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ph46 グループトーク


 カードの力を実現させてしまった私は、ケイ先生から午前は変わらず滝行で精神統一を行い、午後は実際にマナを使ったマッチをするようにと言われた。


 実践形式でマナを使い、感覚を養うのだそうだ。そして、そのマッチの相手はクロガネ先輩が勤める事となった。


 クロガネ先輩は私とマッチが出来ることが嬉しいのか、昼休憩が終わった途端に私の前に現れ、待ちきれないと言わんばかりに、軽快な足取りでひらけた場所まで引っ張って行った。


 先輩が意気揚々と腕輪を構える最中、私はいつも通りの無表情を貫いていたが、マナを使ったマッチはフィードバックの痛みをリアルに感じると聞いていたので、内心かなりビクビクしていた。


 そして、先輩から攻撃され、迫りくる痛みに歯を食い縛って堪えようとしたのだが、何故か想像していたような痛みはなく、思わず先輩を二度見してしまった。


「……なんか、思ったより痛くないですね。むしろ通常のマッチよりも痛まない気が……」

「任せてくれ! 俺が全部やるからサチコは身を委ねてりゃいい! 絶対痛くしねぇから!」


 何の話だと眉を潜めていると、そう言えば、五金コガネがマナ使いは相手のフィードバックの痛みを操れると言っていた事を思い出した。


 つまり、先ほど全く痛みを感じなかったのは、先輩が上手いことマナをコントロールしたという事だろうか? 五金コガネは、先輩のマナはいつ暴走してもおかしくないとも言っていたが、全くもってそうは見えないのだが。


 見ている限り、先輩は息をするようにマナを操り、流れるような動作でカードの力を実現させている。ぎこちなさなど全然ない。


 あれは五金コガネの誇張した表現だったのだろうかと考えていると、先輩がフェイズを終了させたので、今度は私の番だとデッキからカードをドローした。そして、カードにマナを込めるようにイメージしてみるが、反応がない。


 あれ? おかしいな? と腕を振ったり、念じてみる。すると、数分経ってやっとカードが反応するように光始めた。


 発動成功か? とカードを眺めていると、魔法カードから小さな煙が出て、ぷすんと不発したような間抜けな音が鳴った。


 うん。見事に失敗だわこれ。


 それならと気を取り直して装備カードの発動を試みる。今度は上手く実現し、これでフェイズが進行できると武器を構えたのだが、あまりの重さに地面に落としてしまった。ガランガランと武器の落ちた音が虚しく響く。


 武器の重さもリアルになるなんて聞いてないのだが!?


 先輩はどんな風に扱ってんだとチラリと視線を送ってみるが、餓狼血牙とかいう馬鹿デカイ武器を軽々と振り回す姿を見て参考にならない事を一瞬で悟ってしまった。


 そうだよ、先輩は私を余裕で片腕で持ち上げられる程の怪力だった。同じ土俵で考えてはいけない。


 しかし、いくら重くとも、装備しない事には始まらないのだ。私は意を決して大鎌を杖のようについて、取りあえず持つ事には成功した。


 これならいけるかと、効果を使用する為に武器を振ってみるが、逆に武器に振り回され尻餅を着いてしまった。涙目になりながら再度構えようと試みるが、中々持ち上がらない。


 こんな重いものどうやったら持てるんだよ!


 マナか? これもマナを使ったら持てるのか? それとも次は筋トレでもさせられるのか!? もしや五金流の筋トレがあったりするのか!? そんなん凡人に出来るメニューとは思えない!! それだけは絶対に嫌だ!!


 五金ブートキャンプコースを回避する為、何とか持ち上げようと1人で奮闘するが、びくともしない。


 サモンマッチの武器は何で無駄にデカイんだと心の中で文句を言いつつ、試行錯誤していると、カシャカシャという不愉快な音が聞こえた。まさかと思いつつ、顔を引きつらせながら先輩の方を見てみると、案の定、先輩は堂々と私を盗撮していた。


 先輩の満面の笑みに、これは新手の煽りかとジト目で睨んでいると、私の咎めるような視線に気づいたのか、先輩は誤魔化すようにわざとらしい咳をした。そして、話を反らす為か、もっとカードと心通わせればいいという謎の助言をする。いや、意味分かんねぇよ。


