表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/208

ph178 VSクロガネ

 次元の狭間を、先輩の気配だけを頼りに進んでいく。


 その気配はどんどん近づいていた。もう、すぐそこにいる。そう思った瞬間、空気が変わった。先輩のマナが、不気味なほど異質に変わったのだ。


「な、なに……これ……」


 思わず止まる足。進もうとしても、全身に広がる気持ち悪さがそれを許さない。


 今なら分かる。ヒョウガくんたちの言っていた、先輩のマナに対する不快感。


 これは、ただ異質なだけじゃない。嫌悪感が凝縮されて、肌の上をべったりと這ってくるような感覚。


 私には、それが黒光りする虫の群れに囲まれたときの、あのゾッとする感覚と重なった。姿は見えなくても、気配が肌を這い、背筋を凍らせる。気づけば一歩、後ずさっていた。


「ちょ、こんなん聞いてないんですけど……!」


 先輩のマナが普通じゃないのは、初めて循環させた時から分かっていた。あの時感じた恐怖も、苦痛も、はっきりと覚えている。


 でも、今のこれは違う。あのときとは、質がまるで違うおぞましさだ。


 進まなきゃいけない、それは分かってる。でも、怖い。黒光りの群れに自分から飛び込むようなもので、足が前に出ない。


 せめて、誰かが隣にいてくれたら。そんな考えが、一瞬だけ頭をかすめた。


「……っ、甘えんな、私」


 泣き言なんて言ってる場合じゃない。そう言い聞かせるように、自身の頬を叩いた。


「……そういうのも、覚悟のうえでしょ」


 静かに呟き、前を見据える。


「女も、度胸……っ!」


 深く息を吸い込み、恐怖を胸の奥に押し込んで、駆け出した。


「あああああああ!!」


 腕を顔の前でクロスさせて突っ込む。黒光りのアレが全身を這うような、底知れない悪寒が走る。


「いやああぁぁぁあ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」


 心が折れそうになる。けど、足は止めない。


「こんなんマジで無……っ、りじゃない! 助けるんでしょ、先輩を! 返すんでしょ、恩を!!」


 肌を這っていた気配が、今度は体の内側にまで染み込んでくるような錯覚すらある。胸の奥がざわつき、喉の奥に何かが張りつくような吐き気がこみ上げた。


 けど、止まるわけにはいかなかった。


 全身が拒絶を訴えるたびに、その気持ちを無理やりねじ伏せた。


 足がもつれ、呼吸は荒くなる。それでも立ち止まる、なんて選択肢は最初からなかった。


 どれくらい走ったのか、もうわからない。ただひたすら、先輩の気配を頼りに走り続けていた。


 すると突然、視界が弾けた。


 目の前が白く染まり、足元の感覚がぐらりと揺れる。全身にまとわりついていた嫌悪感が、一気に剥がれ落ちた。


 気づけば、私はまったく違う空間に立っていた。周囲は薄暗く、空気そのものが重く淀んでいる。足元には複雑な魔法陣。壁も天井もなく、広がりも分からないその空間には、何かがうごめく気配だけが満ちていた。


 そして、その中心に、ひとりの人影が立っていた。


 先輩だ。


 虚ろな目をした先輩が、そこにいた。


「……先輩……?」


 自分のものとは思えない程、喉が詰まったように声がかすれる。


 その姿には、確かに見覚えがあった。けれど、そこに漂っている気配は、私の知っている先輩の物だけではなかった。


「これは……!?」


 先輩の中には、アフリマンだけではない。


 ザリチュ、タルウィ、サルワ、タローマティー、マナフ、ドゥルジ。全ての七大魔王(ヴェンディダード)の気配が、先輩の中で溶け合い、渦を巻いていた。


「どう、して……?」

「嬢ちゃん!? なんで来た!!」


 私が呆然としていると、焦った様子のブラックドッグが飛び込んできた。


「ブラックドッグさん!? 先輩に何が……」

「説明してる暇はねぇ! とにかく逃げろ!」


 私を突き放すようでいて、どこか切実な声で叫ぶ。


 ブラックドッグの言いたい事は分かる。先輩はいつ暴走してもおかしくない状態だ。このまま近くにいれば、ただでは済まない。そんなこと、分かりきっていた。


 けれど────。


「っ、嫌です!」

「嬢ちゃん!!」


 ここで、引き下がるわけにはいかない。


「見りゃ分かんだろ! クロガネの中には今、七大魔王(ヴェンディダード)が全部入り込んでる! アフリマンが取り込んだんだ! 今のクロガネは正気じゃねぇ! 嬢ちゃんの気持ちは分かるが、このままだと嬢ちゃんまで──」

