ph178 VSクロガネ
次元の狭間を、先輩の気配だけを頼りに進んでいく。
その気配はどんどん近づいていた。もう、すぐそこにいる。そう思った瞬間、空気が変わった。先輩のマナが、不気味なほど異質に変わったのだ。
「な、なに……これ……」
思わず止まる足。進もうとしても、全身に広がる気持ち悪さがそれを許さない。
今なら分かる。ヒョウガくんたちの言っていた、先輩のマナに対する不快感。
これは、ただ異質なだけじゃない。嫌悪感が凝縮されて、肌の上をべったりと這ってくるような感覚。
私には、それが黒光りする虫の群れに囲まれたときの、あのゾッとする感覚と重なった。姿は見えなくても、気配が肌を這い、背筋を凍らせる。気づけば一歩、後ずさっていた。
「ちょ、こんなん聞いてないんですけど……!」
先輩のマナが普通じゃないのは、初めて循環させた時から分かっていた。あの時感じた恐怖も、苦痛も、はっきりと覚えている。
でも、今のこれは違う。あのときとは、質がまるで違うおぞましさだ。
進まなきゃいけない、それは分かってる。でも、怖い。黒光りの群れに自分から飛び込むようなもので、足が前に出ない。
せめて、誰かが隣にいてくれたら。そんな考えが、一瞬だけ頭をかすめた。
「……っ、甘えんな、私」
泣き言なんて言ってる場合じゃない。そう言い聞かせるように、自身の頬を叩いた。
「……そういうのも、覚悟のうえでしょ」
静かに呟き、前を見据える。
「女も、度胸……っ!」
深く息を吸い込み、恐怖を胸の奥に押し込んで、駆け出した。
「あああああああ!!」
腕を顔の前でクロスさせて突っ込む。黒光りのアレが全身を這うような、底知れない悪寒が走る。
「いやああぁぁぁあ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」
心が折れそうになる。けど、足は止めない。
「こんなんマジで無……っ、りじゃない! 助けるんでしょ、先輩を! 返すんでしょ、恩を!!」
肌を這っていた気配が、今度は体の内側にまで染み込んでくるような錯覚すらある。胸の奥がざわつき、喉の奥に何かが張りつくような吐き気がこみ上げた。
けど、止まるわけにはいかなかった。
全身が拒絶を訴えるたびに、その気持ちを無理やりねじ伏せた。
足がもつれ、呼吸は荒くなる。それでも立ち止まる、なんて選択肢は最初からなかった。
どれくらい走ったのか、もうわからない。ただひたすら、先輩の気配を頼りに走り続けていた。
すると突然、視界が弾けた。
目の前が白く染まり、足元の感覚がぐらりと揺れる。全身にまとわりついていた嫌悪感が、一気に剥がれ落ちた。
気づけば、私はまったく違う空間に立っていた。周囲は薄暗く、空気そのものが重く淀んでいる。足元には複雑な魔法陣。壁も天井もなく、広がりも分からないその空間には、何かがうごめく気配だけが満ちていた。
そして、その中心に、ひとりの人影が立っていた。
先輩だ。
虚ろな目をした先輩が、そこにいた。
「……先輩……?」
自分のものとは思えない程、喉が詰まったように声がかすれる。
その姿には、確かに見覚えがあった。けれど、そこに漂っている気配は、私の知っている先輩の物だけではなかった。
「これは……!?」
先輩の中には、アフリマンだけではない。
ザリチュ、タルウィ、サルワ、タローマティー、マナフ、ドゥルジ。全ての七大魔王の気配が、先輩の中で溶け合い、渦を巻いていた。
「どう、して……?」
「嬢ちゃん!? なんで来た!!」
私が呆然としていると、焦った様子のブラックドッグが飛び込んできた。
「ブラックドッグさん!? 先輩に何が……」
「説明してる暇はねぇ! とにかく逃げろ!」
私を突き放すようでいて、どこか切実な声で叫ぶ。
ブラックドッグの言いたい事は分かる。先輩はいつ暴走してもおかしくない状態だ。このまま近くにいれば、ただでは済まない。そんなこと、分かりきっていた。
けれど────。
「っ、嫌です!」
「嬢ちゃん!!」
ここで、引き下がるわけにはいかない。
「見りゃ分かんだろ! クロガネの中には今、七大魔王が全部入り込んでる! アフリマンが取り込んだんだ! 今のクロガネは正気じゃねぇ! 嬢ちゃんの気持ちは分かるが、このままだと嬢ちゃんまで──」
「私は! 先輩を殴りに来たんです!」
