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ph54 サチコVSシロガネの決着


 私はドローしたカードを手札に加えながら、これからどうしようかと考える。


「影薄サチコ! 早くレベルアップをしろ!!」


 私のMPは3、手札は4枚ある。対するシロガネくんのMPは0、手札は1枚だ。


 シロガネくんは催促するように声を荒げているが、この手札ならレベルアップするのは今じゃない。とりあえず、エウダイから処理しよう。


「私は装備カード、影の双刀を影法師に装備! 攻撃力1のモンスターを2回攻撃できるようにする! そのままバトル! 影法師、エウダイを攻撃!」

「りょーかい!!」

「うぐっ!」


 シロガネくんはレベルアップを警戒してカードを温存しているのか、影法師の攻撃を防御せず、そのまま通す。エウダイの体力は0になり、消滅した。


 さて、問題はここからだ。ミカエルの体力は12。影法師のままではこのフェイズで倒すのは無理だ。しかし、今レベルアップしてもシロガネくんのあの手札が気になる。ここは少しでもミカエルの体力を削り、相手の出方を見よう。


「影法師! そのままミカエルも攻撃!」


 ミカエルにもダメージを与える事に成功し、ミカエルの残り体力は11となった。


 MPを回復したかったが、影法師の攻撃力が1の為、冥界の松明の効果では回復が出来ない。一旦フェイズを終了させ、次のフェイズが回ってきた時に一気に攻めよう。


「私はこれでフェイズを終了させ──」

「ふざけるな!!」


 シロガネくんは、私のプレイに納得できないと言わんばかりに大声を出した。


「なぜレベルアップをしない!? 僕を馬鹿にしているのか!!」


 肩で息をしながら、まるで親の仇を見るかのように鋭い眼光で睨まれる。


「それとも何か? 僕に同情しているとでも!? レベルアップができず! SSSC参加資格を剥奪され! 父上に見限られた僕を!! だからわざと負けて僕に施しを与えてやろうと言うのか!? 何様のつもりだ!? 君なんかの同情なんていらない!! 虫唾が走るんだよ!!」

「全然違います。勝手に決めつけるのはやめてください」


 私は冷静に、エキサイトしているシロガネくんの言葉をバッサリと両断した。


「同情? そんなもん私が君にするわけがないでしょう。勘違いも甚だしい」


 構えていた腕輪を下ろし、シロガネくんをじっと見つめる。

 

「いい加減、我慢の限界なんですよ。私に対する態度もですけど、1番はクロガネ先輩に対する態度にです」

「……何? 説教でもする気かい? 愚兄に対する態度を改めろと?」

「いや、別に。そういうわけじゃないです。そもそも、君たち兄弟の事情を知らない私が何かを言える立場じゃないですし、あんな態度を取るのは、シロガネくんなりの理由があるのでしょう?」


 シロガネくんは、私の発言に不可解だと顔を顰める。


「改めろなんて言いません。けれど、誰だって大切な友人を貶されたら腹が立つでしょう? それだけの話です。君だって、タイヨウくんが貶されたら怒るじゃないですか」

「……つまり、君は何が言いたいんだ?」

「君のことは常々ぶっ飛ばしたいと思っていました。手を抜く? まさか、私はシロガネくんの鼻をへし折る気満々なんですよ」


 私はシロガネくんに人差し指を向ける。


「だから覚悟して下さい。それが君の最後のドローになる。次の私のフェイズで君は敗北しますよ」

 

 自信満々に言い放ち、やれやれと両手を上げた。


「それに、レベルアップは自分のフェイズじゃなくとも出来るんです。悔しかったらさせてみたらどうです? 君のフェイズで」


 私の上を行くんでしょう? と挑発すると、シロガネくんは片手で顔を覆った。


「ハッ……本当に君はムカつく。腹が立って仕方がないよ」


 肩を震わせているシロガネくんの表情は見えない。


 今、彼がどんな感情なのか分からないが、気のせいだろうか? 少し、私に対するトゲがほんの少しだけだかなくなったように感じた。


 シロガネくんは顔を覆っていた手を下ろし、挑戦的な笑みを浮かべる。


「お望み通り引きずり出してやる」


 シロガネくんはデッキからカードをドローし、手札は2枚、MPは3になった。


「僕は手札から道具カード知恵の実を発動! デッキからカードを2枚ドローする!」


 うわっ、ここで手札増強カード引くのかよ。やっぱシロガネくんも持ってるな。


「バトルだ! ミカエル! 影法師を攻撃だ!」

「私はMP1を消費して影隠れを発動! 影法師、避けろ!」

「ならば僕はMP1を消費して、天の鎖を発動! このカードは自身のモンスターの攻撃を回避された時に発動することができる! その回避を無効にする」


 影の中に神々しい鎖が入り込み、影法師をグルグル巻きにした状態で引きずり出した。ミカエルの剣が影法師を切り裂き、残り体力は2になる。


「うぐ!」

「MPを1消費し、魔法カード天使の先導を発動! 自身のモンスター1体を再攻撃させる事ができる! ミカエル!!」

「させるか!! 私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動!」

「ワンパターンなんだよ! 僕は天界の盾の効果を発動! チャージされている数値を使用し、MPを回復する!!」


 なっ、天界の盾って、攻撃力を上げるだけじゃなくてMPも回復できるのか!?