「私は! 先輩を殴りに来たんです!」


 怒鳴り返すように放ったその一言に、ブラックドッグは一瞬だけ動きを止めた。


「……は?」

「私、怒ってるんです」

「え、あ。おう……?」

「勝手に付きまとって、勝手に踏み込んで、勝手に消えるとか。馬鹿にしてるんですか? 挙句の果てには、ネオアースになる?……勝手にも程がある」

「いや、え? 嬢ちゃん、急に何言って──」

「正気じゃない? 関係ないですよ。七大魔王(ヴェンディダード)ごとぶっ飛ばせばオールオッケーです」

「嬢ちゃん!」


 ブラックドッグが声を荒げる。


「ふざけてる場合じゃねぇんだよ! クロガネがギリギリ耐えれてんのは、嬢ちゃんの存在があるからだ! それなのに、嬢ちゃんを傷つけちまったら、クロガネは完全に飲み込まれ──」

「うるさい」


 私は大鎌を実体化させ、その切っ先をブラックドッグに突きつけた。


「ふざけてなんかいません。私は本気です」


 そうだ。私は怒っている。


 先輩の勝手な行動に、私は心の底から腹を立てている。


 来るなって言っても、勝手に付いてきて。

 助けて、なんて言ってないのに勝手に守って。

 願ってもないのに、勝手にネオアースになろうとしてる。


 自分は、黙って全部、背負い込んで……私には何も言わず、一人で、傷ついて……っ!


 私のことが好きだか何だか知らないけど、その自己犠牲の精神に本気で腹が立つ。


 私がどんな気持ちになるかも知らずに、勝手に自己完結して、満足してる先輩が、ムカつく!!


「痴話喧嘩は犬も食わないんでしょ? だったら、引っ込んでてください。邪魔です」


 鋭く睨みつけると、ブラックドッグはわずかに身を引き、戸惑いながらも黙ってその場を離れた。


 私は先輩にゆっくりと近づき、真正面に立つ。


「先輩……」


 返事はない。虚ろな目のまま、何もない空間をじっと見つめている。


「負けっぱなしはプライドが許さない。いつか絶対惚れさせる(負けさせる)、でしたっけ?────やってみろよ」


 先輩が応じる気配はない。それでも私は構わず、MD(マッチデバイス)にマナを込めた。


「こちとら全然負ける気ないんで? ……悔しかったら惚れさせて(負けさせて)みろよ」


 大気のマナがざわめく。空気の色が変わり、私の周囲に魔方陣が浮かび上がる。螺旋を描くようにマナが収束し、空間そのものを塗り替えていく。


 バトルフィールドが、展開されていく。


「コーリング。影法師、チェルノボク!!」


 私のマナが走り、二つの影が地面を裂くように出現した。それと同時に、フィールドを貫くような光が走り、私と先輩のマナが繋がる。


「完膚なきまでに叩き潰すんで、覚悟してください」


 その言葉が届いたのか、先輩の体がぐらりと揺れる。そして、全身から濁ったマナが噴き出した。


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! コーリング、ブラックドッグ! ロギウル!!』


 漆黒の魔法陣が地を裂くように展開し、先輩の前に2体のモンスターが現れる。そこには、先程まで隣にいたブラックドッグもいる。黒いマナに絡め取られ、操られているかのようだった。


 空間全体が、獣の咆哮とともにうねり、熱と圧が皮膚を焼くように押し寄せてくる。


 これでマッチの準備が揃った。



「レッツサモン!!」


 二つのマナがぶつかり合い、フィールドの中央で閃光が炸裂する。振動と衝撃が辺りを揺らし、マッチが今、始まった。



 先輩の足元に刻まれた魔法陣が、ゆっくりと回転を始める。どうやら、先攻は先輩のようだ。


 先輩は無表情のまま、まるで指先に染みついた記憶だけをなぞるように、機械的にカードをドローした。


『俺はMP2を消費して、自身に餓狼血牙を装備』


 その声もまた、無機質だった。どこにも意志が感じられない。感情が抜け落ち、ただ口が言葉を繰り返しているだけのようだった。


 ──これは、戦っているんじゃない。反射でカードを動かしているだけ。そう思わせるほど、そこに「先輩」は感じられなかった。


『MP1を消費してロギウルのスキル、燃魔の業腹を発動。このフェイズ中、デッキの上からカードを3枚ダストゾーンに送り、炎属性カードが含まれていた場合は、その枚数分MPを回復し、ロギウルの攻撃力も上昇する』