怒鳴り返すように放ったその一言に、ブラックドッグは一瞬だけ動きを止めた。
「……は?」
「私、怒ってるんです」
「え、あ。おう……?」
「勝手に付きまとって、勝手に踏み込んで、勝手に消えるとか。馬鹿にしてるんですか? 挙句の果てには、ネオアースになる?……勝手にも程がある」
「いや、え? 嬢ちゃん、急に何言って──」
「正気じゃない? 関係ないですよ。七大魔王ごとぶっ飛ばせばオールオッケーです」
「嬢ちゃん!」
ブラックドッグが声を荒げる。
「ふざけてる場合じゃねぇんだよ! クロガネがギリギリ耐えれてんのは、嬢ちゃんの存在があるからだ! それなのに、嬢ちゃんを傷つけちまったら、クロガネは完全に飲み込まれ──」
「うるさい」
私は大鎌を実体化させ、その切っ先をブラックドッグに突きつけた。
「ふざけてなんかいません。私は本気です」
そうだ。私は怒っている。
先輩の勝手な行動に、私は心の底から腹を立てている。
来るなって言っても、勝手に付いてきて。
助けて、なんて言ってないのに勝手に守って。
願ってもないのに、勝手にネオアースになろうとしてる。
自分は、黙って全部、背負い込んで……私には何も言わず、一人で、傷ついて……っ!
私のことが好きだか何だか知らないけど、その自己犠牲の精神に本気で腹が立つ。
私がどんな気持ちになるかも知らずに、勝手に自己完結して、満足してる先輩が、ムカつく!!
「痴話喧嘩は犬も食わないんでしょ? だったら、引っ込んでてください。邪魔です」
鋭く睨みつけると、ブラックドッグはわずかに身を引き、戸惑いながらも黙ってその場を離れた。
私は先輩にゆっくりと近づき、真正面に立つ。
「先輩……」
返事はない。虚ろな目のまま、何もない空間をじっと見つめている。
「負けっぱなしはプライドが許さない。いつか絶対惚れさせる、でしたっけ?────やってみろよ」
先輩が応じる気配はない。それでも私は構わず、MDにマナを込めた。
「こちとら全然負ける気ないんで? ……悔しかったら惚れさせてみろよ」
大気のマナがざわめく。空気の色が変わり、私の周囲に魔方陣が浮かび上がる。螺旋を描くようにマナが収束し、空間そのものを塗り替えていく。
バトルフィールドが、展開されていく。
「コーリング。影法師、チェルノボク!!」
私のマナが走り、二つの影が地面を裂くように出現した。それと同時に、フィールドを貫くような光が走り、私と先輩のマナが繋がる。
「完膚なきまでに叩き潰すんで、覚悟してください」
その言葉が届いたのか、先輩の体がぐらりと揺れる。そして、全身から濁ったマナが噴き出した。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! コーリング、ブラックドッグ! ロギウル!!』
漆黒の魔法陣が地を裂くように展開し、先輩の前に2体のモンスターが現れる。そこには、先程まで隣にいたブラックドッグもいる。黒いマナに絡め取られ、操られているかのようだった。
空間全体が、獣の咆哮とともにうねり、熱と圧が皮膚を焼くように押し寄せてくる。
これでマッチの準備が揃った。
「レッツサモン!!」
二つのマナがぶつかり合い、フィールドの中央で閃光が炸裂する。振動と衝撃が辺りを揺らし、マッチが今、始まった。
先輩の足元に刻まれた魔法陣が、ゆっくりと回転を始める。どうやら、先攻は先輩のようだ。
先輩は無表情のまま、まるで指先に染みついた記憶だけをなぞるように、機械的にカードをドローした。
『俺はMP2を消費して、自身に餓狼血牙を装備』
その声もまた、無機質だった。どこにも意志が感じられない。感情が抜け落ち、ただ口が言葉を繰り返しているだけのようだった。
──これは、戦っているんじゃない。反射でカードを動かしているだけ。そう思わせるほど、そこに「先輩」は感じられなかった。
『MP1を消費してロギウルのスキル、燃魔の業腹を発動。このフェイズ中、デッキの上からカードを3枚ダストゾーンに送り、炎属性カードが含まれていた場合は、その枚数分MPを回復し、ロギウルの攻撃力も上昇する』
3枚のカードがデッキの上から滑るようにダストゾーンに送られていく。すべて炎属性だったようで、先輩のMPは一気に5まで回復し、ロギウルの攻撃力も4まで上昇した。
