ph182 燃え尽きるまで、立ち続けろーsideタイヨウー
「俺のフェイズだ!」
俺はデッキからカードを引く。これで、手札は4枚になった。
さっきのフェイズでは、かなり痛い目に遭った。でも、そのぶんMPは10まで回復した。こっから一気に巻き返えす!
「俺は、MP1を消費してモグレットのスキル、溶岩ホリホリを発動!」
俺はモグレットのスキル効果で、デッキから炎属性のカードを1枚ダストゾーンへ送る。
「これでアグリッドの攻撃力は5! さらに、MP3を消費してアグリッドのスキル、大地を照らす炎を発動だ!」
「うおおおお! なんだゾォ!!」
「効果により、アグリッドの攻撃回数は、フィールド上にいるモンスターの数分増える!」
アグリッドの体が熱く燃え上がる。フィールドにいるモンスターの数は3体。つまり、アグリッドの攻撃回数は4回になった!
アフリマンの手札も俺と同じ4枚だ。しかも、装備カードの効果で、魔法カードのコストを5も軽減できる状態だ。そんなにMPを軽減できるなら、道具カードみたいに魔法カードが使えちまう。
だったら今は、とにかく攻撃を仕掛けて、アフリマンにカードを使わせてやる!
「アグリッド! アフリマンを攻撃!」
アグリッドが吠えながら、まっすぐアフリマンへ突っ込む!
「俺ちゃん、MP5を消費してスキル、黒暦の誓約を発動ぉ!」
ズンッと、空気が重たくなった。
「このフェイズ中、相手がMPを消費するたび、その消費した数値分のダメージを相手モンスター全てに与えるぅ。んでもってぇ、相手がMPを4以上使ってたらぁ、相手モンスター1体のスキルを2フェイズ封印ってなぁ!」
「なにっ……!?」
しまった! 俺は今のフェイズで、すでにMPを4使ってる!
「俺ちゃんに力を使うんならさぁ、ちゃんと払ってもらわないとなぁ? ……代償ってヤツをよぉ!」
「うわああああ!!」
「アグリッド!! うっ……!」
アグリッドの体が青白く光って、スキルの力が消えていく。攻撃回数も1回に戻ってしまった。さらに効果ダメージでアグリッドの体力は7、モグレットは1まで削られた。
──でも、攻撃はできる!
「モグレットのスキルは無事だ! アグリッドの攻撃力も5のまま! いけ、アグリッド!」
「くらうんだゾ!!」
アグリッドの一撃がアフリマンに命中する! 防御は……なし!
さらにモグレットも続けて攻撃をさせる。アフリマンの体力を18まで減った。
よっしゃ、前のフェイズよりも減らせた!
俺は小さくガッツポーズをする。
「ひひひっ! 俺ちゃんにダメージ入れるなんてぇ、やるじゃ〜ん……で、もぉ?」
アフリマンがカードをかざす。
「俺ちゃんはぁ、手札から魔法カード、災いの報復を発動しちまうんだよなぁ!!」
禍々しいマナがフィールドを這いずりまわる。
「このフェイズ中、相手モンスターの攻撃で受けたダメージ以下のコストのスキルを1回だけ使えるってワケ! はい拍手ぅ!」
指をパチンと鳴らしながら、アフリマンはにやりと笑った。
「6ダメージってことはぁ? MPコスト6までのスキルが使えるんだよなぁ!」
アフリマンの気配が膨れ上がった。
「つぅわけでぇ……俺ちゃんのスキル、災厄ノ胎動を発動ぉ! このフェイズ中、相手のMP消費が3以上だった場合、デッキのカードをランダムに2枚、封印状態にしてフィールドに出す!」
「ガードがっ……!」
黒いマナがうねって、俺のデッキを襲った。2枚のカードが鎖に巻かれたまま、封印状態でフィールドに並べられる。
しかも、あのサークル魔法の効果で、その封印されたカードにも禍神属性がつく。これでアフリマンの魔法カードのコスト軽減は、ついに7になった。
封印されたカードをなんとかしたい。でも、今MPを1でも使ったら、体力1のモグレットが消えちまう。今この場で、アグリッドだけにするワケにはいかねぇ……!