 カードと心通わせるってなんだよ。カードと友達になれってか? それただの頭のおかしい奴じゃねぇか。そんな雑な説明で分かるか。


 役に立ちそうにない助言に、つい苛立ってしまったが、私は別にマナ使いになりたい訳ではないのだった。上達しない事に越したことはないだろう。多少キツいが、これはこれでいいのでは? とポジティブに捉えて訓練に励む事にした。


 しかし、いつまでも上達しないなんてことはなく、毎日マナを使っていれば、否が応にもコツを掴んでしまった。


 最初の頃のぎこちなさは消え、魔法も装備も道具カードの実現も不発する事はなくなってきた。まぁ、武器は今だに重くて振り回されるが、マナで多少は軽く出来たので何とかなっている。


 私の訓練は残念ながら順調に進んでいるが、タイヨウくんとヒョウガくんの様子はどうなのだろうかと、二人の進捗状況をケイ先生に訪ねてみると、まだカードの力を実現できていないようだった。


 何でだよ! タイヨウくん達はまだ精神統一の訓練をやってんのかよ! 何で一番やる気のない私が成長して二人は進んでないんだ!? おかしいだろ!!


 しかも、唯一の休み時間となっていた精神統一の時間は、ケイ先生からもう必要はないだろうと太鼓判を押されてしまい、遂に1日中先輩とマッチする事になってしまった。


 先輩は嬉しそうだが、私としては堪ったものではない。マナを使ったマッチはしんどいし、何より、今まで先輩とマッチし過ぎたせいで、私の実力を熟知されてしまっているのだ。少しでも手を抜いてしまえば、直ぐに気づかれてしまうだろう。


 これは由々しき事態だ。成長速度を落としたい私は、少しでも手が抜けるようにマッチの相手を変えたくてしょうがなかった。


 訓練が終わる度にタイヨウくんとヒョウガくんが、カードの能力を実現させれますようにと毎日全力で祈り続けた。


 すると、私の願いが通じたのか、SSSCまで残り20日となった所で、タイヨウくんもカードの力の実現させる事に成功した。


 これ幸いと渋るクロガネ先輩を押しやり、タイヨウくんとマッチをするようになったのだが、彼も最初の私と同様、カードの力を実現させるのに苦戦していた。


 しかも、お互いにマナ使いとして未熟なせいか、フィードバックがめちゃくちゃ痛い。逆にダメージを軽減しようとマナ操作に全力で取り組んでしまい、更に上達速度が上がってしまった。解せぬ。


 これでは本末転倒だと、タイヨウくんを成長させる為、ダメもとでカードと心を通わせるといいらしいと助言してみると、彼はなるほど! と納得し、メキメキと成長し始めた。


 何でだよ。何でこんな説明で分かるんだよ。これが俗に言う主人公補正という奴か?


 なんにせよ、その謎助言のお陰で、タイヨウくんとのマッチがスムーズに行えるようになり、適度に手を抜いても問題なくなったのだ。


 これで楽できると安心していたのだが、今度はマッチの回転率が上がってしまい、物凄く体力を削られるようになった。


 マナを使ったマッチは想像以上に疲労し、2、3回マッチするだけで、私の体力は限界がきてしまう。しかし、タイヨウくんは平気なのか、疲れている私を他所に、すぐにマッチしようぜと宣うのだ。何でタイヨウくんは疲れないんだよと不満に思っていると、ケイ先生から、これは体内に保有するマナの量の違いだと説明された。


 ケイ先生曰く、訓練を積めばマナの保有量は増えるらしいが、タイヨウくんの潜在的に保有しているマナの量は桁違いに多いらしい。さすが主人公。持ってんな。コントロールが上手いだけの私とは格が違う。



 そんなこんなで今日も訓練を終え、ヘトヘトになりながらタイヨウくんと二人でコテージに戻って来た。疲れはてた私は、もう何もしたくないと夕食を取った後に直ぐにお風呂に入り、引っ付くいてくるクロガネ先輩を引き剥がして自室のベッドに寝転んだ。


 このまま寝てしまおうかと思ったが、この訓練に参加する際、毎日メッセージでもいいから連絡するようにと母親に言われていたのを思い出し、眠い目を擦りながらスマホの指紋認証を解除した。すると、タイミング良くハナビちゃんからSAINE通知が来た。


