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ph175 VSマナフーsideセンー

 歪みの向こうでバカ女がまだ何か言いたげに睨んでやがるのを、鼻で笑って無視した。そんで、姿が完全に消えたのを確認してから、地上へと視線を戻す。


 地上には、相変わらず黒いマナが濁った沼みてェに広がっていた。吹き出す瘴気がベタベタとまわりつきやがって、鬱陶しい。引きずり込もうって魂胆かよ、クソが。


 そんな俺の不快感なんざ気にも留めず、ヴェルグはお気楽に騒ぎ出す。


「ヒュ〜ッ! ご主人サマってば、ダ・イ・タ・ン〜」

「しね」


 ヴェルグのふざけた声を一秒で切り捨て、俺は再び沼の奥へと視線を戻した。


「これで絶対に死ねなくなっちまったなぁ? なんてったって、女の子のハジメテ奪っちまったんだからよぉ。責任取らなきゃ男じゃねぇよなぁ?」


 いつもの調子でヴェルグがふざけやがる。


 くだらねェと内心で毒づきながら、無意識に口元に伸びていた指に気づき、舌打ちと一緒に乱暴に払い落とした。


 あの行為は、ただの手段に過ぎねェ。


 あァなったバカ女は、言葉じゃ止まらねェ。だから……俺ァ合理的に動いた。そんだけの話だ。……そもそも、アイツは──。


「……初めてじゃねェよ」


 そォだ。あのバカは初めてなんかじゃねェ。


 ごく最近の話だ。


 ダラダラ任務から帰ってこねェあのバカを探してたら……よりにもよって、あのイカれ坊ちゃんと、キスなんぞしてる現場に出くわした。


 いつもならくだらねェと吐き捨てる光景。


 けど、気づきゃ脳裏にへばりついて離れやしねェ。思い出すたび、どうしようもねェイラつきが湧いてくる。


 クソが! 何で俺がこんな気分にならなきゃなんねェんだ!!


 あのバカが誰を選ぼうが、何をしようが知ったこっちゃねェ! 俺が楽になれりゃ、それでいい。俺が生き延びれりゃ、他はどォでもいいだろォが!!


「…………最初から死ぬ気なんざ、ねェつってんだろ」


 ……そォだ。ぐちゃぐちゃ考えるだけ、無駄だ。こんなの、らしくもねェ。俺は、俺のやり方で生き残る。ただそれだけに集中すりゃいい。


 俺は唇にまだ残っていた、鬱陶しい熱を払い落とすように、口元を服の袖で大袈裟に拭った。


「……アイギス(ヒーローごっこ)は、もう飽きた」


 そう呟いた瞬間、沼の底から這い上がってくるような気配が肌を刺す。マナの濁流の中に、明らかな異物が混じっていた。


 ──来る。


 俺は冥界の槍を実体化させ、その柄を握る。


「とっととブッ殺して、ズラかんぞ」


 肩に担いだ瞬間、ヴェルグがクククと笑い、翼を大きく広げる。


「送別会か? なら、盛大にいこうぜ、ご主人サマぁ!!」


 ヴェルグの背が高度を少し下げると同時に、黒い沼が泡立ち、巨大な影がのたうつ。沼が沸騰するように泡立ち、マナの壁が空気を押し潰すように立ち上っていく。そして、影の中心からソイツが現れた。


 ……細ェ手足に、仮面みてェなツラ。なのに、目だけが生々しい狂気を湛えてやがる。


「……ここでは、はじめましてだね。渡守センくん」


 名を呼ばれた瞬間、背中に冷たいものが走った。


 …………何で知ってやがる?


 俺が眉をひそめると、ソイツは口の端だけで笑った。


「触れたね?」

「…………あ?」

「どんな味だった? どんな感触だった? あの男が望んだモノに触れて、どんな気分になったの? 君のなんでしょ? あんなに守ろうとしてたもんね。ボロボロになって、あの方の前に立って……いいなぁ。羨ましいなぁ……あの方の記憶になって、認知されて……あの男が……だから、あの方も……」


 ゾクリ、と背中を撫でるような声。口にする言葉も、滲ませる感情も、すべてが気味が悪ィ。


「……何の話してんだ、テメェ」

「……あれ? おかしいな……記録の中じゃ、もう少しいい関係に見えたのに。やっぱり、違うから? でもあの男はあの方のまま……あの方はやっぱりあの男を選んだ……あぁ、ダメだ。消さなきゃ。そうだよね。あの方の中にいるのはボクじゃなきゃ……ダメだよね……こんな記録は消さないと……」