 3枚のカードがデッキの上から滑るようにダストゾーンに送られていく。すべて炎属性だったようで、先輩のMPは一気に5まで回復し、ロギウルの攻撃力も4まで上昇した。


 ……なるほど。厄介なスキルだ。ブラックドッグの死火とも相性がいい。


『さらに、燃魔の業腹でダストに送られた魔法カード、紅蓮の壁の効果を発動。このカードがダストゾーンに送られた場合、手札から炎属性の魔法カード、1枚をコストなしで使用できる。俺は手札から魔法カード、燃尽の儀式を発動。デッキから炎属性カードを1枚ダストゾーンに送り、味方モンスター1体の攻撃力を3増加。さらに、MPを2回復する』


 ブラックドッグの攻撃力は6になり、先輩のMPも7に増加した。


 これだけ溜めたということは、ブラックドッグのスキルを使う気か、それとも魔法カードで仕掛けてくるのか……。


『ロギウルで影法師を攻撃』


 ──来た。


 影法師のスキルで防ぐこともできた。けれど、今はブラックドッグの動きを見極めたい。ここは、あえて受ける。


 ロギウルの鋭い爪が影法師を切り裂き、体力が6まで落ちた。


「いっ……!」


 こっちまで裂かれたみたいに、胸の奥がズキンと痛む。全力でマナコントロールしてるのに、こんなに鋭いフィードバック……。


 中の影法師は、無事なのだろうか。黒いマナのせいで完全な実体化ができず、確認できないのがもどかしい。


 私は、どうか無事であってくれと願いながら、次の攻撃に備えた。


『餓狼血牙の効果を発動。自身のモンスター1体を選択し、そのモンスターが相手に与えたダメージの半分だけ、体力を回復する。対象はロギウルだ』


 ロギウルの体力が7まで回復する。


 ……ブラックドッグじゃないの? てっきりそちらに使うと思っていたのに、なぜロギウル? 私がスキルを使わずに攻撃を通したことで、確実に回復できる安全策をとったのだろうか?


『ブラックドッグで影法師を攻撃』

「ぐっ……すま、ねぇ……嬢、ちゃ……」


 苦しげに声を漏らしながら、ブラックドッグが影法師へと跳びかかってくる。


 黒いマナに操られているのだろうブラックドッグの動きは、どこかぎこちなく、無理やり身体を引きずるような不器用さと痛々しさがあった。


「私は、MP1を消費して魔法カード、影隠れを発動! このフェイズ中、相手の攻撃を1回だけ回避する!」


 私はすかさず手札に指をかけ、魔法カードを展開する。


『俺はMP1を消費して手札から魔法カード、業火の牽制を発動。このフェイズ中、相手が魔法カードを使用した瞬間に発動できる。その魔法カードの効果を無効化し、相手に2ダメージを与える。さらに、次に使用する魔法カードのMPコストが1増加する』