「……俺の、フェイズは終了だ」
「ンじゃあ俺ちゃんのフェイズねぇ。ドロォォ〜〜!」
アフリマンのフェイズが始まる。俺は、自分の手札を見ながら、次に来る攻撃に備えた。
「まずはぁ〜、レベル1のクズぅ!! てめぇから始末してやるよぉ!! 消し飛べェッ!!」
「うっ!!」
アフリマンの攻撃で、モグレットが砕け散った。俺のフィールドには、アグリッドだけが残る。けど、これでアフリマンの攻撃は残り1回……!
消えていったモグレットに、心の中で「ごめんな」とつぶやいて前を向く。お前の犠牲、絶対に無駄にしねぇ。
「はいはいは〜い。このタイミングでぇ、手札から道具カード、願望の屍布を使用するぜぇ? このカードは相手モンスターを倒した時に使用可能。相手のデッキからカードを1枚ランダムに選び、封印状態にしてフィールドに配置する」
また、封印……!
デッキから引き抜かれたカードが鎖に縛られて、フィールドに置かれる。
しかも、そのカードにも禍神属性が付く。フィールドにこの属性を持つカードがあるだけで、アフリマンの魔法使用時のMPはどんどん減っていく。
けど、もう7枚もあるのに……なんでまだ増やすんだ? ただの嫌がらせか? ……いや、なんか、ヤバい気がする。
「ダブルアタックで、赤トカゲを攻撃だぁ!」
「うっ!!」
アグリッドの体力が4まで減る。俺も、フィードバックで体がぐらつくのを、なんとか足を踏ん張ってこらえた。
痛ぇ。でも、これでアフリマンの攻撃は終わりだ……!
そう思った、ちょうどその時だった。
「フィールド上に、モンスター以外の禍神属性のカードが5枚以上あるときぃ?」
アフリマンの不気味な声が響く。
「俺ちゃん、レベルアップできちゃうんだよねぇ!!」
「!?」
驚いてフィールドを見返す。
サークル魔法と装備カード、それに俺の封印されたカードが3枚……合わせて5枚。モンスター以外の禍神属性カードが、ちょうど揃ってる!
そうか、これが狙いだったんだ……!
「ン〜ひっひっひっひっひっ!! 俺ちゃんを倒すぅ? 無理無理無理ぃぃぃっ!! てめぇみてぇなくそザコ虫が、俺ちゃんに勝てるわけねぇだろが!! その希望も、覚悟も、全部グッチャグチャにしてやるよぉ!!」
アフリマンの体から、黒いマナがぶわっと吹き出す。空間が、軋むみたいに重く揺れた。
「さぁて……こっからが地獄の本番だぁ!! 目ぇかっぽじって見とけよ! 俺ちゃん進化ぁあああっ!!」
空間がバリッと割れるような音が響いた。
アフリマンの体が黒いマナに包まれていく。禍々しい文様が浮かび上がり、全身がぶよぶよと膨れて、まるで別の何かに変わっていくみたいだった。
「ひっひっ……ヒャハハハハハ!! こっからがほんとのショータイムだぜぇ!? さぁ! 絶望のフィナーレ、始めようじゃねぇかぁあああ!!」
黒いマナが渦を巻きながら広がって、ついにフィールドの外にまであふれ出した。結界を越えて、空間そのものがおかしくなっていくのがはっきりとわかる。
目の前の景色がぐにゃりとねじれて、まるでテレビのチャンネルが狂ったみたいに、精霊界やネオアースの映像がチラチラ映り始める。
「な、なんだこれ……!?」
そして俺の目の前に飛び込んできたのは、人間界の、俺たちが暮らしてた場所だ。空が黒く濁ってて、建物は崩れ、逃げまどう人たちの姿が見えた。
そして、その中に──ハナビがいた。
「っ……ハナビ!?」
ハナビは兄ちゃんとユカリと一緒だった。俺が兄ちゃんから力を受け取ったあの部屋の前で、3人で黒いマナの精霊と戦ってる。
……そっか。アイツも、マナ使いになったんだよな……。
ユカリたちと背中を預け合いながら、必死に戦ってるハナビの姿を見て、俺は歯を食いしばった。
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! これが! これこそがぁっ! 俺ちゃんのッ!! かぁ〜〜〜んっぜんたぁ〜〜いっ!!」
黒いマナが天を裂くように吹き荒れ、空間が悲鳴を上げる。
「ふひっ……ふひひひ……最古の悪神ッ!! アンラ・マンユ様の〜〜〜っ!! ご降臨ってなぁ!!」
空間がギュッとねじれたみたいな音と一緒に、黒い影がズルッと立ち上がる。形なんかないのに、そこに“いる”ってことだけは、ハッキリわかった。頭の奥がズキズキするほどのプレッシャーが襲ってくる。
黒い触手みたいな影が、フィールドの外へにゅるにゅると伸びていく。もう、結界の外にまで影響が出てる……!
