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ph53 サチコVSシロガネ


 シロガネくんを見つけた影法師と合流し、案内された場所はアイギス本部の屋上だった。


 シロガネくんはヘリポートの上に黄昏るように立っていた。話しかけるなり、自分が勝ったらマナを循環しろと勝負を挑まれる。


 そんな事しなくても循環するつもりだったのに、シロガネくんは、マッチをするまで動かないと言わんばかりに私を睨んでいる。



 め……面倒臭ぇ! 何でわざわざマッチしようとすんだよ!! 循環してはい終わりでいいだろ!!


 何故この世界の住人は何をするにおいてもマッチを持ち出すんだ……せめて対話から入れよ。お前らに話し合いという概念はないのか? マッチ脳もいい加減にしろ!!


 まぁ、私としては、シロガネくんのマナを循環できればいいのだ。私の敗北が条件ならば、マッチ開始と共に降伏提案(サブミット)を宣言して彼が受け入れてくれれば終わる話なのだが……。


 盗み見るようにシロガネくんの様子を伺う。瞳に強い光を宿し、何やら決意めいたものを感じる。


 温度差!!


 お互いの心情に温度差がありすぎる!! あまりの寒暖差に風邪引きそうなんですけど!?


 あの顔絶対アレだよ。この戦いだけは負けられないとかそんなん考えてる顔だよ。


 これ、降伏提案(サブミット)しても拒否されるのでは? 下手に手を抜いてもよけいに拗れそうだ。


 なんでサモンマッチは降参するのに相手の許可が必要になるんだよ! 負けを認めてるんだから素直に敗北させてくれよ!!


 レベルアップを使用しても良いって言っていたが、ぶっちゃけレベルアップモンスターの効果ってチートだぞ。シロガネくんが強いのは知ってるが、さすがにこんなチートカードを使用したら、私が勝ってしまうかもしれない。


 シロガネくんがよくある主人公補正みたいに、ピンチからの逆転劇でレベルアップしてくれたら問題ないんだが、シロガネくんのキャラ的にいけるのだろうか? 主人公チームにいるし、ないこともないか?


 いやしかし、ここがアニメの世界と決まったわけではない。そんなご都合展開は望めないかもしれない。ならば、念のために保険をかけておくべきだろう。


「……分かりました。そのマッチ、お受けします」


 もし、万が一私が勝ってしまっても大丈夫な条件。そんなのは一つしかない。


「ただし、私が勝ったら、シロガネくんがどれだけ嫌がろうともマナを循環させて頂きます」


 そう! どっちが勝っても結果は同じ作戦!! これならどうあがいてもシロガネくんは循環せざるおえない!!

 

「なっ!? それじゃあ意味がないじゃないか!」

「意味ならあります」


 多分だけど、シロガネくんは私に勝って私に循環をさせられたのではなく、シロガネくんが私に循環をさせたという事実が欲しいのだろう。彼のプライドの高さは知っている。情けをかけられたくないとか、そんな下らないことを思ってそうだ。


 なら、私に負けて循環をしてもらったという事実は、彼にとって屈辱的に違いない。それはシロガネくんにとって──


「最高の嫌がらせになる」


 私がニヤリと笑うと、シロガネくんは不愉快そうに片眉を上げた。


 今まで顔を合わせる度に、ネチネチネチネチ嫌味を言われ続けて来たんだ。いくら精神年齢は大人とはいえ、我慢の限界というものがある。少しくらい生意気なお子様にやり返しても、問題ないだろう。


「……君って、本当に性格悪いよね」

「シロガネくんには負けますよ」


 お互いに腕輪を構え、マッチの体勢を取る。そして、モンスターを実体化させるために、カードにマナを込めた。



「正義の審判を始めよう。コーリング。ミカエル、エウダイ!」

「コーリング。影法師、影鬼」


 モンスターが出揃い、デッキからカードを5枚ドローする。シロガネくんも手札を引いたのを確認し、試合開始の口上を宣言した。


「レッツサモン!!」


 足元にバトルフィールドと同じ魔方陣が現れ、周囲に結界のような、ドーム状の薄い膜が張られる。


 シロガネくんの足元の魔方陣が周りだし、彼はカードを1枚引いた。


「僕のフェイズだ! 僕はMP2を消費して、天界の盾を装備! さらに韋駄天の羽をエウダイに装備する!!」


 ! ……この手は……。


「バトルだ! エウダイ! 影鬼を攻撃!」

「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動! このフェイズ中、エウダイの攻撃を不能にする!」


 影法師がエウダイの影に入り込み、動きを止める。


「馬鹿にしてるんですか?」


 このコンボはSSC予選で見た手だ。天界の盾はシロガネくんのモンスターが攻撃した回数分チャージして、自身のモンスターの攻撃力を上げるカードだ。それを分かっていて素直に攻撃を通すと思っていたのか?


