ph25 シロガネくんのプチ嫉妬
『先鋒戦は両者の熱い握手で締めくくった激アツなマッチだったな!! 次も心踊るようなマッチを期待してるぜ! 両チームの中堅はバトルフィールドに上がってくれ!!』
蟻乃ママヲの言葉に、ヒョウガくんが立ち上がろうとする。しかし、シロガネくんが手を前に出してそれを制した。
「……中堅は俺のはずだが?」
「僕が行く」
シロガネくんは、不機嫌ですといわんばかりの顔をしながら口を開く。
「今、物凄く気分が悪いんだ。譲ってくれないかな?」
どうやらタイヨウくんが、マッチ中に熱い友情を築いたことが気に触ったらしい。
僕の方がタイヨウくんを楽しませる事ができるとか、タイヨウくんの一番の親友は僕だとか呟いていてぶっちゃけ怖い。
落ち着けヤンデレゴリラ。取りあえず、その全開にかっぴらいている瞳孔を閉じろ。話しはそれからだ。
「おーい! みんな! 俺、勝ったぜ!」
控え室にタイヨウくんが戻って来た。さすが主人公、ナイスタイミングである。
シロガネくんはすぐさま反応して、彼の元へ早足で向かう。勿論、表情はいつものにこやかな笑顔に戻っている。
……だからね、五金兄弟の変わり身が怖いんだよ。友人に対する執着心も半端ないし。血筋か? 五金家はヤンデレの血筋でも流れてんのか?
いずれ、この兄弟に嫁入りする人物を想像して同情した。
「勿論見てたよ。流石タイヨウくんだね」
「おう! ありがとうな! ヒョウガ、次は頼むぜ!」
タイヨウくんが、ヒョウガくんに次は任せたというようにポンと肩に手を置いた。すると、その間に割り込むようにシロガネくんが話しかける。
「その事なんだけど、やっぱり中堅は僕でいいかな? タイヨウくんに感化されて、マッチしたくてたまらないんだ」
「そうなのか? それじゃあしょうがねぇな! シロガネ! 次は頼んだぜ!」
「うん。任せてくれ」
シロガネくんの言い分を信じた純粋培養のタイヨウくんは、二つ返事で了承した。
タイヨウくんから許しを得たシロガネくんは、意気揚々とバトルフィールドに向かって行く。
……相手の人大丈夫か? シロガネくんってクロガネ先輩より強いんだろ? 相当ヤバイことになりそうだな。
ヒョウガくんはマッチをしたかったのか、シロガネくんの姿が見えなくなるまで不満そうに睨んでいた。そして、何故かこちらをチラリと一瞥し、バッチリと目が合った。
どうしたのだろうと小首を傾げると、ヒョウガくんは無言で視線を反らし、恒例の話しかけるなポーズで目を閉じた。
いや、マジで何なんだ?
『それじゃあ選手の紹介するぜ! チームワイルドズからは! 明日に向かって走り出せ!! これぞ青春! 安栖カケル選手ぅうぅ!』
安栖は観客の声援に応えるようにバク転し、ピースをしている。
『対するチームタイヨウからはぁ……甘いマスクと洗練されたマッチでギャラリーを魅力する、五金シロガネ選手だぁあぁあ!!』
シロガネくんが微笑むと、観客席から黄色い叫び声が上がった。シロガネくんのファンらしき女性達が“ウインクして”や“こっち向いて”と書かれたうちわを持って騒いでいる。
アイドルのライブ会場かよ!!
『二人とも! 準備が出来たらモンスターを召喚してくれ!!』
蟻乃ママヲは、ウインクしながら選手二人に召喚を促す。
「正義の審判を始めよう。コーリング。ミカエル、エウダイ」
シロガネくんが自身のモンスターを召喚すると、ミカエルは綺麗な一礼をしながら現れた。エウダイと呼ばれた天使は、ミカエルの隣でふよふよと浮いている。
「今日の一歩は明日への一歩! コーリング! グランツ! アヴニール! スフィーダ!」
安栖がモンスターを召喚すると、グランツと呼ばれたハチマキをした虎が威圧するように吠えた。他2体の獣人形モンスターは、反応せずに普通に立っている。
……安栖の精霊はグランツか。
『両者準備は整ったな? それじゃあ行くぜ!! レェェェッッッツ』
蟻乃ママヲはジャンプしながら拳を掲げた。
『サモォォオォン!!』
会場も一丸となって叫んだ。
……この人、常時このテンションなのだろうか。あんなに大声出して喉潰れたりしないのだろうか?
プロって凄いなと心から思った。