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ph24 タイヨウVSオクル


『SSC本選の熱い第1回戦! この俺、蟻乃ママヲがありのままを皆様にお届けしちゃうぜ! マッチの先攻は…………オクル選手だぁ! さぁオクル選手どう動く!?』

「ドロー!!」


 正円がデッキからカードを力強く引くと、直ぐにバトルだと宣言し、ブレイブでアチェリーを狙った。


『オクル選手、まずはタイヨウ選手のアチェリーを狙うぅうぅ!!』

『アチェリーはモンスターの装備を破壊するスキルを持ってるものね。モンスターを装備で強化したいなら早めに倒しておきたいわねん』


 レベル1のモンスターのスキルは1つしかないが、相手にとって刺さる補助スキルや妨害スキルを持っている事が多い。


 実際に、火力のない私のモンスターにとって、モンスターの装備破壊や攻撃を2減らすスキルはかなり痛かった。しかも、MP消費がたった1で、モンスターがフィールドにいる限り永続的に使えるのだ。真っ先に狙う気持ちは物凄く分かる。


「俺はMP1を消費して、わたんぼのスキルワタガード発動! 相手からの攻撃を2減らす!」

『タイヨウ選手! すかさずワタガードでアチェリーを守るぅうぅぅ! ブレイブの攻撃力は3! アチェリーの体力が1削られたぁあぁあ』

『ブレイブはダブルアタック持ちじゃないわ。彼はどうするのかしらん?』


 正円のガッツの攻撃力は1だが、わたんぼのワタガードは攻撃力を0にする事はできない。最低1ダメージは喰らうのだ。単純に考えるならば、ガッツでアチェリーを攻撃して終わるだろう。


「俺はMP3を消費して、猛攻の応援旗を装備!!」


 正円の目の前に百折不撓(ひゃくせつふとう)と描かれた大きな旗が現れ、その旗を両手でしっかり持つと、激しい動きで振り始めた。


「フレー!! フレー!! ブ・レ・イ・ブ!!」


 正円が大声を上げると同時に、観客席に座っていた暑苦しい集団が一斉に立ち上がり、歌い始めた。


 え? 何事!?


「漢ならば立ち向かえ~困難なんぞ乗り越えてけ~」


『おおっと! ブレイブにパワーが漲っているぅうぅ!』

『あらん! 猛攻の応援旗は自身のモンスター1体を再攻撃させる装備カードね! これでブレイブは実質ダブルアタック持ちになったも同然だわ! ガードされても攻撃の手を止めない。素敵ねん』


 え? 誰もツッコまないのか?? 普通に旗を軽く振ればいいだけなのに、あんな大勢で応援歌みたいなの歌うのおかしいと思わないのか?


 正円は応援歌に応えるように、旗を振る動作が更に激しくなっている。

 

「おぉ! すっげぇ! かっけぇ!!」


 タイヨウくんは正円の演出に感動しているのか、目をキラキラさせていた。


 駄目だ。タイヨウくんは単純熱血主人公タイプだ。こういうツッコミを期待してはいけない。


 私は頼みの綱と言わんばかりにシロガネくんとヒョウガくんをチラリと見る。


「猛攻の応援旗か。厄介な装備だね」

「フン……俺には絶好の的にしかならんな」


 ですよねぇぇぇ!! おかしいと思うの私だけですよねぇぇ!! 知ってましたとも!!


 私は色々と諦めて、心を無にしながら観戦する事にした。


「さぁ! 立ち上がれ! ブレイブ!!」

「うおぉおぉぉおお!!」


 ブレイブは、雄叫びを上げながら立ち上がった。自分の意思を持って行動しているのを見るに、ブレイブは精霊なのだろう。ということは、正円は加護持ちなのか。


 予選では加護持ちと当たることはなかったが、本選の先鋒でいきなり加護持ちと当たるのならば、予選通過者は全員加護持ちと警戒した方がいいだろう。


「ブレイブ! アチェリーを攻撃!!」

「アチェリー! ワタガード!!」

『タイヨウ選手! すかさずガードだぁ!!』


「俺はMPを2消費してガッツのスキルお前の努力は無駄にはしないを発動!! このフェイズ中に自身のモンスターの攻撃がガードされた時! ガードされた数値分のMPを回復する!!」

