ph26 シロガネVSカケル
『先攻はシロガネ選手に決まったぁあ!』
蟻乃ママヲが叫ぶと同時に、シロガネくんはデッキからカードをドローする。
「僕はMP2を消費して、天界の盾を装備する。そして、装備カード韋駄天の羽をエウダイに装備。韋駄天の羽は攻撃力1のモンスターを二回攻撃できるようにする」
シロガネくんは大きな盾を左手に持つと、右手を前に差し出し、バトルを宣言した。
「ミカエルとエウダイはグランツを攻撃」
『シロガネ選手のモンスターがグランツに襲いかかるぅぅうう!!』
グランツは、ミカエルとエウダイの攻撃を防御せずにそのまま受けた。
グランツの残り体力は12になる。
「へっ! これぐらいの攻撃、痛くも痒くもねぇぜ!!」
安栖は、シロガネくんを指差しながら得意気に笑った。
「僕は天界の盾の効果を発動。攻撃が成功した回数分の数値を盾にチャージする」
シロガネくんは安栖の発言をスルーしながら盾の効果宣言した。すると、持っている盾に謎の数字のような文字が浮かび上がる。彼のモンスターが攻撃した回数は3回。流れから察するに、その回数を表す文字なのだろう。
「僕のフェイズは終了するよ」
『シロガネ選手! 盾にチャージをしてフェイズを終えたぞぉおぉ!! その盾にはいったいどんな効果があるんだぁ!?』
シロガネくんの表情は、笑顔というポーカーフェイスのまま崩れない。
……あの盾、絶対録でもない効果に違いない。私なら真っ先に壊すわ。
「俺のフェイズだ! ドロー!!」
安栖は力強くガードを引くと、手札から1枚のカードを掲げた。
「俺はMP2を消費して闘魂注入を発動! このフェイズ中、自身のフィールドのモンスターの攻撃をプラス1する! さらに装備カード鋼鉄のナックルダスターをグランツに装備! 攻撃力がプラス1される!」
安栖のフィールドのモンスターに赤い光が降り注ぎ、グランツの攻撃が4、アヴニールが2、スフィーダが2になった。
『グランツはダブルアタック持ちのモンスターよん。まともに攻撃を受けたら12ダメージくらってしまうわ。シロガネちゃんはどうするのかしらん』
「バトルだ!! グランツ! ミカエルを攻撃だ!!」
グランツはミカエルの懐に入り込むと、アッパーを繰り出した。
「MP3を消費してグランツのスキル燃えろ魂を発動! グランツの攻撃力を倍にする!!」
『おおっと! カケル選手初っぱなから全力だぁぁああ!! グランツの強化された拳がミカエルを襲ぅうぅぅ!!』
グランツの拳がミカエル顎を捉えた瞬間。
「僕は手札より、魔法カード贖罪への祈りを発動する。このカードはMPの代わりに体力を3消費して発動できる。このフェイズ中の戦闘を強制終了させる事ができる」
エウダイが膝を折り、祈りを捧げると、空中から黒い釘が現れ、エウダイの肩に刺さった。
すると、エウダイの体から透明な幕が現れ、グランツを弾き飛ばした。
『エウダイの献身的な祈りでバトルが中断されてしまったぁあぁあ!!』
『スキルを使って攻撃力を上げたタイミングでの妨害。う~ん、素晴らしいわぁん!』
グランツはクルリと一回転をして着地すると、ミカエルを睨み付けた。
「くっ! なら俺はMP2を消費して、手札から魔法カード溢れだす闘気を発動! 自身のモンスター1体の攻撃力分のダメージを相手モンスター1体に与える!! 対象はエウダイだ!!」
『カケル選手! 諦めずに攻撃を仕掛けるぅうぅう!!』
安栖が指示を出すと、グランツは大きな唸り声あげた。同時に、グランツの体から赤い閃光が飛び出し、エウダイを攻撃した。
エウダイは4ダメージを受けて、残り体力が3になる。
シロガネくんは、その様子を感情のこもらない冷たい眼差しで眺めていた。