 そいつは、まるで嫉妬してるみてェに呟いた。その対象が何かは分からねェが、バカ女じゃねェことは確かだった。


「あの男の中には、残りすぎてる。サチコの記録が……嫌だなぁ……そのせいであの方の中にもずっと残り続ける……許せないなぁ……ボク、そういうの上書きしたくなっちゃうんだよね……君の中の、あの方の残り香も……」


 マナフは、誰にも応えを求めず、気味の悪ィ独り言を垂れ流していた。


 ……あの方が誰かは知らねェし、そんな事は微塵も興味はねェ。


 知ったとこで、俺のやるべき事も変わらねェ。


 俺は無言でマナをMD(マッチデバイス)に込め、槍の穂先をそいつに向ける。


「さっきから意味わかんねェことをベラベラと……」


 マナフの足元から広がる黒いマナが、まるで過去の幻影みてぇに揺らめきながら広がっていく。


「ンなに記録が大事か? ……ハッ、だったらその大事な記録に叩き込んでやるよ」


 俺はマナを全開にして、バトルフィールドを展開する。


「テメェの惨めな敗北をなァ!!」


 風が唸り、大気が震える。


「いい悲鳴(こえ)で鳴けよォ? ……コーリング、フレースヴェルグ、ヴェズルフェルニル!」


 黒いマナの中に、フィールドが割り込むように浮かび上がり、俺とヴェルグの足元を固めた。


「記憶は塗り潰すためにある。忘却は、愛よりも深く、苦痛は、存在よりも強い。さぁ……ボクを覚えて……そしてすべてを、ボクに書き換えて!!」


 バトルフィールドが形成されると同時に、マナの濁流が荒々しく渦を巻いた。俺は迷いなくフィールドに降り立ち、身構える。


「……ボクは、悪意そのもの。忘れられたくない記憶──悪意の魔王、マナフだよ」


 胸の奥が、無意識に警鐘を鳴らす。


 空気が濁る。視界が歪み、胃の奥が勝手に反応しやがる。


 今までの雑魚どもとは比べもんにならねェってことぐらい、嫌でも分かった。


 ……けど、ンなモン知ったこっちゃねェ。コイツがどれだけ強かろうと、最後に勝つのは、生き残るのは──




 この俺だ。




「レッツサモン!」


 足元の魔法陣が回転する。先攻を引いたと悟った瞬間、俺はニヤリと口角を上げた。


 手札を一枚ドローし、即座に宣言する。


「俺は手札から道具カード、冥銭への両替機を発動! 手札を2枚ダストゾーンに送り、さらに2枚ドローする!」


 不要な札を切り捨て、手札が入れ替わったのを見届けると、目の前のヴェルグがニヤリと嘴を鳴らした。


「事故でも起こしたか?」

「まさか、下準備だ」


 小馬鹿にした口調に鼻で返しつつ、俺はMPを2消費し、自身にパスズの爪槍を装備する。


「行け、ヴェルグ! マナフを殺れ!」

「了解、っと」


 ヴェルグが翼を広げ、マナフに向かって飛び立つ。だが、マナフは動かない。防御も、回避も。俺たちの攻撃を、あの気色悪い笑みを浮かべたまま、ただ受け入れていた。


「……守らねェなら好都合だ……俺は、パスズの爪槍の効果を発動! このフェイズ中、ヴェルグの攻撃はすべて効果ダメージ扱いになる!」


 ヴェルグの一撃が直撃し、マナフの体力が25から23へと減る。さらに、パスズの爪槍の追加効果も発動する。


「相手に効果ダメージを与えた時、俺のMPは1回復する!」


 俺のMPが3から4へと回復した。


 迷うことなくヴェルグにダブルアタックを指示。奴は反応を見せない。


 抵抗一つせず再びダメージを受け、体力は21へと落ちた。パスズの追加効果で、俺のMPは5となる。


 さらに俺は、ヴェルズフェルニルにも攻撃を指示した。こちらも攻撃は通り、マナフの体力はさらに20へ。


 が、奴は最後まで動かなかった。


 何かを企んでやがる──そんな嫌な予感を抱えながら、俺は警戒を強め、フェイズを終えた。


「……ボクのフェイズだね? ドロー」


 奴はカードを引き、迷いなく一枚を選んだ。


「ボクは手札から道具カード、共鳴の装備儀式を使用するよ。お互いに、デッキから装備カード1枚選んで、自身のモンスターに装備する」


 ……お互い、だァ?


