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ph62 火山エリア


 あ゛っっっづい!!


 ヒョウガくんと共に向かった火山エリアは当然のように暑かった。


 地面から火山ガスが吹き出してるし、すぐ側には溶岩の川が流れている。


 こんな危険地帯を散歩するとか、新手の拷問か? こんな事になるなら自分の意見を強引に押し通して鉱山エリアに向かえば良かった。そうすればこんな灼熱地獄のような暑さに苦しむ事はなかったのに……。


 そもそも、ゲーム画面の中でしかありえないようなデタラメな景色に、こんな場所歩いてて大丈夫なのか? ガスって有害じゃなかったか? 私死んだりしないよね? といった不安が押し寄せてくる。


 しかし、ふと冷静な私が、普通の人間ならとっくに死んでいるだろうと、前世とは常識が違うんだからマジレスするなと囁いた。


 そうだよ。普通なら既に死んでるんだよ。でも、公式の運営が死者が出るような会場を用意するはずがないし、これぐらいのステージは常識の範囲内ってことだ。


 つまり、ここは小学生が歩いても危険のない暑いだけの安全なステージということだね! なぁんだ。心配して損したぁ。それなら安心だぁ……とでも言うと思ったかクソ運営がぁ!!


 SSCみたいに会場でのマッチで十分だったろうが! そもそもカードの大会でサバイバルって何!? 小学生にそんな危険なことやらせんな! 死んだら末代までたたってやるからなド畜生!!


 大会の運営に対し、心の中で悪態をつきながら流れる汗をハンドタオルで拭った。すると、まるで逃がさないと言わんばかりに固く握られた手が視界に入りうんざりとする。


 これ、いつまで繋いでいるのだろうか? いい加減離して欲しいのだが。汗でベタベタになったら嫌なんだけど。


「影薄」


 ヒョウガくんが振り返り、私の名を呼んだ。彼が歩みを止めたので、つられるように私の足も止まる。


「索敵を頼めるか?」


 ヒョウガくんは辺りを警戒するように見渡している。周辺には溶岩だけでなく、死角になるような岩陰がたくさんあり、いつ敵が飛び出してきてもおかしくはない。何があっても対応できるように地図では分からないような地の利を調べたり、敵選手の位置を把握しておいた方がいいだろう。


「……おーけー。影法師」


 特に反論する理由もないので素直に頷き、影法師を呼び出して周辺を調べるようにお願いした。


 いつものように私と離れるのは嫌だと駄々をこねたが、これまたいつものようにご機嫌取りをすると、やる気に満ち溢れ、意気揚々と影に溶け込んで行った。本当にチョロい相棒で助かるよ。


「そんなに時間はかからないと思うけど、ちょっと休まない?」

「そうだな」


 ヒョウガくんは私の意見に同意するように安全な岩に寄りかかる。手が繋がったままの私も、必然的にヒョウガくんの隣に並ぶように岩に寄りかかる事になった。


「……あの」

「何だ」


 ヒョウガくんが恒例の話しかけるなポーズを片腕で行おうとしていたので、離すなら今がチャンスだと口開く。


「手、離さない? 繋いでたら組みにくいでしょう」

「あ、あぁ……そうだな……」

「……」

「……」

「……ヒョウガくん?」

「! ……あ、いや……」


 いやに歯切れが悪いな。もしかして、私が火山エリアに行くことを渋ったから逃げ出すんじゃないかって警戒してるのか? 私ってそんなに信用ない?