「僕はMP2を消費して魔法カード、神の封印紋を発動! このフェイズ中、全てのモンスターはスキルを使用する事ができない!!」


 バトルフィールドの魔法陣とは違う紋様がフィールドに描かれる。その紋様から光が放たれ、ミカエルを捕らえていた影法師の影が消えた。


「さぁ影薄サチコ! レベルアップを使えぇ!!」


 自由になったミカエルが、影法師に向かって剣を振り上げる。シロガネくんの言う通り、このままこの攻撃を喰らえば私は負けるだろう。


 というか、あの時の残り1枚のカードは神の封印紋だったのか。やっぱレベルアップしなくて正解だったな。レベルアップモンスターは強いが、使用コストがでかくて扱い辛い。スキルを無効化された時のリスクが大きいのが難点なんだよね。


  ミカエルの剣が影法師の目と鼻の先まで迫った時、ピタリと不自然に止まった。


「ミカエル? どうし……!?」


 シロガネくんは何かに気づいたように言葉を止める。


「な、何故だ!? 影法師はスキルを使用できないはず!!」


 シロガネくんの言う通り、影法師の影縫いが発動していた。影法師のスキルによって動きを封じられたミカエルは、剣を振り下ろしかけた格好のまま止まっている。


「魔法カード、侵食する闇を発動」


 影法師から黒い血が滴り落ち、神の封印紋を侵食していく。


「自身のモンスター1体の残り体力を半分にする代わりに、相手の魔法カードを無効にし、その魔法カードに消費したコストのMPを奪う」


 最近は影鬼主軸だったせいか、私のデッキは攻撃特化のものになっていた。しかし、私のデッキの本質は相手のMPを奪い、したい事をさせない妨害デッキだ。


「消費コストは2、でしたよね? 有効活用させていただきましたよ」


 1度目の影縫いは不発に終わってしまったが、封印紋を無効化し、再発動させて貰った。これでミカエルは攻撃できない。


 シロガネくんは悔しそうにフェイズ終了の宣言をする。再び回ってきた私のフェイズ。手札は2枚になり、MPは3になった。


「君の手札は0。MPも0。降伏提案(サブミット)するなら今のうちですよ」

「っ、誰がするものか! ミカエルの体力はまだ11もある! それに対し、君の影法師の体力は1! 攻撃力も1! 何ができるっていうんだ!!」

「言ったじゃないですか、さっきのフェイズが君の最後のドローだって」

「……ついにレベルアップする気になったのかい?」

「いや?」


「レベルアップなんて必要ない」


 と、かっこよく宣言したが、ぶっちゃけギリギリな状況なうえ、ここでレベルアップさせるのは戦略的によろしくない。むしろコストが重くなるだけである。


 しかし、シロガネくんにお灸をすえるならこう言ったほうが良いだろうと、こうした方が彼に響くかもしれないと余裕寂々な態度を取り繕った。


「私は道具カード死者の書を使用する。効果は、自身のダストゾーンに送られたモンスターのスキルを、必要なコストを払い、使用することができる。私はMP3を消費し、影鬼のスキル凝血暗鬼を影法師に使用する!! 影法師の攻撃力は元々の体力から減った数値分、この攻撃の攻撃力が上がる!!」


 さっきのフェイズ、私はこのカードを使用するために、あえて影法師の体力を1まで削らせたのだ。影法師の減った体力は9。これで今の影法師の攻撃力は10となった。シロガネくんにこの攻撃を守る術はない!!


「影法師! ミカエルを攻撃!!」

「任せて!」


 影法師の血によって生成された鎧を纏い、ミカエルを攻撃する。ミカエルの残り体力は1になり、冥界の松明によって私のMPは5回復した。


 影鬼のスキルの効果はなくなり、影法師の攻撃力は1になるが問題ない。むしろ、影の双刀の効果を使うためには1に戻す必要があったのだ。


「私は影の双刀の効果を発動! 攻撃力1のモンスターを2回攻撃できるようにする! 影法師、もう一度ミカエルに攻撃!!」

「させるか! 僕は自身の天界の盾をミカエルに装備させる! 装備されたモンスターは1度だけ相手からのダメージを受けても体力を1残して耐える! そして使用後は破壊され、ダストゾーンに送られる!」


 天界の盾がシロガネくんから離れ、ミカエルを守るように影法師の前に立ち塞がる。


 やっぱそう簡単に攻撃を通すわけないか、冥界の松明でMPを回復させていて良かった。お陰でさっき引いたこのカードを使える。


 私は手札に残っている最後のカードを掴んだ。

 

