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ph55 襲撃


「もお〜! 僕、すっごく探したんだからね!」


 エンちゃんは頬をぷくっと膨らませる。とても可愛らしいが、彼女の見た目に騙されてはいけない。それで一度痛い目に合っているのだ。二度と油断するものか。


「SSCが終わってぇ、サチコちゃんの事をボスに報告したらさぁ、サチコちゃんの事欲しいって言われたんだぁ〜。それからずぅっと探してたんだよぉ」


 訓練に参加してよかったぁぁああ! 過去の私グッジョブぅぅぅ!!


 マジで危なかった。これ参加してなかったら確実に襲われてたじゃん。エンちゃんは悪の親玉にどんな報告をしたんだ。私の何処に気に入られる要素あんだよ。全くもって理解できないのだが!


 というか、敵に捕まるとかそれなんてヒロイン? やめろよ。嬉しくないしガラでもないんだよ。私が囚われのヒロインとか誰得なんだ。ヒロインポジションはハナビちゃん1人で十分だろ。


「さぁ、サチコちゃん! 僕と一緒に──」

「そこまでだ」


 シロガネくんが、エンちゃんの視界から私を隠すように前に出る。


「彼女がどうなろうが僕にとってはどうでもいいが、一般市民が襲われているのをアイギスとして見過ごすことはできない。何より……」


五金(ぼくたち)に喧嘩を売ってタダで帰れると思うなよ。犯罪者が」

「う〜ん」


 シロガネくんがエンちゃんを威圧するように凄んでいるが、当の本人は全く気にせず唇に人差し指を当てながら呑気に唸っている。


 ……今、エンちゃんの意識はこちらに向いていない。助けを呼ぶならチャンスだと私はこっそりとスマホに触れる。


「ねぇ」


 突然話しかけられ、バレたかと焦りスマホから手を離してしまった。


「五金兄弟って1人死んでて今は2人なんだよねぇ?」

「……それが何か?」

「じゃあ二択かぁ〜」


 エンちゃんは面倒臭そうに唇を尖らせ、聞いてもいないのにベラベラと話し出す。


「実はねぇ? サチコちゃんもなんだけどぉ〜、五金家のお坊ちゃんのどっちかも連れて来いって命令されててぇ、でもでも!! 僕、興味がなかったからさぁ〜どっちを持っていくのか分かんなくてぇ〜」


 何でだよ。普通なら五金財閥の息子さんの方に興味持つだろ。私に興味を持った理由を説明してくれ。善処するから。勿論、持たれない方向に。


「あ! 思い出したぁ! サチコちゃんと仲良い方って言ってた! じゃあじゃあ、サチコちゃんと一緒にいる君の方かな? やった! 僕ってばラッキ〜!!」


 多分、それクロガネ先輩だわ。完全に人違いだわ。


 この状況どうすんだとシロガネくんの反応を見る。


「僕たちを連れてどうするつもりだい?」


 シロガネくんは物凄く嫌そうな顔をしていたが、すぐにお得意の作り笑いを披露し、ワザとらしく私の手を握った。


 あ、相手の話に乗って情報収集するつもりなんですね。オーケー把握した。でももうちょっと軽く握ってくれません? 嫌々なの分かるがクッソ痛いんですけど? あと演技するならその不服オーラしまえや。


「それはぁ〜、ついて来てからのお楽しみだよぉ!」


 エンちゃんは炎の斧を実体化させ、プレゲトーンの背中を蹴って宙に浮かぶ。


「プレゲトーンやっちゃってぇ!! あ、殺しちゃダメだよぉ」


 プレゲトーンは私達に向かって突っ込んでくる。私は咄嗟に影法師を実体化させた。


「影法師! 影縫い!!」


 影法師のスキルが決まり、プレゲトーンの動きが止まる。その隙を見逃さずに、シロガネくんはミカエルを呼び出した。


「ミカエル! 裁きの光だ!!」


 ミカエルの天秤が光輝き、プレゲトーンにダメージを与える。


 シロガネくんはスキルを発動させているミカエルに向かって飛び、右足で肩を思いっきり蹴ったかと思うと、ブロードソードを実体化させて浮かんでいるエンちゃんに向かって振り下ろした。


