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ph51 五金コガネの決定


「はい、みんな注目ー!」


 ケイ先生の声に、クロガネ先輩とのマッチを止め、カードの力を消した。


「五金総帥から連絡がありました。訓練はここまで。全員、アイギス本部に集合するようにとの事です」


 準備が整い次第向かいますよと、ケイ先生に急かされる中、こっそりとシロガネくんの方を見る。


 シロガネくんは拳を握りしめ、思い詰めた表情で足元を見つめていた。その理由は明白であり、私は言わんこっちゃないと肩をすくめる。


 結局、シロガネくんはレベルアップを習得する事が出来なかった。何度か循環を手伝おうとシロガネくんの元を訪ねたが、門前払いをくらい、話すら出来なかったのだ。


 どんだけ私の事が嫌いなんだと呆れ、タイヨウくん大好き人間だし、彼が言えば素直に頷くとだろうと彼をけしかけたのだが、まさかタイヨウくんパワーも聞かないとは想定外だった。


 タイヨウくんの誘いを苦笑いで断り、説得を試みても、単純思考のタイヨウくんはシロガネくんの巧みな話術にはぐらかされ、タイヨウくんでごり押し作戦は失敗に終わったのだ。


 私はどうしたものかと、今後の展開について思考する。


 このままアイギス本部に行っても大丈夫だろうか? 五金コガネは私達の訓練の成果を見て、SS、フォロバ参加の有無を検討すると言っていた。


 私達の中でレベルアップを習得していないのはシロガネくんのみ。あの人の先輩達への対応から考えて、実子だからと寄りをするとは思えない。


 五金コガネが下す決断に不安を感じながら、この嫌な予想が外れる事を祈った。









 コテージに戻ると、私達の荷物は既にハウスキーパーさんにまとめられていた。重い荷物は家に発送してくれる為、今必要な荷物だけ持っていけばいいそうだ。


 最後まで至れり尽くせりだな。


 私はハウスキーパーさんの言葉に甘え、軽い手荷物だけを持ってアイギス本部に向かう事にした。


 また来た時と同じ様に五金財閥のヘリで送られるかと思いきや、ケイ先生にその必要はないと指を鳴らされ、瞬く間にアイギス本部前まで移動した。


 あの不思議指パッチン、ケイ先生も使えたのかよ。羨ましい、私も使えるようになりたい。と、昔なら考えられない思考回路を抱きつつ、ケイ先生に聞くタイミングを画策する。


 この訓練でマナとかいうファンタジーに触れたせいか、ちょっとの事では引かなくなった。


 瞬間移動の事をちょっとの事と言っていいのか分からないが、ツッコんでも仕方がないのだ。ならば、使えるものは使った方がいいだろう開き直る事にした。






 執務室にたどり着き、偉そうに椅子に座っている五金コガネの前に立つ。


 五金コガネは無駄な前置きは必要ないと直ぐに本題に入った。


 うんうん。その無駄を嫌う思考は嫌いじゃないぞと、世の校長先生もこうあれば良いのにと思いながら私は姿勢を正す。


「SSSC参加は、晴後タイヨウ、氷川ヒョウガ、影薄サチコの3名のみ許可する。各自、体を休め、明日の大会に万全な状態で挑むように」

「そんな!?」


 シロガネくんの悲観した声が響く。が、私としては案の定だった。


 精霊狩り(ワイルドハント)はマナだけでなく、レベルアップも使えるのだ。習得出来なかったシロガネくんを参加させる可能性は低いとみていたが、まさか本当にそうなるなんて……。


 くっそ! やっぱ無理やりにでも循環させとくんだった……ここでシロガネくんが抜けてしまうのは、私にとってマイナスでしかない。というか、何で私がメンバー入りしてんのに、シロガネくんだけ抜けれてんだふざけんなよ!! そのポジション寄越せこの野郎!!


 あぁ、もう本当に最悪だよ。ここで抜けるのは私の予定だったのに、何普通にメンバーに入れられてんだ。マナに関してはコントロール以外いまいちだったし、訓練中のマッチ勝率も最下位だった筈なのに!! どうしてこんな事に!?


 やっぱりアレか? 全員のマナを循環させた事が高評価に繋がったのか?


 いやでもアレは仕方がないだろう! あぁしなけりゃタイヨウくん達がレベルアップできるか分からなかったんだから、誤魔化しようがないではないか!! チクショウ! どう立ち回るのが正解か全く分からんぞ!!