……なるほど。厄介なスキルだ。ブラックドッグの死火とも相性がいい。
『さらに、燃魔の業腹でダストに送られた魔法カード、紅蓮の壁の効果を発動。このカードがダストゾーンに送られた場合、手札から炎属性の魔法カード、1枚をコストなしで使用できる。俺は手札から魔法カード、燃尽の儀式を発動。デッキから炎属性カードを1枚ダストゾーンに送り、味方モンスター1体の攻撃力を3増加。さらに、MPを2回復する』
ブラックドッグの攻撃力は6になり、先輩のMPも7に増加した。
これだけ溜めたということは、ブラックドッグのスキルを使う気か、それとも魔法カードで仕掛けてくるのか……。
『ロギウルで影法師を攻撃』
──来た。
影法師のスキルで防ぐこともできた。けれど、今はブラックドッグの動きを見極めたい。ここは、あえて受ける。
ロギウルの鋭い爪が影法師を切り裂き、体力が6まで落ちた。
「いっ……!」
こっちまで裂かれたみたいに、胸の奥がズキンと痛む。全力でマナコントロールしてるのに、こんなに鋭いフィードバック……。
中の影法師は、無事なのだろうか。黒いマナのせいで完全な実体化ができず、確認できないのがもどかしい。
私は、どうか無事であってくれと願いながら、次の攻撃に備えた。
『餓狼血牙の効果を発動。自身のモンスター1体を選択し、そのモンスターが相手に与えたダメージの半分だけ、体力を回復する。対象はロギウルだ』
ロギウルの体力が7まで回復する。
……ブラックドッグじゃないの? てっきりそちらに使うと思っていたのに、なぜロギウル? 私がスキルを使わずに攻撃を通したことで、確実に回復できる安全策をとったのだろうか?
『ブラックドッグで影法師を攻撃』
「ぐっ……すま、ねぇ……嬢、ちゃ……」
苦しげに声を漏らしながら、ブラックドッグが影法師へと跳びかかってくる。
黒いマナに操られているのだろうブラックドッグの動きは、どこかぎこちなく、無理やり身体を引きずるような不器用さと痛々しさがあった。
「私は、MP1を消費して魔法カード、影隠れを発動! このフェイズ中、相手の攻撃を1回だけ回避する!」
私はすかさず手札に指をかけ、魔法カードを展開する。
『俺はMP1を消費して手札から魔法カード、業火の牽制を発動。このフェイズ中、相手が魔法カードを使用した瞬間に発動できる。その魔法カードの効果を無効化し、相手に2ダメージを与える。さらに、次に使用する魔法カードのMPコストが1増加する』
「えっ、ぐ……あっ……!」
直後、体に鋭い衝撃が走る。影法師の体力は4まで削られた。
……やっぱり、様子を見て正解だった。あれだけMPが残ってたら、魔法で妨害してくるのは当然だ。
「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動! 対象はブラックドッグ。攻撃を不能にします!」
私は温存していた影法師のスキルを発動し、ブラックドッグの動きを封じた。
すると彼は、その場で小さく膝を折り、ゆっくりと自分のフィールドに戻っていった。まるで、ほっとしたように。
その様子を無言で見届けた先輩が、静かにフェイズを終了させる。
……ひとまず、最初のフェイズは凌いだ。
今度は、私の番だ。
私はカードをドローして、手札に触れる。
「私は、手札から道具カード、影鋏を使用! デッキからカードを3枚ダストゾーンに送り、MPを3回復する」
カード効果によって、私のMPは8まで回復した。
けれど、安心なんてできない。先輩の動きは冷たく正確で、一切の隙がなかった。
たとえ今の先輩が正気じゃなかったとしても、その強さは健在だった。少しでも気を緩めたら、きっと次の瞬間には敗北している。
「私は、MP2を消費して手札から装備カード、蝕影の指輪を自身に装備!」
手加減なんて、できる相手じゃない。無謀な挑戦だってわかってる。正直、啖呵を切ってマッチを仕掛けたはいいけれど、どうやって勝つかなんて、まだ見えてこない。
それでも……。
「そして、蝕影の指輪の効果を発動! このフェイズ中、自身のフィールド上にいるモンスター1体の攻撃力を4増加する代わりに、そのモンスターはスキルを発動できなくなる!」
負けるわけにはいかない。ここで勝たなきゃ、全てが無駄になる。絶対に、先輩を救うんだ!!