「……世界を、お前の好きに壊させてたまるかよ!!」
俺はアフリマンを真っすぐ睨みつけた。
「待ってろ、ハナビ。必ず世界を救うから……!」
アグリッドが、俺の言葉に力強くうなずいた。
「タイヨウ、オイラ……やるんだゾ。ぜったいに、勝つんだゾ!!」
「あぁ!!」
俺も頷き返し、フィールドを見た瞬間、アンラ・マンユが動き出した。
「なぁんか盛り上がってるみてぇだけどぉ? 俺ちゃん、レベルアップしたからぁ、攻撃権戻ってんだよねぇ!!」
アンラ・マンユはそう笑いながら、アグリッドに向かって突っ込んでくる。
攻撃力は4、アグリッドの体力も4。──このままじゃやられる。でも!
「お前がレベルアップしたことで、スキル効果がリセットされたぜ!」
アグリッドを縛っていた封印が解除され、スキルが使えるようになった!
「俺は、MP3を消費してアグリッドのスキル、陽炎の報焔を発動! 手札か自身のフィールド上のカードを2枚まで選び、ダストゾーンに送る。送ったカードが炎属性なら、1枚ごとに攻撃力が4アップ!」
俺は封印されていた2枚のカードをダストゾーンへ送った。どっちも炎属性!
「アグリッドの攻撃力は11になった! さらに、MP1を使って魔法カード、太陽の息吹を発動! 自分のモンスター1体の攻撃力の半分の体力を回復する!!」
間一髪、アグリッドの体力が9まで回復する。アンラ・マンユの攻撃を受けても、残り5で耐えきれた!
「チッ……てめぇ、さっきからしつけぇなぁ……黙ってくたばれや! ダブルアタック!!」
「ぐあっ!!」
「アグっ……!」
2撃目を受けて、アグリッドの体力は1。だけど、ギリギリ耐えた!
ついに、俺のフェイズが回ってくる。ドローしてMPも回復。手札もある。いける!
「アグリッド! アンラ・マンユを攻撃だ!」
「任せるんだゾ!」
攻撃が通り、アンラ・マンユの体力が20に減る。
「ふひゃっひゃっひゃっ!! おいおいお〜い! 今のが渾身の一撃〜〜!? 風邪ひいた蚊のパンチかと思ったわぁ〜!」
「いいや」
アグリッドだけがフィールドにいて、体力は半分以下……条件は揃った!
「……まだ、終わりじゃねぇ! 俺の太陽は、沈まねぇ! 痛みも怒りも、全部抱いて燃え上がれ! アグリッド、レベルアップだ!!」
アグリッドの体が、ふたたび燃え上がる。まばゆい炎がフィールドを照らし、爆ぜる音とともにその姿が変わっていく。
「レベル4──黎煌竜アグリッド!!」
「うおおっ! オイラ、なんかすっごい燃えてきたんだゾ!!」
体力は6まで回復し、フェイクソウルがひとつ付与された。全身からあふれる熱が、アグリッドをさらに力強くする。
これで攻撃権も戻った。ダブルアタックも得た。反撃はここからだ!
「アグリッド──!」
「おっと、そぉ焦んなって」
でも、俺が動く前にアンラ・マンユが、不気味に割り込んできた。
「俺ちゃん、手札から魔法カード、崩壊ノ祝詞を発動。このフェイズ中、自分のスキルのコストを半減。でぇ、MP3を使ってスキル、禍罪ノ胎動を発動ぉ! このフェイズ中、フィールドの全モンスターは属性を失う。さらに、失った属性の数ぶん、俺ちゃんのMP回復〜!」
「属性を失う!?」
大地も炎も、全部消える……! カードが使えない……! いや、まだモンスタースキルなら使える!