「そんなわけないだろ……」

「え」

「僕はMP1を消費して魔法カード、天の手錠を発動!」


 影法師はエウダイの影から強制的に放り出され、片腕に光輝く腕輪が付けられていた。


「このカードは自身のモンスターが相手モンスターのスキルの対象にされた時、その効果を無効にし、このフェイズ中そのモンスターは無効にされたスキルを使用する事が出来ない!!」

「な!?」

「君なら影法師のスキルを発動させると思っていたよ」


 スキルを無効化され、無防備になった影鬼はエウダイの攻撃を受ける。


「一度見せた手が通じるなんて思っていない。だからこそ、あえてやったんだ」


 韋駄天の羽の効果で攻撃を2回受け、影鬼の体力が13になる。


「君なら絶対に策を講じるだろうと思っていたからね」

「……なるほど」


 シロガネくんのしたり顔に、私はまんまと罠に嵌められた事を悟る。


「さあミカエル! 君も影鬼を攻撃するんだ!」

「はい! 我が主!」


 MPを温存するため、ミカエルの攻撃をそのまま通した。影鬼の体力は11になる。


「天界の盾の効果発動! このフェイズ中に成功した攻撃の回数分の数値をチャージする! これで僕のフェイズは終了だ!」


 シロガネくんの足元の魔法陣が止まり、私の足元の魔法陣が周り出した。


「私のフェイズです」


 少し驚いた。シロガネくんは私の事を見下していたから、なんやかんや言いつつも、余裕ぶっこいたプレイをしてくると思っていたのに……。


「私はMP2を消費し、手札から冥界の松明を装備します」


 シロガネくんはどんな些細な事象も見逃さないと、私の一挙一動を警戒している。


「さらにMP1を消費して、影鬼に獄卒の斧槍を装備」


 知らない間に、1人のサモナーとして認められていたようだ。


「バトルです。影鬼! 相手モンスターを攻撃」

「僕は魔法カード贖罪への祈りを発動! エウダイの体力を3減らし、このフェイズ中のバトルを強制終了させる!」


 これは、ふざけていいマッチじゃなさそうだ。


「私は魔法カード相殺する呪術を発動! このカードは、相手が魔法カードを発動した時、その魔法カードと同じコストを払い無効化することができる! 私は影鬼の体力を3削り、贖罪への祈りを無効化する!」


 影鬼の体力は8になってしまったが、好都合だ。


「私はMP3を消費して、影鬼のスキル凝血暗鬼を発動! 影鬼の体力が減少している数値分、この攻撃の攻撃力が上がる! そして斧槍の効果により、影鬼の攻撃は全体攻撃になる!」

「ぐっ! ならば僕はMP2を消費してエウダイのスキル、他者に捧げる幸福を発動! このフェイズ中の攻撃によるダメージを全て受ける! そして、攻撃によるダメージは必ず1残して耐える!!」


 影鬼が斧槍でミカエルとエウダイを薙ぎ払うが、エウダイのみがダメージを受け、ミカエルは平然と立っている。


「私は冥界の松明の効果を発動。相手に攻撃でダメージを与えた時、その数値の半分の値のMPを回復する」


 エウダイに与えたダメージは6だ。MPが 0から3になる。


 このまま攻撃を続けてMPを補充したかったが、エウダイのスキルが発動中の今は意味がない。血の影供を発動させて影鬼の体力を回復させようにも、MPが0になってしまえば、次のフェイズで魔法カードを発動出来ない。


 シロガネくん相手に、無防備になるのは危険だ。


「……私のフェイズは終了です」


 素直にフェイズを終了させ、シロガネくんの番になる。シロガネくんはカードをドローし、手札が3枚。MPが3になった。


「僕はエウダイで影鬼を攻撃!」

「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動!」


 このフェイズでミカエルのスキルを使用するならば、シロガネくんはMPを消費出来ない筈。ならば少しでもダメージを減らす為にこれ以上盾にチャージさせてたまるか!