「……別に逃げたりしないよ。ちゃんとここにいるって」

「そうか……そう、だな……」


 渋々と離すヒョウガくんに、これはまだ疑われてんなと諦め、ひとまず自由になった右手に解放感を感じながら伸びをした。


「ヒョウガくん。ポイントは?」

「17だ」

「へぇー。けっこう集めたね。タイヨウくんは……うわっ、22もある」


 腕時計型端末こと、ヒョウガくん曰くMD(マッチデバイス)を操作しながら、チームポイントの確認を行う。


「私の6ポイントと合わせたら、45ポイントか……ほぼ半分だね」


 こうやって残り55ポイントも簡単に集める事が出来たらいいのだが……。


「私達以外のチームもポイントを集めてると考えると……」

「脱落者が出ているだろうな」


 ヒョウガくんの言う通りだ。私達以外のチームも着々とポイントを稼いでいる筈だ。ならば、脱落チームが出ていてもおかしくはない。


 これから戦う相手は、各都道府県のSSCを勝ち抜いた猛者達を蹴落とし、生き残っているチームだ。一筋縄ではいかないだろう。


 時間が経てば経つほど強敵とマッチする羽目になる。ならば、最初の方にヒョウガくんに言われた通り素直に隠れたりせず、なるべく多く稼いでおけば良かったと後悔した。



「……ここら辺にいる選手のデッキ偵察に行かない? 少しでも相手のデッキ構成が分かれば勝率が上がるだろうし、やっておいて損はないでしょう?」

「必要ない」

「……いやまぁ、ヒョウガくんが強いのは知ってるけどさ、万が一って事にならないよう念には念をって言うでしょ?」

「ふん、どんな奴が相手だろうと勝つ。小細工なんぞ不要だ」

「ごめん。言い方を変えるね。私が自信ないの。だからちょっと影法師と合流して偵察に行ってくるよ」

「待て」


 せっかく離した手をもう一度捕まれ、私の腕を引っ張っるように止められる。


「必要ないと言っているだろう」

「だからね。私が……」

「お前は強い。どうせ杞憂に終わる。大人しくここにいろ」



 ……うん。曇りなき眼で言いきるのやめて? それ過大評価だから!!


 なんっっでこんなに評価上がってんだ!? 私の実力は五金家での訓練で散々見たんじゃないの!? 先輩にボコボコにされてたじゃないか! あれを見てどうやったら強いと思えるのか甚だ疑問なのだが!!


 だいたい、ヒョウガくんともマッチしたんだし、私の実力は分かって…………あれ? ちょっと待て。私、ヒョウガくんとマッチしたか? ちょっと思い出せないぞ。


 タイヨウくんとはしたな。基本的には先輩とマッチしてたけど、先輩がいない時はタイヨウくんとマッチしてた。勝率はあんまり良くなかった。そんで、ヒョウガくんからも声かけられてマッチをしたような……いや、何回か先輩が入ってきたな。それでも一回ぐらいは…………。


 あれ? 私、ヒョウガくんとマッチした記憶がないんですけど!?


 いやいやいやいや! 絶対一回はやってる! 何回か声かけられたし! その時の記憶をたどれば……。


 ダメだ。先輩に邪魔された記憶しかない。


 ヒョウガくんが私に話しかける毎に先輩が入ってきて、言い争いに発展して最終的にキレたヒョウガくんが先輩とリアルファイトしかり、マッチしかりでバトッてた記憶しかない。


 つまり、私はヒョウガくんとマッチしたと思っていたけど、実際は間近で見ていただけだったということか……。


 先輩あの野郎! マジで空気読めないなアイツは!! お陰で誤解されたまんまじゃないか!! どうしてくれんだコン畜生!!


 この勘違いのせいで下手に負けてせっかく築き上げたヒョウガくんからの信頼がパーになったらどうなる! また最初の頃みたいにギスギスしたらSSSC中の行動に支障が出てしまうだろうが!!


 ……くっ、シロガネくんを助ける迄は、この勘違いを継続させないと。強そうな相手は上手いこと避けて、デッキ相性が良さそうな相手を見繕わなければ。


 その為には、ヒョウガくんにバレないように、影法師に周辺にいる選手のデッキ構成を調べてもらおう。相性有利なら頑張れば、何とかなるかもしれない。


「影薄?」

「え? な、なに?」


 やべ、つい考え込んでヒョウガくんを無視してしまった。貴方に隠れてデッキ偵察する方法を考えてましたなんて言えない。怪訝そうに見てくるヒョウガくんを、どうやって誤魔化そうか。