 先に母親に今日も元気ですとメッセージを送り、ハナビちゃんの通知を確認する為にトーク画面を開く。


 内容は、今からアゲハちゃんやモエギちゃんを交えてグループ通話が出来ないかというものだった。


 疲れていたが、特に断る理由もないので、了承のスタンプを送ると、2、3分もしない内にグループ通話が開始されましたという通知が届いたので、4人で作ったグループをタップし、通話に参加した。


『あ! さ、さ、サチ、さんがき、き』

『モエギ、アンタいい加減慣れなさいよ』

『サチコちゃん久しぶり! 元気にしてた?』

「うん。まぁまぁ元気だよ」

『それなら良かった』


 久しぶりに聞いた3人の声に、非日常の世界から日常に戻れたような気分になり、表情が緩んだ。


『アンタ、今SSSCに向けて強化訓練してるんだっけ? どんな事してんのよ?』

「あー……うん。まぁ、マッチ浸けの日々を過ごしてるかなぁ。取りあえず、おはようからおやすみまでマッチだよ」

『うわっ、何それダルっ。よくやってられるわね』


 私なら絶対嫌だわと言うアゲハちゃんに共感しつつ、笑って誤魔化す。


『確か、五金総帥から直々に声をかけられたんだよね? SSSCでも凄かったし、さすがサチコちゃん!』

『私は会場には言ってないけど、テレビでアンタの活躍は観てたわよ。やっぱアンタ強いわね』

「ありがとう。誉めても何もでないよ」

『それは残念。でも、そんだけ強くて五金総帥に目をかけられてんなら、五金家に嫁入りしてもやってけるんじゃない? 良かったわね』

「何でだよ。今の流れでどうして嫁入りする話が出てくるんだよ。意味が分からない」

『とぼけちゃって。本当は満更でもないでしょ?』

「いやいやいやいや。本当に何の話? 心当たりが全然ないんだけど」


 アゲハちゃんの急な話題転換にツッコミを入れていると、ピロンと通知音が鳴った。通話は繋げたままグループのトーク画面を見てみると、1枚の画像が貼られていた。


「はぁ!? な、なん!?」

『キャーー!!』

『わぁ!』


 他の2人も写真を見たのだろう。恋バナ好きのモエギちゃんは歓喜し、ハナビちゃんもどことなく楽しそうに声を上げていた。


『ソースはセキオよ』


 いつの間に撮ったんだよあの眼鏡!! 盗撮なんぞしやがって!! 今度会ったら絶対にタブレットを叩き割ってやる!!


 アゲハちゃんが送ってきた画像は、SSC本選の日に、クロガネ先輩と待ち合わせ場所で会っていた時の写真だった。しかも、ヒョウガくんの匂いに嫉妬して抱きついてきた瞬間である。


 最悪だ。最悪すぎる……こんなんどうやって誤解を生まずに説明しろってんだ。


『やっぱりサチコさんと五金先輩はそういう関係だったんですね!! 馴れ初めは!? いつ恋人関係に!? どこまでいったんですか!?もしかしてキ──』

「やめて。本当にやめて」


 恋愛オタクのモエギちゃんのマシンガントークを遮り、さてどう弁明しようかと頭を悩ませる。


「これには理由がありまして」

『言い訳ぐらいなら聞いてあげるわ』

「先輩が、その……ヒョウガくんが気に食わなかったみたいで」

『そう言えばアンタ、実況に青髪の奴とお似合いとか言われてたわね』

『キャー! 嫉妬!? もしかしなくともそれは嫉妬ですね!!』

「いやまぁ端的に言えばそうなんだけど、恋愛的なものじゃなくて友情的なやつでね」

『友情的な嫉妬で抱き締めるってどんな状況よ。五金先輩がアンタに惚れんのは確実じゃない。で? アンタはどうなの? 告白されたらOKすんの?』

「いや、気持ちは分かるんだけど本当に違うんだって! そういうんじゃないんだって!」


 くっ! これはド壺にはまっている気がする!! 何とか軌道修正しなければ!!


