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ph31 敵地に潜入ーsideシロガネー


 まさか、愚兄(あに)が他人へのランセンス付与の特権を与えられていたなんて……。


 僕は奴がタイヨウくん達に施した一時的ライセンスに衝撃を受けていた。


 五金の後継者候補として認められなければ与えられない特権を何故奴に? 父上は何をお考えなのだろうか……。


 父上から五金家に戻ってもいいというお許しがあった事を伝えた後、奴が父上に会いに行ったのは知っていたが、その時に父上から頂いたのか?


 しかし、結局家には戻らず、一人暮らしを続けるとじいやに聞いていたのに、やはり五金として適格なしと判断されて戻された訳ではなかったのか? 何故僕ではなく、あんな出来損ないに特権を与えたんだ?


 あの疫病神に……本当の由緒正しい後継者であったアオガネ兄さんを殺したアイツなんかに何故!? その特権はアオガネ兄さんが持つべきものだった!! あんな問題児なんかじゃなく!! 優しくて、完璧で、才能溢れる兄さんのものなのに!!



 僕の中に、ドロリと黒い何かが流れた。


 あぁ、兄さん……兄さんがいてくれたら精霊狩り(ワイルドハント)の問題もすぐに解決できただろうに。何故こんな奴が!!


 兄さんなら……兄さんだったら……。


「……ネ……シロ………ネ…………シロガネ!!」

「っ!? ……た、タイヨウくん?」

「どうしたんだ? ボーッとして」

「……なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけさ」

「そう、なのか? それならいいんだけど……」


 いけない……僕の精神が乱れていては、タイヨウくんに心配をかけてしまう。冷静にならなければ……。


 僕は自分を落ち着かせるように一呼吸すると、ニッコリと笑い、タイヨウくんといつものようなやり取りを続けた。





「おい、お喋りはそこまでだ。下を見ろ」


 ヒョウガくんに言われ、視線を下に向けると、今は使われていない変電所会社の跡地が建っていた。


「ここに奴等がいるのか?」


 僕の疑問に答えるかの如く、愚兄(あに)は建物付近の道路に着地し、ブラックドッグから降りると、無言で建物の入り口に向かって行った。


「先輩待ってくれ!」


 それに気づいたタイヨウくんが、愚兄(あに)の目の前にドライグを降り立たせ、そこから飛び降りると、愚兄(あに)の進路方向を邪魔するように両腕を広げた。


「俺達と一緒に行こう!」

「……何とぼけたことぬかしてやがる」


 タイヨウくんの行動に、愚兄(あに)は不愉快だと顔をしかめた。


「サチコに言われたから仕方なく連れてきてやったんだ。これ以上てめぇ等の面倒を見る義理はねぇ」

「そうじゃなくて! ここからは何があるか分からないかだろう?1人は危険だ!!」


 タイヨウくんの言いたい事は分かる。が、奴は絶対に従わないだろう。


「俺はてめえ等とは違ぇんだよ。弱ぇ奴は弱ぇ奴同士で群れてろ。俺には関係ねぇ」

「うわぁっ」

「タイヨウくん!」

「小童!」


 タイヨウくんは奴に乱暴に体を押され、尻餅をついた。僕はタイヨウくんに駆け寄ると、側で膝をつき、彼の肩を支えながら起こした。


愚兄(にい)さん!!」

「……ブラック、行くぞ」

「りょーかい、ご主人様っと……悪いね御三方」


 ブラックドッグは、飄々とした態度で僕らの横を通りすぎると、奴に追従して建物の中へと入った。


「……奴の言うことも一利あるな」


 僕が奴の後ろ姿が見えなくなるまで睨んでいると、ヒョウガくんが神妙な顔で顎に手を当てていた。


「俺達には時間がない。バラバラに動いた方が効率がいいだろう」

「でもよ!」

「タイヨウ、悪いが俺も行く。何かあれば連絡すればいい」


 ヒョウガくんはスマホの存在を示唆させると、迷いのない足取りで歩みを進めた。此方を振り返る様子はない。


 タイヨウくんが遅刻した日、連絡先を交換していて正解だった。僕も彼等の世話をするのは面倒だと思っていたし、タイヨウくんと二人で行動できるのなら好都合だ。


「待てよ! ヒョウガ! ヒョウガってば!! ……あー、もう行っちまった……」


 タイヨウくんはガックリと肩を落としていたので、励ますように手を差し伸べる。


「タイヨウくん、大丈夫だよ。ヒョウガくんも愚兄(あに)も心配する必要はないさ。僕らは僕らで行こう」


 タイヨウくんが僕の手を掴んだので、グッと引っ張りあげて彼を立たせた。


「そう、なのかなぁ……二人とも強いし、余計な心配しちまったのか?」


 違うよ。彼等がやられても君が気にする事ではないということだよ。


 そう伝えたら優しいタイヨウくんは気に病んでしまうから、僕は言葉を飲み込み、笑顔のまま頷いた。









 建物の中は外観に比べてとても広く感じた。全ての部屋の扉を開けながら進んでだいぶ時間が過ぎたが、敵の姿はおろか、人の気配すらしない。先に行った二人の姿も見かけないが、何処に消えたのだろうか。