「私はMP2を消費して魔法カード、腐朽の呪術を発動! 相手の装備カードの効果を無効にし、破壊する!!」


 天界の盾はボロボロに崩れ落ち、ただの鉄塊となった。影法師の前は開け、ミカエルに向かって真っ直ぐに突き進む。


「やれ! 影法師!!」


 影法師の攻撃がミカエルに当たる。手札も何もないシロガネくんに防御する術はなく、ミカエルの体力は0になった。


「う、ああああああああ!!」


 ミカエルは消滅し、シロガネくんはフィードバックの痛みで叫ぶ。


 ……一応、マナ操作して痛まないようにはしていたんだが。そんなに痛かったのか? ちょっと罪悪感湧くなこれ。


 勝敗が決まると共にバトルフィールドを生成していた魔法陣は消え、私達を覆っていた透明な膜は消えた。


 私はマッチが完全に終わったことを確認し、蹲っているシロガネくんに歩み寄る。


「……僕は負けたのか」


 シロガネくんは呆然と呟いていた。


「ただの凡人にこの僕が……レベルアップも使用されずに負けるなんて……」


「ありえない……」


「ありえないありえないありえない!! 僕は負けない! 負けるはずない!! 負けることは許されない!! 勝ち続けなければ僕は、僕は僕は僕は!!」

「いい加減にしろ!!」


 私はシロガネくんの胸ぐらを掴んだ。


「一回負けたぐらいで何? 負けるってそんなに悪い事なの?」


 クロガネ先輩の時も思っていたが、負ける事が許されないとか頭おかしいだろ。


 五金家の教育方針どうなってんだ。自分の子供に厳しすぎだろう。絶対勝利とか教えてんのか? 普通に無理だろ、常識的に考えて。


「言っとくけど、君が馬鹿にしているクロガネ先輩は、凡人の私に何十回も負けてるからね。でも、一回の負けでへこたれる君と違って、何度負けてもめげずに挑んで来た」


 シロガネくんがレベルアップして私が敗北するのが最善だと思っていたが、このマッチ、負けちゃいけない気がした。ここで私が負けたら、シロガネくんが変われない気がしたんだ。


「何度も負けては挑んで、何度も悔しい思いをして、そうして強くなっていった」


 敗北に耐性のないシロガネくんのままだと、後々大変な事になりそうだと思ったんだ。


 このままじゃいけない、これを放置していたらいけない。そう直感のようなものが働いた。だから挑発に挑発を重ねて、彼に本気を出させたうえで、彼が見下している私がレベルアップを使用せずに勝つ。それが彼に良い影響を与えてくれるのではと思った。


「今じゃ私なんかが全然追いつけないぐらい強くなった。昔は君の方が強かったみたいだけど、多分、今のクロガネ先輩は君よりも強いよ」


 この行動が正解かどうかなんて分からない。でも、シロガネくんに勝った私の言葉なら届くかもしれないと期待するしかない。 

 

「だから、次は君が追い抜く番だ」


 シロガネくんの事は別に好きじゃない。


 心底嫌いって程でもないが、嫌味を言われるのは本当に疲れる。できるなら、あまり関わりたくないと思うくらいの苦手意識を持っている。けれど、何となく放っておく事が出来なかった。


 ……大人だった記憶があるせいか? 小さい子に対して庇護欲とか母性的なもんが湧きやすいのか? それか自分が気づかなかっただけで、意外と情に流されやすい性格だったのか?


「気に食わない私に負けて悔しいんでしょう? 認めたくないんでしょう? ならその気持ちをぶつけて来なよ。何度も挑んで無様に負け続けて」


 いやいや、私はタイヨウくんみたいな聖人君子じゃない。ただ彼にはもっと強くなってもらわないと私が困る。だから微力ながら助力している、それだけの話だ。


 別に情なんか湧いていない! 同情なんてしていないからな! マッチぐらいなら付き合うってだけだから!! これ以上面倒事を背負い込んでたまるか!!


「最後に私に勝ってみせなよ。天才なんでしょ?」


 シロガネくんの瞳に私が映る。そこにマッチを挑まれた時の不安定さは消え失せ、これで闇落ちフラグは回避できそうだと安堵した。


「……ほんと、心底嫌いだよ。君のこと」

「なら両思いですね、私達」


 シロガネくんの嫌味を皮肉で返すと、シロガネくんはムッとしながら私の手を取って立ち上がる。


「約束だからね。屈辱だけど循環させて上げるよ」

「その上から発言なんとかなりません?」


 シロガネくんのいつも通りの発言に呆れたが、彼はどこか晴れやかな表情をしていた。憑き物が落ちたような、そんな顔だった。


 この様子なら私のマナを受け入れてもらえそうだなとシロガネくんの両手を握り、マナを込めようとした瞬間、大きな衝撃音と共に建物全体が揺れた。


 アイギス本部から黒い煙が立ち上がり、有事を知らせるかの如くけたたましいサイレンが鳴り響いた。 


「サチコちゃんみぃっけ!」


 この緊急事態に何とも緊張感のない声が聞こえた。声のする方向に顔を向けると、飛んでいるプレゲトーンの背に乗って私達を見下ろしている火川エンがいた。

 

 エンちゃんは嫌な笑みを浮かべながら私を見ている。

 

「迎えに来たよぉ」


 おいおい冗談だろと、なんで私が狙われてんだ。こんな最悪な展開は望んでいないと口元が引き攣った。


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