ph28 悪役からの正論
先輩と私は、ブラックドッグに乗った状態で、タイヨウくん達の近くにある建物をかけ上り、そこから彼等を見下ろしていた。
わざわざ上る必要はあったのだろうか? 演出の問題か? かっこ良く登場するためか? 先輩も拗らせてんな。
「楽しそうなことやってんじゃねぇか」
「っ、テメェは!?」
黒いフード被った人物は、クロガネ先輩を見て動揺している。
あれ? コイツもしかして渡守センじゃないか? 銀髪が少し見えてるし、声も何だか聞き覚えがある。
「俺も混ぜろよぉ!!」
先輩がそう言うと、ブラックドッグはタイヨウくん達の側に飛び降り、渡守と思わしき人物を前足で攻撃した。渡守はそれを後ろに飛んで避ける。
「だ、誰だ!?」
「! ……貴様は……」
「愚兄さん……」
チームタイヨウのメンバーは、突然現れたクロガネ先輩に驚いている。
「サチコちゃん!!」
ハナビちゃんは、私の存在に気づいて嬉しそうに声を上げたので、取り敢えず手を振っておいた。
「彼は五金クロガネ!? シロガネさんのお兄さんで、五金財閥の異端児!! 最近は様々な大会で暴れ、彼とマッチするならば無事ではすまないと恐れられている危険人物です!! 五金の名に恥じぬ圧倒的な強さを持ち、彼を止められる者はいないだろうと言われています!! そんな彼が何故ここに!? もしや弟のシロガネさんを助けに来たのでしょうか!?」
おい、一人だけ反応がおかしい奴がいるぞ。
解セキオくんは、興奮したように眼鏡を激しく上下に動かし、解説キャラに恥じない息継ぎなしの説明を披露している。というか、先輩って周囲からそんな認識あったのかよ。全然知らなかったわ。
「何しに来たんですか?」
「安心しろよ。てめぇの為じゃねぇ、サチコの為だ」
先輩はシロガネくんをあしらいつつ、抱えている私を更に引き寄せると、ヒョウガくんに対してどや顔をしていた。
あの、そういうのやめてくれません? ヒョウガくんも困ってるだろ。対抗意識持ってんのはお前だけだよ。
そして、セキオくんは持っているタブレットに何を打ち込んでいる? 変な事書いてたらその液晶かち割るぞ。
「クソがっ!」
渡守は被っているフードを更に引っ張り、顔を隠そうとしていた。昨日の事を引きずっているのだろう。あれだけボコボコにされたんだ。なるべく会いたくないという心理は分かる。彼にとっては不本意な再開に違いない。
しかし、私にとっては好都合だった。これは精霊狩りという組織と深く関わらずに、渡守とマッチできる絶好の機会ではないだろうか?
ここでマッチして、渡守に勝てばあの中二臭い痣は消えるし、無理に奴等と関わる理由もなくなる。まさに一石二鳥だ。
私は先輩の腕を軽く叩いて下ろすように伝えると、先輩は少し悩んだ末、しぶしぶと下ろしてくれた。
私はタイヨウくん達を庇うように立ち、渡守を睨む。
「何をしていたのかは分かりませんが、私のチームメイトを傷付けるならば容赦しませんよ」
ホビーアニメで仲間を助けにきたキャラ風の台詞を吐きつつ、自然にマッチに持っていくにはどうするべきかと考える。
「うっせェなァ……ソッチが俺の邪魔をしてきたんだよ」
「邪魔とは?」
「違う!! お前がオクルの精霊を奪ったからだろ!!」
オクルと言われて一瞬誰だ? と疑問を抱いたが、本選1回戦でタイヨウくんがマッチした相手である事を思い出した。
正円がこの場にいるのかと周囲を軽く見渡すと、ハナビちゃんの膝を枕にして気を失っている正円の姿があった。役得だなおい。
「何言ってんだァ? 俺がマッチして得た戦利品だぜェ? マッチに勝利した者の意見は絶対だろォ? サモナーならサモナーのルールを守れよ」
渡守は呆れながら、この世界のぶっ飛んだルールを当然の如く主張する。
「そんな……っ、精霊はサモナーの大事な友達だ!! 友達をそんな風に扱うのは許せない!!」
「俺はちゃあんと説明したんだぜェ? 負けたらテメェの精霊を寄越せってなァ!! それが嫌なら端からこんな条件飲んでマッチしてんじゃねェよ!バァカ!!」
それは、ちょっと一理ある。
「サモンマッチは皆が笑顔になれる楽しいゲームなんだ!! ……賭け事とか……そんな酷い事に使うのは許せない!!」
「ゲームだァ?」
タイヨウくんの意見に、渡守は不愉快そうに声が低くなる。
「……コレが楽しいゲームだとォ!?」
渡守は1枚カードを取り出すと、カードを持っている右手を大きく振り、斬撃のようなモノを出した。その斬撃は近くにあるポストと地面を破壊して、中にある郵便物が豪快に舞う。
おい、当たり前のようにカードの魔法を使うな。なんだよ、精霊バトルだけじゃなく魔法バトルもする気か? やめて下さい死んでしまいます。
「こんな簡単に他人を傷つけられるゲームがあってたまるかよォ!!」
あ、それは分かる。
「だいたい、たかがゲームで決められる人生なんざおかしいだろ! 何でもかんでもマッチマッチマッチマッチマッチ!! マッチの腕で決まる実力社会なんざクソ喰らえだ!!」
めっちゃ分かる。
「ンな社会を当然のように受け入れているなんざ……テメェら全員イカれてんじゃねェのか?」
え? なんなのこの人? さっきから正論しか言ってないぞ? 渡守の発言を否定できる要素が一切ない。
もしかしてコイツあれか? ホビアニに出てくる正論を言ってくるタイプの悪役か? まるで視聴者の変わりと言わんばかりに代弁してくれるタイプの悪役か? なんだそれ嫌いじゃないぞ。むしろそういうのは大好きだ。いいぞ、もっと言ってやれ。
痣つけられたり、悪の組織介入フラグを立てられて絶対許さんと思っていたが、渡守に対する好感度が爆上がりした。
「そんなことない!!」
タイヨウくんは意思のこもった瞳で渡守と向かい合う。
「俺はサモンマッチを知って……ドライグと出会って……確かに、辛いことや苦しいこともあった……けど! それ以上に楽しい出来事や大切な仲間と出会えたんだ!! だからっ」
「うるせぇ!」
渡守は、タイヨウくんの言葉を遮るように叫んだ。
「テメェの言い分なんざ知るか! テメェの主張を俺に押し付けんじゃねェ!!」
渡守は怒りで肩で息をしながら、腕輪を構えた。
「どォしてもっつゥならマッチしようぜェ? ソレがテメェ等のやり方だろォ?」
渡守は皮肉るように笑う。
「そうですね。それが手っ取り早そうです」
私はこの絶好のチャンスにしれっと乗っかり、同じように腕輪を構えた。
「このマッチで白黒つけましょう……渡守センくん」