 奴はすぐに遺恨筆記とかいうカードを装備した。俺は直ぐに選択せず、思考する。


 ここで単純に強化するカードを選ぶのも手だが、相手は七大魔王(ヴェンディダード)。罠を仕掛けてないわけがねェ。


 俺は慎重に考え、風贄の刃をヴェルズフェルニルに装備させることにした。


「ボクはMP5を消費してボクのスキル、遺恨の略奪を発動するよ。相手フィールドのモンスター1体に装備されてる効果を奪う。そして、装備の効果を奪われたモンスターは、自身のスキルを封印される」


 奴がMPを8から3に減らしてまで発動させたスキルを見て、やはり罠かと鼻で笑う。


 風贄の刃は、攻撃力が1じゃねェモンスターが装備しても意味がねェ。唯一使用できる効果も、体力1にしなきゃ発動できねェ、主力モンスターに装備させるにゃ不向きな効果だ。


 スキルを封印されんのは痛ェが、これぐらいなら許容範囲だ。


「ボクは、風贄の刃の効果を発動するよ。体力を1にして、スキルを使う」


 ……はァ?


 奴のありえねェ行動に、思わず目を見開く。


 序盤で体力を1にしてまでスキル発動だァ? いったい何考えてやがる──そう睨みつけた瞬間、体力が減ったのはマナフじゃなく、ヴェルズフェルニルだった。


「なっ……!?」


 ヴェルズフェルニルの体力が、10から一気に1まで削られる。


「ふふ……不思議そうな顔してるね? ボクはカードを装備したわけじゃない。効果を奪っただけ。……装備してるのは、そっちのモンスターだろう?」


 そォいうことかよ!


 悪態をつく間もなく、奴が畳みかけてくる。


「ボクはボクのスキル、歪んだ悪意を発動するよ。このフェイズ中、相手モンスターがスキルを使うたび、攻撃力を1減らし、ボクのMPも1回復する。そして、攻撃力が0になったモンスターは、次のフェイズ終了時までいかなる行動も不能となる」


 めんどくせェ……!


 が、スキルを発動させなきゃ問題ねェ。そう思ったのも束の間だった。


「ボクは手札から魔法カード、誘因の囁きを発動するよ。相手の場のモンスターに、強制スキル発動を付与する。ちなみに、スキルを発動したら、攻撃力も1減るんだ」


 クソが……っ!


 奴はニヤニヤしながら俺を見る。俺の残りMPは5。ヴェルズフェルニルは奴のせいでスキルが使えねェ。そんで、フレースヴェルグの攻撃力は2。狙いは明らかだった。


「……チィッ! 俺はフレースヴェルグのスキル、死体呑みを発動する!」


 仕方なくMP3を消費して、ヴェルグのスキルを発動させる。


 死体呑みは、デッキの一番上のカードをフェイクソウルに加え、攻撃力がフェイクソウルの数だけ増えるスキルだ。


 ヴェルグの攻撃力は2から3へと上がった。これなら、0にはならねェ。


「……へぇ? まぁ、いいや。じゃあ、攻撃するね」


 マナフは平然と言った。ヴェルズフェルニルに向かって突っ込む。


「ぐっ!」


 ヴェルズフェルニルが砕け散る。フィードバックの衝撃で、俺の体にもダメージが返ってくる。


「ダブルアタックで、次はフレーズヴェルグ」

「がああああ!!」


 ヴェルグの体力も12まで減らされた。


 肌を焼くような痛みが襲いかかるが、歯を食いしばって耐え抜く。


「ボクのフェイズはこれで終了だよ」


 マナフは楽しそうに微笑んでいた。


「俺のフェイズ、だ……ドロー!」


 手札を引き込みながら、冷静にフィールドを見渡す。


 奴の手札は4枚、だがMPは3。マナフのスキルは使えねェ。面倒な効果は、出される前に潰す!!


