ph35 タイヨウVSエンの決着ーsideタイヨウー
多分、このフェイズが最後のチャンスだ。このドローに全てがかかってる。
頼む俺のデッキ! 応えてくれ!!
「俺のフェイズだ! ドロー!!」
俺のMPは5に回復し、手札は3枚になった。
もうドローしてしまった。後戻りはできない。俺はこの手札で絶対に勝ってみせると覚悟を決めた。
「俺は大地の剣の効果を発動! ドライグの攻撃力を1上げる! 更に! MP1を消費して、魔法カード受け継がれる意思を発動! このフェイズ中、モンスターのスキルを使用する時、自身の倒されたモンスターの数だけコストを減らす事ができる!!」
ドクドクとうるさい心臓を落ち着かせるように、大地の剣をぎゅっと握りしめる。
「バトルだ! ドライグでプレゲトーンを攻撃!」
ドライグは、何も言わずプレゲトーンに向かって走って行く。ひた向きに敵に向かう後ろ姿に、俺に対する信頼が見えた。
俺もアイツの信頼に恥じないマッチをしてみせる!
「MP1を消費してドライグのスキル湖からの目覚めを発動! ドライグの攻撃力が倍になる! いけぇ、ドライグ!!」
「僕は魔炎斧で手札の降魔炎の盾を破壊して効果発動! 相手モンスターの攻撃を半減するよ!!」
ドライグの攻撃力が半減されて、プレゲトーンの体力が残り6になる。
大丈夫。ここまでは予想通りだ。本当の勝負はこっからだ!
「ドライグ! ダブルアタックだ!! MP1を消費して湖からの目覚めを再発動する! 攻撃力を倍にしてプレゲトーンを攻撃!」
今のドライグの攻撃力は6! これが決まれば俺の勝ちだ!!
「僕は魔炎斧の効果で手札の炎の盾を破壊して効果発動! 相手モンスターの攻撃を2軽減するよ!」
「なら俺はMP1を消費して魔術師の幻惑を発動! 相手の防御をすり抜けて攻撃することができる!」
「なら僕は手札の熱された鉄屑を魔炎斧で破壊して効果を発動するよぉ! このカードは1フェイズの間、自身のデッキにある装備カードと同じ効果をもつ装備カードとして扱う事ができ、フェイズ終了後は破壊される! ……んだけど、魔炎斧で使うなら関係ないよねぇ」
ドライグの足元から鎖が飛び出し、動きを止めるように体に巻き付いた。
「僕は装備カード呪縛の鎖鎌を選択。効果は1フェイズに1度、相手モンスター1体を攻撃不能状態にするよぉ」
エンはニヤリと不気味に笑う。
「残念だったねぇ? これで君は攻撃できない。攻撃できないならそのモンスターのスキルは意味ないもんねぇ?よく頑張ったと思うけどぉ、僕には──」
エンの言葉を聞きながら、俺は手札に残っているカードを見て、サチコとのマッチを思い出していた。
あぁ、俺。サチコとマッチして良かった。サチコの影縫いには苦しめられたもんな。
「俺はMP1を消費して、王からの増援を発動する!」
ドライグが、攻撃不能が弱点なのは分かってた。だから、その対策をずっと考えてたんだ。
「自分の攻撃が不能にされた時! そのモンスターの攻撃時の攻撃力分のダメージを、相手モンスター1体に与える!」
「なっ!?」
ドライグの後ろに騎士の格好をした兵がずらりと並び、全員が同時に弓を引く。
「射てぇえぇぇぇえ!!」
俺の合図に兵たちが一斉射撃をした。
矢が弧を描きながらプレゲトーンに向かって飛んでいく。
相手のMPは0。手札もない。これで絶対に勝ったと確信した瞬間。
ゾッとするような恐ろしい何かをプレゲトーンから感じた。そして、漠然とした不安に襲われる。
これで勝負は決まったはずなのに……なんだ? この変な胸騒ぎは……。
まるでこのまま攻撃したら、不味いと本能的に危険信号が発せられているようだった。
「ダメだよ。プレゲトーン」
たけど、エンがプレゲトーンに声をかけると、その恐ろしい何かはなくなった。
な、なんだったんだ? 今のは……。
「ソレはまだダぁメ。今日は僕らの負け。それでいいんだよ」
全ての矢が刺さり、プレゲトーンに6ダメージが入る。残りの体力ちょうどのダメージだ。これで勝負は決まった。
俺の勝ち。そう俺は勝ったんだ……だけど、全然気持ちがスッキリしない。それどころか、モヤモヤとしたものが心の中に広がった。
「ああぁあぁぁあ!!」
「!?」
相手のモンスターが消滅すると、叫び声が聞こえた。そうだ。このマッチは普通のマッチじゃない。通常攻撃のフィードバックであんなに痛かったんだ。負けた時の痛みはそれ以上の激痛だろう。
俺はエンか心配になり、気づいたら足が前に動いていた。
「おい! 大丈夫か!?」
俺がエンに駆け寄ろうとすると、それを止めるようにシロガネが腕を掴んだ。
「タイヨウくん、そんな奴心配する必要はないよ。仕掛けてきたのはそっちだ」
「けどよ!」
シロガネの言うことは分かる。でも、だからってこのままほっとくのは良くないだろ!