「おっかしぃなぁ、誰もいないのか? ……先輩とヒョウガもいねぇし、二人とも何処に行っちまったんだろう」


 タイヨウくんも同じ疑問を抱いていたらしい、小首を傾げながら辺りをキョロキョロと見渡している。


「もしやあの生意気な小童に騙されたのではなかろうな?」

「先輩はそんな事しねぇよ!」

「何を根拠に言うとるのだ。あの小童の事をよく知りもしない癖に」

「うぅ、そうだけどよ……」


 タイヨウくんは、ドライグの指摘にしどろもどろになる。


「けど、サチコが大切だって思いが嘘じゃないことは分かるさ」


 あぁ、それは確かに。サチコさんの何が良いのか理解できないが、異常に懐いている事は見て取れる。


「きっと、先輩はサチコに対して嘘はつかねぇし約束だって守るはずだ。俺もハナビが大切だから分かる。だから、先輩は俺達を騙してなんかいないって思えるんだ」


 ハナビちゃんか……彼女は小さな頃からタイヨウくんを支えてきた存在だからな。彼女のタイヨウくんへの献身さは目を見張るものがあるし、タイヨウくんにとって大切だと言わしめる存在であることも納得できる。


 僕にはそういう存在がいないから想像出来ないが、タイヨウくんがそう言うのならばそうなのだろうと頷いていると、横から強い視線を感じた。隣を見ると、ミカエルが僕を凝視していた。


「どうした? ミカエル」

「いえ、嫉妬しないのですね」

「僕が? 何に?」

「……どうやら杞憂だったようで安心致しました。出過ぎた真似をしてすみません」


 ミカエルは一礼すると、無言で後ろに下がった。


 ミカエルの発言の意図が分からず疑念を抱いたが、すぐに切り上げたと言うことはさほど重要ではないのだろうと思考を切り替えた。








 遂に最上階まで来てしまった。ここまで人の気配は全くなく、本当に精霊狩り(やつら)がいるか疑わしくなってきた時、タイヨウくんの足元に大きな魔方陣が現れた。


「な、なんだこれ!?」

「タイヨウくん!!」


 タイヨウくんは魔方陣の光に包まれ、体が透け始めた。


 これは転移魔法陣!? 精霊狩り(やつら)は何処までマナを使えるんだ!?


 僕はタイヨウくんと別行動はまずいと、彼の方へ手を伸ばした。


「くっ、シロガネ!!」


 タイヨウくんも僕の方へと手を伸ばす。


 あぁ、もう少しで消えてしまう!!


 タイヨウくんの体が全て消え去りそうになる瞬間、何とか彼の手を掴み、離れ離れになるという最悪の事態は免れた。










 光が収まり、眩しさのあまりに閉じていた瞳を開くと、先程の寂れたビルの景色とは異なる禍々しい……まるで火山の中にいるような光景のバトルフィールドの上に立っていた。


 僕の隣には、状況を飲み込めず慌てているタイヨウくんがいる。



「え? え? なんだここ!? 俺達どうなったんだ!?」

「ようこそ僕のバトルフィールドへ!!」


 突然、聞き覚えのある声が聞こえた。その声の主の姿を捕らえると、ソイツは両腕を大袈裟に降りながら楽しそうに跳び跳ねていた。


「やっほー! さっきぶりぃ! そぉんなに僕に会いたかったのぉ?」


 跳び跳ねている人物──火川エンはからかうような口調で僕達を煽る。


「馬鹿みたいに道に迷ってたからさぁ、優しい僕がわざわざ出向いてあげたんだよぉ~。どう? 嬉しいでしょぉ?」

「お前は火川エン!?」


 火川エンは神経を逆撫でするような笑みを浮かべながら、バトルフィールドのサモナーの定位置に立つ。


「オクルの精霊を返せ!! 二人のスキルも解除するんだ!!」

「えぇ~、やだよ」


 火川エンは、唇を尖らせながら不満げな顔をしている。


「でもぉ、どうしてもって言うならぁ~。聞いてあげないこともないよぉ」


 そう言うと、彼? 彼女? は、指を鳴らしてバトルフィールドを起動させた。


「僕が負けたら精霊は返してあげる。僕が勝ったらぁ~」


 火川エンは、不適な笑みを浮かべながら僕たちに指を差した。


「君たちの精霊ちょーだい」

「……分かった」


 タイヨウくんは、覚悟を決めた強い瞳を宿していた。きっと、マッチの相手を名乗り出るつもりなのだろうが、それは許可できない。


「俺が相手だ! 火川エン!!」

「タイヨウくん!」


 僕はタイヨウくんを止めるように彼の腕を掴むと、タイヨウくんは絶対に勝つから心配するなと言うが、そうじゃない。


「相手はマナ使いだ! マナ使いとのマッチは普通のマッチとは違う……通常、フィードバックするダメージは軽減されているが、マナ使いが相手となるとモンスターの痛みがそのままサモナーに伝わるし、通常の試合とは段違いに危ないんだ!! 負けたら只ではすまない!!」


 相手がマナ使いならば、此方もマナ使いでないと最悪、死の危険性がある。タイヨウくんをそんな目に合わせる訳にはいかない。


「ここは僕がっ」

「シロガネ」

「っ!」


 タイヨウくんの表情に僕は呆気に取られた。


 どうして? 何で君はいつも通りでいられるんだ? サチコさん達がどんな目に合っているか目の当たりにしているはずなのに、何故恐れない?


「大丈夫だから、俺に任せろ!!」


 危険だ。危ない。彼にそんなことさせられないと強く思うのに、何故かその時の僕は彼に逆らえなかった。


 彼を掴んでいた手の力が自然と抜ける。


「うしっ! 決まったな」


 タイヨウくんは、火川エンと真っ向から向き合うように立つと、腕輪を構えた。


 火川エンも対抗するように腕輪を構える。


「楽しいマッチにしようぜ! コーリング、ドライグ! わたんぼ、アチェリー!」


「ぜぇんぶ燃やしちゃえ! コーリング! プレゲトーン! アケルシア!」



「レッツサモン!!」


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