『カケル選手の渾身の一撃が決まったぁあぁあ!!』
安栖はMPを1残した状態でフェイズを終了させる。
『激しい攻防が行われた第2フェイズ!! 次はどんなバトルを見せてくれるんだぁあぁあ!!』
蟻乃ママヲのテンションと正反対な冷静さでシロガネくんは静かにドローした。
「僕のフェイズ。バトルだ。ミカエル、エウダイ、グランツを攻撃」
『おおっと! シロガネ選手! 手札からカードを使わずそのまま攻撃だぁ!! これは何かの作戦なのかぁあぁあ!?』
安栖はMPを温存するためか、シロガネくんの攻撃をそのまま通す。
「僕は攻撃に成功した回数分の数値を天界の盾にチャージする」
シロガネくんの盾の文字が変わる。先程の数値と合わせると6という意味だろう。
このまま盾のチャージを続けて終了させるのだろうか? それとも、ここで仕掛けるのか。
「僕は天界の盾の効果を発動する。相手にダメージを与えるまで、僕のフィールドにいるモンスター1体に、溜めた数値の内、任意の数の攻撃力を加算する。天界の盾のチャージを全て使用し、ミカエルの攻撃力に加算する」
ミカエルの攻撃力が2から8に変わる。ミカエルの攻撃は終わっているタイミングでの攻撃力アップ。きっと、スキルを使って何かするのだろう。
「僕はMP3を消費して、ミカエルのスキル、裁きの光を発動。ミカエルの攻撃力分のダメージを、相手モンスター全てに与える」
『な、な、な、なんとぉお!! ミカエルの秤から放たれる光がカケル選手のモンスターを襲ぅうぅぅ!!』
思った通り、スキルでの攻撃だ。攻撃力8の全体攻撃とかえげつないな。
これをそのまま受けたら、安栖のモンスターはグランツを残して倒されてしまうだろう。しかも、残ったグランツの体力も1になる。
安栖も不味いと思ったのか、手札から1枚のカードを取り出した。
「俺はMP1を消費して魔法カード抵抗する鼓動を発動する! 自身のモンスター1体を選択し、相手モンスターからのダメージを0にする!! 対象はグランツだ!!」
安栖は、グランツだけは残そうとして魔法カードを使った。
「僕はMP2を消費して魔法カード、天罰を使用する。相手の魔法カードを無効にし、相手モンスター1体にダメージ1を与える」
しかし、安栖の魔法カードは無慈悲にも無効化されてしまい、更にはグランツの残り体力は8になってしまった。ということはだ。
「終わりだ。聖なる裁きを受けろ」
「う、うわぁあぁああぁああ!!」
安栖の場のモンスターは全て消滅した。シロガネくんの勝利が決まった瞬間である。安栖はフィードバックのダメージで叫びながら倒れた。
『う、うおおおおお!! カケル選手! 悔しくも敗退ぃぃい! そしてシロガネ選手の華麗な勝利ぃいぃぃぃ!!』
シロガネくんは自身の勝利宣言を聞くと、作り笑いを浮かべながら控え室に戻って来た。
「さすがだなシロガネ! やっぱお前ってめちゃくちゃ強いな!! 仲間として心強いぜ!!」
タイヨウくんは、シロガネくんの勝利を自分のことの様に褒める。
その様子にご満悦なのか、シロガネくんは頬を染めながら、喜びを隠しきれないと言わんばかりに口許が震えていた。
「ふふふ、当然さ」
「でも、ちょっと残念だなあ」
「……どうしてだい?」
シロガネくんは、先ほどまでの幸せオーラが嘘のように、不安そうな顔になる。しかし、それを出さないように静かに問い掛けた。
「だって、仲間だとマッチできないだろ? シロガネとのマッチ楽しいからさ、戦えないのが残念だなぁって」
タイヨウくんの言葉に、シロガネくんは今度は花が飛んでるのではと錯覚しそうなほど上機嫌になった。
浮き沈み激しくないか?
