ph34 タイヨウVSエンーsideタイヨウー
お互いにモンスターを召喚した状態でバトルフィールドを眺めていると、エンって奴の魔方陣が回りだした。
「先攻は僕だね! ドロー」
エンは笑顔でドローし、どうしようかなと呟きながら手札を見ている。
シロガネの言ってるマナ使いってのはよく分からねぇけど、多分、アイツ等みたいに不思議な力を使える人達の事をマナ使いって言ってることは分かった。
そんで、マナ使いとのマッチが普通のマッチと違って危ないということも、シロガネが俺を心配して止めようとしてくれたのも分かった。けど……。
「僕はMP2を消費してアケルシアのスキル溶岩造形を発動ぉ! デッキから炎属性の武器を手札に加えるねぇ!」
危ないと分かっていても、苦しんでるオクルを見捨てるなんてできない!!
「僕は魔炎斧を手札に加えてMP3を消費して装備するよぉ! そしてぇ、プレゲトーンとアケルシアでアチェリーを攻撃ぃ~」
「俺はMP1を消費してわたんぼのワタガードを発動する!」
わたんぼが、体から綿を作り出してアチェリーを攻撃から守る。
「魔炎斧の効果を発動するよ! 手札の装備カード1枚を破壊してぇダストゾーンに送りぃ、このフェイズ中、その効果をモンスターに付与する事ができるぅ! 僕は手札の炎の牙を破壊してぇ、プレゲトーンの攻撃力を1上げるよ!」
攻撃力が2から3になったプレゲトーンの攻撃でアチェリーの体がふっ飛んだ。
「ぐ、あぁああああぁあ!!」
「タイヨウくん!? 大丈夫かい!?」
な、なんだこれ……めちゃくちゃ痛てぇ……本当にぶっ飛ばされたみたいだ……。
「続いて行くよぉ! プレゲトーン! ダブルアタックぅ!!」
「わたんぼ! ワタガード!! っ、ああああぁあぁあ!!」
シロガネが言ってたのはコレだったのか……。
アチェリーの残り体力は2。たった3ダメージしか受けていないのに、自分の精霊が倒された時よりもすっげぇ痛かった。
もしも自分の精霊が倒されてしまったら? このマッチに負けてしまったら自分はどうなるのだろうか?
そう思うと怖くて、頭の中が真っ白になった。
「どうしたのぉ? やっぱり怖くなっちゃったぁ?」
「小童! 大丈夫か!?」
「タイヨウくん!!」
俺が恐怖で立ち尽くしていると、ドライグとシロガネの心配そうな声が聞こえてきてハッとなった。
しっかりしろ! 俺! このマッチをしていたのがシロガネだったら、この痛みを、怖さを感じてたのはシロガネだったんだ。友達をそんな目に合わせたくないだろ!!
俺は気合いを入れるように自分のほっぺたを両手で叩くと、ヒリヒリした痛みで怖さが薄れ、自然と笑う事ができた。
「だいっっじょおーぶっ!!」
俺はシロガネの方を向いてピースした。
「ちょーっと痛くてビックリしちまったけど、全っっ然平気だ! ぜってぇ勝つから見てろよ!」
「……ふーん、そっかぁ。ざんねんだなぁ。僕のフェイズは終了だよぉ」
「じゃあ俺のフェイズだな! ドロー!!」
よしっ、負ける事を考えるなんてらしくなかったぜ! このマッチ、負けるわけにはいかないんだ! 何がなんでも勝つ!!
エンのMPは0だ。防御系の魔法カードやモンスタースキルは使えないはず! 攻めるなら今だ!
「俺はMP1を消費して、手札から大地の剣を装備する! そして効果を発動! このフェイズ中、ドライグの攻撃力を1上げる!! 更に! MP1を消費して魔法カード、ブリテンの加護を発動! 5フェイズの間、MPの回復量が1増える!!」
攻撃のチャンスだ! 全員の攻撃が決まれば、アケルシアを倒せる!
