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ph5 サチコVSクロガネ

 相手の魔方陣が回る。先行はクロガネ少年のようだ。クロガネ少年はドローをすると、手札から一枚のカードを取り出した。


「俺はMP1を消費してブラックドッグに地獄の牙を装備する! 装備したモンスターは攻撃力がプラス1される!」


 ブラックドッグはダブルアタック出来ないが元々の攻撃力が3ある。そのため、通常攻撃力が4になった。


「更に俺はMP1を消費して魔法カード獄炎を発動! このフェイズ中、モンスターを1体指定して攻撃力をプラス1する!!」


 クロガネ少年はブラックドッグと一瞬だけアイコンタクトをする。


「勝負だ! ブラック! 目障りな影法師から潰せ!!」


 ブラックドッグが牙に炎をまといながら、影法師を噛み砕こうと襲いかかる。


「私はMPを2消費して影法師のスキル影縫いを発動! ブラックドッグをこのフェイズ中攻撃不能にする!!」

「なら魔法カード発動だ! MP2を消費して地獄の判定発動! このフェイズ中相手モンスター1体のスキルを無効にする!」

「くっ! ならMP1を消費して魔法カード影隠れ発動! 影法師避けて!」

「……チッ、うざってぇな。んならガルム! 影法師を攻撃!」


 ガルムの攻撃を受け、影法師の体力が10から9になる。


「俺のフェイズは終了だ」

「じゃあ私の番ですね」


 私は無言でドローし、自分の手札を確認した。


「私はMP1を消費して冥界の使者の衣を装備します」


 私は具現化した死神のような黒いローブを羽織る。これで攻撃が成功した回数分MPが回復する。


 前回、彼とマッチした時レベル1モンスターはクー・シーという妖犬だったがガルムという地獄の番犬に変わっている。


 これが彼なりの対策なのだろうか? ガルムがどんなスキル持ち分からないが、カウンター系でも身を守る魔法カードはあるし、様子見をかねて攻めてみるか。


「私は装備カード影の双刀を影法師に装備。このカードは攻撃力1のモンスターを二回攻撃できるようにする。更に、MP3を消費して影鰐のスキル影喰らい発動。スキルを使用した時の攻撃が全体攻撃になる。影鰐、相手モンスターを攻撃。影法師はガルムを2回攻撃」


 私の指示通りに、影鰐と影法師が攻撃を仕掛けた。


「ハッ……俺はMP1を消費してガルムのスキル渇いた血を発動! このフェイズ中受けたダメージ分MPを回復する!」

「!」


 まずい! さっきの攻撃でMPが6まで回復させてしまった!! ということは、ブラックドッグのスキルを発動させてしまう!!


「MP4消費してブラックドッグのスキル死への誘い発動! このフェイズ中に受けたダメージに加え、ブラックドッグの攻撃力ぶんのダメージを相手モンスター1体に与える!! 標的は影法師だ! 喰らえ!!」

「私はMP2を消費して魔法カード冥闇の吸引を発動! 相手から受けるダメージを半減し、半減した分のMPを回復する!」

「チィッ!!」

「っ、あぁ!」

「ますたー!!」


 鋭い痛みが体を走る。魔法カードで事なきを得たが、あの攻撃をまともに食らっていたらと思うとゾッとする。


 攻撃力10とかエグいわ。たけど、怪我の功名というやつか、私のMPは7まで回復した。


 ガルムを倒しておきたいが、今は相手モンスターのスキルが発動中だ。下手にMPを回復させたくないし、無駄なダメージも負いたくない。


「……私はMP2を消費して魔法カード影映しを発動。自身の手札を相手と同じ枚数になるようにドローする」


 よし、これで手札を増強できた。MPも5で余裕がある。


「私はMP3を消費して魂狩りを装備します。そして魂狩りの効果発動。相手のMPを2奪う」

「くそっ」


 これで相手のMPを0にできた。少しでも削ってブラックドッグの機能を停止させなければ、火力のゴリ押で負ける。


「私はフェイズを終了します」

「俺のフェイズだ! ドロー!」


 クロガネ少年の手札が4枚になる。彼の今のMPは3……どう動く?


「俺はMP1を消費してガルムのスキル渇いた血を発動! さらにMP1を消費して魔法カード魂削りを発動! 自身のモンスターの体力を3削り、その分MPを回復する!」

「!」


 ガルムのスキルとのコンボか! これで彼はMPを6も回復させた。そして、ブラックドッグにも繋げる事ができる。


「MP4消費してブラックドッグのスキル死への誘いを発動! 対象は影法師!」


 私の手元にモンスタースキルを無効化できるカードはない。 


「まずは1体だ……ブラック!!」

「影法師!!」

「悪いね、嬢ちゃん」

「ます、たー……」


 影法師がこちらに向けて手を伸ばすが、ブラックドッグから溢れ出す闇が影法師を飲み込んだ。フィードバックのダメージが全身を襲う。


「~っつ!! わ、たしはMP1を消費して影の双刀を破壊し、効果発動! 装備モンスターがダメージを受けたとき、体力を1残して耐える!!」

「なら通常攻撃だ! 影法師を狙え!! ガルム!」

「MP1消費して魔法カード影の変わり身を発動! 攻撃対象を影法師から影鰐に変更する! 更にMP2を消費して影法師のスキル影縛りを発動! ブラックドッグの攻撃を不能にする!!」