「えっ、ぐ……あっ……!」


 直後、体に鋭い衝撃が走る。影法師の体力は4まで削られた。


 ……やっぱり、様子を見て正解だった。あれだけMPが残ってたら、魔法で妨害してくるのは当然だ。


「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動! 対象はブラックドッグ。攻撃を不能にします!」


 私は温存していた影法師のスキルを発動し、ブラックドッグの動きを封じた。


 すると彼は、その場で小さく膝を折り、ゆっくりと自分のフィールドに戻っていった。まるで、ほっとしたように。


 その様子を無言で見届けた先輩が、静かにフェイズを終了させる。


 ……ひとまず、最初のフェイズは凌いだ。


 今度は、私の番だ。


 私はカードをドローして、手札に触れる。


「私は、手札から道具カード、影鋏を使用! デッキからカードを3枚ダストゾーンに送り、MPを3回復する」


 カード効果によって、私のMPは8まで回復した。


 けれど、安心なんてできない。先輩の動きは冷たく正確で、一切の隙がなかった。


 たとえ今の先輩が正気じゃなかったとしても、その強さは健在だった。少しでも気を緩めたら、きっと次の瞬間には敗北している。


「私は、MP2を消費して手札から装備カード、蝕影の指輪を自身に装備!」


 手加減なんて、できる相手じゃない。無謀な挑戦だってわかってる。正直、啖呵を切ってマッチを仕掛けたはいいけれど、どうやって勝つかなんて、まだ見えてこない。


 それでも……。


「そして、蝕影の指輪の効果を発動! このフェイズ中、自身のフィールド上にいるモンスター1体の攻撃力を4増加する代わりに、そのモンスターはスキルを発動できなくなる!」


 負けるわけにはいかない。ここで勝たなきゃ、全てが無駄になる。絶対に、先輩を救うんだ!!


「私は影法師を選択! 影法師の攻撃力は5となる!」


 影法師の攻撃力を底上げした私は、一瞬だけフィールドを見渡す。


 狙うならロギウル……と言いたいところだが、ブラックドッグのレベルアップ条件は「効果で相手モンスターに10ダメージを与えること」それを忘れてはいけない。


 中途半端に1体だけ残せば、レベルアップされて不利になる。だったら、先に仕掛けさせないように削ってやる──狙うは、ブラックドッグ!


「影法師でブラックドッグを攻撃!」


 影法師が飛びかかると同時に、先輩の声が重なる。まるで読まれていたかのように、ブラックドッグのスキルが発動された。


『MP4を消費してブラックドッグのスキル、死への誘いを発動。このフェイズ中に受けたダメージの数値に加え、ブラックドックの攻撃力分のダメージを相手モンスター1体に与える』


 やっぱり来た。MPが6もあるんだ、使わないはずがない。けど──それは想定内!


「私は、MP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の宣告を発動!」


 何度も先輩とマッチしてきた。ブラックドッグの厄介さなんて嫌というほど思い知ってる。


「このフェイズ中、相手モンスター1体のスキルを一つ選択する。そのモンスターがこのフェイズ中にそのスキルを使用した場合、そのスキルは無効化され、さらに消費したMPの半分を自身が回復する!」


 影鬼じゃ、ブラックドッグには対応しきれない。だから私は、今回はチェルノボクを選んだ。


「私は死への誘いを選択して無効化!」


 ブラックドッグを完全に封じる。それが、このデッキ構成の狙いだった。何が何でも、先輩を倒すために!


 スキルを無効化されたブラックドッグの体から、吹き上がっていたマナが静かに霧散する。


 その隙を突いて、影法師の攻撃が直撃した。影が拳を振るい、ブラックドッグの体力を一気に15まで削り取る。


「私は、蝕影の指輪のさらなる効果を発動! この装備によって強化されたモンスターが、相手モンスターへの攻撃を成功させた場合、相手のMPを1奪う!」


 攻撃だけじゃない。先輩の行動を縛るための一手も、ちゃんと仕込んである。


「チェルノボクでブラックドッグを攻撃!」


 チェルノボクの一撃が決まり、ブラックドッグの体力が13まで落ちる。奪ったMPのおかげで、こちらの消費は最小限。MPは6も残っている。


「私のフェイズは終了です」


 また、先輩のフェイズが回ってきた。先輩は無言でカードをドローする。


『MP1を消費してロギウルのスキル、燃魔の業腹を発動する』


 またクロガネ先輩がカードを3枚ダストゾーンに送り、MPを回復させた。そして、上がるロギウルの攻撃力。


『ロギウルで影法師を攻撃』

「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動! 対象はロギウル」


 影法師はこのマッチの要。ここで落とされるわけにはいかない。


 喉が乾くほど集中して、私はなんとかロギウルの動きを封じる。けれど、先輩はまるでその行動を読んでいたかのように、すぐに次の一手を放った。


『手札から道具カード、炎の奉納石を使用。このフェイズ中、自身のフィールド上のモンスター1体の攻撃を放棄することで、そのモンスターの攻撃力を別の自身のモンスターに加算する』

「なっ!」


 ロギウルは攻撃こそ不能にされたが、攻撃力は4まで上がっていた。その数値が、丸ごとブラックドッグに渡される。今のブラックドッグの攻撃力は7。


『ブラックドッグで影法師を攻撃』

「させません! 私はMP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の加護を発動! このフェイズ中、相手からのダメージの対象をこのモンスターに変更し、そのダメージを半減する! さらに、軽減した数値と同じだけ、自身のMPを回復する!」