「バトルだ! ドライグ! わたんぼ! アチェリー! アケルシアを一斉攻撃!!」
「やってやるわい!」
ドライグ達が、アケルシアを攻撃するために取り囲んだ。それをエンは笑いながら見守っている。
余裕そうな表情に、何か仕掛けてくるかと思ってたらすんなりと攻撃が決まり、肩透かしをくらう。
「くうぅうっ」
アケルシアの体力が5になり、エンは苦しそうな声を上げながら体を丸めた。
そ、そうだ! 3ダメージであんだけ痛かったんだ! 一気に5ダメージなんて受けたらヤバいんじゃないか!?
「お、おい! だいじょ……」
「あっーはっはっは!! 痛いねぇ! 楽しいねぇ!!」
「えっ、なんっ……」
エンの狂ったような笑い声に、俺は困惑して後ずさった。
「いいよぉ、いいねぇ……もっともっと激しいマッチをしよぉ?」
な、なんなんだコイツ!?
「もっともっともーーっと血湧き肉踊るようなマッチをさぁあぁあ!」
「ド、ドライグ! MP3を消費してスキル湖からの目覚めを発動! 攻撃力を倍にしてアケルシアを攻撃!」
俺は戸惑いながらも指示を出す。
「僕は魔炎斧の効果を発動! 手札から降魔炎の盾を破壊してアケルシアの受けるダメージを半減させる!」
ドライグの攻撃は半減され、アケルシアの体力を2残してしまった。俺の残りMPは1。ここは無理せずフェイズを終了させよう。
「俺のフェイズは終了だ!」
「じゃあ僕のフェイズだね!」
相手のMPが3になった。まだプレゲトーンのスキルは使われていない。
いったいどんな効果があるのだろうか? それとも、まだ使わないでとっておくのだろうか。
「僕は魔炎斧で手札の炎舞双剣を破壊して効果発動! このフェイズ中、アケルシアがダブルアタックできるようになる! そんでぇバトルだよぉ! アチェリーを2回攻撃ぃ!」
「っ! ぐ……あ!!」
わたんぼのスキルではダメージを0にする事は出来ない。アチェリーが倒されるのは避けられないと判断して攻撃を受けたけど、フィードバックが痛すぎて声が出せなかった。
「タイヨウくん!? 大丈夫かい!? しっかりしてくれ!!」
アケルシアの剣でアチェリーの体を切られた瞬間、俺の体も本当に切られたように痛かった。俺の体は何ともない筈なのに、体から血が流れているような感覚がする。
立つことが辛くて膝をつきそうになったけど、シロガネが支えてくれたお陰で何とか立ったままでいられた。
「くそっ、やっぱりダメだ……これ以上タイヨウくんが傷つくのは見てられない……僕が代わりに──」
「ダメだ!!」
俺はゼーゼーと息をしながら、腕輪を構えようとしているシロガネの腕を下ろさせた。
「それ、だけは……ダメだ」
「でも!」
「シロ、ガネが……っ、倒れたら……間に合わなくなる!!」
「!」
支えてくれているシロガネの肩を押しながら、フラつきながらもしっかりと立つ。
「サチコも……今、がんばってんだ……ちゃんと、帰らないと……それには、シロガネの力が必要なんだ!!」
そうだ。サチコだって辛いはずなのに、自分を差し置いて、俺達を送り出してくれたんだ。辛いのは、痛いのは俺だけじゃない。サチコの方がもっと苦しくて辛いのに、頑張ってくれてんだ。
「それに、さ。ここで俺が倒れても……シロガネなら何とかしてくれるだろ? だから、俺が勝った後の事を任せたいんだ」
「……タイヨウくん」
「シロガネだから……安心して任せられるんだ……ダメか?」
シロガネは、何かを考えるように目を瞑った。そして、ゆっくりと開くと納得してくれたのか、真剣な顔で頷いてくれた。
「……分かった。でも、あまり無理はしないでくれ」
「へへっ、無理なんかしねぇよ」
無茶はするかもなって言うと、シロガネはやれやれといつものように笑った。
「小童……本当に続けるのか?」
「勿論! ……頼りにしてるぜ、相棒!」
「……まったく、おヌシの頑固には困ったもんじゃな」
ドライグも呆れながらも一緒に戦ってくれている。これ以上情けねぇ姿は見せらんねぇな。
「あ、終わったぁ?」
「あぁ、待たせて悪いな! もう大丈夫だ!」
「なら良かったぁ」
もうフラついたりしねぇ! どんなに痛みでも耐えてやる!