 私が一人反省会を心の中で開いていると、シロガネくんが申し立てるように前に出た。


「僕がまだレベルアップできてないからですか!? ならば明日までに習得してみせます!! だから僕にも──」

「くどい」




「平等に時間は与えたのだ。結果を残せない者に、分不相応な権利を与える趣味はない」

「ですが!!」

「シロガネ」


 五金コガネの威圧感のある声で名前を呼ばれ、シロガネくんは息を飲む。


「一度で理解しない愚か者は、五金に必要ないと思わんか?」

「っ!」


 シロガネくんはショックを受けたように俯き、肩を震わせていた。そして、か細い声で失礼しましたと言い、静かに部屋から出て行った。


 タイヨウくんは、シロガネくんを心配そうに眺めていたが、扉が完全に閉まると、キッと五金コガネを睨み付けた。


「今のはあんまりじゃねぇ……ですか!?」


 五金コガネの決定に納得がいかないのか、タイヨウくんは慣れない敬語で反論する。


「シロガネだって頑張ってたんだ! SSSC参加ぐらい認めても──」

「ならば問うが」


 五金コガネは感情のこもらない声で言葉を発する。


「レベルアップに対抗手段を持ちえないシロガネを参加させ、取り返しのつかない事になったらどうする?」

「そ、れは……でも、シロガネは強ぇし、そんな事には」

「ならないと、何故断言できる? 確証でもあるのか? ならば今、その根拠を述べてみよ」


 捲し立てられる正論に、反論の言葉が出ないのか、タイヨウくんは「う、あ……」と意味を持たない音を口から溢す。



「貴公等のSSSC参加は認めたが、まだマナ使いとしては未熟。あくまでも及第点に達しているだけだ。足手纏いを送る余裕などない。……それとも、貴公も取り消されたいか?」

「……」


 タイヨウくんは悔しそうに黙り込んだ。五金コガネはタイヨウくんに一瞥だけ送ると、まるで反対などなかったかの如く、話を続けた。


「ダビデル島へは我々が送る。明朝の5時にこの場に集合だ。遅れた者は参加の意志がないとし、棄権とみなす。話は以上だ」


 五金コガネは背もたれに少し寄りかかり、目を伏せた。その様子に、私は五金コガネの話が終ったとみて、切り出すなら今しかないと口を開いた。


「あの」

「…………なんだ?」

「シロガネくんがSSSCに参加できないのは、レベルアップの対抗手段がないからですよね?」


 五金コガネはピクリと眉を反応させる。


「なら、対抗手段が持てたら参加を認めて下さいますか?」

「貴公はクロガネと仲が良いと記憶していたが?」

「それが何か?」


 今誰と仲が良いとか悪いとかは関係ないだろ。というか、二人の仲の悪さに気づいていて放置とか、それどころか、関係性を悪化させるような事しかしないなんてやっぱ親としては最低だなこの人。


「………………いや、好きにするがいい……場合によっては検討しよう。行きたまえ」

「はい、ありがとうございます。失礼いたします」


 あっさりと許可を得る事ができ、少し肩透かしを食らったような気分になるが、言質は取れた。


 もうここに用はないと、私が静かに部屋から出ようとすると、当然のようにクロガネ先輩も後ろについてきた。


 いや、何で来るんだよお前。シロガネくんと会ったらケンカすんだろ。着いてきて欲しくないんだけど。


「クロガネ」


 突然名前を呼ばれた先輩は、煩わしそうに振り返る。


「レベルアップを習得したそうだな」

「…………」


 クロガネ先輩は答えない。無表情で五金コガネの言葉を聞いている。


「ならば、ダビデル島監視チームと合流しろ」

「あ゛? それ、俺にメリットあんのかよ」

「緊急時にダビデル島に突入する権限を与えてやる」


 先輩はピタリと動きを止め、五金コガネをじっと見つめる。


「どうせ忍び込む腹積もりであったのだろう? ならば、私の権限で堂々と入れるようにしてやる。その代わり、私の指揮下に入れ」

「具体的には?」

「詳細は今から説明する……ついでだ。私に質問がある者も残っていろ」


 タイヨウくん達は動かない。どうやら彼らは五金コガネに話したい事があるようだった。


 五金コガネは私の方にも視線を送るが、特に言いたいことも聞きたいこともないので、一礼してから落ち着いた動作で部屋の外に出た。




 扉を静かに閉め、歩きながらデッキからカードを1枚取り出し、影法師を呼び出した。


「どうしたの? マスター」

「シロガネくんを探して」

「えー、あのイヤミな奴? おれアイツ嫌いー」


 シロガネくんと聞いて影法師は嫌そうな顔をした。


 気持ちは分からんでもない。私も機嫌が最悪であろうシロガネくんと二人きりになるのは避けたいが、彼がレベルアップを習得できないままなのは非常に困るのだ。


 気乗りしないが、影法師にやる気を出させようと一番食いつくだろうワードを口にする。


「季節のフルーツ盛り合わせのパンケーキ」

「!」


 私が影法師の好物を口にすると、何かを期待するように目を輝かせた。


 思った通りだ。我が精霊ながら、チョロすぎて不安になるが、今はありがたい。あと一押しでいけそうだと、影法師に見せつけるように指を3本立てた。


「3皿」

「おれ探してくる!!」


 意気揚々と影の中に潜っていった影法師を見送る。


 これでシロガネくんの居場所は直ぐに見つかるだろう。ならば、その後どう説得するかと考えながら私は足を踏み出した。


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