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ph44 特訓開始


 アイギス本部で五金コガネから話を聞き、色々と考えた結果、タイヨウくん達と訓練を受ける事にした。


 何故ならば、訓練をバレない程度に適当に流し、五金コガネのお眼鏡に叶うことがなければ、私の考える中で一番安全なルートになるという結論に至ったからだ。


 敵に襲われて死にかけるよりは、多少きついかもしれないが、訓練をしている方が遥かにマシである。それに、訓練中は五金財閥の加護下に入るのだ、これ程心強いものはないだろう。やはり金と権力は良いものである。


 結果を残せないのならば、SSSC不参加は確定になるし、SSSCさえ始まってしまえば、敵はタイヨウくん達と島でドンパチする事になり、私に構う暇などないだろう。


 これで私の立ち位置は、アニメ的にいう主要メンバーから主人公達を応援するギャラリーに切り替わるはずだ。つまり! 敵に襲われる事のない安全圏入りとなるのだ!



 あぁ、応援ギャラリー!! なんて素晴らしい響きなのだろうか!! 物語の中心から離れ、主人公達にエールを送るだけでいい簡単なお仕事である。


 何故私はタイヨウくん達と一緒に敵と立ち向かうメンバーに入っているのかと頭を抱えていたが、ここで晴れて主要メンバーからギャラリーに格下げになれば問題ない! 私の役割はこういうので十分なんだよ! 全力でタイヨウくん達を応援しようではないか!!


 その後、両親とひと悶着あったが、なんとか説得する事に成功し、同じ様に両親の了承を得たタイヨウくん達と、マナ使いとしての訓練を受ける事をシロガネくんを経由して五金コガネに伝えた。


 訓練開始の日は7月10日と言われ、SSSC開催である8月18日まで五金財閥が保有する山の中で、ケイ先生の指導の下、訓練する事になった。


 訓練中は、これまた五金財閥の保有しているコテージに滞在することとなり、マナ使いではない私とタイヨウくんとヒョウガくんは、各々に与えられた部屋に荷物を置くと、休む間もなく訓練を始める事となった。


 そして現在、私はその訓練の一貫として滝に打たれている。



 いや何でだよ!?


 ここカードアニメ系の世界だろ!? もっとカードゲームらしく普通にマッチするとか、カードの知識を増やして戦略を練るとかしろよ!! 何で私は一昔前の格闘漫画みたいな修行をさせられているんだよ!! 全くもって理解できないのだが!?


 ……いや、落ち着くんだ私。この世界に常識を求めてはいけない。小1の時に既に学んでいただろう? もっと柔軟な思考になるんだ。カードアニメの世界だと思うからダメなんだよ。ここは異世界。ファンタジー要素満載の世界だと視点を変えてみよう。


 ひとまずは百歩、……一万歩ほど譲って、サモナーとしてではなく、マナ使いという超人的な存在になる為の訓練だから、肉体の鍛練がある事は納得しよう。


 マナには属性があり、人の体に流れているマナの属性は、その人の精霊と共通しているため、それに伴った自然と対話し、精神統一を行うことによってマナの流れを掴むというのも……よくあるRPGの魔法使いの修行的なものとして納得できる。


 ヒョウガくんの精霊であるコキュートスの属性は、氷、闇、冥界であるため、闇属性らしく暗い洞窟の中で精神統一を行う。これは、まぁ納得できる。


 そして、タイヨウくんの精霊であるドライグは大地、竜、ブリテンであるため、頭だけ残して土の中に埋められたのは……可哀想ではあるが、大地と対話的なものとして許容する事はできる。私は絶対にやりたくないがな。


 私の精霊である影法師の属性は影、闇、妖怪だ。それならヒョウガくんと同様に闇属性が入っているし、同じ様に洞窟で精神統一するのかと思いきや、ケイ先生は私に白装束とキュウリを手渡し、良い笑顔で直ぐ側の滝を指を差しながら、滝に打たれるように言ったのだ。


 滝行って修行のテンプレだよね! 前世でもお寺とかで行われていたし、これもまぁ許容範囲と言えば許容範囲に……なるわけないだろう! ふざけてるのか!?


 水属性ならまだしも私の属性に滝行なんて要素何処にあった!? まさか妖怪か!? 妖怪からとったのか!? 修行僧がやるから妖怪に繋げたのか!? なんだそのクソみたいな連想ゲームは!! 強引すぎるわ!!


 それになんなんだこのキュウリは!? 河童に与えて対話しろとでも言うのか!? 河童に与える前にお前の顔面にぶつけてやろうか!?


 7月とはいえ、長時間滝に打たれ過ぎたせいか、めちゃくちゃ寒い。体は震えてるし、歯もカチカチと音を鳴らし始めている。


 大丈夫なのか? これ低体温症になりかけていないか? 一旦休憩入れてもいいよね? このまま続けてたら確実に死んでしまうわ!!