「じゃあ遠慮なくいかせてもらうねぇ? ……僕は魔炎斧で手札の炎の牙を破壊! プレゲトーンの攻撃力を1上げる! さぁ、プレゲトーン! わたんぼに攻撃だよぉ!!」
「っ!!」
だい、じょうぶ!! これぐらい耐えられる!!
「続けてダブルアタックだよぉ!!」
「ああああああ!」
全身に力を入れて痛みに堪える。今度はわたんぼが倒されても倒れなかった。
「これで、君のモンスターはドライグだけだねぇ?」
エンの言う通り、俺のフィールドにはドライグしか残っていなかった。
「僕はこれでフェイズを終了するよ。君はどうするのかな?」
相手のMPと手札は3。俺はフェイズが回ってくると、MPも手札も5になる。まだまだ巻き返せる。
「俺のフェイズだ! ドロー!」
やった。大地の斧が引けた! これでドライグを強化できる!
「俺は手札から大地の斧をドライグに装備! ドライグの攻撃力が3になる! 更に大地の剣の効果も発動! ドライグの攻撃力を更に1上げる!」
これでドライグの攻撃力は4! 半減されてもアケルシアは倒せる!
「バトルだ! ドライグ、アケルシアを攻撃!!」
ドライグの斧がアケルシアを切り裂き、体力を0にする。
フィードバックの痛みで、エンは顔を歪めた。
「ダブルアタックだ! プレゲトーンも攻撃!」
ドライグは、斧を振り下ろした力を利用してくるりと回ると、その勢いを使って、プレゲトーンに斧を振り下ろした。
「MP3を消費してプレゲトーンのスキル燃え盛る炎を発動するよぉ。相手モンスターに攻撃された時、そのモンスターが武器を持っていたら破壊する事ができる」
ドライグの斧がプレゲトーンの体に触れると、マグマみたいな炎が吹き出し、斧がドロリと溶けた。
「更に、武器の破壊に成功したときぃ、ダメージを無効にし、相手モンスターに1ダメージを与えるぅ」
「がああぁああぁ!!」
「小童!!」
あつい、あついあついあついあつい!! 右手が燃えているように熱くなる。
叫んでいた口を閉じて、奥歯を噛みしめながら意識に集中する。
大丈夫、これはフィードバックだ。本当に燃えてるわけじゃない。
「俺はMP1を消費して魔法カード王の激励を発動! ドライグ! 再攻撃だ!」
「……っ、あい分かった!」
諦めるな! 少しでも削るんだ!!
「僕は魔炎斧で手札の炎の盾を破壊して効果発動! 相手の攻撃を2軽減するよ!」
「なら俺はMP3を消費して湖からの目覚めを発動! ドライグの攻撃力を倍にする!!」
プレゲトーンの前に現れた盾を破壊しながらダメージを与える。
これで相手の体力は11、ドライグは14だ!
「俺のフェイズは終了する!」
俺がフェイズ終了の宣言をすると、エンは人差し指でほっぺたを刺しながら首を傾げた。
「うーん、どうしよっかなぁ……」
「?」
「よし、きぃーめた! ドロー!」
何を悩んでたのか分からないけど、仕掛けてくるならここかもしれない。気を引き締めてこう。
「僕は手札から道具カード炎の武器庫整理を使用するよぉ! 効果はぁデッキからカードを3枚引いてぇ、そのカードが炎属性の装備カードだったら全て手札に加えまぁす!」
炎属性の装備だって!? そんな簡単に装備カードを引けるわけが……。
「じゃあ引っくよー」
エンの腕輪から3枚のカードが飛び出し、俺にも見せるように、1枚ずつカードが捲れる。
「1枚目はぁ? 降魔炎の盾ぇ~2枚目はぁ? 炎の槍ぃ~」
そんな!? 2枚連続!?