 エンちゃんはそれを斧で受け止め、激しい火花が散る。


「あはっ! やるねぇ!」

「その余裕すぐに無くしてやる!!」


 エンちゃんに弾き飛ばされたシロガネくんは消えたかと思うと、エンちゃんの真後ろに現れる。それに反応したエンちゃんは振り返り、斧と剣での激しい打ち合いが始まる。


 鉄のぶつかり合う金属音が何回か聞こえ、止んだかと思うと、2人は腕輪にスライドするように触れ、魔法カードの効果を現実化させた。爆発音が響き、エンちゃんとシロガネくんは屋上に降り立つ。


「アルケシア! 溶岩造形!!」

「神の封印紋!!」


 エンちゃんがモンスタースキルを発動させようとするが、シロガネくんはすかさずスキルを無効にする魔法を発動させた。


 そのまま、屋上で武器の攻防を始めた2人を見て私は思った。


 お前らマッチしてくれ! 頼むから!!


 何リアルファイト始めてんの!? ふざけてんの!? ここはカードバトル系アニメっぽい世界ですよ!? 頼むからルールを守って安全にマッチしてくれ!! 私はただの一般人なんで君らが何やってるのか目で追えないんですけど!?


 とりあえず、影法師でプレゲトーンの動きを封じたまま冷静にスマホ操作してケイ先生に電話する。


 状況が状況なので取り込み中かなと思ったが、ケイ先生はワンコールでた。


「あ、ケイ先生ですか? 今時間は──」

『サチコちゃん!? 君今どこにいるの!? まさか1人じゃないよね!?』

「……アイギス本部の屋上にいます。シロガネくんと一緒です」

『今精霊狩り(ワイルドハント)が攻めて来たんだ!狙いは君とクロガネくんの2人だ!!』


 あ、はい。知ってます。


『絶対に動かないで! シロガネくんからも離れないでね!! すぐ迎えを……』

『死ねやオラァ!!』

『くっ!!』


 通話が切れ、ツーツーっと虚しい音がスピーカーから聞こえる。


 さっき渡守くんの声が聞こえたな。アイツも来てたのか。今ここで倒したら、SSSC参加しなくても良くならないかな。


「シロガネくん。ケイ先生から君と離れるなって言われたんだけど……」

「邪魔だ! 離れてろ!!」

「あ、はい。すみません」


 怒られた。まぁ確かにあんなバトル漫画顔負けの戦闘シーンに私がついていける訳がないわな。言われた通り大人しくしておこう。  


 体操座りをしながらボーっと2人の攻防を眺めつつ、影鬼も実体化させ、影法師と影鬼とミカエルの3体でプレゲトーンがエンちゃんに加勢できないように完全に動きを止めた。戦闘には参加できないが、これぐらいはしないとな。


 おっ、エンちゃんの斧が落とされた。この勝負シロガネくんの勝ちかな?


 シロガネくんがエンちゃんの首元に剣を突きつけている姿を見て、勝負あったなと安堵するが、エンちゃんを庇うように炎を纏った虎が現れ、まだ終わったわけではないと気を引き締め直す。


 シロガネくんは虎から距離を取るようにバックステップで後ろに下がった。そして、こちらを見て鬼気迫るような表情で口を開く。


「バカッ! 後ろ!!」

「え?」


 シロガネくんの指摘にすぐさま振り返ると、大きな蛇がいた。感情のこもっていない、機械的な瞳で私を見ている。その様子からこの大きな蛇は精霊ではなく、カードを実体化させただけのモンスターであることが分かった。