 身の危険を感じて立ち上がろうとするが、冷えきっているせいか体が思うように動かない。フラフラと覚束ない足取りで川岸に向かうおうとするが、全く進めず、頭から川にダイブしかけた所で、どこからともなく黒い影が飛び出してきた。


「サチコぉおぉお!!」


 なんでいるんだよお前は。


 飛び出してきた影の正体は、クロガネ先輩だった。先輩は私に駆け寄ると、服が濡れるのも構わず、ぎゅうっと抱き締めてきた。


「大丈夫か? 辛くねぇか? あぁ、唇がこんなにも紫になっちまって……」


 いつもなら離れろと押しやっていたが、先輩の体温がとても暖かく、本能的に生命の危機を感じていた私は、少しでも暖を取ろうと無意識にひっついていた。


「! さ、サチコ……!!」

「さ、さむっ……さむ、い……」

「あ、あぁ! 悪い! 直ぐにあっためてやるからな!!」


 先輩はそう言いながら私を抱え上げると、川のほとりまで戻り、カードの力を使って、いつの間にか用意してあった薪に火を着けた。


 そして、膝の上に私を乗せると、片手で私を支えたまま、器用に背負っていたリュックを下ろし、そこからタオルケットと大きめの保温効果のある水筒を取り出した。


「ほら、はちみつとレモンを混ぜた白湯だ。体が温まって血行や代謝もよくなるし、疲労回復、リラックス効果もある。サチコの為に作ったんだ。遠慮せずに飲んでくれ」


 先輩はタオルケットに一緒にくるまると、水筒の中身をコップに注ぎ、先輩の手ずから飲ませようとする。


 あまりの甲斐甲斐しさと用意周到さに戦慄したが、今は抵抗する余力もないし、正直ありがたかったので、流されるままに受け入れていた。


 そうやって、チビチビと美味しいはちみつレモン白湯を飲んでいると、シロガネくんが蔑むような目をしながら現れた。



愚兄(にい)さん、何をやっているんですか」



 いや、だから何でいるんだよお前ら。


「あまり甘やかさないで下さいよ。……全く、まだ訓練は始まったばかりだと言うのに情けない……その様子だと先が思いやられますね」


 うるせぇこちとら凡人なんだよ。五金家(おまえら)の物差しで図るのはやめろ。


「し、しろがねぇ……」


 口に出す勇気はないので、心の中で悪態をついていると、弱々しいタイヨウくんの声が聞こえてきた。そういえば、私の近くで埋められてたなと声のする方へ顔を向けると、今にも死にそうな顔をしたタイヨウくんがいた。


「ぐ、ぐるじい……ざむいの、に、あつい……じぬ……」


 まぁ、普通に考えて生き埋め状態に近いしな。胸部が圧迫され呼吸困難になってもおかしくないだろう。それに、ここの地面は川が近くて湿っているから体温は奪われるだろうし、日差しのせいで顔は熱いという二重苦だ。冷静に考えると新手の拷問だろこれ。


 流石に助けないと危なくないか?どうするんだとシロガネくんの方を見てみると、彼はミカエルを呼び出し、すぐさまタイヨウくんを掘り起こした。


「大丈夫かいタイヨウくん!? あぁ、可哀想に……こんなに顔を青ざめて……」


 お前3秒前に言ったこともっぺん言ってみろや。


 そう視線で訴えてみるが、シロガネくんは華麗にスルーし、服が土で汚れるのも構わず、タイヨウくんの肩を支えながら鞄から水筒を取り出した。


「ほら、経口補水液だよ。君のために用意したんだ。遠慮なく飲んでくれ」


 お前も先輩とやってる事同じじゃねぇか。人の事言えないだろ。五金兄弟の血の繋がりを感じた瞬間である。


 そんなこんなで、私とタイヨウくんが限界を迎える度、五金兄弟が現れて介抱するといった流れを繰り返し、いつの間にか日が落ちていた。









 自然との対話という名の苦行で疲れはてたタイヨウくんと私は、コテージのリビングに運ばれ、死んだように寝転がっていた。


 ケイ先生と共に帰ってきたヒョウガくんは、私達の様子に呆れつつも、腕を組みながら五金兄弟の方へと視線を向ける。


「何故貴様らがここにいる?」


 ツッコむ気力がなかったためスルーしていたが、ヒョウガくんの言う通り、既にマナが扱える二人がいる事に私も疑問を抱いていた。よく代弁してくれたと思いながら二人の答えを待つ。


「サチコの隣が俺の居場所なんだよ」

「タイヨウくんの隣が僕の居場所さ」


 お前ら実は仲良しだろ。


 二人の答えになっていない回答に、思わず半目になる。ヒョウガくんも納得いかないのか、苛立ちをあらわにするが、ケイ先生が間に入った。


「まぁまぁ、落ち着いて、ヒョウガくん。彼等がここにいるのは、僕一人じゃ君らを見きれないし、万が一の事を考えて僕が呼んだんだよ」


 ケイ先生はそう言い、真剣な表情をすると説明を続けた。


「実は、君達をマナ使いとして開花させるのは、あくまでも通過点でしかないんだ」


 それは、私にとっては朗報だった。SSSCに参加するハードルが上がれば上がるほど、楽に離脱する事ができる。もっと上がってもいいのよと真顔を貫きつつ、邪な思いを抱きながら聞いていると。


「敵はマナを使えるだけじゃなく、レベルアップという未知の力を持っている。五金総帥はSSSCに参加したいのならば、レベルアップを習得する事も最低条件として提示しているんだ……だけど、レベルアップの条件は未だ不明で検討もつかないままだ。だから、この二人には君達の修行を手伝う最中、レベルアップの解明をしてもらうつもりだよ」



 ケイ先生は、SSSCまで時間がないし、マナ使いにならない事には始まらないと、これからどんどん厳しくしていくよと宣う。


 き、厳しく!? 既に死にかけているのに、これ以上きつくなるとか聞いていないぞ!? 前言撤回だ。これ以上ハードルを上げるのはやめてくれ! 命がいくつあっても足りん!!


 えいえいおーと掛け声を上げるケイ先生を見ながら、もしかして私は道を誤ったのでは?と自分の選択を後悔した。



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