「私は影法師を選択! 影法師の攻撃力は5となる!」
影法師の攻撃力を底上げした私は、一瞬だけフィールドを見渡す。
狙うならロギウル……と言いたいところだが、ブラックドッグのレベルアップ条件は「効果で相手モンスターに10ダメージを与えること」それを忘れてはいけない。
中途半端に1体だけ残せば、レベルアップされて不利になる。だったら、先に仕掛けさせないように削ってやる──狙うは、ブラックドッグ!
「影法師でブラックドッグを攻撃!」
影法師が飛びかかると同時に、先輩の声が重なる。まるで読まれていたかのように、ブラックドッグのスキルが発動された。
『MP4を消費してブラックドッグのスキル、死への誘いを発動。このフェイズ中に受けたダメージの数値に加え、ブラックドックの攻撃力分のダメージを相手モンスター1体に与える』
やっぱり来た。MPが6もあるんだ、使わないはずがない。けど──それは想定内!
「私は、MP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の宣告を発動!」
何度も先輩とマッチしてきた。ブラックドッグの厄介さなんて嫌というほど思い知ってる。
「このフェイズ中、相手モンスター1体のスキルを一つ選択する。そのモンスターがこのフェイズ中にそのスキルを使用した場合、そのスキルは無効化され、さらに消費したMPの半分を自身が回復する!」
影鬼じゃ、ブラックドッグには対応しきれない。だから私は、今回はチェルノボクを選んだ。
「私は死への誘いを選択して無効化!」
ブラックドッグを完全に封じる。それが、このデッキ構成の狙いだった。何が何でも、先輩を倒すために!
スキルを無効化されたブラックドッグの体から、吹き上がっていたマナが静かに霧散する。
その隙を突いて、影法師の攻撃が直撃した。影が拳を振るい、ブラックドッグの体力を一気に15まで削り取る。
「私は、蝕影の指輪のさらなる効果を発動! この装備によって強化されたモンスターが、相手モンスターへの攻撃を成功させた場合、相手のMPを1奪う!」
攻撃だけじゃない。先輩の行動を縛るための一手も、ちゃんと仕込んである。
「チェルノボクでブラックドッグを攻撃!」
チェルノボクの一撃が決まり、ブラックドッグの体力が13まで落ちる。奪ったMPのおかげで、こちらの消費は最小限。MPは6も残っている。
「私のフェイズは終了です」
また、先輩のフェイズが回ってきた。先輩は無言でカードをドローする。
『MP1を消費してロギウルのスキル、燃魔の業腹を発動する』
またクロガネ先輩がカードを3枚ダストゾーンに送り、MPを回復させた。そして、上がるロギウルの攻撃力。
『ロギウルで影法師を攻撃』
「私はMP2を消費して影法師のスキル、影縫いを発動! 対象はロギウル」
影法師はこのマッチの要。ここで落とされるわけにはいかない。
喉が乾くほど集中して、私はなんとかロギウルの動きを封じる。けれど、先輩はまるでその行動を読んでいたかのように、すぐに次の一手を放った。
『手札から道具カード、炎の奉納石を使用。このフェイズ中、自身のフィールド上のモンスター1体の攻撃を放棄することで、そのモンスターの攻撃力を別の自身のモンスターに加算する』
「なっ!」
ロギウルは攻撃こそ不能にされたが、攻撃力は4まで上がっていた。その数値が、丸ごとブラックドッグに渡される。今のブラックドッグの攻撃力は7。
『ブラックドッグで影法師を攻撃』
「させません! 私はMP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の加護を発動! このフェイズ中、相手からのダメージの対象をこのモンスターに変更し、そのダメージを半減する! さらに、軽減した数値と同じだけ、自身のMPを回復する!」