「どうした? 痣が痛むのか?」

「いや、そういうんじゃないよ。ただ、ヒョウガくんにそう言って貰えるのは嬉しいけど、期待を裏切ることになったら申し訳ないなぁ、なんて……」


 本音を交えた嘘はバレにくいと言うし、負けても一気に信頼を失わないよう保険をかけとくか。


「まぁ、私なりに精一杯頑張るよ。だから負けても幻滅しないでね」

「するわけないだろう!!」

「え?」

「あ、いや……」


 私の言葉に、ヒョウガくんは食いぎみに反応した。私が目をパチパチさせて驚いていると、ヒョウガくんは口をもごもごさせ、何やら呟いている。


「お前には色々と助けられた……だから……その……不安にならずとも……俺が……」


 何だ? さっきからずっと要領得ないな。何が言いたいんだ彼は。


「ヒョウガくん、あのさ……」

「おーっと! お楽しみのところ失礼するじゃん?」


 突然降ってきた第三者の声に、私達は手を離し、背中合わせになる。そして、警戒するように辺りを見渡すと、頭上から日差しを渡るような影が現れた。


 声の主は私達が休んでいた岩の上に立っていた。私とヒョウガくんは急いで岩から離れ、腕輪を構える。


「続きは俺とのマッチの後にしてくれよ。勿論、島の外でな」


 真っ赤な髪をした同い年ぐらいの男の子が、岩の上から飛び降りて私達の前に立つ。


 己の強さに余程の自信があるのだろうか? それとも、何か考えがあっての行動だろうか?


 人数不利である筈なのに、男の子は余裕のある笑顔で腕輪を構え、マッチを仕掛けようとしている。


 彼の意図は分からないが、2人で叩けるのならば好都合だ。ヒョウガくんの方を見ると、彼も私を見ていた。彼も私と同じ事を思っているのか、こくりと頷く。


 よっしゃ。2対1ならいける。それに、ヒョウガくんもついているんだ! このマッチ貰ったも当然だ!


 ダッグマッチはやったことないけど、私とヒョウガくんのモンスターは全て闇属性が入っているし、何とか──


「貴様の相手は俺だ」

「お!」


 な ん で だ よ !!