「俺はダストゾーンにある黄泉還りをゲームからドロップアウトさせ、効果を発動! 消滅したモンスター1体を、自身フィールド上のモンスターのフェイクソウルに加える!」


 光が降り注ぎ、フレースヴェルグのフェイクソウルが2に増えた。


「さらに、MP3を消費してフレースヴェルグのスキル、死体呑みを発動!」


 フェイクソウルは3枚に。ヴェルグの攻撃力も5になる。


「行け、ヴェルグ! マナフを叩き潰せ!」


 俺はヴェルグが攻撃するタイミングに合わせ、パスズの爪槍の効果を発動する。


 これで、ヴェルグの攻撃は効果ダメージとして処理される。


 唸りを上げたヴェルグの一撃が、マナフを穿つ。奴の体力は20から15へと減少した。


「パスズの爪槍の効果で、俺のMPは1回復!」

「それならボクも……」


 マナフは静かに微笑みながら言った。


「遺恨筆記の効果を発動するよ。相手からダメージを受けた時、遺恨カウンターを1つ付与する」


 遺恨カウンター、か。名前の響きからあまりいい予感はしねェが、攻撃を止める理由にはならねェ。


「ヴェルグ、ダブルアタックだ!」


 再び放たれたヴェルグの爪撃がマナフを打ち据え、奴の体力は10まで下がる。


「ふふ……これで、遺恨カウンターは2つめ、だね」


 相変わらず気味悪ィ笑みを浮かべながら、マナフは俺を見返してきた。だが構わねェ。今は叩けるだけ叩くのみだ。


「俺は手札から道具カード、死肉の賛歌を使用! 自身フィールド上のモンスターのフェイクソウルを1枚破壊し、その代わり、スキルをMP消費なしで発動する!」


 ヴェルグのフェイクソウルを1枚砕き、攻撃力は1だけ落ちたが──関係ねェ!


「ヴェルグのスキル、腐肉の晩餐を発動! 相手の場に体力が半分以下のモンスターがいる場合、このフェイズ中、自身の攻撃力が2倍になる!」


 ヴェルグの攻撃力は8へと増加する。


「さらに、MP2を消費して魔法カード、喰屍の律動を発動! モンスターを攻撃前の状態に戻す!」


 これで、ヴェルグのダブルアタックが復活した。


「……このフェイズで決めるぞ。ヴェルグ、マナフをブッ飛ばせ!」

「そうはさせないよ」


 マナフは遺恨筆記に指先を走らせながら、穏やかに告げた。


「遺恨カウンターを2つ取り除いて、コストを軽減。MP3を消費して、ボクのスキル、染み付いた遺恨を発動」

「なっ……!」

「相手モンスターの攻撃行動を終了させる。さらに、相手モンスター全体に、自身の攻撃力分の効果ダメージを与える」

「ぐっ……がああああッ!」

「ヴェル……ッぐ!!」


 ヴェルグが呻き声を上げ、体力が一気に4まで削られる。


「さらに、そのダメージの半分だけ、ボクのMPも回復させてもらうよ」


 マナフのMPは4に回復する。


 ハッ、カウンターかよ……そのウザってェやり口に、ムカつく顔が思い浮かんで、思わず舌打ちをする。


「そして……」


 マナフが遺恨筆記を掲げる。


「遺恨カウンターが使用され、0になった時、このカードは自動的に破壊される。その効果で、ボクはダストゾーン、またはデッキから、闇、魔王属性のカードを1枚、手札に加える」


 指を跳ねさせるマナフが続けた。


「さらに、このフェイズ中に使用した遺恨カウンターの数だけ体力を回復する」


 せっかく減らしたマナフの体力が12となった。


「クソが!」


 思い通りにいかない展開に、俺は悪態をつく。


 だが、ここで無理に動くわけにはいかねェ。次のフェイズを迎えるためにも、今は耐えるしかねェ。


 深く息を吐き、手札を見つめる。


「……俺のフェイズは、これで終了だ」


 短く告げると、マナフは愉快そうに笑った。


「なら、次はボクのフェイズだね」


 マナフが笑いながらカードを引き込む。


「ボクはMP1を消費して手札から魔法カード、記録の投影を発動するよ。相手または自分のデッキから任意の装備カードを1枚選び、自身か相手のモンスターに装備させる。さらに、このフェイズ中、装備カードに関わるスキルの消費MPは1軽減されるんだ」


 そう言いながら、奴は俺のフィールドにカードを突き刺した。


「ボクはデッキから──喰われた遺恨をフレースヴェルグに装備させるよ」


 ……ヴェルグに装備だと? 絶対ェ、録な効果じゃねェ。


「さらに、喰われた遺恨の効果を発動。装備した瞬間、対象モンスターのフェイクソウルをすべて失わせる」


 目の前でヴェルグのフェイクソウルが、2から0へと削り取られ、予想と似通った展開に舌打ちをする。


 クソッ、タダで壊されてたまるかっての!


「俺はMP1を消費して手札から魔法カード、死霊の怨讐を発動! 自身モンスター1体のフェイクソウルを1つ使用し、レベル0、体力1のモンスターを場に召喚する!!」


 装備のデメリットは最悪でも、ヴェルグの攻撃力は5になった。コイツで堪え忍んで、次のフェイズで利用してやる!