「ならば僕は、ミカエルで影鬼を攻撃!」


 こいつ、頑なに影鬼を狙ってくるな!!


 今の影鬼の体力は8。この攻撃を通せば6になる。ミカエルの攻撃力とこの攻撃でたまるチャージの数値を合計するとちょうど6になる。


 このフェイズで影鬼が倒されるのは不味い。


「私はMP1を消費して影隠れを発動! 相手の攻撃を避ける!」


 よし、これで天界の盾のチャージを使ってスキル攻撃を受けても問題ない。


 シロガネくんにとって、この攻撃を避けられたのは痛手だろう。影鬼のスキルを鑑みるならば、ここで裁きの光を打つのは悪手だ。MP0で凝血暗鬼を喰らうのは避けるだろう。


「僕はMP2を消費して魔法カード、天罰を発動! 相手の魔法カードを無効にし、相手モンスターにダメージ1を与える!」

「くっ!」

「ミカエル!」

「はっ!」

「あぁっ!!」


 影鬼の体力が5になり膝をつく。


 天罰は痛かったが、シロガネくんの残りMPは1だ。ここでミカエルのスキルを発動する事は出来ない。次の私のフェイズでエウダイを処理して──


「僕は天界の盾の効果を発動! チャージされた数値を全て使用し、ミカエルの攻撃力を6にする!!」

「なっ!?」


 攻撃力を上げてもスキルを使えないのに、何故ここで使用する!?


「さらに手札よりMP1を消費して魔法カード、血の神事を発動!! MPの変わりに体力を消費して、モンスタースキルを発動させる事が出来る!!」

「!」

「僕はミカエルの体力を消費して裁きの光を発動! 自身のモンスターの攻撃力分のダメージを相手モンスター全てに与える!!」


 しまった! これを狙っていたのか! 今の手札じゃ防げない!


「審判の時間だ! 聖なる裁きを受けろ!!」

「あぁああああ!!」


 ミカエルの天秤が輝き、私のフィールドのモンスターに6ダメージを与えた。影鬼は消滅し、影法師の残り体力は4だ。


「くっ……」

「僕のフェイズは終了だ」


 ミカエルの裁きの光をくらい、私のフィールドは影法師だけとなった。この状況をひっくり返そうにも、火力のない影法師にはどうする事も出来ない。唯一方法があるとすれば……。


「レベルアップしなよ」

「……」

「これで、条件は揃った筈だよ」


 そう。シロガネくんの言う通り、モンスターのレベルアップしかない。


 影鬼は、ダメージを与えれば与えるほど攻撃力が上がる厄介なモンスターだ。チマチマ攻撃するよりも、力を貯めた後半に一気に倒した方が無駄なダメージを追わずに済む。


 そもそも、影法師だけを残してしまうと、レベルアップされる危険性があるのだ。普通なら避ける筈なのに、私にレベルアップさせる為にあえて影法師を残したようだった。


「わざと影法師を残しましたね?」


 シロガネくんは答えない。けれど、彼の表情がその答えを物語っていた。


 レベルアップか……。


 私は腕輪に触れながら目を閉じる。


 シロガネくんは私が影法師をレベルアップさせる事を望んでいる。このままレベルアップさせる事は簡単だが、果たしてそれは彼の為になるのだろうか?


 今の彼はどこか不安定に見える。まるで、レベルアップモンスターに勝つことだけに執着しているようだった。


 私がレベルアップし、シロガネくんは追い詰められ、レベルアップを習得する。そして私が敗北してマッチが終了。多分、これが一番ベストの流れだ。そうなれば、シロガネくんの自尊心は守られ、彼はいつもの調子を取り戻す事が出来るだろう。


 しかし、もし、レベルアップが出来ず私が勝ってしまったらとうなる? プライドの高い彼が素直に敗北を受け入れるだろうか? 私が下手に勝ってしまったら闇落ちフラグがたったりしない?


 でも、だからと言って、レベルアップをせずこのまま負けても不味いだろう。手を抜かれたとみなされ、今よりも関係が悪化してしまいそうだ。


 あぁもう! 何が正解か分からん! 取りあえず、ドローだ! ドローしてから考えよう!


 私は腕輪にかざした手をスライドさせ、新たなカードを引いた。


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