「アグリッド!!」
「俺ちゃんMP3を消費してスキル、無明ノ扉を発動ぉ!」
また被せてきやがった!
「相手プレイヤーがこのフェイズ中でぇMP5以上持ってたら、ぜーんぶ強制消費ぃ! んで、その半分を俺ちゃんが回収ってわけ〜!」
「そんなっ……!」
俺のMPが0になる。逆にアフリマンのMPは5にまで回復。けど、手札もスキルも使えなくても──!
「攻撃はできる! アグリッド、あいつをぶっ飛ばせ!!」
アグリッドがアンラ・マンユを一撃!
「ダブルアタック!」
さらにもう一撃! アンラ・マンユの体力が13まで削られる!
でも、属性を失ったアグリッドは、これ以上動けない。
「……俺のフェイズは、ここまでだ」
これで俺のフェイズエンド。アンラ・マンユのフェイズが始まる……。
「俺ちゃんのフェイズぅ〜!」
アンラ・マンユがわざとらしく間を取って、カードをドローした。
相手の手札は3枚、MPは8。対する俺は、手札こそ4枚あるけど、MPは0のまま……まさにガス欠状態だ。
「MP6消費してぇ! 俺ちゃんのスキル、虚滅ノ理を発動ぉ!! 相手の全てのモンスター、まとめてスキル封印だぁ!」
アグリッドの周りに、不気味な文字列が浮かび上がる。力の流れが寸断された──スキルが封じられたんだ。
「おまけにぃ? MP0の相手には、追加サービスだぜぇ! 封印されたモンスターに、自身の攻撃力2倍のダメージを叩き込むぅ!!」
アグリッドの体力は6。そんで、攻撃力は3。2倍で、ちょうど6……!
「くらえやあ!!」
「うわあああああ!!」
アグリッドの体が吹き飛ぶ。けど、フェイクソウルが割れて体力1で踏みとどまった!
「ひっひゃっひゃっひゃっ!! 終わりっ終わりぃ〜っ!! フェイクソウルも砕けりゃあ、あとはただのカカシじゃねぇかぁ!! さあ、とどめだぁッ!! 攻撃ィィ!!!」
「やらせるか!!」
俺は叫び、すかさずダストゾーンにあるカードを発動させる。
「ダストゾーンにある、焔脈供給をゲームからドロップアウト! 俺の場にあるカード……封印されたこのカードを選択してダストゾーンに送り、倒されたフレイムミンチのスキル、焦げ皮の加護を発動!!」
黒く燃え立つ加護がアグリッドを包む。
「このフェイズ中、一度だけ攻撃ダメージを0に! さらに、軽減したぶんだけMPを回復するッ!!」
アンリ・マンユの攻撃は完全に遮断され、俺のMPが4まで回復!
「しぶてぇんだよゴキブリ野郎がぁ!! 潰しても潰しても這いずり回りやがってよぉ!? ああああ!? とっととくたばれやぁああああ!!」
狂気じみた怒鳴り声と共に、さらにダブルアタックの攻撃が迫る!
「俺はMP1を消費して手札から魔法カード、陽輪の祈炎を発動! 相手の攻撃力と同じ分、アグリッドの体力を回復する!! ぐうっ……!」
強引にマナをねじ込み、アグリッドの体力が回復。ギリギリで次の一撃に耐える!
「まだ終わりじゃねぇぇんだよなぁコレがぁ!! 俺ちゃん、道具カードッ!! 禍神の咎爆書を使用ぉおお!!」
フィールドの禍神属性のカードが一斉に反応して、アンリ・マンユに力を与える。
「禍神の数ぶん、攻撃力加算して再攻撃だぁあ!!」
「そうはさせねぇ! MP1を消費して手札から魔法カード、不滅の陽印を発動!!」
アグリッドの前に光の紋章が浮かぶ。
「体力1のモンスターが攻撃される瞬間にだけ使える……デッキからフェイクソウルを1枚装備!!」
ガードがアグリッドの中に入り、命をつなぐ。
「てめぇ……! どこまで……!」
アンラ・マンユの怒りに任せた声が響く。
「いい加減くたばれってんだよぉ!! 魔法カード、絶火の顕現ッッ!! このフェイズ中、通ったダメージぜ〜んぶまとめて、再度効果ダメージとして相手モンスター全てに与える!! フィールドごと地獄にご招待だぁあぁ!!」
さらに俺たちを追い込むように追撃がくる。でも、負けない!!