 一方的にボコれるチャンスを何故逃す!何だ? 多対1はお前のポリシーに反するのか? 今はそういう騎士道精神みたいなのはいらねぇんだよ。


 私を庇うように前に立ったヒョウガくんに、物申そうと前に出ようとしたところで、また新たな人物が上から降ってきた。


「アボウ」

「ラセツ!」


 アボウと呼ばれた赤髪の男の子は、新たに現れた緑髪の男の子──ラセツくんに向かってニッと笑う。


「遅いじゃん!」

「…………」

「お前が来なけりゃ先にやっちまってたぜ」

「…………」

「何か言えよ!」


 アボウくんは、ラセツくんに向かってじゃんじゃん喚いているが、ラセツくんはどこ吹く風。澄ました顔でスルーしていた。


 2人の自然な雰囲気に、多分、この言い争いは日常的に行われているんだろうなと察する。


「ほんっと! お前ってしゃべんねぇじゃんよ! いっつも言ってっけど、そんなんじやぁやってけねぇじゃん! どうす──」

「マッチ」

「……あぁ、そうだったじゃん」


 ラセツくんの一言で私達がいることを思い出したのか、アボウくんは思考を切り替えるようにすっと目を細めた。


「お前ら! 俺らとポイントをかけてマッチするじゃん!」


 アボウくんは、腰に手を当てながら、堂々とした態度でこちらに人差し指を向ける。


「チマチマ集めんのは性に合わねーもんでね。ここはどどーんとダッグマッチにして1人につき10ポイントかけようぜ!」


 鼻息荒く、得意気に宣言したアボウくんには悪いが、私のポイントはそんなにない。


「あの、すみません」

「なんだ?」

「私、6ポイントしか持ってないんで、合わせてもらっていいですか?」

「はぁー!?」


 話の腰を折るような私の言葉に、アボウくんは大声を上げた。


「たったの6ぅ!? 今まで何してたんだよお前は!」


 アボウくんが苛立ち気味に近寄って来ようとしたが、ヒョウガくんが間に入って睨み付ける。


 ヒョウガくんの態度に不快そうに顔をしかめるが、直ぐに何か合点がいったのか、あーなるほどね、と呟いた。



「ソイツがお前の騎士(ナイト)様ってわけか」


 アボウくんはそう言った途端、見下したような目で私を見る。


「いーんじゃねぇの? チーム戦だし? そぉいう助け合いってのはアリよりのアリだ。勝てばいいんだからな」


 アボウくんは両手を頭の後ろで組むと、つまらなそうに唇を尖らせた。


「けど残念だわぁ。やぁっと骨のある奴とマッチ出来ると思ってたのによぉ。足手纏い付きとやっても面白くないじゃんよ。なぁ、やっぱシングルマッチにしねぇ? 俺の相手は青髪つぅことで!!」


 あー……まぁそう思われてもしょうがないよね。実際そんなに強くないしね。それに、嘗められた方が意表突けるし好都合だな。


「撤回しろ」


 私がもっと嘗めて油断してくれないかなと思っていると、隣からドスの効いた声が聞こえた。


 あ、あれ? ヒョウガくん? 何か物凄く怒ってる?


「影薄は足手纏いではない」

「へぇー? そうは見えねぇけど?」

「少なくとも、相手の技量も分からん貴様なんぞよりも強い」

「……口では何とでも言えるじゃん」

「ふん、ならば影薄の不足分は俺が払おう」

「いいのかよ? そんな事して」


 ホントだよ! 無駄にハードル上げるなよ! 負けたらどうすんだ!!


「構わん。どうせ勝つのは俺達だ」

「…………へぇ、言うじゃん」


 あー、言っちゃったよ。これ、やっぱなしですってならないかなぁ。


 そう期待を込めて相手の方を見るが、アボウくんは楽しそうに下嘗めずりをして臨戦態勢を取っている。


 はい、無理ですね。知ってましたよ。


「ラセツ! 行くぜ!」

「……」


 アボウくんの言葉に、ラセツくんも腕輪を構えた。


「ひと暴れするじゃん! コーリング! 牛頭鬼! 火車!」

「……コーリング。馬頭鬼、鉄蟻」


 アボウくんとラセツくんの場にモンスターが召喚された。牛頭鬼と馬頭鬼ね……どうやら彼等の精霊は地獄の獄卒コンビのようだった。ダッグマッチが強そうな精霊だな。


「影薄」

「あー、もう……分かったよ」


 殺気もやる気も満々なヒョウガくんに、説得は無理そうだと観念し、賭けポイントの数値が20となるのを大人しく見守る。


 これで負けたら私は事実上の脱落。そして、ヒョウガくんの残りポイントはたったの3ポイントになる。絶対に勝たなければ。


「敵を凍てつくせ! コーリング! コキュートス! ウェンディゴ!」

「コーリング。影ほ……!」


 ヒョウガくんがモンスターを召喚し終えるのと同時に、私も召喚しようとしたが、そこで影法師が不在だった事を思い出す。


 精霊が不在のカードは、カードから絵柄が消え、マッチで使用することが不可能になるのだ。


 つまり、私は今、デッキの主力モンスターが使えないのである。


 し、しまったぁあぁぁあ! 影法師がいないことをすっかり忘れてたぁあぁぁ!!


 ど、どうしよう……影法師軸でデッキ組んでるのに! 相棒不在とかヤバい! 兎に角代用できるカードを出さないと。ヒョウガくんとのダックだし、闇の統一は崩したくない。何か良いカードは……!


「コーリング! 雪女! 影鬼!!」


 影属性がないのはきついけど、雪女の属性は氷、闇、妖怪だ。氷、闇、冥界軸でデッキを組んでいるヒョウガくんと相性は良い筈。なんとかこれで乗りきるしかない!!


 相手に私の動揺が悟られないようにゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせる。そして、覚悟を決めてマッチ開始の宣言をした。


「レッツサモン!!」


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