『オクル選手! 攻撃とMP補充を両立していくぅうぅぅ!!』


 正円のMPが4になる。スキル名が長いという事は置いといて、正円がわたんぼではなくアチェリーを狙っていたのは、こうしてわざとガードされ、MPを補充するためだったのか。


 これは、タイヨウくんにとって相性不利な相手だな。


「さらに俺はMP2を消費して、ガッツのスキル熱き声援を発動! 自身のモンスター1体を再攻撃させる!! ブレイブ再再攻撃だぁ!!」

『なんとぉおぉぉお! オクル選手の猛攻が止まらないぃいぃぃ! これをガードしてしまうと、オクル選手のMPは回復してしまうぞ!! タイヨウ選手どうする!?』


 タイヨウくんはスキルを発動させず、そのままブレイブの攻撃を受け、アチェリーは破壊された。


「ガッツよ! ドライグを攻撃だ!!」

「ぬっ! 小癪な……!」

「うぐっ」


 ガッツの攻撃でドライグの体力が14になる。タイヨウくんは、フィードバックの痛みで少し顔を歪めた。


『オクル選手の攻撃でアチェリーを失ってしまったぁ!! タイヨウ選手はこのフェイズでどう巻き返すのか!!』

「俺のフェイズだ!! ドロー!」


 タイヨウくんの手札とMPは共に6である。出来るのならばここでガッツを仕留めておきたいが、相手の手札は5枚、MPは2残してある。そう上手くはいかないだろう。


「俺は魔術師の秘薬を使用し、MPを3回復する! そして大地の斧をドライグに装備!! 攻撃力をプラス1する! バトルだ!! ドライグ! ガッツを攻撃!!」

「ふん! わしの力で粉砕してやるわい!!」


 私とタイヨウくんが戦った時は、ドライグはわしに命令するなと怒っていたのに、今は素直にタイヨウくんの指示を受けている。どうやら、私の知らない間に二人の絆が深まっているようだ。良いことである。



『ドライグの斧がガッツを襲うぅうぅ!!』


 ドライグは、ガッツに大きく斧を振りかぶった。


「俺はMPを3消費して湖からの目覚めを発動! ドライグの攻撃力を倍にする!」

「ならば俺はMPを2消費して気合いの掛け声を発動する! このフェイズ中の攻撃全てを2軽減する!」

『オクル選手! ドライグの攻撃を真っ向から受けるぅうぅぅ!!』


 ドライグの攻撃は軽減されたが、攻撃は当たり、ガッツの体力は6になった。


『あら、上手いわねん。ドライグは必中スキル持ちだもの。避けるよりもガードして正解だわん。それに、ダブルアタック持ちだもの。このフェイズ中、常に2ダメージ軽減するならガッツは次のフェイズも残せるわね』