チェルノボクが前に出て、影法師をかばうように立ちはだかる。衝撃はあったが、なんとか耐えきれた。体力は削られたものの、MPは6を維持できている。ギリギリ、悪くない流れだ。
──けれど。
『俺は餓狼血牙の効果を発動。対象はブラックドッグ』
先輩は間髪入れずに回復の処理に入り、さらに追い打ちをかけるように続けた。
『MP1を消費して手札から魔法カード、煉獄の回帰を発動。自身のフィールドにいるモンスター1体を選択する。そのモンスターのレベルと同じ枚数、自分のデッキからカードをドローする。その後、手札を1枚選んでダストゾーンに送る』
ここで手札補充!? 先輩のカードが一気に5枚に増えた。それに、MPも6も残ってる……。
『俺はMP2を消費して手札から魔法カード、煉獄の叫びを発動。自身のフィールド上にいる地獄属性モンスター1体を選択する。そのモンスターの体力を5減少させる代わりに、このフェイズ中、そのモンスターの攻撃力を2倍にし、防御貫通効果を与える』
……は? 攻撃力2倍? 今のブラックドッグは7だから……14!? しかも防御貫通まで!? ちょっと待ってよ、何その理不尽火力! そんなの直撃したら、一発で終わるじゃんか!
くっそ! これだから、こういう高火力ゴリ押し型のモンスターは嫌いなんだ!!
『ダストゾーンの魔法カード、炎舞の儀式をゲームからドロップアウトさせて効果を発動。自身のフィールド上の炎属性モンスター1体を再攻撃させる。対象は、ブラックドッグだ。……ブラックドッグてチェルノボクを攻撃』
やっぱり来るか。貫通があるからチェルノボクの半減効果は意味をなさない!
「私はMP2を消費して手札から魔法カード、影の身代わりを発動! 相手モンスターに攻撃された時、影の身代わりを作り出して、その身代わりが代わりにダメージを受ける!」
影の身代わりが代わりに砕け散る。なんとか防いだ……と、思った、そのとき。
『俺はダストゾーンにある魔法カード、復讐の炎をゲームからドロップアウトさせて効果を発動。自身のモンスター1体のスキルを一つ選び、発動できる。ブラックドッグのスキル、死への誘いを選択する。このフェイズ中に受けたダメージの数値プラス、ブラックドックの攻撃力分のダメージを相手モンスター1体に与える』
うわ、最初からこれを狙ってた……! 煉獄の叫びでわざと5も自傷してたのは、そのためか!
ブラックドッグの攻撃力は14。そこに5を足して、19。チェルノボクの体力は12……食らえば消滅する!
「私は、MP3を消費してチェルノボクのスキル、影神の宣告を発動! このフェイズ中、相手モンスター1体のスキルを一つ選択する。そのモンスターがこのフェイズ中にスキルを使用した場合、そのスキルは無効化され、さらに消費したMPの半分を自身が回復する!」
これしかない。残りMPは1になってしまうけど、チェルノボクは対ブラックドッグの切り札なんだ。こんな序盤で落とされてたまるか……! ここで守れなきゃ、後がきつい!!
『俺はMP2を消費して手札から魔法カード、地獄の判定を発動。このフェイズ中、相手モンスター1体の効果を無効にする。対象はチェルノボク』
「え、そんっ……あああああああ!!」
次の瞬間、チェルノボクは音もなく消え去った。スキルごと潰された。
追い打ちをかけるように、餓狼血牙の効果でブラックドッグの体力まで回復していく。
場に残ったのは、体力4の影法師だけ。対する先輩は、体力7のロギウルと、体力18まで回復したブラックドッグ……。
先輩は無言のまま、淡々とフェイズを終える。勝ちたいという執念も、迷いや罪悪感のかけらも感じられなかった。
そこにいたのは、感情を抜き取られたような、ただの「戦闘装置」だ。
私は、手札を強く握りしめる。震える指先が、悔しさと恐怖をごまかせない。でも、それでも……負けてなんかいられない。
「……私の、フェイズです。ドロー!」
このフェイズで、状況をひっくり返してやる!!