「ふ、ふふ……優しいねぇ、タイヨウくんは……」
俺とシロガネが言い合っていると、エンはフラフラと立ち上がった。
「僕は全然平気さぁ……」
全然平気そうに見えないけど、シロガネの言う通りエンが危ない奴なのは確かだから、警戒するように動かそうとしていた足を止めた。
「君とのマッチ、凄く良かったよぉ……ふふふ。本当にちょうどいい暇潰しになった」
「なんだって!?」
暇潰しという言葉に反応したシロガネは、ミカエルに命令して、エンの首もとにミカエルの剣を当てさせながら、今にも切りかかりそうな雰囲気で睨んでいた。
俺はそんなシロガネの行動に驚いてギョッとする。
「お前たちは何を企んでいる!?」
「し、シロガネ!? 落ち着けって、どうしたんだよ!?」
「コイツは今暇潰しと言ったんだ! つまり、このマッチは何かの時間稼ぎだったということだ!」
「え? どういうことだ? よく分かんねぇけど剣は下ろせって! 危ないだろ!」
シロガネは焦っているようだけど、頭の悪い俺には分からなかった。取りあえず、武器は危ないから押さえるのは別のやり方でと言ったけど、シロガネは聞く耳を持たない。
「言え! さもないと後悔するぞ!」
「だから落ち着けって!! なんか今のお前、おかしいぞ!!」
俺がシロガネの肩を掴んで止めると、シロガネはハッと正気に戻ったように俺を見た。
「タイ、ヨウ……くん」
「どうしたんだよ。いつものお前らしくないぞ? 何を焦ってんだ?」
「ごめん」
「いや、別にいいけどよ」
「……ごめん」
謝りながら俯むくシロガネに、どうすればいいか分かんなくなって、慌てて話を戻した。
「あー、えー! そ、そうだ! アイツ! 取りあえずエンを捕まえて精霊を返して貰おうぜ? そっから聞きたいこと聞けばいいんじゃないか? な?」
そう取り繕いながら、気を取り直すようにエンの方に顔を向けると、エンがミカエルの剣を素手で掴んで首から剣先を反らしている姿が目に入った。
剣を握っている手からは血が流れていて、見てるだけで痛そうだ。
「おまっ、何して……」
「タイヨウくん」
「楽しいマッチをしてくれたお礼に、良いモノを見せてあげるよ」
エンは消えていた精霊を呼び出し、不気味な声で呟く。
「プレゲトーン……レベルアップだよぉ」
エンがそう言うと、プレゲトーンから恐ろしい何かを感じた。
これは、さっきのマッチで感じた気配と同じ!?
プレゲトーンの体を覆うように黒いオーラが精霊の体を包み込んだ。
「っ、うあ!」
「ミカエル!?」
「ぐぬぅ!!」
「ドライグ!!」
黒いオーラによって拒絶されるように、近くにいたドライグとミカエルは弾き飛ばされた。黒いオーラは突風を生み出し、踏ん張っていないと、離れている俺達も飛ばされてしまいそうだった。
そして、風か止み、黒いオーラが晴れてプレゲトーンが姿を現すと、少し面影を残しているが、おぞましい姿に変わってしまったプレゲトーンと思われる精霊がいた。
レベルアップ……その言葉の意味通りなら、精霊のレベルが上がったって事か? でも、そんなルール知らないし、見たこともない。
「精霊は1階の倉庫にあるハッチから向かえばたどり着けるよぉ」
エンはプレゲトーンの肩にちょこんと座りながら無邪気に笑う。
「もう選別は終わっただろうしぃ……残ってる弱々モンスターはいーらない! 好きに持っていっていいよぉ」
「待て!」
「プレゲトーン」
「ラルヴァナ」
エンが低い声で口にしたのはスキル名だったのだろう。それを証明するように、まるで火山が噴火でもしたように、プレゲトーンの体から岩や炎が飛び出してきた。
「タイヨウくん下がって!!」
シロガネは腕輪から大きな盾を出すと、守るように俺の目の前に立った。
「くぅっ」
「大丈夫か!?」
プレゲトーンの攻撃によろめいたシロガネを後ろから支える。
「ありがとう、タイヨウくん」
「お礼を言うのはこっちだ! 1人で無理すんなよ!」
「それを、君が言うのかい?」
気が抜けたように笑うシロガネに、俺も釣られるように笑った。
「俺、そんなに無茶してる?」
「まさに今さっきしてたじゃないか」
「へへ、そう言われたら何も言えねぇな」
いつもの調子を取り戻した俺達は、プレゲトーンの攻撃に耐えていた。そして、炎の攻撃が止まり、シロガネが盾を消して辺りを見渡したけど、エンの姿はどこにもなかった。