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ph16 遅刻する主人公ーsideタイヨウー


 明日はいよいよSSCの予選が始まる! ワクワクして眠れねぇけど、遅刻するわけにいかないからな! 早く寝ないと!


 俺はベッドに入り、無理やり目を閉じて眠ろうとしていたんだけど……。


 やっぱり寝れねぇ!


 ガバッと起き上がり、明日の試合の為に最後のデッキ調整をする事にした。


「小童、早く寝らんか。遅刻しても知らんぞ」

「だって明日が楽しみすぎて全然眠くねぇんだ! だからデッキを見直そうと思ってよ! 頭を使えば眠くもなるし、明日の備えにもなるし一石二鳥だろ?」


 ドライグは、ワシは知らんぞと言ってカードの中に戻っちまったが、俺は気にせずデッキを広げた。


 よぉし! こうなったらとことんやるぞ!


 俺は鼻唄を歌いながらデッキビルドに取りかかった。サイドデッキに入れるカードやコンボを調整していると、思った通り眠気が来て、気付かないうちに寝むっちまってた。


 そして、朝目を覚まして時計を見ると、8時50分。SSCが始まるのは、俺の記憶があっていれば9時ちょうどだ。


「ち、遅刻だ~~!!」


 俺は慌てて飛び起きると、服を着替え、階段を駆け下りた。


「あらぁ、タイヨウちゃんどうしたのぉ~?」


 母さんはキッチンにあるテーブルで、のんびりとお茶を飲んでいた。


「寝坊したんだよ! 今日はSSCがあんの!! 何で起こしてくれなかったんだよ!」

「あらぁ? そうだったの。それは大変ねぇ~」

「俺今から出かけるから!」

「ご飯はどうするのぉ?」

「時間ない!!」


 母さんは、せめてこれを食べていきなさいとコッペパンを渡してきた。俺はそれを口で咥えながらダッシュする。


「いってきまぁす!!」


 勢いよく玄関を出て、サモンアリーナまでの道を全力で走った。



「だから言ったろう。早く寝ろとな」


 ドライグはカードから実体化すると、俺の隣を飛びながら呆れている。


「う、うるさい! 寝坊しちまったもんはしょうがないだろ!」


 俺は無理やりコッペパンを口の中に押し込み、走りながら仲間に電話しようとしたのだけど……。


 しまったぁあぁぁあ!! 俺、ヒョウガもシロガネもサチコの連絡先も知らなかったぁあぁあ!!


 どうしようかと悩んだ末、サチコの連絡先を知っているハナビに電話することにした。


『タイヨウくんどうしたの?』

「悪い! ハナビ! 寝坊した!!」

『え、えぇ~!? 試合はどうするの!?』

「今走って向かってる! 悪いけどサチコに遅れるって伝えてくれねぇか? 俺、仲間の番号聞くの忘れてて」

『もう! だから今日迎えに行こうかって聞いたのに!』

「本当に悪い!」

『しょうがないなぁ』


 ハナビは最後に焦って怪我しないようにねと言って電話を切った。俺はスマホを落とさないようにポケットに入れ、更にスピードを上げた。








 サモンアリーナまでもう少しだ。時計を見たら9時30分。もう初戦は始まってんだろうなぁ。


 うぅ、ドライグの言う通り、早く寝とけば良かった。


 後悔してももう遅い、チームの皆にごめんと心の中で叫びながら走っていると、どこからか、俺に向かって火の玉が飛んで来るのが見えた。


 俺は慌てて飛び退き、火の玉が飛んで来た方向へ顔を向ける。


「え? な、なんっ……」

「あれぇ? はずしちゃったぁ?」


 炎が飛んで来た方向には、大きなドラゴンと、ピンク色の髪をした俺より少し年下の男の子が立っていた。


「次はちゃんと当ててねぇ、プレゲトーン燃やしちゃえ」


 プレゲトーンと呼ばれた男の子の精霊は、口の中で大きな火の玉を作り、それを俺に当てようとしているのか、こっちに顔を向けた。


 やべぇ! 何でか分かんねぇけど、アイツ本気で攻撃しようとしてる!?