「俺は、MP1を消費して手札から魔法カード、陽転の機転を発動!! このフェイズ中、道具カードを相手のフェイズ中にも使用できるようになる!!」
俺は、手札の最後の1枚に指をかける。
「手札から道具カード、陽炎の命灯を使用!! 炎属性モンスター1体を選び、このフェイズ中に受ける効果ダメージを一度だけ、体力1残して耐える!!」
アグリッドの体に、魂の火が灯る。効果ダメージを受けたけど、ギリギリで踏みとどまった。
俺の手札は、これで0。アグリッドも限界寸前。だけど──まだ倒れてねぇ!
アンラ・マンユが、憎々しげに俺を睨む。
「……チッ。だったら最後にこれだ……魔法カード、魂嘯の晩鐘を発動」
また攻撃が来るのか!?
「今のMPと同じだけフェイクソウルを得る……俺ちゃんのフェイクソウルは、3になりましたぁ……っと」
攻撃は、こなかった。
アンラ・マンユの手札が尽きた。ついに、攻撃が止まった。
荒れた呼吸を整えながら、俺はフィールドを見つめる。
アグリッドが、生きてる。
まだだ……まだ終わっちゃいねぇ。
俺のフェイズが来る。分かる。なんとなく直感で分かるんだ。たぶん、これが最後のフェイズ。ここで決めなきゃ、負ける。全部、終わる。
正真正銘、世界の命運を賭けたドローだ。逆転できなきゃ、みんなの想いが無駄になっちまう!
「……タイヨウ」
アグリッドの声が聞こえた。顔を上げると、あいつは真っ直ぐ俺を見てた。
「オイラじゃ……頼りないかもしんないけど、それでも頑張るんだゾ! 最後まで、タイヨウと一緒に戦うんだゾ!」
その言葉に、俺は気づいた。自分が──デッキに触れる手が、震えてたことに。
「っひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!! あ〜〜〜ハラいてぇ!! まだ勝てると思っちゃってんのぉ!?」
アンラ・マンユがゲラゲラと笑う。
「っひゃはっ!! 俺ちゃんの体力は13! フェイクソウルも3枚健在! で、そっちは〜〜? あれれ〜〜!? 残り体力1!? 手札もドロー頼みの崖っぷちぃ!? ぷっははははっ!! ンなてめえに何ができるってんだ! せいぜい、墓場に送る遺書でも引いとけやぁっ!!」
「──俺は、諦めない……!」
声が震えても、構わない。心臓がバクバク鳴っても、立ち止まれない。
「全部背負ってここに立ってんだ……! みんなの想いも、約束も……全部、このドローで引き寄せてやる!!」
そのときだった。
「それでこそ……わしの主君じゃ」
「──え?」
聞こえたのは、信じられない声だった。ここにいるはずのない、でも、ずっと聞きたかった声。
「随分と苦戦しとるようじゃのう」
空間が揺れた。その中心に、光の亀裂が走る。
まさか。そんなはずは。でも──。
「盟友との約束を果たすため。そして、勝利を届けるため──!」
光の中から、紅蓮の翼が現れる。炎をまとった大きな影が、裂けた空をくぐって飛来する。
「ブリテンの由緒正しき勝利の竜が、勝利を携え、今ここに降臨した!!」
そして、本当に──その姿が、俺の目の前に降り立った。
「っ、ドライグぅ!!」
俺の最強の相棒。サタンと共に封印されたはずの存在が、今ここに戻ってきた。
「待たせたのぅ、タイヨウ」
ドライグの目が、まっすぐ俺を見ている。その瞳は、ずっと変わらず、俺を信じてくれていた。
なんでとか、どうしてとか、そんな疑問は全部吹き飛んだ。
胸の奥が、ぐっと熱くなる。呼吸まで熱を帯びて、全身に力がみなぎっていく。
「今度こそ、おヌシと共に勝利をつかむぞ!」
「っ、あぁ!!」
もう迷わない。もう揺るがない。
だって、俺には太陽と──勝利の竜がいる!
絶対に、勝ってみせる!!