「ボクはさらに、MP1を消費して魔法カード、上書きの印を発動するよ。このフェイズ中、相手モンスター1体の攻撃力分、自身の攻撃力を加算できる」


 ……チッ、なるほどな。コイツはさっきから、デメリットを押し付けるだけ押し付け、ウマいとこだけ持ってきやがる。


 腐った性根、丸出しじゃねェか。まるでどっかのバカ女みてェだな。


 マナフの攻撃力が、8にまで膨れ上がるのを見ながら、こっちだって黙ってやられるつもりはねェと、ダストゾーンを見る。


「俺はダストゾーンにある喰屍の律動をゲームからドロップアウトさせ、効果を発動! 相手モンスターの攻撃対象を、自分の場の別のモンスターに変更する!」


 ヴェルグではなく、死霊の怨讐が攻撃を受け──そして破壊された。


「……ハッ、これでいい」


 俺は口の端を吊り上げる。


 やられたら、それ以上にやり返してやるよォ!!


「俺は死霊の怨讐の効果を発動! コイツが攻撃または効果ダメージを受けた時、そのダメージ数値を相手モンスターに叩き返す!!」


 鋭いカウンターをかまし、マナフの体力が4にまで落ちる。さらに、パスズの爪槍の効果で俺のMPが2まで回復していた。


「残念だったなァ? 攻撃が決まらなくてよォ!!」


 嘲笑う俺に、マナフは不気味に笑い返す。


「……はは……あはは……ひどいね、ほんと、キミって。でも、ボクも……もう我慢しないよ」


 空気が変わった。黒いマナがじわりと滲み出し、マナフの体を喰らうように包み込んでいく。


 肌に突き刺さるような嫌な感覚。脊髄が、ぞくりと警鐘を鳴らす。


「忘れないで……ボクの痛みも、涙も、ぜんぶぜんぶ……呪いに変わった。今度はボクが忘れさせてあげる。全部壊して、ボクだけを刻んであげる……!」


 マナフの声が、空気を削るみてェに響く。


「モンスターの体力が、相手モンスターの攻撃力を下回った時──ボクの進化条件は満たされた!」


 黒いマナが暴風のように吹き荒れる。視界が歪む。息が詰まる。耐性のあるはずの俺でさえ、無意識に一歩、足を引いた。


 そこに、化け物が生まれた。


「さあ、進化だ。遺恨の魔王アカ・マナ。さあ……ボクと一緒に、地の底まで堕ちよう?」


 異様に長く伸びた手が、こちらに伸びてくる。


「ボクはMP5を消費してスキル、断絶の遺恨を発動するよ。相手の場の装備カード全てを自身のフェイクソウルに加え、その効果をこのフェイズ中だけコピーする。さらに、装備されていたモンスターは行動不能だ」


 コスト5?……あァ、記録の投影の効果か。


 このまま素直に受ければ、詰みだ。だが、俺が黙ってやられるわけねェだろうが。


「……テメェだけじゃねェんだよ、条件を満たしたのは!」


 俺はヴェルグにマナを送り込む。


「相手モンスターに15以上のダメージを与えた時。ヴェルグの進化条件は達成される!!」


 ヴェルグの体に風のマナが噴き出し、爆発する。


「そろそろ喰ってやるよ。臓腑も、魂も、全部喰い尽くしてやらァ!!」


 叫ぶと同時に、ヴェルグが姿を変えた。


「レベルアップ──レベル4、堕翼の喰獣フレースヴェルグ!!」


 進化したヴェルグの体力は9。フェイクソウルも1枚ある。アカ・マナの攻撃力は8。まだ、ギリギリ間に合う。


「……へぇ、ならボクはパスズの爪槍の効果を発動しようかな」


 わざとらしく笑いながら、アカ・マナが口にした。


「攻撃を効果ダメージに変換、だよ」


 アカ・マナの一撃がヴェルグを捉え、体力は9から1にまで減少した。


「もちろん、効果ダメージを与えたから、ボクのMPも1回復する」


 体が軋み、痺れる。だが、まだ立てる。


「──まだ終わりじゃないよ」


 マナフ──いや、アカ・マナはさらにカードを構える。


「手札から道具カード、残響する恨みを使用。攻撃力の半分のMPを得る。この効果でMPが5以上になった場合、回復したMPの半分の値だけ体力を回復する」


 アカ・マナのMPが5に回復し、体力も11にまで戻った。


 状況は、最悪だ。


 進化したヴェルグの体力は1。フェイクソウルも1枚だけ。対するアカ・マナは、体力11、フェイクソウル3。どォ考えても分が悪ィ。


 それでも、引き下がるって選択肢だけはありえねェ。


「さぁ、君はどんな抵抗をしてくれるのかな?」


 ……バカが。タダの抵抗で終わると思ったら大間違いだ。


 その喉元に喰らいついて、絶望にブチ落としてやるから覚悟しやがれ! クソ魔王!!



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