 セツオの言う通りである。このままだと、ガッツが場に残ってしまう。ブレイブのスキルはどんなものか分からないが、正円のMPが0になった今、できるだけ攻めておきたい。


「ドライグ! ガッツに再攻撃だ!」


 タイヨウくんの指示通り、ドライグはガッツに向かって行く。


「ガッツよ! 気合い! 気合い! 気合いだぁあ!!」


 ドライグの攻撃が決まり、ガッツの体力は5になる。


「俺はMP1を消費して王の激励を発動! レベル3以下のモンスター1体を再攻撃させる!! 更にMP3消費して湖からの目覚めを発動!!」

『おおっと! タイヨウ選手! ガードされても攻める攻める攻めるぅう!!』

「ドライグ! わたんぼ! 一斉攻撃だ! いっけぇえぇ!!」


 ドライグとわたんぼの攻撃は合わせて7。魔法により軽減できるダメージは2。そして、相手のMPは0。ガッツはこれで持っていけるだろう。


『ドライグの攻撃が決まったぁあぁあ!!』

「ぬぉおぉおお!!」


 ガッツの体力が0になった。正円は、腕を顔の前で交差させながら、フィードバックの痛みに耐える。


「俺のフェイズは終了だぜ!」


 タイヨウくんは元気よくフェイズ終了を告げると、正円は無言になり、顔を俯かせた。


 ……なんだ?ガッツが倒されて悔しいのだろうか。


「ぶわあーっはっはっはっは!!」


 と、思ったら一転、正円は楽しそうに大声を上げて笑う。そのあまりの大きさに、タイヨウくんはビクリと肩を揺らした。


「な、なんだ?」

「晴後タイヨウ!! 漢だな!! 気に入った!」


 正円は仁王立ちしながら愉快そうに笑う。


「今まで、俺と正々堂々殴り合う奴は居なかった……」

「!」

「こんなに楽しいマッチは始めてだ」

「……へへ、俺もめちゃくちゃ楽しいぜ!! オクル!」


 正円とタイヨウくんは、熱血同士気が合ったようだ。心なしか、背景に河川敷と赤い夕日が見える。


「は? 何アイツ? タイヨウくんにとって一番楽しいマッチをしたのは僕なんだけど?」


 落ち着けBG(ビューティーゴリラ)


「俺のフェイズだ! ドロー! ……俺は道具カードマネージャーの差し入れを使用してMPを2回復する! そして装備カード連撃の襷をブレイブに装備する! 1フェイズに1度! この装備をしたモンスターの攻撃が成功した時、再攻撃することができる!!」


 MPが5あるということは、ブレイブのスキルを何処かで使ってくる可能性がある。ブレイブはどんなスキルを持っているのだろうか? ……正円の性格を見るに、攻撃関連の可能性が高そうだが。



「バトルだ! ブレイブよ! わたんぼを攻撃だ!」

「う!」


 タイヨウくんはブレイブの攻撃をそのまま受ける。わたんぼの体力は残り2。


「連撃の襷の効果発動!! わたんぼを再攻撃!」

「うわぁあぁ!!」

『おおっと!? タイヨウ選手! オクル選手の攻撃をノーガードで受けるぅうぅぅ!! 手札に攻撃を防ぐカードがないのかぁ!?』

『……それはおかしいわん。カードがないのなら、わたんぼのスキルを発動すれば良かったはず。タイヨウくんがどう動くか見物ねん』


 わたんぼの体力が0になり、バトルフィールドから消え去った。残りはドライグだけである。


「さっきまでの威勢はどうした!! 俺とぶつかり合おう!! タイヨウ!!」

「勿論だぜ!」


 タイヨウくんの返答に、正円はふっと口角を上げると、最初のフェイズと同じように旗を大きく降り始めた。そして、立ち上がる観客席の暑苦しい集団。


「漢ならば立ち向かえ~困難なんぞ乗り越えてけ~」


 ……このくだり、毎回しないといかんのか?


「行くぞ! タイヨウ!」

「あぁ! 来い! オクル!!」


 ブレイブがドライグに向かって走り出す。そして、拳を振り上げ、ドライグを思いきり殴った。


「ぐぬぅ」

「っ、ドライグ!」

『ブレイブの拳がドライグにヒットぉおぉおお!!』


 ドライグの体力は11になる。


「俺はMP3を消費して、ブレイブのスキル俺達の闘いはこれからだを発動!! このフェイズ中に攻撃が成功した回数分の体力を回復する!!」


 正円が攻撃した回数は3回。ブレイブの体力は18になる。


 これは不味いな。フェイズが回ってくる毎にMPは3回復できる。と、いうことはだ。正円のフェイズがくる度に最低3は回復されてしまうと言うことだ。もし、次のフェイズで正円を倒せないとタイヨウくんの勝ち筋がなくなる。


「さぁ! 俺のフェイズは終了だ! タイヨウ! お前の熱い魂を見せてくれ!!」


 正円はMPを2残している。十中八九、身を守るために残しているのだろう。タイヨウくん何気にピンチなのでは?


