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ph27 主人公が歩けばトラブルに当たる


 私はクロガネ先輩に指定された、会場の外にある休憩所までゆっくりと歩いていた。


 時間は午前11時。昼の試合は2時から始まるから、3時間ほど余裕がある。


 午前に行われるマッチが終わっていないおかげか、会場の外の人だかりは少ない。今のうちにお昼ご飯でも買っておこうかと考えていると、目的地で待っているクロガネ先輩の姿が見えた。


「サチコ!」


 先輩も私を見つけたのだろう。私の姿を認識した瞬間に笑顔になり、嬉しそうに駆け寄って来る。まるで飼い主が帰ってきて喜ぶワンちゃんである。


「悪夢は大丈夫か? 体調はどうだ? 辛いなら俺が運ぶぞ?」


 先輩は私の周りをくるくる周りながら心配している。


「大丈夫です。問題ありません。自分で歩けます」

「……そうか」


 私が抱える必要はないと先輩の申し出を断ると、彼はしょんぼりと肩を落とした。


 なんか、先輩の過保護が加速してないか? 昨日の夜は珍しくSAINEの通知はなかったが、今日の朝はいつも通りメッセージが届いていた。しかし、その内容が以前に比べて重くなっていたのだ。


 こう、なんていうか。返答に困るようなメッセージを送ってくるのだ。大好きだとか、サチコと出会えて幸せだとか、一番の親友はお前だ。ずっと一緒にいようなとか意味もなく送ってくるのだ。


 頭の中に、タイヨウくん大好きシロガネくんの姿が過った。


 これ以上、私に対する執着心を野放しにしていたら大変な事になりそうだ。どうにかその執着心を別に移すか、せめて分散できればと考える。


 やはり、タイヨウくんをぶつけてみるか? 彼は熱血主人公タイプの人間だ。クロガネ先輩みたいな人との相性も悪くないだろう。


 それに、彼の懐の広さなら、クロガネ先輩の重い家庭事情とかも包み込んで受け入れてくれそうだしね。彼と友達になって、先輩の交友関係が広がってくれたら、私に対する感情も薄れていくだろう。


 そうだよ。そうしようと、ヤンデレ化しそうな先輩をどうにかする為に思考を巡らせていると、先輩がいきなり抱き付いてきた。


 急なことで驚き、無理やり剥がそうとするが全く離れない。それどころか更に密着して首筋に顔を埋めてきやがったのである。


「ちょっ!? 先輩!? 何してっ……」

「サチコの匂いがいつもと違う」

「…………は?」


 私は先輩の発言にポカンと口を開ける。


 私の匂い? え? 何? 私そんなに臭かったのか? って、違う!! 何言ってんだこの人!!


「この匂いは……チッ、あの青髪野郎か……んでこんな匂いついてんだよ……あぁ、そうか……やっぱサチコに迷惑かけてんだな……俺のサチコに……」


 何これ怖い。


 先輩はギリィッと歯軋りをすると、忌々しそうにヒョウガくんに対する呪詛の言葉を吐いている。


 そして、私には分からないヒョウガくんの匂いが嫌なのか、自分の匂いで上書きするようにすり寄る。


 これは、本格的に不味いのでは?


 先輩のヤンデレ度が留まることを知らない。このままだと、いつストーカーになってもおかしくはないだろう。既にその片鱗が見え隠れするどころか、頭隠して尻隠さず状態なのだ。


 今はまだ五金家的友情範囲内であるが、これが曲がり間違って恋情にでもなったらどうなる? そんな恐ろしい展開は願い下げである。


「あらあら、青春ね~」

「まぁ! あの子、チームタイヨウのサチコ選手じゃないかしら?」


 最悪な未来予想図に恐れおののいていると、周囲の生暖かい視線に晒されている事に気づく。


 こ、これはいかん!! このままだと、変な噂を流されてしまう! 井戸端会議のネタにされてしまったら、たまったものではない!


 奥様ネットワークを侮ってはいけない。ネタにされたら最後、一瞬で周囲に広まってしまう。


「せ、先輩! 少し早いですけどご飯食べに行きませんか!? 私、お腹が空きました!!」


 これ以上ここには居られないと、移動するために食事の提案をする。


「腹減ってたのか!? 気づかなくて悪ぃ」


 すると、先輩は私から慌てて離れ、オススメの店があるんだと言ってブラックを呼び出した。そして、行こうぜと手を差し出す。


 大会中の精霊の実体化は禁止されているのだが、注意した方が良いのか? いや、ライセンス持ちなら問題ないか。


 私は、先輩のオススメの店があまり高価でありませんようにと祈りながら、その手を取った。













 先輩のオススメの店は、高級店なのではなく、個人経営のハンバーガー屋さんだった。


 お手頃なお値段で、とても美味しく、ボリューム満点だったのだが、私にとっては量が多すぎた。半分ぐらいで限界に達し、先輩に食べて貰ったのだ。せっかく良い店を紹介してくれたのに、申し訳ない。


 先輩はかなりの量を頼んでたのに大丈夫か? と彼の方を見るが、その心配は必要なかったようだ。


 先輩の食欲凄かったな……ハンバーガー1つであんなに多いのに、セットメニューにプラスもう一品頼んだうえで、私の分も食べたからな。中学生男子の胃袋凄い。


 しかも、トイレに行くって席を外したのに、帰ってきた時には会計終えてるとかそんな技どこで覚えてきたんだ? 自分の分は払いますと言っても頑なに受け取らないし、気にやむならまた一緒に出掛けて欲しいと宣うのだ。


 お前は私の彼氏か!!


 いや、勿論違うけどね? そんな恐ろしい未来にはさせねぇよ?


 押し問答の末、何故か手を繋いで帰る事になったのだが、それはまぁいい。問題は繋ぎ方である。


 これ、恋人繋ぎじゃね?


 ナチュラルに握ってきたから流されたが、これはおかしいだろ。抗議しようと名前を呼ぶと、嫌なのか? と落ち込む先輩を見て口を閉ざした。


 その捨てられた子犬みたいな顔はやめてくれ! 奢って貰った手前、心苦しくなるだろう!


 結局何も言えず、恋人繋ぎのまま会場に向かった。








 そして、現在。私は先輩と行動して良かったなと思った。ただ、もっとゆっくりと戻れば良かったと後悔もしたがな!!


 会場も近く、もうそろそろ着きそうだなと、試合開始までまだ1時間はあるからどうしようかと考えていると、目の前で黒いフードを被った人物に絡まれているチームメンバーに出くわした。勿論、ヒロインのハナビちゃんと解説キャラっぽい解セキオくんも添えてな!!


 私の予感的中かよ!! お前ら普通に町を散策できねぇのか!!


 この状況に関わらず、無事に会場にたどり着けるにはと頭を悩ませていると、繋いでいた手をぎゅっと強めに握られる。


 どうしたのかと先輩の方を向くと、彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。


「大丈夫だ。俺が守る」


 先輩はそう言うと、ブラックを実体化させ、私を抱えながら飛び乗った。


 そして、あろうことか騒ぎの中心に向かって走り出したのである。


「ちょっ!? 先輩!?」

「安心しろ。気にくわねぇが、一応サチコの仲間だしな。まとめて助けてやるよ」


 違う、そうじゃない。個人的にはこのままスルーして欲しかった。


 そう言い出そうにも先輩はシリアス顔で決めてるせいかどうにも言いづらい。


 まぁ、先輩強いしなるようになるか。


 取り敢えず、安全確保するように先輩に密着した。

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