 チェルノボクが前に出て、影法師をかばうように立ちはだかる。衝撃はあったが、なんとか耐えきれた。体力は削られたものの、MPは6を維持できている。ギリギリ、悪くない流れだ。


 ──けれど。


『俺は餓狼血牙の効果を発動。対象はブラックドッグ』


 先輩は間髪入れずに回復の処理に入り、さらに追い打ちをかけるように続けた。


『MP1を消費して手札から魔法カード、煉獄の回帰を発動。自身のフィールドにいるモンスター1体を選択する。そのモンスターのレベルと同じ枚数、自分のデッキからカードをドローする。その後、手札を1枚選んでダストゾーンに送る』


 ここで手札補充!? 先輩のカードが一気に5枚に増えた。それに、MPも6も残ってる……。


『俺はMP2を消費して手札から魔法カード、煉獄の叫びを発動。自身のフィールド上にいる地獄属性モンスター1体を選択する。そのモンスターの体力を5減少させる代わりに、このフェイズ中、そのモンスターの攻撃力を2倍にし、防御貫通効果を与える』


 ……は? 攻撃力2倍? 今のブラックドッグは7だから……14!? しかも防御貫通まで!? ちょっと待ってよ、何その理不尽火力! そんなの直撃したら、一発で終わるじゃんか!


 くっそ! これだから、こういう高火力ゴリ押し型のモンスターは嫌いなんだ!!


『ダストゾーンの魔法カード、炎舞の儀式をゲームからドロップアウトさせて効果を発動。自身のフィールド上の炎属性モンスター1体を再攻撃させる。対象は、ブラックドッグだ。……ブラックドッグてチェルノボクを攻撃』


 やっぱり来るか。貫通があるからチェルノボクの半減効果は意味をなさない!


「私はMP2を消費して手札から魔法カード、影の身代わりを発動! 相手モンスターに攻撃された時、影の身代わりを作り出して、その身代わりが代わりにダメージを受ける!」


 影の身代わりが代わりに砕け散る。なんとか防いだ……と、思った、そのとき。


『俺はダストゾーンにある魔法カード、復讐の炎をゲームからドロップアウトさせて効果を発動。自身のモンスター1体のスキルを一つ選び、発動できる。ブラックドッグのスキル、死への誘いを選択する。このフェイズ中に受けたダメージの数値プラス、ブラックドックの攻撃力分のダメージを相手モンスター1体に与える』


 うわ、最初からこれを狙ってた……! 煉獄の叫びでわざと5も自傷してたのは、そのためか!


 ブラックドッグの攻撃力は14。そこに5を足して、19。チェルノボクの体力は12……食らえば消滅する!


「私は、MP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の宣告を発動! このフェイズ中、相手モンスター1体のスキルを一つ選択する。そのモンスターがこのフェイズ中にスキルを使用した場合、そのスキルは無効化され、さらに消費したMPの半分を自身が回復する!」


 これしかない。残りMPは1になってしまうけど、チェルノボクは対ブラックドッグの切り札なんだ。こんな序盤で落とされてたまるか……! ここで守れなきゃ、後がきつい!!


『俺はMP2を消費して手札から魔法カード、地獄の判定を発動。このフェイズ中、相手モンスター1体の効果を無効にする。対象はチェルノボク』

「え、そんっ……あああああああ!!」


  次の瞬間、チェルノボクは音もなく消え去った。スキルごと潰された。


 追い打ちをかけるように、餓狼血牙の効果でブラックドッグの体力まで回復していく。


 場に残ったのは、体力4の影法師だけ。対する先輩は、体力7のロギウルと、体力18まで回復したブラックドッグ……。


 先輩は無言のまま、淡々とフェイズを終える。勝ちたいという執念も、迷いや罪悪感のかけらも感じられなかった。


 そこにいたのは、感情を抜き取られたような、ただの「戦闘装置」だ。


 私は、手札を強く握りしめる。震える指先が、悔しさと恐怖をごまかせない。でも、それでも……負けてなんかいられない。


「……私の、フェイズです。ドロー!」


 このフェイズで、状況をひっくり返してやる!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