 鋭い牙が私に襲い掛かり、慌てて逃げ出すが間に合いそうにない。


 やけくそで魂狩りを実体化させ、臨戦体制を取るが、モンスターの牙が私に届く事はなかった。ミカエルが間に入り、守ってくれたのだ。


 ミカエルにありがとうとお礼を言いつつ、逃げるようにシロガネくんに駆け寄った。


 辺りを見渡すと実体化したモンスターに囲まれ、四面楚歌状態。


 想定していた以上の大規模な襲撃に冷や汗が流れる。


「シロガネくん、シロガネくん」

「何かな?」

「これ、結構不味い状況では?」

「全然余裕だけど?」


 こんな時に見栄張んなバカやろー。


 仕方があるまい。疲れるからあんまりやりたくなかったがやむを得ないな。


「影法師!!」

「はいはーい!」


 私は影法師を呼び寄せ、マナを循環させる。


「いくよ! レベルアップ!!」


 視覚化されたマナが影法師を覆い、一瞬にして破壊僧影法師の姿へ変貌する。


「影法師! 影縫いの術!!」

「御意!」


 影法師を中心にお経のような文字が地面に描かれ、周囲にいたモンスター全ての動きを止める。


「うぐっ!!」


 全身にズシリとした重みを感じ、思わず膝をついた。


 何これどちゃくそきっつい!!


 マッチと違って、発動している間ずっとマナを吸い取られてる感じがするんですけど!? しかも、拘束しているモンスターが抵抗すればするほど多くのマナを消費していく……。


「……その様子じゃあ数分も持ちそうにないね」

「えぇそうですね。ですが、数分持つなら十分です」

「何か策でもあるのかい?」

「シロガネくんが戦っている間にケイ先生に連絡しました。間もなく助けが来ると思います」

「なるほど」


 シロガネくんは剣を構え直してミカエルを側に呼んだ。


「なら、その間は守ってあげるよ。ついでに火川エンを拘束すればいいんだね」

「話が早くて助かります」


 エンちゃんの発言から、理由は分からんがこの襲撃の目的は私とクロガネ先輩を捕らえることだと推測できる。ならば、その目的の達成が不可能になれば深追いはして来ないだろう。


 ボスと直接話せる間柄という事は、エンちゃんは精霊狩り(ワイルドハント)の中でも重要な立ち位置にいる可能性が高い。彼女を捕らえ、加勢にくる味方と合流できればこちらに勝機はある。


「へばるなよ」

「そっちこそ」


 ミカエルはエンちゃんに向かって飛び出し、シロガネくんは影縫いの術から免れたモンスターを私に近づけないように剣を振るい、魔法を放つ。


 私は魂狩りを杖のように使いながら、少しでもマナの消費を抑えられるように集中する。


 よし、少しだけだけど余裕が出てきた。シロガネくんの動きを観察し、彼の死角にモンスターが入り込んだのを確認すると、魂狩りを振るってモンスターの実体化の為に込められたマナを奪い、消滅させる。


 私にはシロガネくんのようにモンスターを倒せるような力はない。それなら力の源を奪えばいいのではないかとやってみたが、上手くいって良かった。しかもこれならマナの枯渇を心配する必要はなさそうだ。


 シロガネくんがチラリと視線を送ってきたので、私も彼の方を一瞥し、お互いに背中合わせになって周囲を警戒する。


「動けるかい?」

「余裕」


 シロガネくんがエンちゃんの元に向かうのに合わせて私も足を動かす。


 影縫いの術に囚われているモンスターからマナを奪い補充し、新たに向かってくるモンスターを捕らえる。シロガネくんは私の取りこぼしたモンスターを次々と切り伏せ、エンちゃんの元へと確実に近づく。


「ぐっ、ミカエル!!」


 順調かと思えたが、シロガネくんの苦しむような声が聞こえた。何事かと周囲を確認すると、ミカエルがレベルアップしたプレゲトーンに貫かれ、消滅していた。


 フィードバックか!!


 私はシロガネくんを守るように前に出て、思いっきり大鎌を振り、周りにいたモンスターのマナを奪って消滅させた。


 シロガネくんの体力が回復するまで時間を稼ごうと、もう一度大鎌を振ろうとするが思うように動かない。

 

 いつの間にか私の両腕に赤い鎖が這うように纏わりついていた。その鎖の先にはエンちゃんがいる。


「サチコちゃん……つっかまぁえたぁ」


 しまった!