 俺はとっさにドライグの名前を呼んで後ろに下がった。


「ドライグ! 湖からの目覚めで対抗だ!」

「仕方があるまい!」


 ドライグは身体を光らせながら俺の前に立つと、両手を前に出した。そして、火の玉を受け止め、それを両腕で握りつぶすようにして消した。


「! ……へぇ~。やっぱり君の精霊、強そうだね」


 男の子は嬉しそうに笑う。


「ねぇ、その精霊……僕にちょぉうだい?」


 俺はその男の子の言葉に目を丸くした。


 な、何言ってんだコイツ。


「ドライグは俺の大事な友達だ! 渡すわけないだろ!!」


 男の子の言った言葉に腹を立てて言い返すと、男の子は口に指を当てながらんー。と考えるように唸っていた。


「何だぁ、くれないのかぁ……残念。じゃあ、力強くで奪うしかないよねぇ!」


 男の子は腕輪を構えた。マッチをする構えだ。俺も反射的に腕輪を構える。


「コーリング! プレゲトーン! アケルシア!!」

「こ、コーリング! ドライグ! わたんぼ! アチェリー」


 男の子がモンスターを召喚する。俺もつられるようにモンスターを召喚したんだけど、ドライグ以外のモンスターが実体化して戸惑った。


 あ、あれ? バトルフィールドじゃないのに何で精霊のいないカードが実体化してるんだ!? いったいどうなって……。


「さぁ! レッツサモ────」

「そのマッチ、待ってくれないかな?」


 驚いている俺に構わず男の子はマッチを始めようとしたけど、俺と男の子の間に割り込むようにシロガネがミカエルに乗ったまま空から降りてきた。


「シロガネ!」

「やぁ、タイヨウくん。遅くなってごめんね」


 シロガネはいつもと変わらない笑顔で俺を見ている。


「どうしてここに? 試合は!?」

「そっちは大丈夫だよ。ヒョウガくんとサチコさんが対応している……そんなことより」


 シロガネは男の子を睨み付けると、怖い顔で問い詰める。


「……君、その力を何処で手に入れた? 正直に話した方が身のためだよ」


 その力? 手に入れる? シロガネはいったい何の話をしているんだろうか。


「……あーあ、五金家のお坊ちゃんに見つかっちゃったかぁ」


 男の子は召喚していたモンスターをデッキに戻すと、くるりと背中を向けた。


「今、五金家と争うわけにはいかないんだよねぇ」

「……っ、待て!!」


 シロガネが男の子に向かって手を伸ばすけど、男の子はその手を避けて空に飛んだ。そして、空中に立つと足元から幽霊のようにスーッと体が消え始めた。


 え? 空を飛んでる!? 精霊の力もなく!? それに体も消えてるし、どうなってんだ!?



「僕の名前は火川(カガワ)エン……いずれ世界を統べる精霊狩り(ワイルドハント)の一員さ……」


 男の子──火川エンはそう言うと、完全に姿を消した。


「タイヨウくん! 無事かい!?」

「え!? いや、俺は全然平気だけど……」


 シロガネはミカエルから飛び降りると、俺に怪我がないか触って確かめている。


 そして、俺に怪我がないと分かると、シロガネは安心したように良かったと息を吐いた。


「アイツ……一体何者なんだろうな……」

「……分からない」


 俺がさっきの奴について考えていると、シロガネも口に手を当てながらブツブツと何かを呟いていた。


「……奴等は何かしらの理由で精霊を狙っているのだろうけど、目的は何だろうか? ……最近精霊を狙った事件が相次いでいたが、奴等が関係しているのだろうか……精霊狩り(ワイルドハント)とはいったいどういう組織で……」

「~~っ、あーー! 分っかんねぇ!!」


 難しい事は考えてもしょうがねぇ! 今はとにかく、会場に向かわねぇと!


「シロガネ! 今はさっきの奴よりSSCだろ! 遅刻した俺が言うことじゃないけど速く会場に行こうぜ!」

「……いや、そうもいかない……このことを父上に報告しなければ……タイヨウくん!」


 う、うわっ! いきなり両手を捕まれてビックリした。急にどうしたんだろうか?


「君も狙われたのならば1人には出来ない。僕と一緒に父上に会いに行こう」

「え? いや、でも俺はSSCに……」

「さっきも言った通り大会は大丈夫さ。ヒョウガくんとサチコさんの2人なら僕らがいなくても予選ぐらい勝ち残れる」

「いやそうじゃなくて、俺が大会でマッチをした……」

「さっ、タイヨウくん。こうしちゃいられない。父上の元に向かおう」


 シロガネは俺の腕を掴んだまま指をパチンと鳴らして、いつもの様に移動しようとする。そして、それに巻き込まれる俺。シロガネは俺の話を聞いてくれそうにない。


 ドライグがやれやれと首をふってカードに戻ったのを見るのと同時に、気づいたら周りの景色が変わっていた。


 

 俺は大会でマッチがしたいのに!!


 遅刻しただけでこんな目に合うなんて……今度から目覚まし時計をちゃんとセットしようと固く誓った。


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