 このフェイズは耐えれたが、残り手札は1枚。MPも次のフェイズで5は回復する。


 しかし、ガルムの効果は使われてしまうだろう。そうすれば死への誘いを発動され、ガルムを倒せたとしても打点のない私は次のクロガネ少年のフェイズで完全に詰みだ。


「……なんだ……こんなもんか……」


 クロガネ少年の失望した声が聞こえる。


 彼も勝ちを確信したのだろう。大会で、デッキ相性完全有利でクロガネ少年を圧倒していた時とは裏腹に、手も足も出ないままサンドバッグにされている私に、興味を無くしたかの如く視線を反らした。


 もう彼の目に私が映ることはないだろう。結局名前も教えずじまいだったが、名乗ったとしてもあの様子なら忘れるに違いない。






 なにそれ最高か? というか、私の予想当たっていたな。このまま順調に負ければ、またいつも通り平和な学園生活に戻れるわけだ。


 彼と接点を持ち続けたら、何か面倒臭いことに巻き込まれそうな気がすると、私の第六感が告げている。こういった予感は従った方がいいだろう。


 よし、全力で戦うから思う存分叩き潰してくれ。


「……何、ヘラヘラしてやがる」

「え?」


 おっと、表情に出ていたようだ。気を付けなければ。


「負けてんのに何が楽しいんだよ!!」


 ちょっと笑っただけでそんなに怒る!? 沸点低すぎないか!?


 いや、予定通りに事が進んで少しニヤけてしまったが、そこまで不愉快だったのだろうか? それともクロガネ少年が情緒不安定なだけなのか……。


「てめぇにはプライドがねぇのか? そこらの有象無象と同じように、負けても楽しければいいと綺麗事ほざくのかよ!!」

「クロガネ! 落ち着け!」


 あれ? これはどんでもない勘違いされているのでは? 別にマッチが楽しいとか思ってないのだが、なんか面倒な流れになっていないか?


 君、さっきまで私に興味なくしてたよね? これ何かのフラグとかそんなんだったら止めて欲しいのだが…。


「うるせぇ!! サモンマッチはなぁ! 勝たなきゃ意味ねぇんだよ!! 勝ち続けなければ……勝ち続けなければ俺は……存在する価値はねぇんだ……」

「クロガネ……」


 いや本当に待って!! ストップ! タイム!! レフェリー時間を止めて!!


 なんかクロガネ少年の闇が見えるんですけど!? 精霊と揃って重苦しい雰囲気出すの止めてくれ!! 君らの事情は知らんが、これ負けていいの? え? 負けていいんだよね?


 でも、何かこのまま負けたらクロガネ少年の闇が深くなりそう何ですけど!!


 これ完全にアレだよ。主人公がマッチしながらカウンセリングして、逆転勝利からの改心させるやつじゃねぇか。


 ちょっとタイヨウくん呼んできてくれ。早急に。貴方の力が必要です。



「……っ、俺は!! 大会で勝利に貪欲な姿のお前を見て……俺と同じだと思ったのに……」


 いや、本当にすみません。君みたいに深い事情とかなかったんです。ただお金が欲しかっただけなんです。


「結局……お前も……」


 クロガネ少年は唇を噛み締めながら俯いた。表情は影に隠れて見えないが、拳が白くなるほど強く握りしめている姿を見るに、彼の心情は想像に難くない。


 ……私は決して善人などではない。


 ボランティアの募集があっても誰かに誘われなければいかないし、活動日に予定があれば自分の都合を優先する。募金も買い物した後お釣が数円だったときに気が向いたときにしかしないし、ニュースで殺人事件があっても大変だなと思うくらいで完全に他人事だ。


 家族や仲の良い友人が困っていたら自分ができる範囲で助けるが、知人程度なら適当に流すことも多い。そんなドライで自分本意な人間だ。たけど……。


「何、勝った気でいるんですか?」


 さすがに目の前でこんな姿を見せられて知らん顔をするのは忍びない。


 私はクロガネ少年に気の聞いた言葉を掛けれるほど彼も彼の事情も知らないし、クロガネ少年もぽっと出の私なんかに知ったかで発言されたら不愉快だろう。


 だから、私にできることはこのマッチで勝つことだけだ。


 よくあるキッズアニメじゃ、主人公が敵を倒して仲間になる展開があるし、これもその展開だと期待してやってみよう。どこまでできるか分からないが、今の状況を抗うことが出来ればクロガネ少年の心は少しは晴れてくれるかもしれない。


 晴れなかったら? それは知らん。そこまで私は面倒見らんぞ。タイヨウくんを呼んでくれ。


「まだ、マッチは終わってませんよ」


 私は覚悟を決め、デッキに掌を乗せて深呼吸する。


「私のフェイズです! ドロー!!」


 私はデッキから勢いよくカードを引いた。





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