 鎖を振り払おうをしても上手くいかない。力づくで無理なら魔法カードだとデッキから腐朽の呪術のカードを取り出す。


「無駄だよぉ」


 鎖を魔法カードの効果で取り外し、これで自由に動けると思った瞬間、暗い、ドス黒い闇のような触手がエンちゃんの体からぬるりと這い出る。


 見ただけで分かる。これに捕まったらヤバいと。しかし、避けようにも私の後ろにはシロガネくんがいる。何か手はないかと頭をフル回転させるが、ドンっと体に走る衝撃。


 あっ、終わった。


 私は抵抗できずそのまま倒れる。地面に頭をぶつけ、鈍い音と感じる痛み。反射的に目を瞑る。


 最悪だ。最悪すぎるが、まだ大丈夫だ。相手は私に何らかの利用価値を見出している。すぐに殺されるような事はないはずだ。明日になったらタイヨウくん達がダビテル島に来てくれるんだし、そこで逃げられれば……って、あれ? おかしいな? 触手に拘束されてるはずなのに締め付けられている感覚がないぞ?


 状況を確認するためにゆっくりと目を開けると、目の前にはシロガネくんの顔。そして、感じる人一人分の重み。


 これは、私はシロガネくんに押し倒されているのか? なんで……!?


 その理由を瞬時に悟る。シロガネくんの体には、あの禍々しい触手が纏わりついていた。


 なんで? どうして私はシロガネくんに庇われているんだ? お前そんなキャラじゃないだろ。誰かを庇うようなキャラじゃない癖に、もっと合理的で、必要ならば他人なんぞ見捨てるような……タイヨウくん以外どうでもいいみたいな……そんな、キャラの癖に……。

 

「……どう、して」

「言っただろ……一般市民が襲われるのはアイギスとして見過ごせないと」


 敵の目的は私とクロガネ先輩だ。危険な組織だが、エンちゃんが殺してはダメだと言っていたし、利用価値のある私が殺される可能性は低いだろう。


 ……でも、それならシロガネくんは? 誤って捕らえた人間を生かしたままにしてくれるだろうか? 人違いと知ったら、シロガネくんの扱いは……いやでも五金財閥だし、下手な事は……下手な事はしない人物が五金財閥を襲撃なんてするか? そんなん、そんなの……最悪の場合シロガネくんは殺され……。


 なんだこの展開。おい、ふざけんなよ……。お前、私の事嫌いな癖に何庇ってんだ。馬鹿じゃないのか? こんな、こんな後味の悪い展開なんて……。


「サチコおぉおおおぉぉ!!」


 先輩の声が聞こえる。やっと加勢が来たのだろうか? というか、先輩も狙われてるからあえて連絡しなかったのに……いや、今はそんな事はいい。加勢が来たならまだ間に合う! シロガネくんを助けないと!!


「あーあ。時間切れかぁ」


 エンちゃんの体が消え始める。同様にシロガネくんの体も透明になって行く。私はシロガネくんを連れて行かせないように服を掴んだ。

 

「シロガネくっ──」

「サチコさん」


 シロガネくんを掴んでいた手が振り払われる。シロガネくんは見たこともないような穏やかな顔をしていた。


「タイヨウくんを、頼んだ」


 タイヨウくんを頼むって何? お前、そんな大事なこと気に食わない私に任せていいのかよ。タイヨウくん大好きなんだろ? なら、自分の力でどうにかしろよ! あんなトラブルメーカー私の手に負えるか!!あんなのに喜んで付き合えるのは君ぐらいしかいないのに……だから、行かないでよ……頼むから行くなよ!!


「シロガネくん!!」


 必死に止めようと手を伸ばすが、私の手は宙を掴み、シロガネくんは消えてしまった。


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サチコが連れてかれたifも見てみたいです!
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