのか? と訴えてくる。


 ……が、ああいう手合いの再戦は断るようにしているんだ。クロガネ先輩で学んだ教訓だな。これ以上ストーカー予備軍が増えるのは勘弁願いたい。


「タイヨウくん。実は私、シロガネくんをこの大会で見かけたんだ」

「え!? ほ、本当か!? シロガネは何処にいるんだ!?」

「それが……洗脳されてるみたいで、精霊狩り(ワイルドハンド)の手先に……私、心配で心配で……っ!!」

「な、なんだってーー!?」


 ヒョウガくんが白けた目で見てくるが。すまん、もうちょっとだけこの茶番に付き合ってくれ。


「洗脳されて苦しんでいるシロガネくんを、一刻でも早く助けるためには仕方のない事なの」

「……そっか、シロガネのために」

「そう、シロガネくんのために」


 タイヨウくんはちょっと悩んでいるようだったが、すぐにシロガネの為だもんなとマナを思いっきり注ぎ込んでくれた。


 うん。君のその扱い易い性格大好きだよ。


「えっ!? 嘘だろ!? 止まれや! とまっ! ああああああああああ!!」


 少年は見事に吹っ飛ばされて坑道の彼方へと消えた。ギリギリで精霊出すの間に合ってたようだし、なんとかなんだろ。というか、犬神を使ってた少年だったのね。見事にフラグ回収しちゃったよ。安らかに眠ってくれ。


「……タイヨウくん? もうマナ全開じゃなくていいんだよ?」

「こうしてる間にもシロガネがヤベェんだろ!? ゆっくりしてらんねぇよ!」

「いや、そういう問題じゃなく……」

「影薄! そこは中央じゃない!! 右だ!!」

「え!?」


 ヒョウガくんに言われ、急いで舵を切ろうとするがマナが多過ぎてコントロールが効かない。仕方がないとブレーキをかけようとレバーに手をかけるが、少し力を入れただけで取れてしまった。


 は!? 何事!? 私そんなに力強くなってたの!? って、んなわけあるか! 一体全体どうして……。


「あ、わり……。1人で乗ってた時に壊しちまってたんだ」


 トロッコの中で嫌な静寂が流れる。呑気に忘れてたぜ! とふざけた事を抜かしやがるタイヨウくんを殴っても許されるだろう。


「タイヨウおおおおおおおお!!」

「いっっっっ!!!!」


 ありがとうヒョウガくん。ちょっとスッキリしたよ


「くっ、仕方があるまい。ルートを変更してトロッコに注ぎ込んだマナが無くなるまで……」


 ヒョウガくんの言葉が不自然に途切れる。嫌な予感がしつつもどうしたのと問いかけると、ヒョウガくんは固い動きで私の方を振り返った。


「レールがない」

「……」

「へ?」

「このまま行くと、坑道を飛び出して海へ落ちる」

「……壁に衝突じゃなかっただけマシか」

「ええええええええ!!」

「タイヨウくんうるさい」


 ヒョウガくんがタイヨウくんとの合流を頑なに避けようとしたり、もっと考えろと怒鳴った理由を身にしみて実感したわ。ヒョウガくんは今までタイヨウくんの尻拭いをしてたのね。本当にご苦労様です。……いや、今回は不用意にシロガネくんの事を話したり、あの少年に絡まれたりしたのは私のせいだ。私にも責任がある。


「ど、どうすんだ!? 俺ら海に落ちちまうのか!?」

「ええい! 騒ぐな!! 今考えている!!」

「……タイヨウくん、もっとマナの出力上げれる?」


 私の提案に、タイヨウくんは気の抜けた声を出す。ヒョウガくんはハッと私の意図を察してなるほどなと頷いた。


「どうせ止まれないなら限界までスピードを上げよう。そうすれば、滞空時間を稼げる」

「ならば飛行能力持ちの精霊、もしくはモンスターカードが必要だな」


 この暴走トロッコから地面に落ちるのはリスクが大きい。ならば、空中に飛び出した瞬間に精霊に拾ってもらった方が安全だ。


「島には精霊を使って移動できないように防護壁(シールド)が貼られてある」

「じゃあ防護壁(シールド)に掛からないように飛行できた方がいいね。私なら上手く操作できそうだけど、残念ながら飛行能力持ちのモンスターカードは持ってないんだ」

「ならば精霊に頼るしかないか」


 私とヒョウガくんの視線が同時にタイヨウくんの方へと向く。タイヨウくんはトロッコにマナを注ぐのに夢中で気づいていない。限界までマナを使っているのか、肩で息をしながら、もういいか? と頻りに聞いてくる。


「タイヨウ、汚名返上のチャンスだ」

「へ?」

「頼りにしてるよ。タイヨウくん」

「な、何を!?」


 マナを使いすぎて息が絶え絶えになっているタイヨウくんに向かって、私たちは死刑宣告をした。








 ドライグの背に乗りながら束の間の空の旅を満喫する。マナお化けのタイヨウくんと言えども、ドライグを実体化させた事でマナが尽きたのか、魂が抜けたように寝転がっていた。


 そんな姿のタイヨウくんに向かってドライグは情けない! と言いつつも心配しているようだった。ツンデレ龍の爆誕である。いいコンビになったものだな。


「ドライグさん、よろしければあの橋のとこまで飛んでもらってもいいですか?」

「わしに命令する気か!? 小娘!」

「そんな恐れ多い。貴方のような偉大な龍からお慈悲を頂けたら嬉しいという細やかな願いです」

「ふん! ならばいい! 飛んでやろう!」

「ありがたき幸せ」


 扱いやすさ100%だな。適当に下手に出てりゃ言うこと聞くのか。これはいい情報を得たな。


 地上に降りたらまた走り回ることになるだろう。私は瞳を閉じて、少しでも体力を回復できるように休むことにした。



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