「そしてぇ、3枚目はぁ?」
さすがにこれ以上はでない筈!!
「勿論、焼死者の首飾りだよ」
「!?」
さっきから手札にある装備カードといい、3枚連続で引き当てたりする事といい、もしかしてコイツのデッキは……。
「あ、気づいちゃったぁ? ご明察通り、僕のデッキはほぼ装備カードの武器デッキさぁ」
な、何だって!? そんなデッキ、ありえるのか!?
「ふふふ。まぁ、気づいた所でどうにも出来ないだろぉけどねぇ~! 炎の槍をプレゲトーンに装備! 攻撃力がプラス1される! 更に魔炎斧で焼死者の首飾りを破壊!効果は攻撃力を3上げる代わりに、攻撃する度ダメージ1を受ける!! バトルだよぉ!!」
「っ! 俺はMP1を消費してブリテンの砦を発動! このフェイズ中、相手から受けるダメージを全て1軽減する!」
俺はとっさに砦を発動し、今からくる痛みに耐える為に歯を食い縛った。
「まずは一撃ぃ!!」
「ぐぬぅ!」
「っうう!!」
ドライグが槍で切られ、フィードバックで同じ場所が切られたように痛み、熱をもった。
「2回目ぇ!!」
「ぐぬわぁぁ!」
「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!」
そして、止めと言わんばかりにドライグの腹を貫かれ、俺の腹にも同じような衝撃がきた。
「こ、小童……大丈夫か?」
「へ、……へへ……なんとか」
ドライグの体力は4になっちまったが、まだチャンスはある。次のフェイズで巻き返せる!!
「まだ僕のフェイズは終わってないよぉ」
俺はエンの言葉に驚きで目を見開きながら、顔を上げた。
「MP3を消費してぇプレゲトーンのスキル熱鉄溶溶を発動! ダストゾーンに送られた武器を任意の枚数ゲームからドロップアウトさせる事により、その枚数分のダメージを相手モンスター1体に与える!」
「何だって!?」
「僕がドロップアウトさせる枚数はぁ~」
エンのダストゾーンに送られた武器のカードが目の前に現れる。その枚数は6枚。ドライグの体力は4。これはまずい!!
「5枚」
「俺はブリテンの砦の効果を発動! これを破壊する事により、自分のフィールドのモンスター1体を選択し、ダメージを受けても体力を1残して耐える!! っ! ああぁあぁぁああ!!」
「ざぁんねん。倒しそびれちゃったぁ」
全身が焼かれているように熱い、俺は燃えてもいないのに、見えない火を消そうと地面を転がり回った。
ドライグとシロガネが俺の名前を呼んでいる声が聞こえてきたけど、目の前が霞んで反応できない。
状況は絶望的だ。エンのMPは0だけど、手札が3枚もある。うち1枚は降魔炎の盾って分かっているから、プレゲトーンの体力は9も残ってんのに、俺の攻撃は1回は半減される。
それに対して俺の手札は2枚。MPもたった1しかない。
俺は本当に勝てるのか? ……いや、弱気になるな! 加護のお陰でMPは4回復するんだ。5もあればできることは増える! まだ負けてないんだ! ここで諦めたら勝てるもんも勝てなくなるだろ!!
俺はゆっくりと体を起こしながら、危なげながらも立ち上がった。
このフェイズは乗り切った。俺のフェイズが回ってきたんだ。そう、まだ俺は行動できるんだ!!
腕輪をにそっと手をおいて深呼吸する。
こんなピンチ、今まで何度もあった。そして何度も乗り越えてきたじゃないか! 信じろ。ドライグを、自分のデッキを、自分自身を!!
俺は勝つ! 絶対に勝てる!! このドローに全てをかけるんだ!! 最後までぜってぇ諦めない!!
「俺のフェイズだ……ドロー!!」
俺は、自分の弱気を吹き飛ばすように思いっきりカードを引いた。