「よっしゃあ! 俺のフェイズだ! ドロー!!」


 タイヨウくんは意気揚々とカードを引くと、ニッと歯を見せながら笑った。


「俺はMPを1消費して魔法カード受け継がれる意思を発動! このフェイズ中にモンスタースキルを使用する時、自身の倒されたモンスターの数だけMPを軽減する事ができる!! わたんぼ! アチェリー! お前たちの雄姿は無駄にしないぜ!!」

『なんとぉお! これでドライグのMPコストはたったの1になったぞぉお!!』

『あらん。なるほどね。彼はこのカードを使用するために、あえて攻撃を受けてたのねん』


 さすが主人公。土壇場で良いカード持ってんな。これ、いつもの勝てるパターンなのでは? 心なしか、勝利のテーマのような曲が聞こえてきた気がするぞ。


「そして俺はMPを1消費して大地の剣を装備する! 1フェイズ中、モンスターを1体選択して、そのモンスターの攻撃力を1上げる!! 選択するモンスターは勿論ドライグだ!!」


 おお! これでドライグの攻撃力は4になったぞ。倍化して攻撃を2回当てたら相手の体力は2になる。


「バトルだ! ドライグ! ブレイブを攻撃! そしてスキル湖からの目覚めを発動!」


 ドライグの攻撃が命中し、相手の残り体力は10になる。


「ダブルアタックだ! そしてスキルも発動させる!」


 更に相手を追い詰めてブレイブの体力は2になった。


「MP1を消費して魔法カード魔術師の幻術を発動! 攻撃が成功した時、相手に与えたダメージの半分のMPを回復する!!」

「何!?」

『おおっと! タイヨウ選手ここでMPを補充したぁ! 何か仕掛けるのか!? それとも次のブレイブの為の布石かぁ!?』


 タイヨウくんの残り手札は1枚。MPは今ので4になった。そして、相手の手札は3枚でMPは2ある。……どうするのだろうか。


「俺はMP1を消費して手札から王の激励を発動!! レベル3以下のモンスターをもう一度攻撃させることができる!!」

『ああっと! タイヨウ選手! 攻めたぁあ!! この攻撃が決まればオクル選手の敗北が決まる!! どうする!? オクル選手ぅぅうう』


 正円は腕を組みながら目を閉じている。そして、ドライグの斧がブレイブを襲う瞬間……目を見開き、手札からカードを1枚取り出した。


「俺はMP2を消費して魔法カードみきりを発動!! 相手の攻撃を避ける!!」

「オクル選手! タイヨウ選手の渾身の攻撃を避けたぁあ! これでこのフェイズをしのいだぞぉおぉ!!」


 いや、しのげていない。避けるのは悪手だった。何故なら、ドライグにはあのスキルがある。


「俺はMPを1消費してドライグのスキル勝利への執念を発動!! この攻撃は必中する!!」

「逃がすか若造がぁ!!」


 ブレイブは確かにドライグの斧を避けた。しかし、ドライグは直ぐに体勢を戻し、ブレイブの体に斧を叩き込む。


 ブレイブの体はバトルフィールドの外に飛ばされ、光の粒子となって消えた。


「ぐわぁあぁあぁあ!!」


 ブレイブが倒された事により、フィードバックのダメージを受けた正円は膝をついた。



『き、き、き……決まったたぁあぁ!! タイヨウ選手! 激しい攻防の末、見事に勝利を勝ち取ったぁあぁあ!!』


 会場がわぁっと盛り上がる。バトルフィールドが下降し、地上にたどり着くと、タイヨウくんは正円の方へ駆け寄り手を差し出した。


「オクル! 楽しいマッチありがとうな! またやろうぜ!!」


 タイヨウくんは、いつも通りの圧倒的光属性な笑顔で正円に笑い掛ける。正円は、その笑顔に応えるように表情を緩めると、タイヨウくんの手を握って立ち上がった。


「あぁ、次は俺が勝つさ」

「へへっそうこなくっちゃな!」


 両者の固い握手に会場は歓声に包まれた。


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