「そんなこと気にしなくても、君とのマッチならいつでも大歓迎さ」
「本当か!? じゃあ大会終わったらマッチしようぜ!」
「いいよ。それが君の望みなら」
「やったぁ!!」
シロガネくんは、やっぱりタイヨウくんの一番は僕だとほくそ笑んでいる。
いや、チョロすぎか?
……今度からシロガネくんに何かあったら、タイヨウくんにぶん投げよう。
「そういえば、次の試合は昼からだろ? 俺、ハナビとセキオと一緒に会場でマッチ観るつもりだけど、シロガネ達はどうすんだ?」
「勿論。タイヨウくんと一緒に見るよ」
シロガネくんは秒速で反応する。あからさまなタイヨウくん大好きです対応に虚無感を覚えそうになるが、それよりも、知らない名前が気になり、はてと疑問符を浮かべた。
セキオって誰だよ。また新キャラか?
「……あの、セキオくんとは誰の事ですか?」
「あれ? そう言えばサチコは知らないんだっけ? 解セキオって言って、俺らの一個下でメガネをかけた男の子なんだけど……」
タイヨウくんの説明に、昨日、ハナビちゃんからご飯の誘いがあった時に、一緒の写真に写っていた小さめの男の子を思い出した。
アイツかぁあぁあ!! あの眼鏡をかけた地味系の男の子! というか、解セキオって聞いたことあるような名前だな。
「この大会で解説してる解セツオって人がいるだろ? その甥っ子なんだよ! この大会もセキオに教えてもらったんだぜ!」
聞いたことある名前だと思ったらそういうことかよ!! つまり何か? 奴が誘ったせいで私は大会に参加させられたうえに、悪の組織的なものと関わり、中二臭い痣をプレゼントされたのか!?
くっそ! 100万に釣られた過去の自分が憎い!!
「良い機会だし紹介するぜ! サチコも来いよ!」
タイヨウくんは、善意100%で誘ってくるが……。
断 固 拒 否 す る !!
だって、タイヨウチーム集結してヒロインと合うんだろ? しかも悪の組織的な奴等が関与しているこの大会で!!
そんなの……そんなのフラグしかないではないか!! その場にいたら、次のマッチまでに無事でいられるはずがない!! 絶対に悪の組織的な奴等と出くわして一悶着あるだろう!!
これ以上痛い思いするのはまっぴらだ!!
「……ごめん、お誘いは嬉しいんだけど、ちょっと用事があるんだ」
「そっかぁ……用事があるならしょうがないな。また今度誘うぜ!」
取り敢えず、適当な口実を上げて回避する。実際に、先輩から合おうぜというメッセージが届いているので嘘ではない。
タイヨウくんの隣で、彼の意見を拒否するなどあり得ないとばかりに睨んでくるシロガネくんは無視だ、無視。誰も彼もお前みたいにタイヨウくん至上主義じゃねぇんだよバカヤロー。
私は絡まれる前に出ていってしまおうと、控え室の出口に向かう。すると、ヒョウガくんがすっと目の前に現れ、話しかけてきた。
「…………大丈夫なのか?」
どうやら彼は私の痣を心配してくれているらしい。
いや、マジで大丈夫なんです。あんまり心配しないでくれ、罪悪感わくから。
「はい、問題ないです」
「……そうか」
私が即答すると、何かを思考するように黙り込む。しかし、何を思ったのか、私の耳元に口を近付けると、ボソリと囁いた。
「奴等は何処にいるか分からない。何かあったら知らせろ」
直ぐに駆けつけると伝えると、彼は満足したのか、さっそうと控え室を後にした。
いや、そういう不穏なセリフ残すのやめません!? フラグが立ったらどうしてくれんるだ!!