「先輩はちょっと人より友達に対する独占欲が強いだけでそういう意図はないんだよ!!」

『へぇ? 具体的には?』

「シロガネくん」

『……あー』


 私がシロガネくんの名前を出すと、アゲハちゃんは納得したように追撃を止めた。


 反射的に言ってしまったが、シロガネくんのタイヨウくんに対する日頃の行いに対して、アゲハちゃんも思うことがあるようだった。


 良かった! やっぱアレは異常だよね!? 皆スルーしてたから、もしかして私がおかしいのかと思い始めてたから安心したわ!!


『それはやはりラブですね!』

「なんでだよ」


 アゲハちゃんとは違い、めげないモエギちゃんにツッコミを入れる。


「シロガネくんの普段の行いを──」

『愛に性別は関係ありません!!』


 モエギちゃんの返答に思わず固まった。


 え? 何? もしかしてモエギちゃんって……。


『性別なんて関係ありません! シロガネくんもタイヨウくんに──』

「待て待て待て待て」


 本当に待ってくれ。まさかモエギちゃんがそっちの方面もいける事は考慮していなかった。


 いくらシロガネくんの言動がアレとは言え、こんなホビアニの世界観にガチホモ展開なんぞあるわけないだろう!


 オネェキャラとかならまだしも、主人公のライバルポジションでそんなキャラを出せる訳がない! 夕方ゴールデンタイムにそんなもん流れたら家族内で気まずくなる事山の如しではないか!! いや、ここがアニメの世界と決まった訳でないけども!!


「モエギちゃん、いったん落ち着こう? そんなことないから、シロガネくんのタイヨウくんに対する思いはラブじゃないから。ちょっと重めのライクだから」

『あれがライクで納まるはずがありません!!』


 気持ちは分かるけれども!!


「そ、そうだ! タイヨウくんにはハナビちゃん! ハナビちゃんがいるでしょ!? そんな事言うのは良くないよ!」

『えぇ!? ちょっ、サチコちゃん!?』


 こうなったら話題の標準を変えるしかないと、恋バナネタに困りそうにないハナビちゃんを巻き込む事にした。ハナビちゃんには悪いが犠牲になってもらおう。


『勿論! 私は友人としてハナビさんを応援しています! が! それはそれ! これはこれです!!』


 て、手強い!


「あ、あー……タイヨウくんといえば、ハナビちゃんは訓練始まってからタイヨウくんと連絡は取ってるの?」

『え!? うん、まぁ一応……お、幼馴染みだしね! おばさんにも頼まれてるし……』

「じゃあ毎日電話してたりする?」

『そ、そうだけど』


 しめた! 学校で話題のじれったい幼馴染みの二人が毎日電話しているなど、恋バナに餓えている女子の格好の餌だ! これを利用しない手はない!


「へぇ? どんなこと話してるの?」

『そ、それは……』

『何何? アンタらやっと進展したの?』

『なんですと!? ハナビさん! 詳しく! ……その話を詳しくお願いします!!』

『ちょっ……サチコちゃん!』


 私の思惑通り、二人はこの話に飛び付いた。しめしめと心の中でほくそ笑んでいると、ハナビちゃんから咎めるように名前を呼ばれてしまった。


 ごめんね。ハナビちゃん。でもこれはカルネアデスの板というやつだ。私の平穏の為に犠牲となってくれ。


 そんなゲスな思いを抱きつつも、久しぶりの友人との会話に心が安らぐ時間を過ごす事が出来た。




 ハナビちゃん達との電話は思った以上に盛り上がり、時計を確認すると、いつの間にか夜の10時になっていた。もう遅いからと、また今度話そうとこの場は解散することにし、通話を切る。


 私も明日に備えて寝ようとするが、話しすぎて喉が乾いていたので、喉を潤してから寝ようと1階のキッチンに向かうためにベッドから下りた。すると、見計らったかのようなタイミングで、コンコンと部屋の扉をノックされた。


 こんな時間に誰だ? 先輩なら問答無用で追い返さなければと思い扉を開けると、扉の前に立っていたのは、まさかのヒョウガくんだった。


 私は予想外だと言わんばかりに目を丸くした。すると、ヒョウガくんは私の様子を伺いながらも、神妙な面持ちでゆっくりと口を開いた。


「影薄、すまない……少し話せないか?」



 ヒョウガくんの珍しくもしおらしい態度に、今夜は遅くなりそうだと思いながら、取りあえず飲み物を持ってきてからで良いかと確認を取った。



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