ph33 一方その頃サチコは
かっこよく決めたのにまさかの後半戦でした!! これは恥ずかしい。恥ずかしすぎるぞ!!
私は控え室ではなく、観客席の椅子に座りながら試合を観戦していた。
午前の試合を勝ち上がったチームは、チームホーリーナイト、ガンマン、アサシンと我らがタイヨウの4チームである。その内のガンマンとアサシンがマッチしているので、私達が今日マッチする相手はホーリナイトで確定だろう。
「チームガンマンは追撃を得意としたチームです。アタッカーのモンスターに追従して繰り出される援護射撃は脅威です。対するアサシンはトリッキーな動きで敵を翻弄する事が得意のチームです。相手のやりたい事をさせずに自分の土俵に上がらせて有利な戦いを仕掛けます。これは激しいマッチになる予感ですね!!」
私の隣で、眼鏡を激しく動かしながらタブレットに何かを打ち込んでいる解セキオくんは、通常運転でノンブレス解説を繰り広げている。
『的井イヌク選手の華麗な銃捌きが炸裂ぅうぅぅうぅ!! 新野シノブ選手大丈夫かぁあぁあ!!』
『シノブちゃんの戦術を見越してのカウンター攻撃ねん。夜闇に紛れても標的を捕らえる鷹の目。しびれるわぁ~』
「おおおおおお!! 新野選手がモンスタースキルで妨害する事が分かっていたから、的井選手はあの時魔法カードを使用しなかったのですね!! 新野選手のモンスタースキルは妨害に特化しています。正直、的井選手にとってかなり刺さるスキルですが、魔法カードで補うことにより、逆に新野選手の得意とする戦術を利用するスタイルを確立したのか!! これは興味深いです!!」
シンプルにうるさい。
不協和音のコーラスを聞かされている気分だ。
試合が後半戦であった事をSAINEを通じてクロガネ先輩に連絡したのだが、先輩から一人は危険だから誰かと行動してくれと返信が来たのだ。
そんな大袈裟なと思ったが、ここはホビアニっぽい世界だ。万が一ということがあり得るので、素直に従ったのだが、人選が悪かったようだ。
本来ならハナビちゃんと一緒に観戦したい所だが、かっこよく決めた手前、医務室に戻りずらかったのだ。そのため、ユニオンへの通報が終わったセキオくんとたまたま出くわし、丁度良かった一緒に見ようという流れになったのだが。
いかんせん、かなりうるさかった。キャラの特性上、仕方がないのかもしれないが、常時隣で大ボリュームの終わらない熱い解説を聞いてみろ? もの凄くしんどいぞ。
例えるならそう、こっちはやる気がないのに、空気を読まない熱血教師が根性論を叩きつけてくるような気分だ。
はぁ、とため息をつき、頬杖をつきながらセキオくんの息継ぎをするタイミングを狙って話し掛けた。
「セキオくん」
「はい! サチコさん! 何でしょうか?」
「ホーリーナイトがどんなチームか分かる?」
「ホーリーナイトですか?」
セキオくんは、眼鏡をクイッと動かしながらタブレットをスワイプして画面を此方に見せた。
「ホーリーナイトは防御に特化したチームです。特に大将である盾石ヒカルは鉄壁の防御を誇り、ダメージを与えるのが難しいでしょう。が、サチコさんがマッチするならば、この人ではなく先鋒の三剣ケンの方でしょうね」
セキオくんは、盾石の画面をスクロールさせ、三剣のプロフィールを映し出した。
いや、これ普通に凄いな。選手の身長体重や趣味とか最近買ったものや交友関係などの個人情報まで書いてあんぞ。
……解セキオ……末恐ろしいな。
「彼はホーリーナイトの中では少し特殊で、やや攻撃に特化したプレイングを好みます。召喚するモンスターはレベル4とレベル1の組み合わせが多いですね。今大会においてもほぼこの組み合わせです」
レベル4のモンスターか……レベル1はスキルが1つ。レベル2、3は2つなんだけど、レベル4、5は3つも持っているんだよなぁ。しかもコストが高い分、どれも面倒な効果ばかりだ。クロガネ先輩がいい例である。
私とマッチする時は死への誘いを使うことが多いけど、残り2つもかなり厄介だからな、三剣のモンスターも警戒した方がいいだろう。
私はクロガネ先輩に貰った影鬼のカードを見る。
次のマッチはこのカードを使った方が良さそうだな……耐久面も優れているし、高レベルモンスターと渡り合うポテンシャルもある。
私は影鰐のカードをサブモンスターデッキに入れ、影鬼を召喚モンスターに加えて立ち上がった。
「サチコさん? 何処に行くんですか?」
「デッキの最終確認したいから、控え室に戻るね」
あまり一人で行動するなと言われたが、チームガンマンとチームアサシンの試合は、1勝1敗で残るは大将戦のみとなった。もうそろそろ控え室に戻らないと、試合開始に間に合わないかもしれない。
「情報ありがとう。有効活用させてもらうよ」
さて、私の試合は勝つことが目的ではない。少しでも時間を長引かせる事だ。
あの4人にチームワークなど期待していない。タイヨウくん以外のメンバーは協調性というものが欠落しすぎている。
シロガネくんはタイヨウくんの事しか考えてないから、タイヨウくんと行動を共にするかもしれんが、ヒョウガくんとクロガネ先輩は絶対に個人プレーに走るだろう。最悪、言い争いになって足の引っ張り合いをする恐れもある。
……あぁ、その場面が簡単に想像できるな。どうか二人が行動を共にするとかそんなハプニングは起きないでくれよ。
でも、まぁ。結局はタイヨウくんの主人公パワーでどうにかしてくれるだろうと、彼の主人公補正にかけて送りだしたのだ。私の頼みの綱はタイヨウくん、君しかいない。本当に頼むぞ!!
スムーズに敵地潜入が行かないことを見越して、徹底的に相手の妨害に特化したデッキに再編しよう。ここまで体を張ったのだ。賞金の100万は絶対に手に入れてやる。
4人で割ることを考えたら割に合わんが仕方があるまい。タイヨウくんを宛にして楽しようとしたツケが回ってきたのだと考えよう。
うまい話には裏がある。それを実体験で学べたいい教訓だと思おう。